石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2022/12

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(17)そしてバトンは渡された

投稿日時:2022/12/20(火) 09:02

 終わって見れば34-17。12月18日、阪神甲子園球場で、東日本代表の早稲田大学を相手に行われた第77回甲子園ボウルは、ダブルスコアでファイターズが勝利。5年連続33度目の優勝を果たした。
 試合を振り返るに際し、まずはこの日の記録を紹介しておこう。ダウンの更新数は関学が26回、早大が16回。獲得ヤードはランが239ヤード対106ヤード、パスが同じく220ヤード対253ヤード。ターンオーバーの回数は、それぞれ1回と2回。ファイターズの攻撃がパスとランのバランスがとれていたのに対し、早稲田の攻撃はパスに偏っていたことがよく分かる。
 こうした数字を見ると分かるように、ファイターズの攻撃はランとパスのバランスが良く、相手の攻撃はパス中心。徹頭徹尾パス中心に攻め込んできた。
 1Q12分の戦いなら、少々、攻撃パターンが偏っていても、先取点を奪い、その勢いで試合の主導権を手にすることも可能になる。しかし、1Q15分の戦いは長い。相手が事態を冷静に見極め、態勢を立て直せば、やがて自分たちのペースで試合を進めることが可能になる。この日のファイターズは、その模範ともいえる戦いで勝利を手にした。
 試合はファイターズの攻撃からスタート。いきなりRB池田がダウンを更新したが、思わぬファンブルで瞬時に早大に攻撃権が移る。このピンチは守備陣の奮闘で切り抜けたが、相手の士気は上がっている。1年生QB星野が右や左に展開しながらパスを投げるが、思い通りに陣地は進まない。しばらく双方の守り合いが続き、気がつけば0-0のまま1Qが終了。
 第2Qに入ると星野も落ち着き、相手ゴール前26ヤード付近からWR糸川に絶妙のパス。通ればTDというプレーだったが、なぜかボールはレシーバーの胸からこぼれ落ちてしまう。しかし、K福井が43ヤードのFGを決めて待望の先取点。3-0とリードを奪う。 続く早大の攻撃は、DB中野やDLショーンの好守でしのぐが、ファイターズの攻撃もかみ合わない。結局、もう1本フィールドゴールを決めたが、第2Q終了間際に相手にもFGを決められ、6-3のまま前半終了。
 ここまでを総括すれば、ファイターズは押し気味に試合を進めながら自らのミスでチャンスを逃がし、相手は逆に、思い切りのよいパス攻撃で活路を開こうとする。それがそのまま得点に表れたような試合展開。どちらにせよ、後半の立ち上がりが勝敗を分けそうな予感を抱きながら、寒風の吹きすさぶスタンドで待機する。
 しかし、後半戦に入っても双方の守り合いが続く。試合が動いたのは、第3Q2度目のファターズの攻撃から。1年生QBの星野から交代した3年生の鎌田が立て続けにWR衣笠と河原林にパスを通して相手陣深くに迫る。RB伊丹のランプレー2本を挟んで、今度はTE小林への短いパス。相手の守備陣が混乱した隙を突いてRB伊丹が相手ゴールを突破して待望のTD。リードを13-3と広げる。
 これで自信を付けたのか、鎌田の動きがさえてくる。衣笠へのパスを立て続けに決めて相手にパスへの警戒心を持たせたと思ったら、一転して伊丹や星野を走らせて陣地を進める。仕上げはゴール前5ヤードからRB前島が走り込んでTD。20-3と差を開く。
 こうなると試合はファイターズペース。前島がさらに2本のTDを追加し、終わってみれば34-17でファイターズが勝利した。
 振り返ってみると、前半こそ相手の思い切りの良いパス攻撃と、アグレッシブな守備に手こずったが、相手の手の内が見えてきたところでQBを星野から鎌田に交代させたベンチの作戦がピタリとはまった。その作戦に応えた攻撃陣も素晴らしかったが、相手の思いきったパス攻撃に耐え続けた守備陣も素晴らしかった。素早い動きで相手QBに圧力をかけ続けるDLの山本やショーン。低くて鋭いタックルで走者を釘付けにするLB永井や浦野。狙い澄ませたようなジャンプで相手のTDパスをもぎ取ったDB山村。彼らの名前を挙げていくと、関西リーグで関大や立命の強力なオフェンスに対抗してきた彼らの自信がそのままプレーに反映しているように思えた。
 別の言い方をすれば、個々のプレーヤーの力は拮抗していても、チーム全体で見ればファイターズが少しばかり上回っていたということであり、その力には関大や立命館との試合を戦い抜いた自信が宿っていたということだろう。
 強力なライバルがあってこそのチーム力の充実。表面的な力は互角に見えても、ここ一番という場面で発揮されたその力がファイターズ5連覇の支えになった。関大や立命との厳しい対戦を耐え抜いてきたことが力になり、その力で勝ち取った勝利。別の言葉で言えば、ライバルとの厳しい戦いがあったからこその勝利と言ってもよい。
 そのバトンは、この日グラウンドに立った全員でつないだ。その結果としての5年連続日本1。渡されたバトンは、新しいシーズン、3年生以下のメンバーがつないでくれるに違いない。
 試合後、グラウンドに降りて大村監督と握手を交わした際、シーズン中、守備陣は褒めても、攻撃陣には厳しい評価を続けてこられた監督の表情が、いつになく和んでいたのが印象的だった。

(16)特別な時間、特別な成長

投稿日時:2022/12/12(月) 08:44

 午後も4時を過ぎると、決まったように冷たい六甲おろしが吹き込む上ヶ原の第3フィールド。そこでいま、毎日のように大学王者を目指し、凝縮された実戦練習を繰り広げているのがファイターズである。
 関西リーグで優勝を決め、途中、西日本代表決定戦を挟んで三週間。大学選手権5連覇を目指し、中身の濃い練習を続けている部員の姿を見るたびに、これが関西リーグにおけるファイターズのアドバンテージ。目の前の大きな目標を、自分たちの代でも必ず達成するという、強い気持ちを持って、今この時期に特別な時間を過ごしている諸君だけに許された特権。それが個々の選手はもちろん、チームの血となり肉となってファイターズという強力な集団を築き挙げてきたのだ、という思いを新たにする。
 時間が許す限り、その模様を見学させていただこうと、週の半ばからグラウンドに詰めかけている私にとっては、そういう諸君の練習が見られることが、とてつもなく幸せな時間である。少々、寒くても、体がガタガタ震えても、じっと選手やスタッフの動きに目をこらしている。
 不思議なことに、私のように全く選手経験のない人間でも、同じ選手の動きを長期間、定期的に眺めていると、必ず成長曲線が見えてくる。それまで出来なかったことが急に出来るようになったり、体のこなしがより精妙になったりしているのを目の当たりにする。そのたびに「なるほど、実戦的な練習を続ければ、ある日突然、次元の違う世界が見えてくるんだ」と理解できる。
 先日も、あるコーチと個人的な用件でメールをやり取りしている時、同じ選手の動きについて、双方の見解がぴったり合っていることを知って驚いた。
 僕のような部外者ではなく、実際、グラウンドで練習している選手らにとっては、その実感はより確かに感得出来るに違いない。その実感が自信になり、さらにもう一つ上のプレーを身に付けたいという動機付けになるに違いない。
 そういう気持ちを持って、目の前の練習に取り組むメンバーが増えれば増えるほど、チームの力は上がっていく。関西リーグが終了してから甲子園ボウルまでの3週間がファイターズの力量をアップさせる特別な時間であると考える、それが理由である。
 もちろん、そういう時間は秋のシーズンがスタートしたときから続いている。1年生や2年生が実戦の中で経験を積み、一つ一つのプレーの失敗を糧に、成功を自信にして自らの力を伸ばしてきたからこそ、強力なタレントをそろえた関西大や立命館大を相手に、勝利を収めることが出来た。
 そうした苦しい試合を自分たちの力で突破して迎える甲子園ボウルである。
 もちろん、相手もリーグ戦で同じような体験をし、東日本代表となってからも、もう一段上の力を付けているに違いない。厳しい戦いになることは予想できるが、ファイターズの諸君がこの3週間に積み上げ、築いてきた力を発揮すれば、存分に戦えるはずだ。私のような部外者がみても、急激に成長しているメンバーは何人もいる。それは控えのメンバーとして位置づけられていた下級生だけではない。ずっと先発メンバーとして活躍してきた3年生や4年生にとってもいえることだ。
 自分たちが個人として、またチームとして積み重ねてきたことを信じ、それを力に変えて存分に活躍してもらいたい。勝利への道は必ず開ける。

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