石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2018/9
<<前へ |
(19)試行錯誤
投稿日時:2018/09/25(火) 08:20
試行錯誤という言葉がある。手元の辞書は「課題が困難なとき、何回もやってみて、失敗を重ねながらも段々と目的に迫っていくやり方」と説明している。
関西リーグの第3戦、龍谷大学との試合を観戦しながら、思わずこの言葉が脳裏に浮かんだ。
「失敗を重ねながらも」「何回もやってみて」という点ではその通りだった。初戦から指摘されてきたつまらない反則が出ていたし、パスもなかなか通らない。ランプレーが思うように進まない場面があったし、レシーバーが手の届く範囲のパスを落とす場面もあった。交代メンバーが出場してからは、ラインが割られる場面も何度か見掛けた。
前半から大きくリードしていたこと、守備陣が終始安定していたこと、そして相手ディフェンスの動きのよかったことなどを割り引いても、正直にいえば「これで上位チーム、とりわけ立命に通用するのだろうか」と心配になるような内容だった。
もちろん、個々のプレーでは見るべき点がいくつもあった。立ち上がり、いきなりロングリターンを決め、相手守備陣を驚かせたWR小田の快走。そこでつかんだチャンスにきっちり44ヤードのFGを成功させたK安藤の安定感。相手の攻撃を立て続けに3&アウトに仕留めた守備陣の活躍。一気に左サイドを駆け上がってTDを決めたRB渡邊の快足。さらにはゴール前ショートの場面で、3回連続でTDを奪ったRB中村のすばしこい動き。
レシーバー陣では小田と阿部がスピードとセンスの良さを見せつけたキャッチを重ね、いまひとつ球筋の定まらないQB西野を大いに助けた。1、2戦目で不安定な場面を見せたOLも、この日はしっかり前に押し込んでいた。久々にパントのリターナーに入ったWR尾崎も思い切りのよいプレーで陣地を進めた。
ディフェンスでは1列目の寺岡、青木、藤本、板敷が安定した動きを見せ、2列目、3列目も相手にロングゲインを許さなかった。1年生のDL青木、LB赤倉、DB北川らもはつらつとした動きを見せた。
このように書いていけば、どこが「試行錯誤」だ、どこが「失敗を重ねながらも」だ、といわれるかもしれない。
けれども、現場で観戦している僕の目は、この日の対戦相手の向こうに立命や関大、京大を見ている。強力な立命の守備陣を相手に同じようなプレーが成功するのか、立命のオフェンスを向こうに回して、守備陣はこの日のように自由自在に動けるのだろうかと考えている。一つのミス、一つの反則が命取りになるのではないかと怖れている。
そういう視点で見ると、得点は38-0、総獲得ヤードは406ヤード対101ヤードと、ともにファイターズが相手を凌駕(りょうが)していても、まったく気持ちが落ち着かない。不要な反則が3回、ファンブルも3回(そのうち攻撃権を失ったのが2回)という数字が、その不安に拍車をかける。「失敗を重ねながら」という言葉そのものではないかと思ってしまうのである。
問題は「失敗を重ねながらも」「段々と目的に向かっている」かどうかという点にある。初戦で出た反省点が生かされているか。2戦目で出た反省点はクリアできたか。先発で出場したメンバーだけでなく、交代メンバーの力はどこまで上がっているのか。勝敗の行方が見えてからのプレーではなく、攻撃も守備も、拮抗した場面でどこまで力を出し切れたか。そうした点を自分に問い掛けながら、「段々と目的に向かっているかどうか」をチェックしなければならないと考えているのである。
僕にはまだ、その答えは見えてこない。これからの練習への取り組みと、4戦目、5戦目と続く試合の中で見ていくしかないと考えている。
その意味では、選手、スタッフはリーグ戦3戦目までの戦い振りを丁寧に分析し、良い点、悪い点、改良すべき点をすべて洗い出すしかない。評価すべき点は評価し、改良すべき点は改良していかなければならない。それができるかどうかによって、今後の命運が決まる。勝っておごらず、失敗にくじけず、目の前にある問題点を一つ一つ乗り越えていくしかないのだ。
そうすることで初めて「段々と目的地に向かっていける」。がんばろう。もう1段も2段も上のステージを目指し、努力を続けようではないか。
関西リーグの第3戦、龍谷大学との試合を観戦しながら、思わずこの言葉が脳裏に浮かんだ。
「失敗を重ねながらも」「何回もやってみて」という点ではその通りだった。初戦から指摘されてきたつまらない反則が出ていたし、パスもなかなか通らない。ランプレーが思うように進まない場面があったし、レシーバーが手の届く範囲のパスを落とす場面もあった。交代メンバーが出場してからは、ラインが割られる場面も何度か見掛けた。
前半から大きくリードしていたこと、守備陣が終始安定していたこと、そして相手ディフェンスの動きのよかったことなどを割り引いても、正直にいえば「これで上位チーム、とりわけ立命に通用するのだろうか」と心配になるような内容だった。
もちろん、個々のプレーでは見るべき点がいくつもあった。立ち上がり、いきなりロングリターンを決め、相手守備陣を驚かせたWR小田の快走。そこでつかんだチャンスにきっちり44ヤードのFGを成功させたK安藤の安定感。相手の攻撃を立て続けに3&アウトに仕留めた守備陣の活躍。一気に左サイドを駆け上がってTDを決めたRB渡邊の快足。さらにはゴール前ショートの場面で、3回連続でTDを奪ったRB中村のすばしこい動き。
レシーバー陣では小田と阿部がスピードとセンスの良さを見せつけたキャッチを重ね、いまひとつ球筋の定まらないQB西野を大いに助けた。1、2戦目で不安定な場面を見せたOLも、この日はしっかり前に押し込んでいた。久々にパントのリターナーに入ったWR尾崎も思い切りのよいプレーで陣地を進めた。
ディフェンスでは1列目の寺岡、青木、藤本、板敷が安定した動きを見せ、2列目、3列目も相手にロングゲインを許さなかった。1年生のDL青木、LB赤倉、DB北川らもはつらつとした動きを見せた。
このように書いていけば、どこが「試行錯誤」だ、どこが「失敗を重ねながらも」だ、といわれるかもしれない。
けれども、現場で観戦している僕の目は、この日の対戦相手の向こうに立命や関大、京大を見ている。強力な立命の守備陣を相手に同じようなプレーが成功するのか、立命のオフェンスを向こうに回して、守備陣はこの日のように自由自在に動けるのだろうかと考えている。一つのミス、一つの反則が命取りになるのではないかと怖れている。
そういう視点で見ると、得点は38-0、総獲得ヤードは406ヤード対101ヤードと、ともにファイターズが相手を凌駕(りょうが)していても、まったく気持ちが落ち着かない。不要な反則が3回、ファンブルも3回(そのうち攻撃権を失ったのが2回)という数字が、その不安に拍車をかける。「失敗を重ねながら」という言葉そのものではないかと思ってしまうのである。
問題は「失敗を重ねながらも」「段々と目的に向かっている」かどうかという点にある。初戦で出た反省点が生かされているか。2戦目で出た反省点はクリアできたか。先発で出場したメンバーだけでなく、交代メンバーの力はどこまで上がっているのか。勝敗の行方が見えてからのプレーではなく、攻撃も守備も、拮抗した場面でどこまで力を出し切れたか。そうした点を自分に問い掛けながら、「段々と目的に向かっているかどうか」をチェックしなければならないと考えているのである。
僕にはまだ、その答えは見えてこない。これからの練習への取り組みと、4戦目、5戦目と続く試合の中で見ていくしかないと考えている。
その意味では、選手、スタッフはリーグ戦3戦目までの戦い振りを丁寧に分析し、良い点、悪い点、改良すべき点をすべて洗い出すしかない。評価すべき点は評価し、改良すべき点は改良していかなければならない。それができるかどうかによって、今後の命運が決まる。勝っておごらず、失敗にくじけず、目の前にある問題点を一つ一つ乗り越えていくしかないのだ。
そうすることで初めて「段々と目的地に向かっていける」。がんばろう。もう1段も2段も上のステージを目指し、努力を続けようではないか。
(18)桑田真澄氏の講演
投稿日時:2018/09/18(火) 08:27
先日、和歌山県田辺市で桑田真澄氏の講演会があった。氏は全盛期のPL学園で1年生からエースとして活躍。その後、プロ野球の巨人に進んで輝かしい実績を残した投手である。40歳近くなってから大リーグに挑戦し、けがを乗り越えてメジャーのマウンドを踏んだ実績も持っている。
僕は、氏が見事に復活し、カムバック賞を受賞した2002年秋、氏が師匠と仰ぐ武術家、甲野善紀さんとの縁で氏を取材し、朝日新聞の「一流を育てる」という連載で3回にわたって紹介したことがある。
一方、甲野さんのことは、このコラムでも何度か紹介している。親しくファイターズの練習にも顔を出し、武術的な身体操法を披露しながら、それをアメフットに応用する可能性を選手やコーチとともに考え、ヒントをくださっている武術家である。いわば、桑田さんとファイターズの諸君は、同じ師匠に連なる兄弟弟子といってもよい関係にある。
そういう人の講演会である。何をおいても聴講しなくてはと、主催した田辺ロータリークラブの方に頼んで話を聴かせてもらった。
講演は、期待以上に素晴らしかった。
「野球からは、素晴らしいことをたくさん経験させてもらいました」。そう語り始めた氏は、続けて「僕の人生は、挫折という言葉がふさわしい」。そういって、一つは小学校低学年のころから学校の勉強についていけずに苦しんだこと。もう一つは、中学校3年生の時には出場した全ての大会でエースの座を守り、その全てで優勝という実績を上げてPL学園に入ったが、環境の違いから思うように投げられず、3カ月後には、学校を辞めようというところまで追い込まれたこと。この二つの挫折体験を話し始めた。
6月のある日、「おかん、僕はもうやっていけんわ。学校を辞めようと考えてんねん」と母親に相談したが、「もうちょっと頑張ってみたら……。あんたらしくやったらエエねん」と慰め、激励されて何とか踏みとどまったという。
そうした話の展開からは、これは僕の思い過ごしかもしれないが、思わず聴く方も昨今、何かと話題になっているスポーツ界のいじめや暴力的な指導法の片鱗がうかがえたような気もした。
閑話休題。
さて、そのピンチを桑田氏はどう乗り越えたのか。ここからがファイターズの諸君にとっても参考になる話だと思い、概略を紹介させていただく。
授業について行けない、という問題点を克服するためには授業を集中して聞くこと、宿題は授業の間の休み時間に終わらせること。この二つを徹底し、短時間集中型の勉強法を身につけることで突破したという。集中的に勉強することで分からない点、理解が行き届かない点が明確になり、それを周囲の仲間に聞くことで一つ一つ理解する。それによって一気に成績が上がってきたという。成績が上がると自信が付き、さらに集中して勉強することが出来るようになる。そうした循環で中学校入学当初は学年で200番以下だった成績がぐんぐん伸び、ついには一桁台になったという物語を紹介してくれた。
もう一つの取り組みが練習のやり方。「自分らしくやること。自分の信じたことを実行すること」。この覚悟を持って練習に臨むことで、ぐんぐん調子が上がり、1年生の夏の大会前にはエースの座をつかむことが出来たそうだ。具体的には、時には肩を休めるために監督に申し出て「ノースロー」の日を設け、代わりにその日は徹底的に走り込んで足腰を鍛えたという。それによって投球内容が安定したから監督からも信頼され、練習法にはある程度の自由を与えられるようになったそうだ。
とりわけ興味深かったのが、二つの挫折体験から努力すること、行動することで授業が分かるようになり、野球にも自信が付いたという話だった。「努力ってすごいな、楽しいな、という成功体験が生きる力になった」という桑田氏の言葉に共感し、思わず拍手を送った。
「君らが日本一になりたいいうから、僕らは手伝っているだけ」(鳥内監督)というファイターズとは別次元の話だが、多くの部活では、指導者は教わる側よりも、教える側の立場を優先しがちである。けれども、その前に指導を受ける側の自発性にもっと期待してもよいのではないか。「努力ってすごいな、楽しいな」と、教わる側が心から思えるような指導法に目を向けることである。
それはグラウンドでの練習に限らない。練習後のダッシュ10本でもよい。読書でもよい。毎日、5行の練習日記を書かせてもよい。教わる側がそれを続けることで自信を持ち、成長へのエネルギーにしていけるような「何か」なら、何でもよい。
指導者がそういう指導法にも目を配れるようになったとき、教わる側にも何かの化学反応が起き、一気にプレーヤーとしての能力も開花するのではないか。過去のファイターズで、平均的なレベルと見られていながら、ある日突然、飛躍的な成長を遂げ、大活躍した選手は、みんなそんな体験を持っているのではないかと僕はにらんでいる。
僕は、氏が見事に復活し、カムバック賞を受賞した2002年秋、氏が師匠と仰ぐ武術家、甲野善紀さんとの縁で氏を取材し、朝日新聞の「一流を育てる」という連載で3回にわたって紹介したことがある。
一方、甲野さんのことは、このコラムでも何度か紹介している。親しくファイターズの練習にも顔を出し、武術的な身体操法を披露しながら、それをアメフットに応用する可能性を選手やコーチとともに考え、ヒントをくださっている武術家である。いわば、桑田さんとファイターズの諸君は、同じ師匠に連なる兄弟弟子といってもよい関係にある。
そういう人の講演会である。何をおいても聴講しなくてはと、主催した田辺ロータリークラブの方に頼んで話を聴かせてもらった。
講演は、期待以上に素晴らしかった。
「野球からは、素晴らしいことをたくさん経験させてもらいました」。そう語り始めた氏は、続けて「僕の人生は、挫折という言葉がふさわしい」。そういって、一つは小学校低学年のころから学校の勉強についていけずに苦しんだこと。もう一つは、中学校3年生の時には出場した全ての大会でエースの座を守り、その全てで優勝という実績を上げてPL学園に入ったが、環境の違いから思うように投げられず、3カ月後には、学校を辞めようというところまで追い込まれたこと。この二つの挫折体験を話し始めた。
6月のある日、「おかん、僕はもうやっていけんわ。学校を辞めようと考えてんねん」と母親に相談したが、「もうちょっと頑張ってみたら……。あんたらしくやったらエエねん」と慰め、激励されて何とか踏みとどまったという。
そうした話の展開からは、これは僕の思い過ごしかもしれないが、思わず聴く方も昨今、何かと話題になっているスポーツ界のいじめや暴力的な指導法の片鱗がうかがえたような気もした。
閑話休題。
さて、そのピンチを桑田氏はどう乗り越えたのか。ここからがファイターズの諸君にとっても参考になる話だと思い、概略を紹介させていただく。
授業について行けない、という問題点を克服するためには授業を集中して聞くこと、宿題は授業の間の休み時間に終わらせること。この二つを徹底し、短時間集中型の勉強法を身につけることで突破したという。集中的に勉強することで分からない点、理解が行き届かない点が明確になり、それを周囲の仲間に聞くことで一つ一つ理解する。それによって一気に成績が上がってきたという。成績が上がると自信が付き、さらに集中して勉強することが出来るようになる。そうした循環で中学校入学当初は学年で200番以下だった成績がぐんぐん伸び、ついには一桁台になったという物語を紹介してくれた。
もう一つの取り組みが練習のやり方。「自分らしくやること。自分の信じたことを実行すること」。この覚悟を持って練習に臨むことで、ぐんぐん調子が上がり、1年生の夏の大会前にはエースの座をつかむことが出来たそうだ。具体的には、時には肩を休めるために監督に申し出て「ノースロー」の日を設け、代わりにその日は徹底的に走り込んで足腰を鍛えたという。それによって投球内容が安定したから監督からも信頼され、練習法にはある程度の自由を与えられるようになったそうだ。
とりわけ興味深かったのが、二つの挫折体験から努力すること、行動することで授業が分かるようになり、野球にも自信が付いたという話だった。「努力ってすごいな、楽しいな、という成功体験が生きる力になった」という桑田氏の言葉に共感し、思わず拍手を送った。
「君らが日本一になりたいいうから、僕らは手伝っているだけ」(鳥内監督)というファイターズとは別次元の話だが、多くの部活では、指導者は教わる側よりも、教える側の立場を優先しがちである。けれども、その前に指導を受ける側の自発性にもっと期待してもよいのではないか。「努力ってすごいな、楽しいな」と、教わる側が心から思えるような指導法に目を向けることである。
それはグラウンドでの練習に限らない。練習後のダッシュ10本でもよい。読書でもよい。毎日、5行の練習日記を書かせてもよい。教わる側がそれを続けることで自信を持ち、成長へのエネルギーにしていけるような「何か」なら、何でもよい。
指導者がそういう指導法にも目を配れるようになったとき、教わる側にも何かの化学反応が起き、一気にプレーヤーとしての能力も開花するのではないか。過去のファイターズで、平均的なレベルと見られていながら、ある日突然、飛躍的な成長を遂げ、大活躍した選手は、みんなそんな体験を持っているのではないかと僕はにらんでいる。
«前へ |