石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2017/10

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(26)練習の質と量

投稿日時:2017/10/29(日) 07:11

 平日、ファイターズの練習は、原則として午後5時半からスタートする。4時限(午後3時10分~4時40分)の授業を受けた部員が練習着に着替え、テーピングなどを施し、入念な準備運動を終えて、万全の態勢でスタートできるように、授業終了から50分のゆとりを持たせているのである。
 もちろん、上級生を中心に単位の取得の進んだメンバーは、授業が3時限(午後1時半~3時)で終わることが多い(というか、3時限目までに終了する授業を計画的に履修している)。そういうメンバーは午後4時にはグラウンドに降りて、それぞれがダミーにぶつかったり、軽くダッシュを繰り返したりしながら、練習相手の準備が整うのを待っている。
 その中で、いつもグラウンドの中央に広い場所をとって練習しているグループがいる。上級生のWR、TEとQBである。4時になると順次グラウンド中央に集まり、準備のできた選手から順にパスの練習に入っていく。時にはボールの感覚を養うためにRBやDBも参加し、やがて下級生も加わって、パスに特化した練習が本格的に始まる。
 QBは高いパス、低いパス、ターンボールなどを右に左に投げ分け、レシーバーは猛スピードでそれを追いかける。驚くのは、上級生が先発、控えに関係なく、まったくといっていいほどボールを落とさないこと。明らかな投げミスは別だが、不用意な落球はほとんどない。
 もちろん、不用意にボールを落とす選手もいる。しかしそれは、けがから復帰したばかりでキャッチする時の感覚が戻りきっていない選手や授業の関係でこの練習に参加する機会が少なく、練習量が絶対的に足りていない1、2年生に限られている。
 ファイターズのレシーバー陣には学生界でも屈指のメンバーが揃っている。長身の亀山、松井。ここ一番で便りになる前田泰、4年生になって急激に力を付けてきた前田耕、中原、安在。3年生には伸び盛りの小田や長谷川もいる。投げる方にも4年生には強肩の百田、3年生の光藤、西野はパスもランも状況判断も一級品だ。
 これにタイトエンドやRBが加わって延々とパスを投げ、受ける練習を続ける。それも、ただ練習前に体を温めるというレベルではなく、この一球で試合を決めてやる、という覚悟での練習である。
 受ける方も投げる方も関西リーグでもトップクラスのメンバーが、より高いレベルを求めて取り組むから、練習自体の質が高い。日々、そうした環境で競争しているから、レシーバーのパスを捕球する能力はより磨かれ、投げる側のパスの精度も上がってくる。
 10年ほど前にも、QB三原君を中心にWRの榊原、秋山、萬代君らが練習開始の2時間ほど前から似たような練習をやっていた。そのときは、1球の捕球ミスがあればそのレシーバーが、投球ミスがあればQBが自発的に10回の腕立て伏せを自らに課し、互いに高め合っていた。その結果が4年間遠ざかっていた甲子園ボウルに勝ち、ライスボウルでの「史上最高のパスゲーム」につながったことは記憶に新しい。
 当時の練習法を引き継いだようにも見えるが、当時とは決定的に異なることがある。それは、まだ試合に出るだけの能力が磨かれていない下級生の多くが、時間の都合さえつけばこの練習に参加していることである。下級生にとっては、手の届かないほどに思える質の高い練習だが、いつでもその練習に加わり、そこで先輩たちをお手本にして学ぶことができる点が、4年生が中心だった10年前との違いである。学ぶは真似ぶ。つまり、学習は模倣から始まる。いわば、教育の起源のような練習が上ヶ原の第3フィールドで日々展開されているのである。
 しかし、WRに限らず、下級生の多くは4時限、5時限にも授業を抱えている。この時間帯には厳しく出席をチェックされる語学の授業も多いので、なかなかチーム練習前のパート練習に参加する時間的な余裕がない。その結果、せっかくグラウンドで質の高い練習が繰り広げられているのに、下級生の多くはそれを間近で体験する機会が限られてしまうのである。まことに残念なことである。
 前回のコラムで、僕は「交代メンバー頑張れ!」と、いまは控えに回っているか下級生に奮起を促した。しかし、そんな声をかけたところで、肝心の練習時間が確保出来ないのでは、日々練習を重ねている上級生との差は開くばかりである。なんとか下級生にも練習の時間を確保できるように、知恵をしぼり、工夫を凝らすことはできないものか。
 先年、プリンストン大学と交流試合をしたときのシンポジウムで、同大学で課外教育に責任を持つアリソン・リッチ・学生生活部体育局副局長が講演し、同大が学生に対して課外カリキュラムに取り組むよう強く推奨していること、90%の学生が体育会や文化・芸術のクラブ活動を体験して卒業すること等を説明した中に、同大が午後4時半から7時半までは授業を組まずに課外活動の時間として設定している、ということが含まれていた。学生に課外活動への参加の機会を保障することが目的である。これは、逆に活動時間を限定するという側面もあるが、私にはとても印象に残った。
 (講演内容は以下のURLにあります)
 https://gap.kwansei.ac.jp/activity/2015/attached/0000077155.pdf
 この点に関して、本来、大学が考えられることであり、僕のような部外者があれこれ提案することではない
と理解している。いまは、有能な上級生から下級生が学べる機会をなんとかして作って欲しいとお願いするだけにしておこう。

(25)台風の中の試合

投稿日時:2017/10/23(月) 19:21

 22日、龍谷大学との試合は台風の中でのキックオフ。しかし僕は、王子スタジアムでの応援はかなわなかった。
 当日は衆議院選挙の投開票日であり、同時に超大型の台風21号が強い勢力を保ったまま紀伊半島付近に近づいてくるという。紀伊半島といえば、僕が働いている田辺市はその中心地。周辺には大雨のたびに大きな被害の出る地域がいくつもある。高速道路が通行止めになり、電車が運転を見合わせることもたびたびだ。6年前には紀伊半島大水害に見舞われ、山林の崩壊事故があちこちで発生し、大きな被害が出た地域でもある。
 こういう事態に再び見舞われる懸念があり、同時に選挙の開票結果を入れる紙面も製作しなければならない。編集の責任者としては、ゆっくりフットボールを観戦し、贔屓のファイターズを応援している場合ではないのである。
 この十数年、少なくとも関西で行われるファイターズの試合はあらゆる日程に優先させして欠かさず観戦し、応援してきた僕でも、さすがに今度ばかりは勤務地を離れる訳にはいかない。泣く泣く観戦をあきらめ、rtvの画面と、ファイターズのスタッフによるツイッタ-の速報で我慢するしかなかった。
 以下は、試合時間中の仕事を放棄し、パソコンの画面にかじりついていた僕の観戦記である。臨場感のないのはご容赦願いたい。
 降りしきる雨の中、ファイターズのレシーブで試合開始。この日の先発QBは今季初めて光藤が務める。先週末の練習ではパスとランを織り交ぜたプレーをテンポよく繰り広げ、素人目にも状態が上がってきたことが見て取れた。それを試合で思い通りに発揮できるかどうかに注目していたが、昼間から照明灯に灯を入れなければならないほどの豪雨では、パスプレーを選択することは無謀である。
 それは相手も十分に承知している。当然、ランプレーが予測される中で、相手の守備をどう突破して行くか。そこに注目していたが、ふたを開けて見ると、話は簡単だった。
 どういうことか。
 結論からいえば、能力の高いRB陣を100%の条件で走らせるだけのことだった。ただし、そこにはファイターズならではの仕掛けがあった。例えば、本当のキャリアを相手守備陣から隠すためにドロープレーを多用し、タイミングを変化させながら守備陣の隙間をつく。ボールを手渡す際には、必ずといってよいほど巧妙なフェイクを入れる。時にはボールを手渡したふりをして相手守備陣をRBに引き寄せ、開いた隙間をQBが走る。そんな工夫を随所にちりばめて、陣地を進めて行く。
 試合開始直後、RB山口がドロープレーで約50ヤードを独走して相手ゴールに迫る。勢いに乗ってRB高松が残る10ヤードを走り切ってTD。K小川がキックを決めて7-0と先制する。
 自陣34ヤードから始まった次の攻撃シリーズも、山口と高松が交互にボールを運ぶ。時には光藤のキーププレーで相手守備陣の注意をそらす。2度もフォルススタートの反則があったが、委細構わず陣地を進め、仕上げは山口が14ヤードを駆け抜けてTD。14-0とリードして主導権を握る。
 しかし、荒天下の試合では何が起きるか予測もつかない。足元は一帯が水たまりのようになっているし、風が強いからキックのコントロールも難しい。何よりセンターからスナップされたボールが揺れるからファンブルが怖い。パスをしたくても雨で視界が遮られるから投げる方も捕る方も難しい。
 こんな制約があっては、ファイターズが誇る強力なWR陣も腕の見せ場がない。しかし、役割はある。ブロッカーとなって相手守備陣の足を止め、RB陣に走路を開く。時にはRBの役割も果たす。第1Qの終盤に回ってきたファイターズ3度目の攻撃シリーズでは、WR前田耕がその役割を見事に演じた。
 自陣28ヤードから始まったこのシリーズ。第2Qに入っても、山口、高松、光藤が代わる代わるボールを持って陣地を進める。相手守備陣の目が中央に向いたその隙を突くように前田耕がジェットモーションからボールを受け取り、一気に左オープンをまくり上げる。そのまま30ヤードを駆け抜けてTD。
 さらに相手がパントを失敗し、相手ゴール前30ヤードから始まった4回目の攻撃シリーズも高松、山口、中村のRB陣が交代でボールを運び、高松のこの日2本目のTDで仕上げる。気がつけば、攻撃陣はここまで4度の攻撃シリーズをすべてTDに結び付けている。強い雨と風にもひるまず、相手の目を前後左右に振り回し、緩急を付けて攻め続けた戦法が功を奏したのだろう。
 攻撃陣の影に隠れてしまう形になったが、守備陣の活躍も見事だった。副将藤木が戻ってより強力になった1列目、同じく副将松本を中心とした2列目、チーム切ってのアスリート小椋が率いる3列目。それぞれが持ち味を出して相手に付け入る隙を与えなかった。
 しかし、課題も浮き彫りになった。先発で出場したメンバーと後半になって次々に登用された控えのメンバーとの力の差が埋まっていないことである。この日のように、グラウンド条件の悪い日は、その差が余計に明確になる。高い能力を持つ選手は、少々グラウンドの条件が悪くても力を発揮できるが、試合経験のない選手はそうはいかない。雨や風が気になって力が発揮できないのだ。
 それをどう解決するか。チームとしても対策を考えているだろうが、結局はそれぞれの選手の努力にかかっている。一人一人が自らの足りない点を自覚し、目的を持った練習を積むしかない。いま、先発メンバーに名を連ねている選手はみな、そうして自らを追い込み、鍛え上げてきたのである。
 次戦には関大、その次には立命との試合が迫っている。能力の高い交代メンバーは多ければ多いほどありがたい。チームとしての選択肢が広がるし、攻撃の幅も広がる。守備でも主力選手を随時交代させながら登用していけば、特定の選手に疲れもたまらず、常に最高のパフォーマンスが期待できる。もちろん、下級生が厳しい試合で経験を積めば、来期以降の備えにもなる。
 「ローマは一日にしてならず」。いまは控えのメンバーに甘んじている諸君の奮起を期待したい。
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