石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2017/6
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(12)勇者への伝言
投稿日時:2017/06/27(火) 08:23
ファイターズはいま、春のシーズンが終わり、夏から秋に向けて、ある種の充電期間に入っている。ニューエラボウルに選ばれた選手はそのための練習があるし、それ以外の部員はパートごとに詳細な日程を組んでファンダメンタルを中心にした練習に取り組んでいる。
目の前には、前期試験も迫っている。そのための準備も欠かせない。堅実に単位を修得している上級生はともかく、下級生にとっては、1、2年生の間が勝負である。ここで手を抜いたら、上級生になってからの部活動にも支障をきたす。監督やコーチが単位の修得状況に厳しく目を光らせているのも、理由があってのことである。
試合もない。チーム練習もない。そういう期間を利用して、今春卒業したメンバーの文集から、いくつかのことばを紹介したい。2度にわたる立命との勝負に勝って関西リーグのてっぺんに立ち、入念に策を凝らして立ち向かってきた早稲田にも勝って甲子園ボウルを制した4年生がどんな気持ちで日々の活動に取り組み、どんな感慨を持って卒業していったのか。それを知ることは、新たな頂きに挑戦する後輩にとっても、大きな励みになり、目標にもなるはずだ。
しかしながら、この文集は広く世間に公表する目的で編集されてはいない。卒業生がファイターズで4年間、どのように取り組んできたか、それを自身が回顧した魂の告白であり、後輩たちへの切なる伝言である。卒業生が長い将来にわたって、ファイターズでの活動を振り返るための拠り所である。
それを僕が勝手に紹介することは許されない。卒業生から承諾が得られた部分、あるいは「後輩への伝言」の部分に限って、要旨だけを紹介させていただく。文集はあいうえお順に編集されているので、引用もその順序である。
「在籍しているだけでは何も起こらない。自分を邪魔するしょうもないプライドは捨てて、逃げることをやめてほしい。そうすると何か違うものが見えてくる」(WR池永君)
「人に言われて、ハッとなった言葉は、意外といつまでも残っている。同期や先輩、後輩関係なく、正直に言いたいことを言い合って、お互いを高めあえる、そんな関係ならそこらの学生相手には負けない」(HLD石井君)
「一人前の男になるには、自分の立てた目標を自分に嘘をつかず、1日1日やりきること。目の前の相手に意地でも負けないこと」(QB伊豆君)
「引退して素直に思えることが一つある。それは、俺が最後の砦だ、全部タックルしたる、と本気で考え、行動し続けたやつにしか分からない」「ファイターズが勝つか、負けるかはDB、SF次第。タックルするか、抜かれるか。だからこそ俺が全部タックルする。シンプルだけど、そこにとことん向き合って本気で行動するから面白い」(DB岡本)
「アメフトの実力もない。リーダーシップもない。そんな4年生がチームが日本1になるために何で貢献できるのだろうかと考えました。私が導いた答えは全体練習前にする練習のスペを一番早くにグラウンドに降りてすることでした。私がグラウンドに早く降りて練習してる姿を見た選手たちが「俺も、細川みたいに早くスペ上がろ」と、自然と早くグラウンドに来て練習するのではないかと思ったからです」(WR細川君)
「『このチーム』と『うちのチーム』の言い方の違いはどこにあるか。それは勝ち負けに関わっている実感があるかどうか。この実感がなければ勝って泣くことも、負けて泣くこともできない。後悔しないのは『うちのチーム』と言える人間だと思う」(DB松嶋君)
「一番に考えてほしいことは、勝つために自分はどうしたいか、とい自分の行動に自分なりの考えと信念があるかどうかが一番大切です。もしその行動が間違っていれば、仲間が指摘してくれます。そこで会話が生まれ、自分の思いを仲間に伝える場ができ、信頼関係が生まれていきます」(DL安田君)
「人間本気で考えて、やったんねんと気持ちを固めれば、いままで見えなかったものが自然と見えてくる。たくさんのことを考え、迷い、どうすればもっとよくなるかと試行錯誤するうちに腹から出てくる言葉が変わり、行動も変わる。気付けばそれを毎日繰り返すうちに習慣になっていき、性格になる。そんなことを1年間信じて貫いた時に初めて運命を変えることができるのではないか」「大切なことは、正しいか間違っているかではない。自分と自分たちで決めたことを信じてやり通せるかだ。後輩には、そのことだけを伝えたい。自分で、自分たちで道を切り拓き、運命を変えてほしい」(LB山岸君)
以上、後輩への伝言に限定し、ほんの数人の言葉からさわりの部分だけを並べてみた。それでも気持ちは伝わってくる。これらの言葉がすべて、ファイターズで過ごした4年間の汗と涙に裏付けられた魂の伝言であるからだろう。
その真実は、同じ状況に身を置き、同じ悩みを共有し、もがき苦しみ、そこから一筋の光明を見つけた人間のみに理解できるのではないか。あえてこの文集を「勇者への伝言」と僕が呼ぶのは、そこに理由がある。
松嶋君のいう、ファイターズを「うちのチーム」と考えることのできる全員に、この伝言を受け取ってもらいたい。
目の前には、前期試験も迫っている。そのための準備も欠かせない。堅実に単位を修得している上級生はともかく、下級生にとっては、1、2年生の間が勝負である。ここで手を抜いたら、上級生になってからの部活動にも支障をきたす。監督やコーチが単位の修得状況に厳しく目を光らせているのも、理由があってのことである。
試合もない。チーム練習もない。そういう期間を利用して、今春卒業したメンバーの文集から、いくつかのことばを紹介したい。2度にわたる立命との勝負に勝って関西リーグのてっぺんに立ち、入念に策を凝らして立ち向かってきた早稲田にも勝って甲子園ボウルを制した4年生がどんな気持ちで日々の活動に取り組み、どんな感慨を持って卒業していったのか。それを知ることは、新たな頂きに挑戦する後輩にとっても、大きな励みになり、目標にもなるはずだ。
しかしながら、この文集は広く世間に公表する目的で編集されてはいない。卒業生がファイターズで4年間、どのように取り組んできたか、それを自身が回顧した魂の告白であり、後輩たちへの切なる伝言である。卒業生が長い将来にわたって、ファイターズでの活動を振り返るための拠り所である。
それを僕が勝手に紹介することは許されない。卒業生から承諾が得られた部分、あるいは「後輩への伝言」の部分に限って、要旨だけを紹介させていただく。文集はあいうえお順に編集されているので、引用もその順序である。
「在籍しているだけでは何も起こらない。自分を邪魔するしょうもないプライドは捨てて、逃げることをやめてほしい。そうすると何か違うものが見えてくる」(WR池永君)
「人に言われて、ハッとなった言葉は、意外といつまでも残っている。同期や先輩、後輩関係なく、正直に言いたいことを言い合って、お互いを高めあえる、そんな関係ならそこらの学生相手には負けない」(HLD石井君)
「一人前の男になるには、自分の立てた目標を自分に嘘をつかず、1日1日やりきること。目の前の相手に意地でも負けないこと」(QB伊豆君)
「引退して素直に思えることが一つある。それは、俺が最後の砦だ、全部タックルしたる、と本気で考え、行動し続けたやつにしか分からない」「ファイターズが勝つか、負けるかはDB、SF次第。タックルするか、抜かれるか。だからこそ俺が全部タックルする。シンプルだけど、そこにとことん向き合って本気で行動するから面白い」(DB岡本)
「アメフトの実力もない。リーダーシップもない。そんな4年生がチームが日本1になるために何で貢献できるのだろうかと考えました。私が導いた答えは全体練習前にする練習のスペを一番早くにグラウンドに降りてすることでした。私がグラウンドに早く降りて練習してる姿を見た選手たちが「俺も、細川みたいに早くスペ上がろ」と、自然と早くグラウンドに来て練習するのではないかと思ったからです」(WR細川君)
「『このチーム』と『うちのチーム』の言い方の違いはどこにあるか。それは勝ち負けに関わっている実感があるかどうか。この実感がなければ勝って泣くことも、負けて泣くこともできない。後悔しないのは『うちのチーム』と言える人間だと思う」(DB松嶋君)
「一番に考えてほしいことは、勝つために自分はどうしたいか、とい自分の行動に自分なりの考えと信念があるかどうかが一番大切です。もしその行動が間違っていれば、仲間が指摘してくれます。そこで会話が生まれ、自分の思いを仲間に伝える場ができ、信頼関係が生まれていきます」(DL安田君)
「人間本気で考えて、やったんねんと気持ちを固めれば、いままで見えなかったものが自然と見えてくる。たくさんのことを考え、迷い、どうすればもっとよくなるかと試行錯誤するうちに腹から出てくる言葉が変わり、行動も変わる。気付けばそれを毎日繰り返すうちに習慣になっていき、性格になる。そんなことを1年間信じて貫いた時に初めて運命を変えることができるのではないか」「大切なことは、正しいか間違っているかではない。自分と自分たちで決めたことを信じてやり通せるかだ。後輩には、そのことだけを伝えたい。自分で、自分たちで道を切り拓き、運命を変えてほしい」(LB山岸君)
以上、後輩への伝言に限定し、ほんの数人の言葉からさわりの部分だけを並べてみた。それでも気持ちは伝わってくる。これらの言葉がすべて、ファイターズで過ごした4年間の汗と涙に裏付けられた魂の伝言であるからだろう。
その真実は、同じ状況に身を置き、同じ悩みを共有し、もがき苦しみ、そこから一筋の光明を見つけた人間のみに理解できるのではないか。あえてこの文集を「勇者への伝言」と僕が呼ぶのは、そこに理由がある。
松嶋君のいう、ファイターズを「うちのチーム」と考えることのできる全員に、この伝言を受け取ってもらいたい。
(11)リクルートの力
投稿日時:2017/06/20(火) 21:51
先週のJV戦、北海道大学との試合では、スポーツ選抜入試で関西学院の門を叩き、ファイターズに入部したばかりの1年生が大いに存在感を発揮した。
先発メンバーにはRB田窪(追手門)とDL春口(浪速)が名を連ね、交代メンバーとして同じ選抜組のRB鈴木(横浜南陵)、WR亀井(報徳)、OL石川(足立学園)、羽土(浪速)、LB松永(箕面自由)、DB井上(浪速)が出場。それぞれきらりと光るところを見せた。前回、京都産業大学とのJV戦で活躍したLBの海崎(追手門)はすでにVのメンバーとして練習しているため、この日は出番がなかったが、出場したメンバーは、終始、全力で立ち向かってくれた北海道大学の選手達を相手に、これまた全力で立ち向かった。
これに、今季はけがなどで出遅れていた2年生のDL今井、OLの川部、パング、RB斎藤らの活躍振りを挙げていくと、ファイターズのリクルート力のすごさが見えてくる。
もちろん、新戦力の供給源として、昔も今も存在感があるのは高等部の出身者。質量ともにファイターズの屋台骨を支えているのは誰もが認めるところだ。加えて近年は、啓明学院出身者の活躍振りも目立ってきた。この日、出番があるたびに相手守備陣を切り裂いたRB三宅や鶴留、足の速さが魅力のWR大村はそれぞれ高等部と啓明の卒業生だ。
それでも、スポーツ選抜入試やAO入試、指定校推薦など多彩な選抜形態で入部してくる選手を抜きにしては、ファイターズは語れない。昨年のチームを引っ張った主将山岸、QB伊豆、WR池永、RB橋本、DB小池。今季のチームをリードする主将井若、副将松本、WR前田泰一、DB小椋、RB山本、高松らの名前を列挙していくだけで、そのことは理解できるだろう。
そうしたメンバーを誰が、どのようにして見つけ、チームに勧誘するのか。もちろん、高校時代から華々しい活躍をし、各チームから声のかかる選手もいる。そうしたメンバーは専門誌でも大きく取り上げられ、ライバル校と争奪戦になることもある。けれども、府県大会で早々に敗退するチームの中にも、非凡な才能が埋もれていることが少なくない。他競技からの転身者にも、フットボールで成功しそうな選手もいる。
ファイターズを例にとれば、さきの伊豆や橋本がそうだし、井若も高校時代はここまで活躍する選手とは思われていなかった。いまやチームに欠かせぬ選手となった3年生のWR松井、DL三笠も、高校時代はごく少数の人が絶賛しているだけだったし、さきのJV戦で別次元の活躍振りを披露した2年生のDL今井も、全国的には無名の選手だった。
そうした選手をどのようにして発掘するのか。まずは公式試合を中心に高校の試合をビデオに収録する。注目選手を中心に、そのビデオをコーチに見せる。コーチが高校の試合に足を運んで直接、注目している選手の動きを見ることもある。勧誘すると決まれば、高校の責任教師や相手の家族に挨拶にうかがい、本人とも面談する。小論文対策の勉強会もするし、志望理由書など提出書類を整えるためのアドバイスもする。入試当日の世話もするし、入学が決まれば下宿の手配もする。
そうした一連の作業を担当するのがリクルート班。いまはディレクター補佐の宮本さんが責任者を務め、担当のマネジャー(今季は2年生の安在君)が手足となってビデオ撮影などに奔走する。高校のシーズン中は土曜、日曜に試合があるため、ほとんどの休日が吹っ飛ぶ。
このリクルート体制は1990年代の後半から、当時の小野コーチが中心になって構築した。当時はスポーツ推薦が始まったばかりで、勧誘のノウハウもなければ、有望選手を発掘する仕組みも十分には整っていなかった。とにかく試合会場に足を運び、これはという選手を見つけると、試合直後に相手ベンチに駆け込み、監督に挨拶をするところから始めていたように記憶している。
小野コーチの仕事が忙しくなり、その後を宮本さんが引き継いで約15年。その間、営々と高校の監督や部長と人脈を築いてきた。最近では、ファイターズの運営の仕方や選手の育て方に理解も深まってきたという。いまでは相手から「この選手は責任を持って送り出します。ぜひファイターズに育ててもらいたい」といわれることもあるし、彼らが対戦した相手チームの有力選手の情報をもらえることもあるそうだ。
ファイターズのOBから推薦されることもあるし、監督やコーチの個人的なつながりから、他競技の有望選手の情報が入ることもある。高校の試合のビデオを必ずチェックする大村コーチがリクルーターの注目していた選手とは別の選手の動きに目を止め、当初に予定していたのとは別の選手を勧誘することもある。
リクルートの現場を預かる人材と監督、コーチとの風通しがいいこと、長年積み重ねてきた高校の先生たちとの信頼関係、入部した選手の成長、そうしたことが積み重なって、現在のファイターズのリクルート力を支えているのだろう。その辺のことを宮本さんに聞くと二つの答えが返ってきた。
一つはファイターズの「育成力」が高校の監督や先生たちに信頼されるようになったこと。だから、昔はこちらから声を掛けていたが、近年はこれはという選手がいると相手から声を掛けてもらえるようになってきたという。もう一つは現場を預かる大村コーチの目が確かなこと。「彼はよく『こいつはええ目をしている』というような言い方をするのですが、それがことごとく当たっている。ビデオを見るときも、僕らの気付かない所に目を向けていることがよく分かる」と宮本さんはいう。
そうした努力と信頼によって支えられているのがファイターズのリクルート力である。今季も、そうして選ればれ、入部してきた選手たちの動向から目が離せない。ここでは名前を挙げていないが、ラグビーや野球など他競技からの転出組にも、将来が期待される選手が少なくない。
先発メンバーにはRB田窪(追手門)とDL春口(浪速)が名を連ね、交代メンバーとして同じ選抜組のRB鈴木(横浜南陵)、WR亀井(報徳)、OL石川(足立学園)、羽土(浪速)、LB松永(箕面自由)、DB井上(浪速)が出場。それぞれきらりと光るところを見せた。前回、京都産業大学とのJV戦で活躍したLBの海崎(追手門)はすでにVのメンバーとして練習しているため、この日は出番がなかったが、出場したメンバーは、終始、全力で立ち向かってくれた北海道大学の選手達を相手に、これまた全力で立ち向かった。
これに、今季はけがなどで出遅れていた2年生のDL今井、OLの川部、パング、RB斎藤らの活躍振りを挙げていくと、ファイターズのリクルート力のすごさが見えてくる。
もちろん、新戦力の供給源として、昔も今も存在感があるのは高等部の出身者。質量ともにファイターズの屋台骨を支えているのは誰もが認めるところだ。加えて近年は、啓明学院出身者の活躍振りも目立ってきた。この日、出番があるたびに相手守備陣を切り裂いたRB三宅や鶴留、足の速さが魅力のWR大村はそれぞれ高等部と啓明の卒業生だ。
それでも、スポーツ選抜入試やAO入試、指定校推薦など多彩な選抜形態で入部してくる選手を抜きにしては、ファイターズは語れない。昨年のチームを引っ張った主将山岸、QB伊豆、WR池永、RB橋本、DB小池。今季のチームをリードする主将井若、副将松本、WR前田泰一、DB小椋、RB山本、高松らの名前を列挙していくだけで、そのことは理解できるだろう。
そうしたメンバーを誰が、どのようにして見つけ、チームに勧誘するのか。もちろん、高校時代から華々しい活躍をし、各チームから声のかかる選手もいる。そうしたメンバーは専門誌でも大きく取り上げられ、ライバル校と争奪戦になることもある。けれども、府県大会で早々に敗退するチームの中にも、非凡な才能が埋もれていることが少なくない。他競技からの転身者にも、フットボールで成功しそうな選手もいる。
ファイターズを例にとれば、さきの伊豆や橋本がそうだし、井若も高校時代はここまで活躍する選手とは思われていなかった。いまやチームに欠かせぬ選手となった3年生のWR松井、DL三笠も、高校時代はごく少数の人が絶賛しているだけだったし、さきのJV戦で別次元の活躍振りを披露した2年生のDL今井も、全国的には無名の選手だった。
そうした選手をどのようにして発掘するのか。まずは公式試合を中心に高校の試合をビデオに収録する。注目選手を中心に、そのビデオをコーチに見せる。コーチが高校の試合に足を運んで直接、注目している選手の動きを見ることもある。勧誘すると決まれば、高校の責任教師や相手の家族に挨拶にうかがい、本人とも面談する。小論文対策の勉強会もするし、志望理由書など提出書類を整えるためのアドバイスもする。入試当日の世話もするし、入学が決まれば下宿の手配もする。
そうした一連の作業を担当するのがリクルート班。いまはディレクター補佐の宮本さんが責任者を務め、担当のマネジャー(今季は2年生の安在君)が手足となってビデオ撮影などに奔走する。高校のシーズン中は土曜、日曜に試合があるため、ほとんどの休日が吹っ飛ぶ。
このリクルート体制は1990年代の後半から、当時の小野コーチが中心になって構築した。当時はスポーツ推薦が始まったばかりで、勧誘のノウハウもなければ、有望選手を発掘する仕組みも十分には整っていなかった。とにかく試合会場に足を運び、これはという選手を見つけると、試合直後に相手ベンチに駆け込み、監督に挨拶をするところから始めていたように記憶している。
小野コーチの仕事が忙しくなり、その後を宮本さんが引き継いで約15年。その間、営々と高校の監督や部長と人脈を築いてきた。最近では、ファイターズの運営の仕方や選手の育て方に理解も深まってきたという。いまでは相手から「この選手は責任を持って送り出します。ぜひファイターズに育ててもらいたい」といわれることもあるし、彼らが対戦した相手チームの有力選手の情報をもらえることもあるそうだ。
ファイターズのOBから推薦されることもあるし、監督やコーチの個人的なつながりから、他競技の有望選手の情報が入ることもある。高校の試合のビデオを必ずチェックする大村コーチがリクルーターの注目していた選手とは別の選手の動きに目を止め、当初に予定していたのとは別の選手を勧誘することもある。
リクルートの現場を預かる人材と監督、コーチとの風通しがいいこと、長年積み重ねてきた高校の先生たちとの信頼関係、入部した選手の成長、そうしたことが積み重なって、現在のファイターズのリクルート力を支えているのだろう。その辺のことを宮本さんに聞くと二つの答えが返ってきた。
一つはファイターズの「育成力」が高校の監督や先生たちに信頼されるようになったこと。だから、昔はこちらから声を掛けていたが、近年はこれはという選手がいると相手から声を掛けてもらえるようになってきたという。もう一つは現場を預かる大村コーチの目が確かなこと。「彼はよく『こいつはええ目をしている』というような言い方をするのですが、それがことごとく当たっている。ビデオを見るときも、僕らの気付かない所に目を向けていることがよく分かる」と宮本さんはいう。
そうした努力と信頼によって支えられているのがファイターズのリクルート力である。今季も、そうして選ればれ、入部してきた選手たちの動向から目が離せない。ここでは名前を挙げていないが、ラグビーや野球など他競技からの転出組にも、将来が期待される選手が少なくない。
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