石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2015/7
<<前へ |
(17)開かれたチーム
投稿日時:2015/07/28(火) 09:08
ファイターズの諸君はいま、前期試験の終盤戦。部活動も制約を受け、チームとしての練習も停止されている。上ヶ原の第3フィールドを訪ねても「暑熱順化期間」ということで、試験の終わったメンバーが交代で日中の短時間、グラウンドに集まり、暑さに慣れるために体を動かしている程度である。本格的な夏の練習は8月1日から始まる。
その、いわば空白期間を利用して、先日、大阪の朝日カルチャーセンターで開かれた小野宏ディレクターの講演の話をしたい。
講演のタイトルは「アメリカンフットボールの本当の魅力」。これに2014シーズンのターニングポイント、という副題がついている。目次でいえば
1、立命戦の戦略
2、甲子園ボウル 爆発したインサイドパワーシリーズ
3、ライスボウル第4ダウンギャンブルの裏表
4、スーパーボウルのプレー選択は大失敗か
5、1983年関京戦~2ポイントで考える人生哲学
それぞれのシーンを、ビデオで再現しながら、コーチの視点で具体的に解説された。
聴衆は約130人。試合会場でいつも一緒になる知人やアメフットが大好きと公言される関学の先生らの顔が見える。参加者の名簿を拝見すると、選手の保護者も何人かはお見えになっていたようだ。今年で4年目という人気講座であり、わざわざ東京からお見えになった方もいる。他大学の関係者らしき人も散見される。
そうした中で、関西リーグの優勝を決める立命戦で展開した「クイックノーハドル・オフェンスの意図と実際」について、最初のタッチダウンにつながる10プレーについて、1プレーずつ解説。なぜ、ここでWRへのドロップバックパスを選んだのか。なぜRB橋本に3回連続で中央のランプレーをコールしたのか。10プレー目で橋本がファンブルしたボールを、なぜC松井がカバーし、TDに結び付けることができたのか。その前に、なぜこのクイックノーハドル・オフェンスを選んだのか。そこにどういう意図があったのか。そしてそれは、どのような効果を挙げたのか。成功に導くために、選手やスタッフはどのような行動をしたのか、というようなことについて、具体的な解説が続く。
コアなアメフットファンなら、誰もが知りたい内容であり、ライバル校にとっては大金をはたいてでも入手したい情報である。それを惜しげもなく公開し、それぞれに懇切丁寧な解説を付ける。そして、急所なる点については、この日、特別ゲストとして関係者席に座っていた大村アシスタントヘッドコーチにマイクを向け、現場の生の感覚を聞き出す。聞いていて、ここまで情報を公開して大丈夫かいな、と心配になるほどのサービスぶりだった。
これは立命戦の解説だけではない。日大と戦った甲子園ボウルで展開した「インサイドパワー・シリーズ」の狙いと成果、そのための工夫と勘所。パスとランの有機的な組み合わせ、それぞれの裏に秘められたフェイクプレー。さらには、ライスボウルで徹頭徹尾追求した第4ダウンギャンブルの狙い。それぞれについて、これまた丁寧な解説を続け、フットボールがいかに知能を使うスポーツであり、かつ合理的なスポーツであるという点について力説する。
その上に、おまけが二つ。今年のスーパーボウル、24-28で迎えた最終盤、ゴール前1ヤードで追い上げるシーホークスが選択したプレーの解説と、小野さん自身がQBとして出場した1983年、京大との戦いの最終局面の解説。
二つの解説を聴きながら、フットボールのコーチは、なんと緻密に試合展開を考えているのか、一つ一つのプレーコールに、そこまでの深い意味があるのか、とあらためて感慨を覚えた。そして、理詰めに考え、あらゆる可能性を考慮した選択であっても、時には理屈通りには行かないのがフットボールであり、それも魅力の一つなんだと感じ入った。
フットボールには、競技そのもののおもしろさに加えて、その背後に宿っているコーチやプレーヤーの人生哲学までを視野に入れて楽しめるスポーツである。その面白さ、楽しさを広く知ってもらいたい。そして文化としてのフットボールを広くこの社会に普及させたい。そんな小野さんの願い、ひいてはファイターズの希望を込めて開かれたのがこの日の講演だった。
そういう大きな目的から考えれば、たとえチームにとっては秘密にしておきたいプレーであっても、惜しみなくその内実を公開する。その考え方が広く共有され、フットボールの奥行きの深さに目覚めたファンが仲間を誘ってスタジアムにきてくれるのなら、それで満足。一人でも多くのフットボールファンを開拓することが、トップチームの使命であり、責任だと割り切って解説を続ける。それに現場のコーチも全面的に協力する。
お二人の姿を目の前に見て、ファイターズは本当に開かれたチームであることよ、こうした姿勢があるから、常に新しい戦術、戦略を考え、導入し、それを遂行することが出来るチームに育っていくのだよ、と感じ入った次第である。
その、いわば空白期間を利用して、先日、大阪の朝日カルチャーセンターで開かれた小野宏ディレクターの講演の話をしたい。
講演のタイトルは「アメリカンフットボールの本当の魅力」。これに2014シーズンのターニングポイント、という副題がついている。目次でいえば
1、立命戦の戦略
2、甲子園ボウル 爆発したインサイドパワーシリーズ
3、ライスボウル第4ダウンギャンブルの裏表
4、スーパーボウルのプレー選択は大失敗か
5、1983年関京戦~2ポイントで考える人生哲学
それぞれのシーンを、ビデオで再現しながら、コーチの視点で具体的に解説された。
聴衆は約130人。試合会場でいつも一緒になる知人やアメフットが大好きと公言される関学の先生らの顔が見える。参加者の名簿を拝見すると、選手の保護者も何人かはお見えになっていたようだ。今年で4年目という人気講座であり、わざわざ東京からお見えになった方もいる。他大学の関係者らしき人も散見される。
そうした中で、関西リーグの優勝を決める立命戦で展開した「クイックノーハドル・オフェンスの意図と実際」について、最初のタッチダウンにつながる10プレーについて、1プレーずつ解説。なぜ、ここでWRへのドロップバックパスを選んだのか。なぜRB橋本に3回連続で中央のランプレーをコールしたのか。10プレー目で橋本がファンブルしたボールを、なぜC松井がカバーし、TDに結び付けることができたのか。その前に、なぜこのクイックノーハドル・オフェンスを選んだのか。そこにどういう意図があったのか。そしてそれは、どのような効果を挙げたのか。成功に導くために、選手やスタッフはどのような行動をしたのか、というようなことについて、具体的な解説が続く。
コアなアメフットファンなら、誰もが知りたい内容であり、ライバル校にとっては大金をはたいてでも入手したい情報である。それを惜しげもなく公開し、それぞれに懇切丁寧な解説を付ける。そして、急所なる点については、この日、特別ゲストとして関係者席に座っていた大村アシスタントヘッドコーチにマイクを向け、現場の生の感覚を聞き出す。聞いていて、ここまで情報を公開して大丈夫かいな、と心配になるほどのサービスぶりだった。
これは立命戦の解説だけではない。日大と戦った甲子園ボウルで展開した「インサイドパワー・シリーズ」の狙いと成果、そのための工夫と勘所。パスとランの有機的な組み合わせ、それぞれの裏に秘められたフェイクプレー。さらには、ライスボウルで徹頭徹尾追求した第4ダウンギャンブルの狙い。それぞれについて、これまた丁寧な解説を続け、フットボールがいかに知能を使うスポーツであり、かつ合理的なスポーツであるという点について力説する。
その上に、おまけが二つ。今年のスーパーボウル、24-28で迎えた最終盤、ゴール前1ヤードで追い上げるシーホークスが選択したプレーの解説と、小野さん自身がQBとして出場した1983年、京大との戦いの最終局面の解説。
二つの解説を聴きながら、フットボールのコーチは、なんと緻密に試合展開を考えているのか、一つ一つのプレーコールに、そこまでの深い意味があるのか、とあらためて感慨を覚えた。そして、理詰めに考え、あらゆる可能性を考慮した選択であっても、時には理屈通りには行かないのがフットボールであり、それも魅力の一つなんだと感じ入った。
フットボールには、競技そのもののおもしろさに加えて、その背後に宿っているコーチやプレーヤーの人生哲学までを視野に入れて楽しめるスポーツである。その面白さ、楽しさを広く知ってもらいたい。そして文化としてのフットボールを広くこの社会に普及させたい。そんな小野さんの願い、ひいてはファイターズの希望を込めて開かれたのがこの日の講演だった。
そういう大きな目的から考えれば、たとえチームにとっては秘密にしておきたいプレーであっても、惜しみなくその内実を公開する。その考え方が広く共有され、フットボールの奥行きの深さに目覚めたファンが仲間を誘ってスタジアムにきてくれるのなら、それで満足。一人でも多くのフットボールファンを開拓することが、トップチームの使命であり、責任だと割り切って解説を続ける。それに現場のコーチも全面的に協力する。
お二人の姿を目の前に見て、ファイターズは本当に開かれたチームであることよ、こうした姿勢があるから、常に新しい戦術、戦略を考え、導入し、それを遂行することが出来るチームに育っていくのだよ、と感じ入った次第である。
(16)続・スタッフの力
投稿日時:2015/07/21(火) 08:31
前回のコラムでは、ファイターズはスタッフが支えていると書いた。しかし、なぜスタッフが成長するのか、という点までは書ききれなかった。そこで今回は、その点について僕なりの考えを書いてみたい。
まずは、スタッフについて語る上で必要と思える二つの場面を紹介しよう。
一つは数年前、王子スタジアムでの出来事だった。選手証を首からぶら下げた控えの選手数人が一般客の入場するゲートから入ろうとしているのを見とがめた女子のマネジャーが「あんたら、どこから入ってんの。選手の出入口に回りなさい」と厳しく注意した。選手たちが不服そうな表情をすると、重ねて「選手は選手専用の出入口から出入りすることに決まってんねん。ちゃんと守って」とより厳しく命令する。その剣幕に押されて、大の男数人がすごすごと選手入口に回るのを見たとき、ファイターズのマネジャーは男女関係なく、すごい権力を持っていることを実感した。
もう一つある。これは2年前、秋のシーズンも深まったころのことである。上ヶ原の第3フィールドでチームが練習中、準備したメニューが一区切りついた時を見計らって女子のトレーナーの一人が「スタッフ、全員集まって!」と声を掛け、主務をはじめスタッフ全員にハドルを組ませた。そこで「あんたら、やる気あんのん。スタッフがこんなことで、チームを勝たせられんのん」と怒鳴り上げた。
わざわざ練習を止めてまで、スタッフをしかり飛ばしたその剣幕。彼女の言い分には確かな理由があったのだろう。男女問わず、集まったスタッフ全員が彼女の檄に従い、全力疾走で練習に戻って行くのを見て「これはすごい。こんなチームは日本中、どこを探してもないぞ」と僕は恐れ入った。
ここにあげたマネジャーもトレーナーも、日ごろは優しい女子大生である。普段、顔を合わせても礼儀正しい応対をしてくれる。ともに嫌な思いをしたことは一度もない。しかし、いざ鎌倉!というときには、大の男でもしかり飛ばすエネルギーを全開にする。
その凄さはどこからくるのか。
僕のたどり着いた答えは一つである。彼女らには、日ごろから全力でチームのために尽くしているという自負があるからだ。日本1を目指すチームに男と女の区別はない。選手とスタッフという違いもない。同じ目標に向かって、学生生活のすべてを捧げているという自負を持ち、そのための行動を24時間、365日とり続けているという自信があるからだ。だから、ちんたらしている人間が許せない。心の底から声を上げてしかり飛ばすことが出来るのである。
実際、ファイターズにおいてマネジャーやトレーナー、そしてアナライジングスタッフが担っている役割は果てしなく大きい。いま紹介した場面は、たまたま女子のことだったが、男子スタッフもそれぞれが自分の役割を全うするために全力を挙げている。マネジャーの中には、単位を取るのが苦手な部員のために、わざわざ勉強会を開き、授業のポイントを指導している部員がいるし、選手の栄養管理のためのメニューを準備するトレーナーもいる。選手から転向してきたメンバーも多いアナライジングスタッフは、練習の段取りを整え、ビデオを編集する。練習が始まればダミーとなって選手の当たりを受け止め、パスを受け続ける。
グラウンドで称賛を受けるのは選手だが、その活躍を支えているのはこうしたスタッフであることは、当の本人が知っているし、選手もまた熟知している。同じ目標に向かってともに戦う仲間だとチームの全員が承知、承認しているから、当然、それぞれの役割に対する敬意も生まれる。互いをリスペクトする土壌があるから、スタッフが時に激しい怒声を浴びせても、その指摘に理由がある限り、上級生、下級生、選手、スタッフ、男と女、関係なく全員が一つになれる。
だからこそ、監督やコーチも、女子のトレーナーが練習を止め、スタッフをしかり飛ばす現場を目撃しても、黙って見ているのだ。
鳥内監督に先日、なぜファイターズの女子スタッフは敬意を払われるのか、と聞いてみた。答えは「うちに必要なスタッフは何でもどーんと受け止める肝っ玉母さんか、ばりばり仕事のできるキャリアウーマンタイプ。それ以外は要りませんねん」。
なるほど、と思った。それは女子部員に限ったことではない。アナライジングスタッフもトレーナーもマネジャーも、それぞれの現場で全力を尽くす。それが特別のことではなくチームの標準になる。その標準をクリアし、なお一段上のレベルにチームを引き上げよと全員が努力する土壌があるから、その努力はリスペクトされる。
創部以来、20歳前後の学生が主体となってそういう環境を作り、育て続けてきたからこそ、人は育つのである。
追記
ちなみに、今回紹介した二人の女子スタッフは卒業後、ともに誰もが知っている名門企業に就職。うち一人は、入社式で新入社員の代表として「入社の辞」を述べたと聞いている。これもまた、ファイターズが人を育てる組織であることの証拠であろう。
まずは、スタッフについて語る上で必要と思える二つの場面を紹介しよう。
一つは数年前、王子スタジアムでの出来事だった。選手証を首からぶら下げた控えの選手数人が一般客の入場するゲートから入ろうとしているのを見とがめた女子のマネジャーが「あんたら、どこから入ってんの。選手の出入口に回りなさい」と厳しく注意した。選手たちが不服そうな表情をすると、重ねて「選手は選手専用の出入口から出入りすることに決まってんねん。ちゃんと守って」とより厳しく命令する。その剣幕に押されて、大の男数人がすごすごと選手入口に回るのを見たとき、ファイターズのマネジャーは男女関係なく、すごい権力を持っていることを実感した。
もう一つある。これは2年前、秋のシーズンも深まったころのことである。上ヶ原の第3フィールドでチームが練習中、準備したメニューが一区切りついた時を見計らって女子のトレーナーの一人が「スタッフ、全員集まって!」と声を掛け、主務をはじめスタッフ全員にハドルを組ませた。そこで「あんたら、やる気あんのん。スタッフがこんなことで、チームを勝たせられんのん」と怒鳴り上げた。
わざわざ練習を止めてまで、スタッフをしかり飛ばしたその剣幕。彼女の言い分には確かな理由があったのだろう。男女問わず、集まったスタッフ全員が彼女の檄に従い、全力疾走で練習に戻って行くのを見て「これはすごい。こんなチームは日本中、どこを探してもないぞ」と僕は恐れ入った。
ここにあげたマネジャーもトレーナーも、日ごろは優しい女子大生である。普段、顔を合わせても礼儀正しい応対をしてくれる。ともに嫌な思いをしたことは一度もない。しかし、いざ鎌倉!というときには、大の男でもしかり飛ばすエネルギーを全開にする。
その凄さはどこからくるのか。
僕のたどり着いた答えは一つである。彼女らには、日ごろから全力でチームのために尽くしているという自負があるからだ。日本1を目指すチームに男と女の区別はない。選手とスタッフという違いもない。同じ目標に向かって、学生生活のすべてを捧げているという自負を持ち、そのための行動を24時間、365日とり続けているという自信があるからだ。だから、ちんたらしている人間が許せない。心の底から声を上げてしかり飛ばすことが出来るのである。
実際、ファイターズにおいてマネジャーやトレーナー、そしてアナライジングスタッフが担っている役割は果てしなく大きい。いま紹介した場面は、たまたま女子のことだったが、男子スタッフもそれぞれが自分の役割を全うするために全力を挙げている。マネジャーの中には、単位を取るのが苦手な部員のために、わざわざ勉強会を開き、授業のポイントを指導している部員がいるし、選手の栄養管理のためのメニューを準備するトレーナーもいる。選手から転向してきたメンバーも多いアナライジングスタッフは、練習の段取りを整え、ビデオを編集する。練習が始まればダミーとなって選手の当たりを受け止め、パスを受け続ける。
グラウンドで称賛を受けるのは選手だが、その活躍を支えているのはこうしたスタッフであることは、当の本人が知っているし、選手もまた熟知している。同じ目標に向かってともに戦う仲間だとチームの全員が承知、承認しているから、当然、それぞれの役割に対する敬意も生まれる。互いをリスペクトする土壌があるから、スタッフが時に激しい怒声を浴びせても、その指摘に理由がある限り、上級生、下級生、選手、スタッフ、男と女、関係なく全員が一つになれる。
だからこそ、監督やコーチも、女子のトレーナーが練習を止め、スタッフをしかり飛ばす現場を目撃しても、黙って見ているのだ。
鳥内監督に先日、なぜファイターズの女子スタッフは敬意を払われるのか、と聞いてみた。答えは「うちに必要なスタッフは何でもどーんと受け止める肝っ玉母さんか、ばりばり仕事のできるキャリアウーマンタイプ。それ以外は要りませんねん」。
なるほど、と思った。それは女子部員に限ったことではない。アナライジングスタッフもトレーナーもマネジャーも、それぞれの現場で全力を尽くす。それが特別のことではなくチームの標準になる。その標準をクリアし、なお一段上のレベルにチームを引き上げよと全員が努力する土壌があるから、その努力はリスペクトされる。
創部以来、20歳前後の学生が主体となってそういう環境を作り、育て続けてきたからこそ、人は育つのである。
追記
ちなみに、今回紹介した二人の女子スタッフは卒業後、ともに誰もが知っている名門企業に就職。うち一人は、入社式で新入社員の代表として「入社の辞」を述べたと聞いている。これもまた、ファイターズが人を育てる組織であることの証拠であろう。
«前へ |
2015年7月
<<前月 | 翌月>> |
| |
| |
| |
| |
|