石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2015/5
(8)楽しみな試合
投稿日時:2015/05/23(土) 12:22
ある日は、高校1年生を相手に「新聞の読み方」についての授業。またある日は、長野市在住の仲間がやっている個人通信に長文の「時評」の寄稿。少し時間が空いたら、紀伊半島南部の地質遺産(ジオサイト)巡り。これがまた和歌山県内だけでなく、奈良県の玉置山、三重県の鬼ヶ城、花の窟など、興味をそそる場所がいくつもあって、巡り始めればやみつきになる。
診療の予約日がくれば病院に通い、別の日には主治医の診察を受けて薬も頂戴する。毎週末には大学の授業もある。もちろん本業の新聞記者の仕事は手抜きできない。
そんなこんなで気がつけば5月も下旬。コラムの更新がすっかり滞ってしまった。
練習こそ、週末ごとに見せてもらっているが、いまこの時期はチームの底上げを図るファンダメンタル中心のメニューだから、特段報告することもない。将来のファイターズを背負うフレッシュマンも大勢入部し、元気にトレーニングに励んでいるが、まだまだあれこれいう時期でもなかろう。
「さて、何を書こうか」と思案しているときに「いらっしゃいませ」という元気な声とともに、都合よくネタが舞い込んできた。
先日、甲東園の駅前にある銀行に固定資産税と車の税金を振り込みに行った時のことである。いきなり黒いスーツ姿の大柄な銀行員に声を掛けられた。見上げると、今春卒業したばかりのTE松島君である。胸には「実習生」のカードがついている。
「配属先を見て驚きました。なぜか甲東支店なんですよ」と松島君。
「そう、土地勘のあるとこでよかったやないの。ファイターズファンの学生を根こそぎお客さんにしなさい、ということでしょう」と僕。互いに、よろしく、と挨拶しながら、彼は少し小さな声で「実は、エレコムでやることになりました。池田雄紀さんも一緒です」と内緒の打ち明け話。先輩行員の目を意識してか、さも親しい「お客様」に業務の話をしている振りをして近況を明かしてくれた。
「先輩のWR和田君と南本君もエレコムに移るらしいな」と僕も声をひそめる。「そうなんです。大園も来てくれるそうです」と彼。「今度の試合が楽しみやな」というと「楽しみにしています。後輩たちとやるって、どんな気持ちでしょうね」。お互いニコニコしながらのやりとりを続けた後、少し大きな声で「配属祝いに、少しばかり定期預金させてもらうわ。君の顔を立てて」といって別れた。
元々、定期預金は嫌いだし、僕の懐には株やマージャンが似合う金はあっても、銀行の金庫に収まりたいなんて上品なことをいう金はない。「それにしても調子のいいことを。どの口がいうねん」と自分でもあきれる発言だったが、彼はもう次のお客さんに向かって「いらっしゃいませ」と声を張り上げている。頑張れよ、と好漢の前途を祝福しながら、気持ちよく税金を振り込んだ。
松島君や池田君、和田君や南本君などの新しい顔ぶれに加えて、昨年、Xリーグ西地区優勝の原動力になったLB香山君、DB重田君、QB糟谷君、OL東元君、WR松田君らが活躍するエレコムファイニーズとの試合は6月7日、王子スタジアムで「神戸ボウル」として行われる。
先輩後輩として、あるいはアシスタントコーチと選手として、何度も胸を借り、指導を受けた現役の諸君が、かつては仰ぎ見た先輩たちにどんな戦いを見せてくれるか、想像するだけでも楽しくてならない。
しかし、その前に「前門の虎」との戦いがある。今度の日曜日、同じ王子スタジアムで行われる関大との試合である。対抗心をむき出しに襲いかかってくる関大とは例年、厳しい試合が続いている。今年もまた難儀なことになりそうだ。
今季のファイターズは、途中、プリンストン大学との試合を挟みながら、チーム全体のレベルアップを目指し、ファンダメンタルを重視したトレーニングを続けている。これまで慶応、日体大、日大と3試合を戦ったが、それぞれの試合では2枚目、3枚目のメンバーも思いきって起用し、試合経験を積ませることを続けてきた。
一方で、負傷者には無理をさせず、治療と体力づくりのトレーニングを最優先に取り組ませている。ライバル関大との戦いといえども、その方針を変更するとは思えない。どんどん新しいメンバー、期待のメンバーを投入して、その潜在能力を見極める試合を展開してくれると、勝手に期待している。
その意味では、ファンにとっても「素顔のチーム力」を見る絶好の機会である。強敵を相手に、新しいメンバーがどんな活躍をしてくれるか、秋にスタメンを獲得する名前は誰か、そんなことを予想しながら応援するのは楽しい限りである。
試合は24日午後4時20分キックオフ。ぜひとも王子スタジアムでお会いしましょう。
診療の予約日がくれば病院に通い、別の日には主治医の診察を受けて薬も頂戴する。毎週末には大学の授業もある。もちろん本業の新聞記者の仕事は手抜きできない。
そんなこんなで気がつけば5月も下旬。コラムの更新がすっかり滞ってしまった。
練習こそ、週末ごとに見せてもらっているが、いまこの時期はチームの底上げを図るファンダメンタル中心のメニューだから、特段報告することもない。将来のファイターズを背負うフレッシュマンも大勢入部し、元気にトレーニングに励んでいるが、まだまだあれこれいう時期でもなかろう。
「さて、何を書こうか」と思案しているときに「いらっしゃいませ」という元気な声とともに、都合よくネタが舞い込んできた。
先日、甲東園の駅前にある銀行に固定資産税と車の税金を振り込みに行った時のことである。いきなり黒いスーツ姿の大柄な銀行員に声を掛けられた。見上げると、今春卒業したばかりのTE松島君である。胸には「実習生」のカードがついている。
「配属先を見て驚きました。なぜか甲東支店なんですよ」と松島君。
「そう、土地勘のあるとこでよかったやないの。ファイターズファンの学生を根こそぎお客さんにしなさい、ということでしょう」と僕。互いに、よろしく、と挨拶しながら、彼は少し小さな声で「実は、エレコムでやることになりました。池田雄紀さんも一緒です」と内緒の打ち明け話。先輩行員の目を意識してか、さも親しい「お客様」に業務の話をしている振りをして近況を明かしてくれた。
「先輩のWR和田君と南本君もエレコムに移るらしいな」と僕も声をひそめる。「そうなんです。大園も来てくれるそうです」と彼。「今度の試合が楽しみやな」というと「楽しみにしています。後輩たちとやるって、どんな気持ちでしょうね」。お互いニコニコしながらのやりとりを続けた後、少し大きな声で「配属祝いに、少しばかり定期預金させてもらうわ。君の顔を立てて」といって別れた。
元々、定期預金は嫌いだし、僕の懐には株やマージャンが似合う金はあっても、銀行の金庫に収まりたいなんて上品なことをいう金はない。「それにしても調子のいいことを。どの口がいうねん」と自分でもあきれる発言だったが、彼はもう次のお客さんに向かって「いらっしゃいませ」と声を張り上げている。頑張れよ、と好漢の前途を祝福しながら、気持ちよく税金を振り込んだ。
松島君や池田君、和田君や南本君などの新しい顔ぶれに加えて、昨年、Xリーグ西地区優勝の原動力になったLB香山君、DB重田君、QB糟谷君、OL東元君、WR松田君らが活躍するエレコムファイニーズとの試合は6月7日、王子スタジアムで「神戸ボウル」として行われる。
先輩後輩として、あるいはアシスタントコーチと選手として、何度も胸を借り、指導を受けた現役の諸君が、かつては仰ぎ見た先輩たちにどんな戦いを見せてくれるか、想像するだけでも楽しくてならない。
しかし、その前に「前門の虎」との戦いがある。今度の日曜日、同じ王子スタジアムで行われる関大との試合である。対抗心をむき出しに襲いかかってくる関大とは例年、厳しい試合が続いている。今年もまた難儀なことになりそうだ。
今季のファイターズは、途中、プリンストン大学との試合を挟みながら、チーム全体のレベルアップを目指し、ファンダメンタルを重視したトレーニングを続けている。これまで慶応、日体大、日大と3試合を戦ったが、それぞれの試合では2枚目、3枚目のメンバーも思いきって起用し、試合経験を積ませることを続けてきた。
一方で、負傷者には無理をさせず、治療と体力づくりのトレーニングを最優先に取り組ませている。ライバル関大との戦いといえども、その方針を変更するとは思えない。どんどん新しいメンバー、期待のメンバーを投入して、その潜在能力を見極める試合を展開してくれると、勝手に期待している。
その意味では、ファンにとっても「素顔のチーム力」を見る絶好の機会である。強敵を相手に、新しいメンバーがどんな活躍をしてくれるか、秋にスタメンを獲得する名前は誰か、そんなことを予想しながら応援するのは楽しい限りである。
試合は24日午後4時20分キックオフ。ぜひとも王子スタジアムでお会いしましょう。
(7)アナログに意味がある
投稿日時:2015/05/05(火) 12:37
4月27日の日経新聞を見て驚いた。なんと、われらが爆走28番星、鷺野前主将が伊藤忠商事の全面広告のモデルになって登場しているではないか。写真ではなく肖像画。りりしくたくましく、そして見るからに聡明な表情が見事に描かれている。
肖像画の下には、こんなコピーがさりげなく付け加えられている。
「小学生の頃は、ケンカさえしたことがなかった。大学時代はアメフト部のキャプテンでランニングバック。5年後の自分、どうしてるんでしょうね」
思わず、突っ込みを入れた。三つある。
?「男前に生んでもらってよかったな。ご両親に感謝せなあかんで」
?この広告費はなんぼやろ。相場からいえば1500万円ほどか。つまり鷺野君は、入社早々、1500万円の仕事をしたということ。すごいなあ。
?小学生の頃は、ケンカもしたことがなかったというコピーに、大学では部活を卒業するまで、フェイスブックなんかに見向きもしなかった、と付け加えて欲しかった。
この三つである。
一番目と二番目は冗談である。でも三番目については、ファイターズというチームの在り方を考える時、常々、どこかで紹介しておきたいと考えていたことだった。どういう意味か。
話は先日、信州大学の入学式で山沢清人学長が新入生を前にぶち上げた「スマホやめますか、それとも信大生やめますか」というあいさつに関係する。
学長はそのあいさつで、日本が活力ある社会を維持し、世界に貢献していくためには独創性や個性を発揮することが必要であると主張。自分で考えることを習慣付けよう、決して考えることから逃げないことだ、自ら探求的に考える能力を育てることが大切だと呼び掛けた。
そして創造性を育てる上で、とくに心掛けなければならないことは時間的、心理的なゆとりを持つこと、物事にとらわれ過ぎないこと、豊かすぎないこと、飽食でないことなどが挙げられますと説き、スマホ依存症は知性、個性、独創性にとって毒以外の何物でもありません。スマホの「見慣れた世界」にいると、脳の取り込み情報は低下し、時間は早く過ぎ去ってしまいます。「スマホやめますか、それとも信大生止めますか」。スイッチを切って本を読みましょう。友達と話をしましょう。そして、自分で考えることを習慣づけましょう、と結んでいる。
この最後の言葉だけが一人歩きして、ネットで賑やかなことになったのは、ご承知の通り。でも大事な話は、新入生に独創性や個性の大切さを説き、そのための心掛けを説いた部分にある。それは、信州大学のホームページに紹介されている「学長あいさつ」の全文を読めば、誰でも分かる。大学生諸君には一読をオススメする。
さて、この話がどうしてファイターズに関係するのか、ということである。
これは、知る人ぞ知る話だが、昨年度、鷺野主将が率いたチームは、部内の連絡にスマホを使うことを止め、必要な情報はすべて部室の掲示板で公開することにした。練習のタイムスケジュールからチケットの情報、体重管理の必要性や筋力数値の一覧表、そして熱中症予防の心掛けに至るまで、すべての情報(連絡事項)は部員が部室に顔を出さなければ手に入らないようにしたのである。
受け身で部活動に参加することは止めよう。ファイターズでは指示を待ち、情報を待つのではなく、自ら求め、自ら行動することが大切であり、それは普段の行動から改めていくしか身につかない。そのためには、たとえ便利な情報機器があっても、それに頼らず、掲示板の利用というアナログの手法を大事にしたい。そのように主将や幹部が話し合い、監督やコーチの了解を得て決めた「決めごと」だそうだ。
以前、このコラムで紹介した「足下のごみ」に注意を促す1年生部員の張り紙も、こういう素地があったから、部員全員の目にとまり、その胸に響いたのであろう。
ファイターズは、何事によらず、合理性を重んじ、最先端の知識や機器を導入することに積極的である。それでも、その便利さが時として部員の自発性、自主性をスポイルする要因になる。そうと分かれば、直ちにその便利さを捨て去る柔軟な思考力も持っている。融通無碍、流れる水のような自在さがファイターズの真骨頂であろう。
スマホによる情報伝達は部員の自主性、自発性を阻害すると考えた主将の直感。信州大学の学長が具体的な根拠を示しながら約2500字(あいさつの全文は字4500)を費やして述べた情報機器の落とし穴を、ファイターズの幹部は瞬時にかぎ取り、さっさとその対策を講じてチームの独創性を育ててきたのである。
細部に神は宿る。チームが強くなる秘密はこういう些細なところに潜んでいる。「当たり前」のことを「当たり前」に実行出来るチームのたたずまいに、あらためて感心した次第である。
※当該広告は以下のサイトからご覧になれます。
http://shonin.itochu.co.jp/hajimete_no_shimei/
肖像画の下には、こんなコピーがさりげなく付け加えられている。
「小学生の頃は、ケンカさえしたことがなかった。大学時代はアメフト部のキャプテンでランニングバック。5年後の自分、どうしてるんでしょうね」
思わず、突っ込みを入れた。三つある。
?「男前に生んでもらってよかったな。ご両親に感謝せなあかんで」
?この広告費はなんぼやろ。相場からいえば1500万円ほどか。つまり鷺野君は、入社早々、1500万円の仕事をしたということ。すごいなあ。
?小学生の頃は、ケンカもしたことがなかったというコピーに、大学では部活を卒業するまで、フェイスブックなんかに見向きもしなかった、と付け加えて欲しかった。
この三つである。
一番目と二番目は冗談である。でも三番目については、ファイターズというチームの在り方を考える時、常々、どこかで紹介しておきたいと考えていたことだった。どういう意味か。
話は先日、信州大学の入学式で山沢清人学長が新入生を前にぶち上げた「スマホやめますか、それとも信大生やめますか」というあいさつに関係する。
学長はそのあいさつで、日本が活力ある社会を維持し、世界に貢献していくためには独創性や個性を発揮することが必要であると主張。自分で考えることを習慣付けよう、決して考えることから逃げないことだ、自ら探求的に考える能力を育てることが大切だと呼び掛けた。
そして創造性を育てる上で、とくに心掛けなければならないことは時間的、心理的なゆとりを持つこと、物事にとらわれ過ぎないこと、豊かすぎないこと、飽食でないことなどが挙げられますと説き、スマホ依存症は知性、個性、独創性にとって毒以外の何物でもありません。スマホの「見慣れた世界」にいると、脳の取り込み情報は低下し、時間は早く過ぎ去ってしまいます。「スマホやめますか、それとも信大生止めますか」。スイッチを切って本を読みましょう。友達と話をしましょう。そして、自分で考えることを習慣づけましょう、と結んでいる。
この最後の言葉だけが一人歩きして、ネットで賑やかなことになったのは、ご承知の通り。でも大事な話は、新入生に独創性や個性の大切さを説き、そのための心掛けを説いた部分にある。それは、信州大学のホームページに紹介されている「学長あいさつ」の全文を読めば、誰でも分かる。大学生諸君には一読をオススメする。
さて、この話がどうしてファイターズに関係するのか、ということである。
これは、知る人ぞ知る話だが、昨年度、鷺野主将が率いたチームは、部内の連絡にスマホを使うことを止め、必要な情報はすべて部室の掲示板で公開することにした。練習のタイムスケジュールからチケットの情報、体重管理の必要性や筋力数値の一覧表、そして熱中症予防の心掛けに至るまで、すべての情報(連絡事項)は部員が部室に顔を出さなければ手に入らないようにしたのである。
受け身で部活動に参加することは止めよう。ファイターズでは指示を待ち、情報を待つのではなく、自ら求め、自ら行動することが大切であり、それは普段の行動から改めていくしか身につかない。そのためには、たとえ便利な情報機器があっても、それに頼らず、掲示板の利用というアナログの手法を大事にしたい。そのように主将や幹部が話し合い、監督やコーチの了解を得て決めた「決めごと」だそうだ。
以前、このコラムで紹介した「足下のごみ」に注意を促す1年生部員の張り紙も、こういう素地があったから、部員全員の目にとまり、その胸に響いたのであろう。
ファイターズは、何事によらず、合理性を重んじ、最先端の知識や機器を導入することに積極的である。それでも、その便利さが時として部員の自発性、自主性をスポイルする要因になる。そうと分かれば、直ちにその便利さを捨て去る柔軟な思考力も持っている。融通無碍、流れる水のような自在さがファイターズの真骨頂であろう。
スマホによる情報伝達は部員の自主性、自発性を阻害すると考えた主将の直感。信州大学の学長が具体的な根拠を示しながら約2500字(あいさつの全文は字4500)を費やして述べた情報機器の落とし穴を、ファイターズの幹部は瞬時にかぎ取り、さっさとその対策を講じてチームの独創性を育ててきたのである。
細部に神は宿る。チームが強くなる秘密はこういう些細なところに潜んでいる。「当たり前」のことを「当たり前」に実行出来るチームのたたずまいに、あらためて感心した次第である。
※当該広告は以下のサイトからご覧になれます。
http://shonin.itochu.co.jp/hajimete_no_shimei/