石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2014/4
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(4)長いハドル
投稿日時:2014/04/24(木) 22:28
先週は、今シーズンの初戦。慶応との戦いだった。天気は晴れ。さわやかな風が吹いている。絶好の観戦日和である。
聞くところでは、相手はこの試合に照準を合わせ、存分に準備をして乗り込んできたそうだ。ファイターズも、今季初めての試合とあって、気合いが入っている。何より両チームはこれまで、いつも見応えのある試合を繰り広げている。今年も好ゲームになりそうだと見込んで、いそいそと王子スタジアムに足を運んだ。
ファイターズのキックで試合開始。だが、悪い予感はいつでも当たる。LB山岸が相手ゴールまで蹴りこんだボールを確保したリターナーが一気に100ヤードを走り切り、あっという間に慶応が先制。滞空時間も飛距離もあったキックだったが、カバーに問題があったのか、それとも相手リターナーの能力が傑出していたのか、あれよあれよという間に独走されてしまった。
白状すると、僕は試合前、どこかでこんな場面があるのではないかと危惧していた。まだ新しいチームがスタートしたばかりで、チームとしての練習が足りていないことが、素人目にも歴然としていたからだ。冬季から春先は体の鍛錬と基礎的な動きが中心。チーム練習でも、個々のスキルをアップすることが主眼になっている。より多くのメンバーに機会を与え、新しい戦力の見極めもしなければならない。だから、試合を想定した練習がどうしても不足する。
そのしわ寄せがキッキングゲームやパスプレー、パスカバーなどの精度に表れてくる。実際、1週間前の紅白戦でも、その問題点は露呈していた。QBが素晴らしいパスを投げても、レシーバーがそれを捕れない。1本目のメンバーが出ているときは目立たないが、攻守とも交代メンバーが出ると、ほころびが出る。ここで決めろよ、というときに決めきれない。
そういう状態で迎えた初戦である。出番のある選手がそれぞれの力を発揮してくれることを期待しつつ、間違いなく不本意な結果も出てくるだろうと危惧していたのである。
予感は当たった。冒頭のキックオフリターンTDだけでなく、ファイターズにとっては不本意なプレーが続出した。
それでも、QB斎藤の落ち着いたプレー、LB吉原の鮮やかなインターセプトTD、鷺野主将の95ヤードキックオフリターンTDなど、経験豊富な4年生の活躍でペースをつかみ、試合は37-28の勝利。しかし、それを喜んでいる場合ではないのはチームの誰もが感じていたようだ。
試合後、長いハドルで鷺野主将が厳しい檄を飛ばしていたのがその証明である。普段の試合なら、比較的短時間でハドルは解かれるのだが、あの日は違った。次の試合に備えて他校の選手がグラウンドで練習を始めてもなおハドルは解けず、幹部からの厳しい指摘が続いた。
記者団に囲まれた鳥内監督も厳しい表情。「今年のチームは」という質問に答えて「仲良し」と一言。4年生の仲が良いのはいいけど、厳しさが足りないと補足し「ごめん、次は頑張る、じゃすまない」「秋になったら次はない。練習から、どうすんねん、と考えてやらんとあかん」と、奮起を促していた。
こんな風に書いていくと、ファイターズにとっては「しょうもない試合だった」と思われるかもしれない。もちろん、そんなことはない。よい方の予感も結構当たった。
一つは、前回のコラムで活躍すると予想した2年生RB橋本の奮闘である。昨年はJVの試合にちょこっと顔を見せただけの選手だが、ファイターズの水にも慣れたのだろう。180センチ、80キロの身体を生かして、再三相手守備陣を突破し、12回のキャリーで65ヤードを獲得。タフなところを見せた。TDも2本。「ラインのみんなが開けてくれた穴を走っただけ」という謙虚なところも好感が持てる。
どちらかといえば、小柄で俊敏なRBが中心のファイターズとって、久々に当たって走れるRBの登場である。まだまだぎこちないところもあるが、13年卒の望月君のような当たりの強さを身につければ、大いに期待できる。望月君より足が速いのが心強い。
もう一つは守備ラインの踏ん張りである。先発メンバーが顔をそろえていた第1Q終了間際、ゴール前3ヤードから相手に力勝負を挑まれたが、LB陣と協力して4回のラッシュをすべて食い止め、得点を許さなかった。就職活動を終えてからずっと練習を見ているアシスタントコーチの池永前主将に言わせると「まだまだ弱い。もっと鍛えなければ」ということだったが、今後、大いに期待できそうだった。
ともあれ、今季の初戦。例年通り、いいところも悪いところもたっぷり見ることができた。問題はこれからである。いいところを伸ばし、悪いところを改善する。例年、卒業生を送り出すたびにやってきた新チームの道のりを今年もまた歩まなければならない。「社会人に勝って日本1」というのなら、それを過去3年以上の高いレベルで達成する必要がある。異例ともいえる試合後の長いハドルで、鷺野主将が言ったことを全員が肝に銘じてやり遂げなければならないのである。
聞くところでは、相手はこの試合に照準を合わせ、存分に準備をして乗り込んできたそうだ。ファイターズも、今季初めての試合とあって、気合いが入っている。何より両チームはこれまで、いつも見応えのある試合を繰り広げている。今年も好ゲームになりそうだと見込んで、いそいそと王子スタジアムに足を運んだ。
ファイターズのキックで試合開始。だが、悪い予感はいつでも当たる。LB山岸が相手ゴールまで蹴りこんだボールを確保したリターナーが一気に100ヤードを走り切り、あっという間に慶応が先制。滞空時間も飛距離もあったキックだったが、カバーに問題があったのか、それとも相手リターナーの能力が傑出していたのか、あれよあれよという間に独走されてしまった。
白状すると、僕は試合前、どこかでこんな場面があるのではないかと危惧していた。まだ新しいチームがスタートしたばかりで、チームとしての練習が足りていないことが、素人目にも歴然としていたからだ。冬季から春先は体の鍛錬と基礎的な動きが中心。チーム練習でも、個々のスキルをアップすることが主眼になっている。より多くのメンバーに機会を与え、新しい戦力の見極めもしなければならない。だから、試合を想定した練習がどうしても不足する。
そのしわ寄せがキッキングゲームやパスプレー、パスカバーなどの精度に表れてくる。実際、1週間前の紅白戦でも、その問題点は露呈していた。QBが素晴らしいパスを投げても、レシーバーがそれを捕れない。1本目のメンバーが出ているときは目立たないが、攻守とも交代メンバーが出ると、ほころびが出る。ここで決めろよ、というときに決めきれない。
そういう状態で迎えた初戦である。出番のある選手がそれぞれの力を発揮してくれることを期待しつつ、間違いなく不本意な結果も出てくるだろうと危惧していたのである。
予感は当たった。冒頭のキックオフリターンTDだけでなく、ファイターズにとっては不本意なプレーが続出した。
それでも、QB斎藤の落ち着いたプレー、LB吉原の鮮やかなインターセプトTD、鷺野主将の95ヤードキックオフリターンTDなど、経験豊富な4年生の活躍でペースをつかみ、試合は37-28の勝利。しかし、それを喜んでいる場合ではないのはチームの誰もが感じていたようだ。
試合後、長いハドルで鷺野主将が厳しい檄を飛ばしていたのがその証明である。普段の試合なら、比較的短時間でハドルは解かれるのだが、あの日は違った。次の試合に備えて他校の選手がグラウンドで練習を始めてもなおハドルは解けず、幹部からの厳しい指摘が続いた。
記者団に囲まれた鳥内監督も厳しい表情。「今年のチームは」という質問に答えて「仲良し」と一言。4年生の仲が良いのはいいけど、厳しさが足りないと補足し「ごめん、次は頑張る、じゃすまない」「秋になったら次はない。練習から、どうすんねん、と考えてやらんとあかん」と、奮起を促していた。
こんな風に書いていくと、ファイターズにとっては「しょうもない試合だった」と思われるかもしれない。もちろん、そんなことはない。よい方の予感も結構当たった。
一つは、前回のコラムで活躍すると予想した2年生RB橋本の奮闘である。昨年はJVの試合にちょこっと顔を見せただけの選手だが、ファイターズの水にも慣れたのだろう。180センチ、80キロの身体を生かして、再三相手守備陣を突破し、12回のキャリーで65ヤードを獲得。タフなところを見せた。TDも2本。「ラインのみんなが開けてくれた穴を走っただけ」という謙虚なところも好感が持てる。
どちらかといえば、小柄で俊敏なRBが中心のファイターズとって、久々に当たって走れるRBの登場である。まだまだぎこちないところもあるが、13年卒の望月君のような当たりの強さを身につければ、大いに期待できる。望月君より足が速いのが心強い。
もう一つは守備ラインの踏ん張りである。先発メンバーが顔をそろえていた第1Q終了間際、ゴール前3ヤードから相手に力勝負を挑まれたが、LB陣と協力して4回のラッシュをすべて食い止め、得点を許さなかった。就職活動を終えてからずっと練習を見ているアシスタントコーチの池永前主将に言わせると「まだまだ弱い。もっと鍛えなければ」ということだったが、今後、大いに期待できそうだった。
ともあれ、今季の初戦。例年通り、いいところも悪いところもたっぷり見ることができた。問題はこれからである。いいところを伸ばし、悪いところを改善する。例年、卒業生を送り出すたびにやってきた新チームの道のりを今年もまた歩まなければならない。「社会人に勝って日本1」というのなら、それを過去3年以上の高いレベルで達成する必要がある。異例ともいえる試合後の長いハドルで、鷺野主将が言ったことを全員が肝に銘じてやり遂げなければならないのである。
(3)知らないうちに有名人
投稿日時:2014/04/18(金) 18:05
今日、学生会館にある東京庵に昼飯を食べに行った。だし巻き定食+冷や奴-小飯。代金650円を支払おうとしたら、レジを守るお姉さんから「いつもコラム読ませていただいてます。ファイターズの……」と声を掛けられた。
「イヤイヤどうも……ありがとうございます」。どぎまぎしながらお礼を述べたが、最近、大学周辺でこんなことがよくある。試合会場で学生部の職員さんから「コラムの大ファンです」と言われ、ツーショットに収まったことがあるし、保健館で担当の看護師さんから「いつも愛読しています」と言われて驚いたこともある。
大学の正門前にあるスパゲッティー屋のオーナーシェフやチョコレート専門店の経営者、それに仁川駅前の西村接骨院の院長らとも、コラムが縁で挨拶を交わすようになった。そしてついに、今季の授業には「あのコラムを書かれている先生に教えてもらいたいと思って」という学生まで現れた。
えらいこっちゃ。かねがね「文章を書くことは、自分の恥をさらすこと」と、自分に言い聞かせているが、それにしてもなあ。コラムを読んでいただけるのはうれしいけど、そしてちょっぴり誇らしいことではありますが、ここまで世間が狭くなると……。
もう本屋さんで立ち読みをすることも出来ないし、もちろん若い女の子と歩くなんて、とてもとても。有名人の不自由さがよく分かる、というほどのことはないか。
まあ、これまで通りぼちぼちやりますわ。せっせとグラウンドに足を運び、練習を見て選手の動向をチェックし、試合の観戦記を書いていきます。
さて、あす19日は待望の今季初戦。慶応との戦いである。見所はひとつ。どんな選手が今季の新戦力として活躍してくれるか、である。
正直に言って、これは先週の紅白戦を見ていた感想でもあるが、春先の練習を見てきた限りでは、昨年の立命戦から甲子園ボウル、ライスボウルへと続く過酷な試合を戦った選手と、それ以外のメンバーには、明らかに違いがある。これは4年間と限られている大学の課外活動の宿命でもあるが、いつの年でも、卒業生の抜けた穴は大きい。ことしは攻守ともラインの多くが卒業しただけに、余計にそのことを感じる。
加えて昨年は、甲子園ボウルやライスボウルで多くの主力選手が傷ついた。その面々の多くがまだ調整途上にあるから、シーズン当初は満足のいくメンバーが組めない可能性がある。それは半面、新しい戦力が続々と飛び出してくる可能性があると言うことだが、そうは楽観できない。昨年までスカウトチームの仕事に徹して、ほとんど出場機会のなかった選手が、学年がひとつ上がったからといって、昨年の先発選手と同様の活躍が出来るほどこの世界は甘くない。
残念ながら、先日の紅白戦をみても活躍が目立ったのは、昨年も試合に出ていたメンバーばかり。なかでただ一人、2年生QBの伊豆が物怖じしない試合運びで可能性を感じさせてくれたが、肝心のパスを受ける方が今一つ。まだまだ練習が必要なことを見せつけただけに終わっている。
だからこそ、新しい選手の台頭が待たれるのである。初戦の慶応大戦では、その一点に絞って観戦したい。幸いなことに楽しみな選手はいっぱいいる。攻撃のラインは全員が要注目だし、RBにも生きのよい走りをする2年生が二人いる。大柄な方が橋本、小柄な方が松本だ。体形では二人の中間に位置する伊豆も、経験豊富なレシーバーが出場してくれば、その真価を発揮してくれるだろう。
ディフェンスではラインの松本、浜の巨漢コンビが要注目。スピードのある大野、パング、岩田の2年生トリオの動きからも目が離せない。2列目にはまとめ役の3年生作道のほか、とてつもない選手になりそうな予感のする山岸、西田という2年生コンビがいる。そしてDBには、梅本弟や小池、伊藤ら動きの素早い面々が控えている。
これらの新しい顔が昨年までの1本目のメンバーとそん色のない動きをしてくれるかどうか。
僕の目には、まだ昨年の甲子園や東京ドームの試合の残像が残っている。その残像を吹っ飛ばしてくれる新メンバーの活躍を期待したい。試合は午後2時キックオフ。さあ、何をおいても王子スタジアムに集合しようぜ。
「イヤイヤどうも……ありがとうございます」。どぎまぎしながらお礼を述べたが、最近、大学周辺でこんなことがよくある。試合会場で学生部の職員さんから「コラムの大ファンです」と言われ、ツーショットに収まったことがあるし、保健館で担当の看護師さんから「いつも愛読しています」と言われて驚いたこともある。
大学の正門前にあるスパゲッティー屋のオーナーシェフやチョコレート専門店の経営者、それに仁川駅前の西村接骨院の院長らとも、コラムが縁で挨拶を交わすようになった。そしてついに、今季の授業には「あのコラムを書かれている先生に教えてもらいたいと思って」という学生まで現れた。
えらいこっちゃ。かねがね「文章を書くことは、自分の恥をさらすこと」と、自分に言い聞かせているが、それにしてもなあ。コラムを読んでいただけるのはうれしいけど、そしてちょっぴり誇らしいことではありますが、ここまで世間が狭くなると……。
もう本屋さんで立ち読みをすることも出来ないし、もちろん若い女の子と歩くなんて、とてもとても。有名人の不自由さがよく分かる、というほどのことはないか。
まあ、これまで通りぼちぼちやりますわ。せっせとグラウンドに足を運び、練習を見て選手の動向をチェックし、試合の観戦記を書いていきます。
さて、あす19日は待望の今季初戦。慶応との戦いである。見所はひとつ。どんな選手が今季の新戦力として活躍してくれるか、である。
正直に言って、これは先週の紅白戦を見ていた感想でもあるが、春先の練習を見てきた限りでは、昨年の立命戦から甲子園ボウル、ライスボウルへと続く過酷な試合を戦った選手と、それ以外のメンバーには、明らかに違いがある。これは4年間と限られている大学の課外活動の宿命でもあるが、いつの年でも、卒業生の抜けた穴は大きい。ことしは攻守ともラインの多くが卒業しただけに、余計にそのことを感じる。
加えて昨年は、甲子園ボウルやライスボウルで多くの主力選手が傷ついた。その面々の多くがまだ調整途上にあるから、シーズン当初は満足のいくメンバーが組めない可能性がある。それは半面、新しい戦力が続々と飛び出してくる可能性があると言うことだが、そうは楽観できない。昨年までスカウトチームの仕事に徹して、ほとんど出場機会のなかった選手が、学年がひとつ上がったからといって、昨年の先発選手と同様の活躍が出来るほどこの世界は甘くない。
残念ながら、先日の紅白戦をみても活躍が目立ったのは、昨年も試合に出ていたメンバーばかり。なかでただ一人、2年生QBの伊豆が物怖じしない試合運びで可能性を感じさせてくれたが、肝心のパスを受ける方が今一つ。まだまだ練習が必要なことを見せつけただけに終わっている。
だからこそ、新しい選手の台頭が待たれるのである。初戦の慶応大戦では、その一点に絞って観戦したい。幸いなことに楽しみな選手はいっぱいいる。攻撃のラインは全員が要注目だし、RBにも生きのよい走りをする2年生が二人いる。大柄な方が橋本、小柄な方が松本だ。体形では二人の中間に位置する伊豆も、経験豊富なレシーバーが出場してくれば、その真価を発揮してくれるだろう。
ディフェンスではラインの松本、浜の巨漢コンビが要注目。スピードのある大野、パング、岩田の2年生トリオの動きからも目が離せない。2列目にはまとめ役の3年生作道のほか、とてつもない選手になりそうな予感のする山岸、西田という2年生コンビがいる。そしてDBには、梅本弟や小池、伊藤ら動きの素早い面々が控えている。
これらの新しい顔が昨年までの1本目のメンバーとそん色のない動きをしてくれるかどうか。
僕の目には、まだ昨年の甲子園や東京ドームの試合の残像が残っている。その残像を吹っ飛ばしてくれる新メンバーの活躍を期待したい。試合は午後2時キックオフ。さあ、何をおいても王子スタジアムに集合しようぜ。
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