石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2012/9
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(24)4年生の役割
投稿日時:2012/09/30(日) 23:11
29日は王子スタジアムで、地元中の地元、神戸大学と対戦。台風17号の前触れか、試合が始まる頃から雨がシトシトと降るあいにくの空模様だったが、ファイターズは攻守蹴とも元気一杯。守備陣は前半、相手に1度もファーストダウンを与えずに完封。攻めてもQB畑からWR大園へのTDで先制。その後も畑からWR木戸への2本のTDパス、RB望月の中央ダイブなどで圧倒、31-0で前半を折り返した。
後半は、ファイターズのレシーブで試合再開。第1プレーは反則で自陣21ヤードからの攻撃となったが、ここでいきなりRB鷺野が左オープンを駆け上がり、79ヤードを走り切ってTD。俊足を利して鷺野の走路を確保した大園のブロックも効果的だった。守備陣の活躍で相手陣25ヤードからの攻撃となった次のシリーズもQB松岡のスクランブルで一気にゴール前に迫り、仕上げはQB斎藤から大園へのTDパス。点差は開くばかりだった。
試合を観戦しながら、僕はいつもノートに試合の経過や気になったことを簡略にメモしている。記録というよりも原稿を書くための手控えである。
これを手掛かりに試合を振り返っていると、観戦中には気付かなかったことが見えて来る。例えば、今回のタイトルに掲げた「4年生の役割」というようなことである。
どういうことか。この試合のTDシーンを中心に説明したい。
この試合ではパスで5本、ランで3本、そしてWR小山の38ヤードパントリターンTDの計9本のTDを記録した。そのうち小山のTDとゴール前1ヤードから飛び込んだ望月のTDを除く7本を2年生が記録している。先に挙げたように木戸と大園が各2本、鷺野が1本。そして試合の終盤にQB斎藤からTE松島への5ヤードTDパスと、残り37秒でQBドローを決め、21ヤードを走り切った斎藤のTDである。
この結果だけを知れば、2年生の活躍がすべてのようにみえるだろう。ところが、実際はそんなに単純なものではない。4年生、あるいは3年生の活躍があってこそ、2年生の力が発揮できたのである。説明しよう。
立ち上がり、ファイターズ守備陣は神戸大の攻撃を簡単に封じた。1本目はLB川端の素早いタックルでマイナス1ヤード、2本目は相手の短いパスが通ったがDB保宗が強烈なタックルでそれ以上は進ませない。3本目もDL朝倉の素早いタックルでダウン更新を許さない。
このように4年生3人が気合いのこもったタックルでリズムをつくって迎えたファイターズの攻撃。今度は4年生QB畑がWR梅本、小山への2本のパスでダウンを更新。さらには望月のランを挟みながら大園、金本、樋之本へのパスを続けて相手ゴールに迫り、最後を大園へのパスで締めくくっている。
2度目の神戸大の攻撃シリーズでもLB池田、DL前川が鋭いタックルで相手を釘付けにし、仕上げは主将DL梶原のQBサック。これでは相手のリズムは崩れ、逆に味方の士気は上がる。その勢いに乗って畑が小山へのパスを成功させた直後に、畑から木戸への35ヤードTDパスがヒットした。
つまり、守備であれ、攻撃であれ、4年生や3年生がしっかりその役割を果たしたことによって、その後の2年生の華やかなTDを呼び込んだのである。4年生守備陣の活躍によってつかんだ試合の流れを、畑や小山、望月らの4年生が堅実なプレーでつなぎ、彼らのお膳立てに乗って2年生が華々しい活躍をしたのである。
逆に言えば、畑や小山、南本らの堅実なプレーが続かなかったら、せっかくファイターズにもたらされた試合の流れを断ち切ってしまう危険性もあったということだ。実際、後半、次々と控えのメンバーが登場すると、一気に試合の流れは悪くなった。下級生の力不足という面が大きかったが、それをカバーする立場の上級生にも問題なしとは思えなかった。上級生が全員「下級生を育てる」という強い目的意識を持って行動しないと、いつまでたっても層は厚くならない。
試合後、梶原主将から「これからは本気でパスキャッチの練習に取り組みます」という言葉を聞いた。彼が後半、あわやインターセプトという場面でボールをキャッチ仕切れなかったことに対する反省だった。
彼は常々、試合ではどんなチャンスも逃がしてはならない、いつも今の自分を乗り越えるプレーをしよう、とチームの全員に呼び掛けている。その立場から考えると、せっかく巡ってきたインターセプトのチャンスを、自らの捕球ミスで逃がしたことが我慢ならなかったそうだ。
こういう気持ちを大事にしてほしい。4年生がいつも「今の自分を乗り越える」気持ちでプレーする。それぞれのプレーを通じて「下級生を育てる」役割を果たす。そういう姿勢を常時見せ続けてほしい。それをグラウンドで表現し続けていけば、道は開ける。
後半は、ファイターズのレシーブで試合再開。第1プレーは反則で自陣21ヤードからの攻撃となったが、ここでいきなりRB鷺野が左オープンを駆け上がり、79ヤードを走り切ってTD。俊足を利して鷺野の走路を確保した大園のブロックも効果的だった。守備陣の活躍で相手陣25ヤードからの攻撃となった次のシリーズもQB松岡のスクランブルで一気にゴール前に迫り、仕上げはQB斎藤から大園へのTDパス。点差は開くばかりだった。
試合を観戦しながら、僕はいつもノートに試合の経過や気になったことを簡略にメモしている。記録というよりも原稿を書くための手控えである。
これを手掛かりに試合を振り返っていると、観戦中には気付かなかったことが見えて来る。例えば、今回のタイトルに掲げた「4年生の役割」というようなことである。
どういうことか。この試合のTDシーンを中心に説明したい。
この試合ではパスで5本、ランで3本、そしてWR小山の38ヤードパントリターンTDの計9本のTDを記録した。そのうち小山のTDとゴール前1ヤードから飛び込んだ望月のTDを除く7本を2年生が記録している。先に挙げたように木戸と大園が各2本、鷺野が1本。そして試合の終盤にQB斎藤からTE松島への5ヤードTDパスと、残り37秒でQBドローを決め、21ヤードを走り切った斎藤のTDである。
この結果だけを知れば、2年生の活躍がすべてのようにみえるだろう。ところが、実際はそんなに単純なものではない。4年生、あるいは3年生の活躍があってこそ、2年生の力が発揮できたのである。説明しよう。
立ち上がり、ファイターズ守備陣は神戸大の攻撃を簡単に封じた。1本目はLB川端の素早いタックルでマイナス1ヤード、2本目は相手の短いパスが通ったがDB保宗が強烈なタックルでそれ以上は進ませない。3本目もDL朝倉の素早いタックルでダウン更新を許さない。
このように4年生3人が気合いのこもったタックルでリズムをつくって迎えたファイターズの攻撃。今度は4年生QB畑がWR梅本、小山への2本のパスでダウンを更新。さらには望月のランを挟みながら大園、金本、樋之本へのパスを続けて相手ゴールに迫り、最後を大園へのパスで締めくくっている。
2度目の神戸大の攻撃シリーズでもLB池田、DL前川が鋭いタックルで相手を釘付けにし、仕上げは主将DL梶原のQBサック。これでは相手のリズムは崩れ、逆に味方の士気は上がる。その勢いに乗って畑が小山へのパスを成功させた直後に、畑から木戸への35ヤードTDパスがヒットした。
つまり、守備であれ、攻撃であれ、4年生や3年生がしっかりその役割を果たしたことによって、その後の2年生の華やかなTDを呼び込んだのである。4年生守備陣の活躍によってつかんだ試合の流れを、畑や小山、望月らの4年生が堅実なプレーでつなぎ、彼らのお膳立てに乗って2年生が華々しい活躍をしたのである。
逆に言えば、畑や小山、南本らの堅実なプレーが続かなかったら、せっかくファイターズにもたらされた試合の流れを断ち切ってしまう危険性もあったということだ。実際、後半、次々と控えのメンバーが登場すると、一気に試合の流れは悪くなった。下級生の力不足という面が大きかったが、それをカバーする立場の上級生にも問題なしとは思えなかった。上級生が全員「下級生を育てる」という強い目的意識を持って行動しないと、いつまでたっても層は厚くならない。
試合後、梶原主将から「これからは本気でパスキャッチの練習に取り組みます」という言葉を聞いた。彼が後半、あわやインターセプトという場面でボールをキャッチ仕切れなかったことに対する反省だった。
彼は常々、試合ではどんなチャンスも逃がしてはならない、いつも今の自分を乗り越えるプレーをしよう、とチームの全員に呼び掛けている。その立場から考えると、せっかく巡ってきたインターセプトのチャンスを、自らの捕球ミスで逃がしたことが我慢ならなかったそうだ。
こういう気持ちを大事にしてほしい。4年生がいつも「今の自分を乗り越える」気持ちでプレーする。それぞれのプレーを通じて「下級生を育てる」役割を果たす。そういう姿勢を常時見せ続けてほしい。それをグラウンドで表現し続けていけば、道は開ける。
(23)「他山の石」
投稿日時:2012/09/26(水) 23:23
20日付の朝日新聞スポーツ面に、小さいけれど見過ごしにできない記事が掲載されていた。
「のぞき・酒強要 部員50人を処分 早大アメフット部」と3本の見出しはついていたが、ベタ記事と呼ばれる1段の扱いだったので、見落とされた方も多いだろう。
記事には、部員計50人が夏合宿中に女性用の風呂場をのぞいたり、未成年の下級生に飲酒を強要したりしたとして、1~3試合の出場停止処分を受け、部も10日間の活動停止処分を受けたとあった。誰が処分をしたのかという主語のない不完全な記事だった(この点は、同じ会社で記者生活を送った人間として、はなはだ不本意である)が、それでもアメフット部が不祥事を起こしたことは伝わってくる。
事件については、新聞記事になる前にある人から聞かされていたので、特段の驚きはなかった。けれども、同じ世代の若者が同じようにアメフットに取り組み、同じように日本1を目指して鍛えているファイターズの部員の顔を思い浮かべると、何かと考えさせられることが多かった。
自分でも経験があるが、学生時代といえば常に背伸びをし、理由もなく枠をはみ出したい欲求に駆られる。同じ集団にいても、人と同じことをするのが耐えられず、突飛な行動をとりたくもなる。僕の場合でいえば、ゼミの研究会でみんなが教授におもねり、ごまをすっているのが気に食わず、徹底的に逆らった(もちろん、その教授には嫌われた。でも、真っ向から反抗している姿勢がいいといって、別の教授にはとことん可愛いがってもらった)ことがそうだし、参加者がほんの300人から500人の街頭デモに何度も参加して暴れたこともその範疇(はんちゅう)に入るだろう。後先を考えず、勢いで行動してしまうというのは、ある意味、若さの特権かもしれない。
けれども、集団の勢いを借りて、あるいは酒の勢いを借りて、という振る舞いは、どうみても品位に欠ける。「旅の恥はかき捨て」とか「赤信号、みんなで渡れば怖くない」いうような集団に流される生き方は、人として美しくない。
高校野球の世界でも、集団の威を借りて上級生が下級生をいじめたり暴力を振るうことは少なくない。監督やコーチがその権威を背景に「指導」という名目で部員を殴っている事例もたびたび報告されている。今回の「飲酒の強要」も「集団でののぞき行為」も根っこは似たようなものだろう。
問題は、それがはびこるかどうかである。同じ年代の同じスポーツに取り組む人間(それは時には、勢いに任せて暴走してしまうような若者である)が同じように集団で活動していながら、一方は暴走し、一方はそれに歯止めがかかるという分岐点は、どこにあるのか。
指導者やスタッフの資質もあるし、チームが置かれた状況もある。練習環境も無視できない。なにより、部員一人一人の自覚、心構えに待つところが大きい。
そういう諸々の条件が結合し、昇華して、チームに品格が生まれる。そしてその品格が若さの暴走に歯止めをかけるのだ。
僕は昨年、アエラムックの関西学院版にファイターズの物語を書いた。そこにこんな一説がある。
「たとえ戦術的に劣っている時でも、戦術を工夫し、知恵をしぼり、精神性を高めて、いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきたのがファイターズであり、戦後、フットボール界の頂点を争い続けて唯一のチームとしての矜持(きょうじ)である」
「上ケ原のグラウンドには、人を人として成長させる磁気が流れている。それは常に勝つことへの意識を高め、その圧力に打ち克とうと努力を続ける学生と、それを支える監督やコーチが醸し出すものである。草創期のメンバーが無意識のうちに埋め込んだものであり、歴代のOBがライバルとの戦いの中で醸成してきたものでもある。自発性を重視し、献身に価値を置くチームとしてのたたずまいがもたらしたものといってもよい」
「人はそれを称して伝統と呼ぶ。それがチームソングにある『勝利者の名を誇りに思い、その名に恥じないチームとしての品性を持て』という意味につながるのである」
そう。矜持と伝統、そして品性がキーワードである。この言葉の意味を常に部員とチームにつながるすべての人間が抱きしめている限り、若さの暴走、無軌道な行為にも歯止めが掛けられるのである。
早稲田大学で起きたことを「他山の石」としたい。部員一人一人がファイターズの名にふさわしい「戦士」として、今まで以上に矜持を持ち、品性を高める努力を重ねてくれることを期待する。
「のぞき・酒強要 部員50人を処分 早大アメフット部」と3本の見出しはついていたが、ベタ記事と呼ばれる1段の扱いだったので、見落とされた方も多いだろう。
記事には、部員計50人が夏合宿中に女性用の風呂場をのぞいたり、未成年の下級生に飲酒を強要したりしたとして、1~3試合の出場停止処分を受け、部も10日間の活動停止処分を受けたとあった。誰が処分をしたのかという主語のない不完全な記事だった(この点は、同じ会社で記者生活を送った人間として、はなはだ不本意である)が、それでもアメフット部が不祥事を起こしたことは伝わってくる。
事件については、新聞記事になる前にある人から聞かされていたので、特段の驚きはなかった。けれども、同じ世代の若者が同じようにアメフットに取り組み、同じように日本1を目指して鍛えているファイターズの部員の顔を思い浮かべると、何かと考えさせられることが多かった。
自分でも経験があるが、学生時代といえば常に背伸びをし、理由もなく枠をはみ出したい欲求に駆られる。同じ集団にいても、人と同じことをするのが耐えられず、突飛な行動をとりたくもなる。僕の場合でいえば、ゼミの研究会でみんなが教授におもねり、ごまをすっているのが気に食わず、徹底的に逆らった(もちろん、その教授には嫌われた。でも、真っ向から反抗している姿勢がいいといって、別の教授にはとことん可愛いがってもらった)ことがそうだし、参加者がほんの300人から500人の街頭デモに何度も参加して暴れたこともその範疇(はんちゅう)に入るだろう。後先を考えず、勢いで行動してしまうというのは、ある意味、若さの特権かもしれない。
けれども、集団の勢いを借りて、あるいは酒の勢いを借りて、という振る舞いは、どうみても品位に欠ける。「旅の恥はかき捨て」とか「赤信号、みんなで渡れば怖くない」いうような集団に流される生き方は、人として美しくない。
高校野球の世界でも、集団の威を借りて上級生が下級生をいじめたり暴力を振るうことは少なくない。監督やコーチがその権威を背景に「指導」という名目で部員を殴っている事例もたびたび報告されている。今回の「飲酒の強要」も「集団でののぞき行為」も根っこは似たようなものだろう。
問題は、それがはびこるかどうかである。同じ年代の同じスポーツに取り組む人間(それは時には、勢いに任せて暴走してしまうような若者である)が同じように集団で活動していながら、一方は暴走し、一方はそれに歯止めがかかるという分岐点は、どこにあるのか。
指導者やスタッフの資質もあるし、チームが置かれた状況もある。練習環境も無視できない。なにより、部員一人一人の自覚、心構えに待つところが大きい。
そういう諸々の条件が結合し、昇華して、チームに品格が生まれる。そしてその品格が若さの暴走に歯止めをかけるのだ。
僕は昨年、アエラムックの関西学院版にファイターズの物語を書いた。そこにこんな一説がある。
「たとえ戦術的に劣っている時でも、戦術を工夫し、知恵をしぼり、精神性を高めて、いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきたのがファイターズであり、戦後、フットボール界の頂点を争い続けて唯一のチームとしての矜持(きょうじ)である」
「上ケ原のグラウンドには、人を人として成長させる磁気が流れている。それは常に勝つことへの意識を高め、その圧力に打ち克とうと努力を続ける学生と、それを支える監督やコーチが醸し出すものである。草創期のメンバーが無意識のうちに埋め込んだものであり、歴代のOBがライバルとの戦いの中で醸成してきたものでもある。自発性を重視し、献身に価値を置くチームとしてのたたずまいがもたらしたものといってもよい」
「人はそれを称して伝統と呼ぶ。それがチームソングにある『勝利者の名を誇りに思い、その名に恥じないチームとしての品性を持て』という意味につながるのである」
そう。矜持と伝統、そして品性がキーワードである。この言葉の意味を常に部員とチームにつながるすべての人間が抱きしめている限り、若さの暴走、無軌道な行為にも歯止めが掛けられるのである。
早稲田大学で起きたことを「他山の石」としたい。部員一人一人がファイターズの名にふさわしい「戦士」として、今まで以上に矜持を持ち、品性を高める努力を重ねてくれることを期待する。
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