石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2009/4
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(5)ファイターズの深さ
投稿日時:2009/04/27(月) 21:44
ファイターズというチームにつきあっていると、折りに触れて、その懐の深さを思い知らされることがある。
先日、送られてきたOB会報「Fight On」の最新号を読んでいたときにも、そのことを実感させられた。
一つは『イチローの流儀』(新潮社)の著者として知られるスポーツライター、小西慶三氏(89年卒)が寄せられた文章である。
小西氏は、共同通信の記者だったときから、イチロー選手の取材を担当。すでに、その取材歴は15年になり「イチローの試合を世界で一番見ている記者」である。イチロー選手が最も信頼を寄せている記者としても知られており、その交友の一端は『イチローの流儀』にも書かれている。
会報に小西氏は、イチロー選手の取材にまつわるエピソードを紹介し、その困難な取材を支えているのが「ファイターズの4年間に行き着く」と書いている。「できる限りの準備をしても、次のヒットが打てる保証はない。だからバッティングは楽しい」というイチロー選手の言葉を引用し、現役プロ野球選手の中で、最も繊細で周到な準備を怠らない彼が、努力と結果が常に直結しないからこそ野球は面白いと感じていることに、心からの共感を寄せている。
そして「報われるかどうか分からない。けれども、それでも最善を尽くして現実と向き合うことがファイターズの基本原理であり、それがファイターズの歴史を築いてきた」と書く。
「これだけの練習をこなせば、あの強い立命を倒せる」というように、努力の報酬が前もって分かっていたとすれば、それはそれでありがたいのかもしれない。けれども、一方でそのように結果が約束されていることが、果たして4年間を賭けるに値するチャレンジなのか、とも書いて、たとえ準備と結果が直結しないとしても、最善を尽くして努力することこそがファイターズの基本原理であり、ファイターズで活動することの意義であり、楽しさだと説く。
短い文章だが、読む者の心に響く。さっそく僕が本業としている和歌山県の地方紙、紀伊民報のコラム「水鉄砲」にも取り上げさせていただいた。
もう一つは、御所市長になった東川裕氏(84年卒)が同じOB会報でインタビューに答えている言葉である。
「ファイターズで培ったものが(市長の仕事に)生かせている部分はありますか」という取材者の質問に「ファイターズで学んだ生き様、プライドの精神は、まちづくりでも同じだと思います(中略)悩んだときには、これがファイターズにいたときやったらどうするか考えるんです。小野やったら、安藤やったら、どうしよるんやろかと立ち返って考えたりします」と答えている。
「悩んだときにはファイターズ」「小野やったら、安藤やったら」という言葉に、ファイターズの4年間が氏に与えた影響の大きさがにじみ出ている。これまた、読み手の胸を打つ発言である。
A4判16ページのささやかな会報に、こういう胸を打つ言葉がさりげなく載っている。それぞれの言葉に感動するとともに、こういう書き手を生み出したファイターズという組織の底力というか奥行きの深さに、特別の感慨を覚える。
今回は、OB会報という、一般のファンの目には触れにくいところに書かれた二つの文章から、そのエッセンスを紹介させていただいた。グラウンドで見るファイターズだけでなく、広くファイターズというチームのことを知っていただく手がかりにしてもらえれば幸いである。
先日、送られてきたOB会報「Fight On」の最新号を読んでいたときにも、そのことを実感させられた。
一つは『イチローの流儀』(新潮社)の著者として知られるスポーツライター、小西慶三氏(89年卒)が寄せられた文章である。
小西氏は、共同通信の記者だったときから、イチロー選手の取材を担当。すでに、その取材歴は15年になり「イチローの試合を世界で一番見ている記者」である。イチロー選手が最も信頼を寄せている記者としても知られており、その交友の一端は『イチローの流儀』にも書かれている。
会報に小西氏は、イチロー選手の取材にまつわるエピソードを紹介し、その困難な取材を支えているのが「ファイターズの4年間に行き着く」と書いている。「できる限りの準備をしても、次のヒットが打てる保証はない。だからバッティングは楽しい」というイチロー選手の言葉を引用し、現役プロ野球選手の中で、最も繊細で周到な準備を怠らない彼が、努力と結果が常に直結しないからこそ野球は面白いと感じていることに、心からの共感を寄せている。
そして「報われるかどうか分からない。けれども、それでも最善を尽くして現実と向き合うことがファイターズの基本原理であり、それがファイターズの歴史を築いてきた」と書く。
「これだけの練習をこなせば、あの強い立命を倒せる」というように、努力の報酬が前もって分かっていたとすれば、それはそれでありがたいのかもしれない。けれども、一方でそのように結果が約束されていることが、果たして4年間を賭けるに値するチャレンジなのか、とも書いて、たとえ準備と結果が直結しないとしても、最善を尽くして努力することこそがファイターズの基本原理であり、ファイターズで活動することの意義であり、楽しさだと説く。
短い文章だが、読む者の心に響く。さっそく僕が本業としている和歌山県の地方紙、紀伊民報のコラム「水鉄砲」にも取り上げさせていただいた。
もう一つは、御所市長になった東川裕氏(84年卒)が同じOB会報でインタビューに答えている言葉である。
「ファイターズで培ったものが(市長の仕事に)生かせている部分はありますか」という取材者の質問に「ファイターズで学んだ生き様、プライドの精神は、まちづくりでも同じだと思います(中略)悩んだときには、これがファイターズにいたときやったらどうするか考えるんです。小野やったら、安藤やったら、どうしよるんやろかと立ち返って考えたりします」と答えている。
「悩んだときにはファイターズ」「小野やったら、安藤やったら」という言葉に、ファイターズの4年間が氏に与えた影響の大きさがにじみ出ている。これまた、読み手の胸を打つ発言である。
A4判16ページのささやかな会報に、こういう胸を打つ言葉がさりげなく載っている。それぞれの言葉に感動するとともに、こういう書き手を生み出したファイターズという組織の底力というか奥行きの深さに、特別の感慨を覚える。
今回は、OB会報という、一般のファンの目には触れにくいところに書かれた二つの文章から、そのエッセンスを紹介させていただいた。グラウンドで見るファイターズだけでなく、広くファイターズというチームのことを知っていただく手がかりにしてもらえれば幸いである。
(4)宿題が山盛り
投稿日時:2009/04/20(月) 12:09
4月18日、土曜日。いよいよ、春の初戦。恒例の日体大との試合である。新しい学年が始まったばかりであり、チーム練習が始まったばかりではあるが、それでも試合となればワクワクする。理髪店に行って髪を切り、ひげを剃って、すっきりした気分で王子スタジアムに向かう。
今季はどんな選手が登場してくるのか。昨年活躍した選手たちは健在か。伸び盛りの下級生が一冬を越して、どれほど成長しているのか。体は大きくたくましくなっているか。見どころはいっぱいである。
ファイターズのキック、日体大のレシーブで試合開始。自陣29ヤード付近から始まった日体大の攻撃は、RB山田のランとQB大瀧のドロープレーを軸に、ぐいぐい進む。立て続けに3度ダウンを更新し、あっという間にフィールドゴール圏内。ようやく止めたと思ったところで、ファイターズにオフサイドの反則があり、4度目のダウン更新。
このピンチは、相手のフィールドゴールが失敗して、なんとかしのいだが、不安な立ち上がりである。
攻撃も、リズムに乗れそうで乗れない。先発QB加藤からWR松原へのパスやRB河原のランで、連続してダウンを更新したが、日体大のDLの厳しい突っ込みをOLが支えきれない。一進一退で第1Q終了。
第2Q入っても膠着状態は続いたが、日体大のパントをRB稲村が大きくリターンして活路を開く。相手陣45ヤードから始まった攻撃シリーズを河原のラン、加藤からRB久司へのパスでつなげ、残り17ヤードを河原が一気に走りきってTD。K高野のキックも決まって、やっとチームが落ち着く。
次の日体大の攻撃シリーズを、LB福井のインターセプトで絶ち切り、再びファイターズの攻撃。相手陣35ヤード付近から始まった攻撃をランとパスを織り交ぜてリズムよく進め、仕上げは加藤からWR萬代へのスクリーンパス。萬代が右オープンを鋭く駆け上がってTD。
こうなれば、RBとWRに経験豊富な人材をそろえたファイターズのペース。次の攻撃シリーズも、加藤から萬代へのパス、久司のラン、松原へのパス、河原のランが面白いように決まり、最後は河原が5ヤードを走りきってTD。前半を21|0で折り返した。
ファイターズのレシーブで始まった後半は、4年生QB浅海が登場。このシリーズも、河原や稲村の好走で陣地を進め、随所に松原へのパスを織り込んであっという間に相手ゴールに迫り、最後は浅海からピッチを受けたRB林が左隅に11ヤードを駆け上がりTD。ファイターズペースで試合が進んでいく。
ところが、次のファイターズの攻撃シリーズでとんでもないミスが出る。K高野の蹴ったパントが相手ディフェンスにブロックされ、それを拾い上げられて、ゴールまで66ヤードを走りきられてしまったのだ。1年に一度あるかどうかの痛恨のミスである。
ところが、その直後、今度はこのミスを帳消しにするようなビッグプレーがファイターズに出る。相手キックを自陣12ヤード付近でキャッチしたリターナーの久司が一気に88ヤードを走りきり、キックオフリターンTDを決めたのだ。冬の間、しっかり、走りモノで鍛えてきた努力が実ったのだろう。彼は続く第4Qにも、28ヤードを走りきってTDを決めた。
下級生のころから試合に出て活躍してきた4年生の河原や萬代、3年生の松原はともかく、3年生の久司も稲村も、これまではあまり試合に出してもらえなかった選手である。それが新しいシーズンになった途端に、素晴らしい活躍を見せてくれる。この日、インサイドレシーバーとして確実なキャッチを披露してくれた3年生の春日を含め、長い間の努力がようやく開花しているようで、うれしい限りである。
けれども、それはこの試合の一面である。チームの全体を振り返れば、うれしいなんていっておれない寒い内容だった。
毎試合、試合が始まる前のお祈りで選手を鼓舞しておられる前島先生の言葉を借りれば「宿題を一杯もらいましたねえ」である。鳥内監督は「得点は関係ない。今日のようなプレーで満足するのか、これで立命や社会人に勝てるのか、ということですわ」といい、大村コーチは「これでシゴク材料ができましたね」と、ニコニコ話している。
試合後、僕の出会った選手たちもそれぞれ、48-7で勝ったチームの選手とは思えない不満そうな表情だった。中には、自分の出来が歯がゆいのか、悔しそうに顔をゆがめた選手もいた。
その悔しさを今後、どのように乗り越えていくのか。初戦で与えられた宿題に、どのように答えを出すのか。じっくり見させていただこうと思っている。
今季はどんな選手が登場してくるのか。昨年活躍した選手たちは健在か。伸び盛りの下級生が一冬を越して、どれほど成長しているのか。体は大きくたくましくなっているか。見どころはいっぱいである。
ファイターズのキック、日体大のレシーブで試合開始。自陣29ヤード付近から始まった日体大の攻撃は、RB山田のランとQB大瀧のドロープレーを軸に、ぐいぐい進む。立て続けに3度ダウンを更新し、あっという間にフィールドゴール圏内。ようやく止めたと思ったところで、ファイターズにオフサイドの反則があり、4度目のダウン更新。
このピンチは、相手のフィールドゴールが失敗して、なんとかしのいだが、不安な立ち上がりである。
攻撃も、リズムに乗れそうで乗れない。先発QB加藤からWR松原へのパスやRB河原のランで、連続してダウンを更新したが、日体大のDLの厳しい突っ込みをOLが支えきれない。一進一退で第1Q終了。
第2Q入っても膠着状態は続いたが、日体大のパントをRB稲村が大きくリターンして活路を開く。相手陣45ヤードから始まった攻撃シリーズを河原のラン、加藤からRB久司へのパスでつなげ、残り17ヤードを河原が一気に走りきってTD。K高野のキックも決まって、やっとチームが落ち着く。
次の日体大の攻撃シリーズを、LB福井のインターセプトで絶ち切り、再びファイターズの攻撃。相手陣35ヤード付近から始まった攻撃をランとパスを織り交ぜてリズムよく進め、仕上げは加藤からWR萬代へのスクリーンパス。萬代が右オープンを鋭く駆け上がってTD。
こうなれば、RBとWRに経験豊富な人材をそろえたファイターズのペース。次の攻撃シリーズも、加藤から萬代へのパス、久司のラン、松原へのパス、河原のランが面白いように決まり、最後は河原が5ヤードを走りきってTD。前半を21|0で折り返した。
ファイターズのレシーブで始まった後半は、4年生QB浅海が登場。このシリーズも、河原や稲村の好走で陣地を進め、随所に松原へのパスを織り込んであっという間に相手ゴールに迫り、最後は浅海からピッチを受けたRB林が左隅に11ヤードを駆け上がりTD。ファイターズペースで試合が進んでいく。
ところが、次のファイターズの攻撃シリーズでとんでもないミスが出る。K高野の蹴ったパントが相手ディフェンスにブロックされ、それを拾い上げられて、ゴールまで66ヤードを走りきられてしまったのだ。1年に一度あるかどうかの痛恨のミスである。
ところが、その直後、今度はこのミスを帳消しにするようなビッグプレーがファイターズに出る。相手キックを自陣12ヤード付近でキャッチしたリターナーの久司が一気に88ヤードを走りきり、キックオフリターンTDを決めたのだ。冬の間、しっかり、走りモノで鍛えてきた努力が実ったのだろう。彼は続く第4Qにも、28ヤードを走りきってTDを決めた。
下級生のころから試合に出て活躍してきた4年生の河原や萬代、3年生の松原はともかく、3年生の久司も稲村も、これまではあまり試合に出してもらえなかった選手である。それが新しいシーズンになった途端に、素晴らしい活躍を見せてくれる。この日、インサイドレシーバーとして確実なキャッチを披露してくれた3年生の春日を含め、長い間の努力がようやく開花しているようで、うれしい限りである。
けれども、それはこの試合の一面である。チームの全体を振り返れば、うれしいなんていっておれない寒い内容だった。
毎試合、試合が始まる前のお祈りで選手を鼓舞しておられる前島先生の言葉を借りれば「宿題を一杯もらいましたねえ」である。鳥内監督は「得点は関係ない。今日のようなプレーで満足するのか、これで立命や社会人に勝てるのか、ということですわ」といい、大村コーチは「これでシゴク材料ができましたね」と、ニコニコ話している。
試合後、僕の出会った選手たちもそれぞれ、48-7で勝ったチームの選手とは思えない不満そうな表情だった。中には、自分の出来が歯がゆいのか、悔しそうに顔をゆがめた選手もいた。
その悔しさを今後、どのように乗り越えていくのか。初戦で与えられた宿題に、どのように答えを出すのか。じっくり見させていただこうと思っている。
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