石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2008/8
(16)日本1のイヤーブック
投稿日時:2008/08/21(木) 15:19
自分が関係しているのに言うのも何だけど、ファイターズのホームページは読み応えがある。情報が早くて充実しているうえに、マネジャーの「リレーコラム」や畏友・川口仁さんの連載「日本アメリカンフットボール史」がある。前者は部員の「素顔」を伝えて秀逸だし、後者は無料で読ませてもらうのが申し訳ないほどの労作だ。そのうえ、友人(だけ)がこぞって褒めてくれる(単にお愛想をいわれているだけなんだけど)僕のコラムがある(自分で言ってどうするよ)。写真も素晴らしいし、デザインもしゃれている。更新の頻度も他大学に比べて圧倒的に多い。
というわけで、勝手に「日本1のホームページ」と自賛しているのだが、ファイターズには、もう一つ「日本1」がある、と僕は思っている。毎年、秋のシーズンが始まると同時に発行されるイヤーブックである。
毎年読んでいる分には、そんなに驚かないけれども、他の大学のイヤーブックと比較してみれば、その内容が充実していることに驚かされる。なにより特集記事が素晴らしい。編集にはまったく経験のない学生が作っているとは、とても思えない。
聞けば、イヤーブックは毎年、3年生のマネジャーが中心になって編集しているそうだ。今年も3年生マネジャーの豊田早穂さんを中心に、7月から本格的に作業を始め、前期試験と並行して企画・取材・執筆・編集・校正作業を進めている。秋のシーズンに間に合わせるためには、本当はもう少し早い時期から作業をスタートさせた方が、工程にゆとりが持てるのだが、春のシーズンの戦績を入れたり、対戦相手の分析をしたり、新入生メンバーがそろうのを待っていたりすると、どうしても本格的に作業できるのは7月からになるそうだ。
その作業が大変だ。まず200人もの部員の集合写真と個人写真を撮影しなければならない。幸い、カメラマンが手慣れた人なので、作業は流れるように進んでいくそうだが、今度はそれぞれにコメントをつけなければならない。パートごとの写真を撮り、その紹介も選手自身が書くのである。
呼び物の特集記事は、特別に力が入る。相手に依頼するだけで集まる原稿ならともかく、自分で取材し、執筆するのは大変だ。僕のようにそれを職業としている者にとっても気の重い作業なのに、編集も取材もほとんど経験のない学生にとっては、気の遠くなるような重圧がかかるだろう。
しかし、さすがはファイターズのメンバーである。そんな重圧をまったく感じさせないような物語を綴っている。
先日、編集作業中の記事を2本、校正段階で読ませていただいたが、それぞれに素晴らしい出来栄えだった。一つは昨年のチームの一員が書いた「挑戦への軌跡~2007年のシーズンを振り返って~」。筆者名は、イヤーブックを購入されてからのお楽しみとして伏せておくが、このホームページに連載され、衝撃を与えた小野宏コーチの「爆発(explosion)~史上最高のパスゲーム~」の向こうを張ったような中身の濃い力作である。
もう1本が「QBファクトリー」の物語。ファイターズがこの10年ほどの間に送り出し、いまも社会人の第一線でプレーしている名QB6人(名前は、読んでからのお楽しみ)に、豊田さんが直接インタビューしてまとめた読み物である。これまたファイターズのファンには、よだれの出るような企画であり、彼らが活躍した当時を思い出しながら読むと、なおさら興趣がつのるはずだ。
これらの記事を読ませてもらいながら、こういう特集をまとめ、質の高いイヤーブックが発行できる理由はなぜか、と考えた。答えはファイターズというチームに求められる。どういうことか。説明したい。
さきほど、イヤーブックは3年生マネジャーが中心になって作成していると書いた。しかし、それはあくまで「中心になっている」のであって、それをフォローする人たちが何人もいる。ディレクター補佐の宮本敬士氏や石割淳氏は、かつてマネジャー時代に編集に携わった経験があり、その経験を生かして現役のメンバーに適切な指導をしている。朝日新聞でスポーツ記者をしていた小野コーチも、特集記事については目を通し、専門家の目で助言をしている。写真スタッフである清水茂さんらの協力も大きい。
そういう、経験の蓄積と指導が惜しみなく注がれ、現役部員もそれに応えていくから、自ずと鍛えられる。「へなちょこ部員」が「ファイターズ」に成長していくのである。ホームページがリニューアルされて以来、営々と「マネジャーの日記」を綴ってくれた1昨年の神林琢己君、昨年の大石雅彦君の文章を読み直せば、それは納得していただけるだろう。そういう「成長する部員」がいるから、世間に「日本1」と自慢できる本もホームページも作れるのである。それがファイターズというチームである。
グラウンドで戦うのは選手である。けれども、彼らが存分に戦えるように育成するコーチやスタッフが充実していて、初めてチームは機能する。そのためには、兵站(へいたん)部門を充実させなければならないし、リクルート活動もがんばらなければならない。OBにも協力を仰がなければならないだろうし、大学当局の理解も不可欠だ。
そういうもろもろがどれ一つ欠けることなく機能して、初めてファイターズはファイターズになれるのである。ホームページを作る作業も、イヤーブックを編集する作業も同様である。というより、チームとして「日本1」を目指すのなら、ホームページもイヤーブックも「日本1」でなければならない、と僕は思うのである。
思わず力が入って、話が長くなったが、結論はこういうことである。
というわけで、勝手に「日本1のホームページ」と自賛しているのだが、ファイターズには、もう一つ「日本1」がある、と僕は思っている。毎年、秋のシーズンが始まると同時に発行されるイヤーブックである。
毎年読んでいる分には、そんなに驚かないけれども、他の大学のイヤーブックと比較してみれば、その内容が充実していることに驚かされる。なにより特集記事が素晴らしい。編集にはまったく経験のない学生が作っているとは、とても思えない。
聞けば、イヤーブックは毎年、3年生のマネジャーが中心になって編集しているそうだ。今年も3年生マネジャーの豊田早穂さんを中心に、7月から本格的に作業を始め、前期試験と並行して企画・取材・執筆・編集・校正作業を進めている。秋のシーズンに間に合わせるためには、本当はもう少し早い時期から作業をスタートさせた方が、工程にゆとりが持てるのだが、春のシーズンの戦績を入れたり、対戦相手の分析をしたり、新入生メンバーがそろうのを待っていたりすると、どうしても本格的に作業できるのは7月からになるそうだ。
その作業が大変だ。まず200人もの部員の集合写真と個人写真を撮影しなければならない。幸い、カメラマンが手慣れた人なので、作業は流れるように進んでいくそうだが、今度はそれぞれにコメントをつけなければならない。パートごとの写真を撮り、その紹介も選手自身が書くのである。
呼び物の特集記事は、特別に力が入る。相手に依頼するだけで集まる原稿ならともかく、自分で取材し、執筆するのは大変だ。僕のようにそれを職業としている者にとっても気の重い作業なのに、編集も取材もほとんど経験のない学生にとっては、気の遠くなるような重圧がかかるだろう。
しかし、さすがはファイターズのメンバーである。そんな重圧をまったく感じさせないような物語を綴っている。
先日、編集作業中の記事を2本、校正段階で読ませていただいたが、それぞれに素晴らしい出来栄えだった。一つは昨年のチームの一員が書いた「挑戦への軌跡~2007年のシーズンを振り返って~」。筆者名は、イヤーブックを購入されてからのお楽しみとして伏せておくが、このホームページに連載され、衝撃を与えた小野宏コーチの「爆発(explosion)~史上最高のパスゲーム~」の向こうを張ったような中身の濃い力作である。
もう1本が「QBファクトリー」の物語。ファイターズがこの10年ほどの間に送り出し、いまも社会人の第一線でプレーしている名QB6人(名前は、読んでからのお楽しみ)に、豊田さんが直接インタビューしてまとめた読み物である。これまたファイターズのファンには、よだれの出るような企画であり、彼らが活躍した当時を思い出しながら読むと、なおさら興趣がつのるはずだ。
これらの記事を読ませてもらいながら、こういう特集をまとめ、質の高いイヤーブックが発行できる理由はなぜか、と考えた。答えはファイターズというチームに求められる。どういうことか。説明したい。
さきほど、イヤーブックは3年生マネジャーが中心になって作成していると書いた。しかし、それはあくまで「中心になっている」のであって、それをフォローする人たちが何人もいる。ディレクター補佐の宮本敬士氏や石割淳氏は、かつてマネジャー時代に編集に携わった経験があり、その経験を生かして現役のメンバーに適切な指導をしている。朝日新聞でスポーツ記者をしていた小野コーチも、特集記事については目を通し、専門家の目で助言をしている。写真スタッフである清水茂さんらの協力も大きい。
そういう、経験の蓄積と指導が惜しみなく注がれ、現役部員もそれに応えていくから、自ずと鍛えられる。「へなちょこ部員」が「ファイターズ」に成長していくのである。ホームページがリニューアルされて以来、営々と「マネジャーの日記」を綴ってくれた1昨年の神林琢己君、昨年の大石雅彦君の文章を読み直せば、それは納得していただけるだろう。そういう「成長する部員」がいるから、世間に「日本1」と自慢できる本もホームページも作れるのである。それがファイターズというチームである。
グラウンドで戦うのは選手である。けれども、彼らが存分に戦えるように育成するコーチやスタッフが充実していて、初めてチームは機能する。そのためには、兵站(へいたん)部門を充実させなければならないし、リクルート活動もがんばらなければならない。OBにも協力を仰がなければならないだろうし、大学当局の理解も不可欠だ。
そういうもろもろがどれ一つ欠けることなく機能して、初めてファイターズはファイターズになれるのである。ホームページを作る作業も、イヤーブックを編集する作業も同様である。というより、チームとして「日本1」を目指すのなら、ホームページもイヤーブックも「日本1」でなければならない、と僕は思うのである。
思わず力が入って、話が長くなったが、結論はこういうことである。
(15)熊が出た!
投稿日時:2008/08/17(日) 11:59
いやー、びっくりした。生まれて初めて、野生の熊に遭遇した。14日の夕方、東鉢伏山で行われているファイターズの合宿を見学して帰る途中だった。東鉢伏の民宿街を過ぎ、人家が全くない下り坂を車で走っている時に、前を走っている車に気付いて、あわててUターンして山に戻る熊の姿をはっきりと見た。時刻は午後6時過ぎ。夕立のあがった直後で、辺りはまだ明るかった。真っ黒いベルベットのような毛艶、独特の走り方、犬よりも大きい姿がはっきり見えた。それは、紛れもなくテレビや図鑑で見るツキノワグマだった。「こんな所に熊が出るんだ」というのが最初の感想。次に「そういえば、中国山地には熊がいると聞いたことがある。周囲に民家はないし、出没することもあり得る」と思った。「山道を走ってトレーニングしている選手が遭遇したら大変だ」というようなことは、そのときには、全然思い浮かばなかった。この文章を書いているいまになって、その危険性に気付いた。来年からも東鉢伏で合宿をされるのなら、とりあえず山を走る選手は団体でわいわい声を上げながら行動すること、できれば熊除けの鈴を腰にぶら下げることを心掛けてほしい。
ということで、今回は合宿を見学した感想というか報告である。
夏合宿の模様については、マネジャー諸兄姉が「リレーコラム」で連日報告されている。あえてその上に付け加えることはないような気もするが、それでもいくつかの場面を報告しておきたい。ファイターズならではの雰囲気を感じ取っていただけるのではないかと思う。
最初に目に付いたのは、麦藁帽子(大型のパナマ帽かもしれない)をかぶった鳥内監督が率先してグラウンドに水を撒いておられたことである。「これが僕の仕事ですねん」といいながら、午前中の練習時間の大半をホース片手に過ごしておられた。
それを見て、今度は練習の激励にきておられたOB会長の奥井さんも水まき作業に加わられた。「大物」二人が率先するそうした何げない行動が、選手たちを励まし、暑いグラウンドに清涼感を醸し出していた。
ほかのOBたちも熱心だ。若手OBが何人も防具を着けて「練習台」になっている。
奥井OB会長や会長と同期の小笠原さん、甲子園ボウル5連覇当時の名RB谷口さんとは、3年連続この合宿で顔を合わせている。とくに谷口さんは東京在住。この10年、夏合宿のたびに東京から朝一番の「のぞみ」で来阪、泊まりがけで鉢伏にきておられるそうだ。
「何歳になっても、合宿に来ると気持ちが引き締まります。この夏合宿がある意味ではファイターズを鍛える原点でもあるからでしょう」と谷口さん。毎年、練習を見ていると、自ら鍛えている選手、努力している選手が一目で見分けられるという。逆に、才能を持ちながらそれを生かし切れていない選手を見ると「腹立たしいというか、許せない気持ちになります」と厳しい。
寄せていただいた日は、合宿5日目。選手たちの気合は思い切り盛り上がっている。コーチ陣のムードもあがっている。明らかに普段の練習とは違う雰囲気がグラウンドを支配している。
あちこちで厳しい声が飛ぶ。選手同士でも、遠慮がない。よいプレーには思わず拍手が飛ぶし、ミスすれば遠慮なく罵声が浴びせられる。感情が高ぶって泣き出す選手も一人や二人ではない。オフェンスとディフェンスが本気でぶつかり合い、互いにやっつけあう本番さながらのシーンが続く。
こうなると、グラウンドの雰囲気はいやが上にも盛り上がる。ついには、ラインの1対1のぶつかり合いで、今春入学したばかりの1年生が4年前の主将であり、昨年のW杯代表選手でもある佐岡さんを指名して、まともに対決する場面まであった。
午後の練習開始直前にカミナリが襲来。激しい夕立にも見舞われて練習開始時間がずれ込み、最後もカミナリで練習を切り上げたが、それでも収穫はたっぷりあった。チームを支配する熱気である。願わくば、この熱気を今後の練習につなげ、チームの底上げをはかってほしい。その勢いを秋のシーズンに持ち込み、試合で鍛えながら終盤の宿敵との戦いに臨んでほしい。
そこから初めて、甲子園ボウルやライスボウルへの道が開け「社会人に勝って日本1」という目標に迫ることができるのだ。
ということで、今回は合宿を見学した感想というか報告である。
夏合宿の模様については、マネジャー諸兄姉が「リレーコラム」で連日報告されている。あえてその上に付け加えることはないような気もするが、それでもいくつかの場面を報告しておきたい。ファイターズならではの雰囲気を感じ取っていただけるのではないかと思う。
最初に目に付いたのは、麦藁帽子(大型のパナマ帽かもしれない)をかぶった鳥内監督が率先してグラウンドに水を撒いておられたことである。「これが僕の仕事ですねん」といいながら、午前中の練習時間の大半をホース片手に過ごしておられた。
それを見て、今度は練習の激励にきておられたOB会長の奥井さんも水まき作業に加わられた。「大物」二人が率先するそうした何げない行動が、選手たちを励まし、暑いグラウンドに清涼感を醸し出していた。
ほかのOBたちも熱心だ。若手OBが何人も防具を着けて「練習台」になっている。
奥井OB会長や会長と同期の小笠原さん、甲子園ボウル5連覇当時の名RB谷口さんとは、3年連続この合宿で顔を合わせている。とくに谷口さんは東京在住。この10年、夏合宿のたびに東京から朝一番の「のぞみ」で来阪、泊まりがけで鉢伏にきておられるそうだ。
「何歳になっても、合宿に来ると気持ちが引き締まります。この夏合宿がある意味ではファイターズを鍛える原点でもあるからでしょう」と谷口さん。毎年、練習を見ていると、自ら鍛えている選手、努力している選手が一目で見分けられるという。逆に、才能を持ちながらそれを生かし切れていない選手を見ると「腹立たしいというか、許せない気持ちになります」と厳しい。
寄せていただいた日は、合宿5日目。選手たちの気合は思い切り盛り上がっている。コーチ陣のムードもあがっている。明らかに普段の練習とは違う雰囲気がグラウンドを支配している。
あちこちで厳しい声が飛ぶ。選手同士でも、遠慮がない。よいプレーには思わず拍手が飛ぶし、ミスすれば遠慮なく罵声が浴びせられる。感情が高ぶって泣き出す選手も一人や二人ではない。オフェンスとディフェンスが本気でぶつかり合い、互いにやっつけあう本番さながらのシーンが続く。
こうなると、グラウンドの雰囲気はいやが上にも盛り上がる。ついには、ラインの1対1のぶつかり合いで、今春入学したばかりの1年生が4年前の主将であり、昨年のW杯代表選手でもある佐岡さんを指名して、まともに対決する場面まであった。
午後の練習開始直前にカミナリが襲来。激しい夕立にも見舞われて練習開始時間がずれ込み、最後もカミナリで練習を切り上げたが、それでも収穫はたっぷりあった。チームを支配する熱気である。願わくば、この熱気を今後の練習につなげ、チームの底上げをはかってほしい。その勢いを秋のシーズンに持ち込み、試合で鍛えながら終盤の宿敵との戦いに臨んでほしい。
そこから初めて、甲子園ボウルやライスボウルへの道が開け「社会人に勝って日本1」という目標に迫ることができるのだ。