石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2008/11
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(28)決戦
投稿日時:2008/11/26(水) 06:00
先週末の2日間、上ケ原の第3フィールドに出掛けると、チーム練習が始まる3時間近く前だというのに、それぞれのパートごとに綿密な練習が始まっていた。加納君を中心にしたQB陣は、1球ごとにボールの感触を確かめるように決められたコースにパスを投げている。それをキャッチするのは同じく4年生の太田君を中心にしたWR陣。代わる代わる標的の位置に入り、体をほぐしながらボールをいとおしむようにキャッチしている。
スカウトチームを率いる幸田君は、立命マルーンのユニフォームを着用し、ヘルメットまでマルーンに塗り替えている。ご丁寧にヒョウの足跡まで描いている。彼だけではない。この季節のグラウンドには、立命のマルーンのユニフォームがやたらと目立つ。
少し離れた場所では、寥君や荒牧君を中心にしたオフェンスラインの面々が、スカウトチームの守備陣を相手に、綿密なカバーの練習を重ねている。足の運びの1歩1歩に神経を集中し、タイミングを合わせ、1プレーごとに連携の確認をとっている。
彼らを指導する小野コーチのよく通る声が響く。彼は今季、仕事の都合でグラウンドに出るのもままならなかっただけに、練習に参加し、選手たちに直接声をかけ、1プレーごとに身ぶりを交えて指導できるのが楽しくてならない様子だ。
別の場所では、早川主将を中心にした守備陣がせっせと当たる練習を重ねている。キッキングチームのメンバーも、普段以上に1球ごとに注意を集中してボールを蹴っている。
若手のOBたちも、ゾクゾクと集結しているようだ。力哉君と貴佑君の石田兄弟は防具を付けて練習に入り、「速くて強い」立命守備陣の役割を果たしている。2代前の主将、柏木君や今春卒業したレシーバーの岸君も顔を出していた。キッカーの大西君とは顔を会わせ、会話も交わした。
まさに決戦前夜である。この時季ならではのピーンと張りつめた空気がグラウンド全体を支配し、マネジャーやトレーナーを含め、どこにも無駄な動きをしている部員はいない。
こういう練習が始まれば、いよいよシーズンも大詰め。もはやスタンドからあれこれと口を挟む必要もないと実感する。
けれども、ここで終わってしまっては、このコラムは成り立たない。蛇足は承知の上で、僕の大好きな作家、北方謙三さんの近著から言葉を借りて、ファイターズの諸君に激励のメッセージを送りたい。
北方さんの『楊令伝7』(集英社)の中で、梁山泊軍の若き頭領・楊令は、宋の正規軍を相手の戦いに臨む梁山泊軍の戦士に向けて、心を揺さぶるゲキを飛ばしている。梁山泊軍をファイターズに置き換えて紹介すると、次のような意味になる。
……われらは勝つために戦うのだ。志がある。夢がある。それぞれの思いもある。どの一つをとっても、それは誇りだ。人が生きていくための誇りだと思う。
ファイターズの力は誇りの力だ。俺はそう信じる。そして勝つために戦う。練習中、グラウンドに掲げているファイターズの旗は、そのまま君たちの誇りだと思い切れる。……
まさに、ファイターズの部歌『Fight on, KWANSEI』の歌詞に通じるゲキである。この歌は、特別な試合のキックオフ直前に歌うと、一気に戦意が高まるが、このように文章にするときは、日本語でかみしめて見ても、また別の高揚感がある。英語に堪能な広報室の友人、井上美香さんの訳で味わってみよう。
『戦え、関西学院』
戦え、戦え、歴史ある関西学院のために
私たちは母校のために勝利する
戦え、戦え、歴史ある関西学院のために
母校のため、強い意志を持とう
懸命に戦え、そうすればゲームに勝利する
正々堂々と戦え、勝者の名に誇りを持って
戦え、戦え、歴史ある関西学院のために
世界一の関西学院
「Old Kwansei」すなわち「歴史ある関西学院」は、部歌ということから拡大解釈すれば「栄光ある歴史を営々と築いてきたファイターズ」という意味も含まれているのではないか。こんなチームソングを決戦の場で、全員で歌える諸君は幸せである。
願わくは、この歌の通り「強い意志を持ち」「誇りを持って」「正々堂々と」戦ってほしい。戦い、戦い、戦い抜くことから勝利の道が開ける。
スカウトチームを率いる幸田君は、立命マルーンのユニフォームを着用し、ヘルメットまでマルーンに塗り替えている。ご丁寧にヒョウの足跡まで描いている。彼だけではない。この季節のグラウンドには、立命のマルーンのユニフォームがやたらと目立つ。
少し離れた場所では、寥君や荒牧君を中心にしたオフェンスラインの面々が、スカウトチームの守備陣を相手に、綿密なカバーの練習を重ねている。足の運びの1歩1歩に神経を集中し、タイミングを合わせ、1プレーごとに連携の確認をとっている。
彼らを指導する小野コーチのよく通る声が響く。彼は今季、仕事の都合でグラウンドに出るのもままならなかっただけに、練習に参加し、選手たちに直接声をかけ、1プレーごとに身ぶりを交えて指導できるのが楽しくてならない様子だ。
別の場所では、早川主将を中心にした守備陣がせっせと当たる練習を重ねている。キッキングチームのメンバーも、普段以上に1球ごとに注意を集中してボールを蹴っている。
若手のOBたちも、ゾクゾクと集結しているようだ。力哉君と貴佑君の石田兄弟は防具を付けて練習に入り、「速くて強い」立命守備陣の役割を果たしている。2代前の主将、柏木君や今春卒業したレシーバーの岸君も顔を出していた。キッカーの大西君とは顔を会わせ、会話も交わした。
まさに決戦前夜である。この時季ならではのピーンと張りつめた空気がグラウンド全体を支配し、マネジャーやトレーナーを含め、どこにも無駄な動きをしている部員はいない。
こういう練習が始まれば、いよいよシーズンも大詰め。もはやスタンドからあれこれと口を挟む必要もないと実感する。
けれども、ここで終わってしまっては、このコラムは成り立たない。蛇足は承知の上で、僕の大好きな作家、北方謙三さんの近著から言葉を借りて、ファイターズの諸君に激励のメッセージを送りたい。
北方さんの『楊令伝7』(集英社)の中で、梁山泊軍の若き頭領・楊令は、宋の正規軍を相手の戦いに臨む梁山泊軍の戦士に向けて、心を揺さぶるゲキを飛ばしている。梁山泊軍をファイターズに置き換えて紹介すると、次のような意味になる。
……われらは勝つために戦うのだ。志がある。夢がある。それぞれの思いもある。どの一つをとっても、それは誇りだ。人が生きていくための誇りだと思う。
ファイターズの力は誇りの力だ。俺はそう信じる。そして勝つために戦う。練習中、グラウンドに掲げているファイターズの旗は、そのまま君たちの誇りだと思い切れる。……
まさに、ファイターズの部歌『Fight on, KWANSEI』の歌詞に通じるゲキである。この歌は、特別な試合のキックオフ直前に歌うと、一気に戦意が高まるが、このように文章にするときは、日本語でかみしめて見ても、また別の高揚感がある。英語に堪能な広報室の友人、井上美香さんの訳で味わってみよう。
『戦え、関西学院』
戦え、戦え、歴史ある関西学院のために
私たちは母校のために勝利する
戦え、戦え、歴史ある関西学院のために
母校のため、強い意志を持とう
懸命に戦え、そうすればゲームに勝利する
正々堂々と戦え、勝者の名に誇りを持って
戦え、戦え、歴史ある関西学院のために
世界一の関西学院
「Old Kwansei」すなわち「歴史ある関西学院」は、部歌ということから拡大解釈すれば「栄光ある歴史を営々と築いてきたファイターズ」という意味も含まれているのではないか。こんなチームソングを決戦の場で、全員で歌える諸君は幸せである。
願わくは、この歌の通り「強い意志を持ち」「誇りを持って」「正々堂々と」戦ってほしい。戦い、戦い、戦い抜くことから勝利の道が開ける。
(27)我慢、我慢の関大戦
投稿日時:2008/11/18(火) 19:24
関大のリターンで始まった試合は、いきなり相手リターナーに96ヤードを走り切られ、そのままタッチダウン(TD)。その後のキックは外れたが、たちまち6-0とリードされた。
さて、どう挽回するのかと思ったファイターズの攻撃シリーズが始まって2プレー目にファンブル。そのボールを相手に押さえられ、自陣38ヤード地点で痛恨のターンオーバー。そこから相手に右、左と走られ、わずか5プレーでゴール前1ヤード。そこでファイターズのお株を奪うようなトリッキーなパスを決められて再びTD。キックも決まって7点追加。試合開 始からわずか2分57秒で13-0とリードされた。
この間、関大が選択したプレーはすべて、ファイターズに備えて周到に準備してきたことがうかがえるものばかり。守備陣の気迫もすごく、春の関関戦とはまったく異なるチームに成長していた。逆に、ファイターズ守備陣は、立ち上がりで相手の動きに目が慣れていないせいもあったのか、ほとんど対応できないまま。前途の多難を思わせた。
しかし、この逆境にあっても、QB加納を中心に、ファイターズは全員が我慢のプレーを重ねた。自陣21ヤードから始まった次の攻撃シリーズ。加納からWR萬代、松原らへの短いパ ス、加納のスクランブル、RB稲毛、河原、石田らのランを織り交ぜ、約7分、14プレーを費やして、最後はRB河原の3ヤードTDランに結びつけた。
さらに2Q終了まで残り2分6秒、自陣30ヤードから始まった攻撃シリーズを今度はWR柴田、萬代へのパスと加納のスクランブルでリズムよく陣地を進め、加納がWR金村への35ヤードTDパスで仕上げた。ゴール右隅に浮かせたパスは、相手DBと競り合いになったが、最後は長身の金村が上からもぎ取る形でキャッチした。
この間、関大に2本のフィールドゴールを決められており、前半は結局19-14。関大リードのまま終えた。
後半はファイターズのリターンで攻撃開始。このシリーズから加納に代わって登場した2年生QB加藤がこれまた我慢のプレーコール。約8分30秒、17プレーを費やしたシリーズを、最後はRB多田羅の突進で締めくくって逆転。加納の2点コンバージョンも成功して22-19とリードを奪った。
このシリーズも、QBはインターセプトを警戒して派手なパスを封印。我慢の短いパスと確実なランプレーでじりじりと陣地を進めた。ベンチの作戦に応えた稲毛や河原、萬代や松原らの堅実なプレーが光った。短い距離を確実に稼ぎ、ダウンを更新した加納やRB多田羅の突進力も高く評価できる。
逆転した後はファイターズペース。次の攻撃シリーズでは、再び登場した加納が松原、萬代へのパスと豊富なRBを使い分けるランプレー交互に繰り出して陣地を進め、最後は残り1ヤードを加納が自ら押し込んでTD。リードを広げた。
後半は、守備もすっかり落ち着いた。LB吉井の見事なパスカットやLB深川のQBサックなどビッグプレーも飛び出し、関大の攻撃をほぼ完封した。
このように試合の流れを振り返っていくと、とにかく我慢、我慢だった。
いきなり自分たちのミスで13点を先行され、普通のチームならガタガタと崩れてもおかしくない状況でのスタート。勢いに乗っている相手の力をそぐためには、それ以上のミスは絶対に許されないという制約の中でのプレーコール。もちろん、どんなに苦しくても、イチかバチかのプレーは許されない。立命戦を前に、絶対に負けられないという重圧はどの選手にもあったろう。スタジアムに詰めかけたファイターズファンのすべてが「自分たちの方が力があるはず」と信じ込んでいる中でプレーする苦しさは、観客席の想像をはるかに越えるはずだ。
そういう苦しさに耐えきれず、自ら墓穴を掘って敗れた試合も、ファイターズの歴史に少なくはない。強力な陣容を整えながら法政に敗れた2000年の甲子園ボウル、せっかくリーグ戦で立命を倒しながら、ミスが相次いで足元をすくわれた2004年の京大戦。ともに地力では相手に勝っていたと思えるチームだっただけに、いま思い出しても悔しさがこみ上げてくる。
この日の関大戦も、そのように展開する可能性が少なくなかった。相手はファイターズを標的に、攻守とも周到な準備を重ねてきていることが、スタンドからでもよく分かった。選手も自分たちの思惑通りのプレーで13点を先行し、士気が上がっている。ベンチも自信を持ったに違いない。
そういう状況にあって、ファイターズが攻守のどこかで、新たなミスを一つでも犯せば万事休す、である。
しかし、早川主将を中心に、チームは攻守とも一丸となって我慢のプレーを重ねた。地味だが堅実なプレーコールをひとつひとつ確実に仕上げた。そのしたたかな精神力を、フィールドゴールをはじめ、すべてのキックの機会を確実に決めた1年生キッカー大西の冷静さとともに、心から称賛したい。
もちろん、立命を相手の戦いでは、関大戦のような立ち上がりは許されない。相手がかけてくる重圧も比較にならないほど大きいだろう。立命戦まで10日余り。この日の反省点を踏まえ、さらに高度な戦いができるように、しっかりと取り組んでもらいたい。それができるチームであると僕は信じている。
さて、どう挽回するのかと思ったファイターズの攻撃シリーズが始まって2プレー目にファンブル。そのボールを相手に押さえられ、自陣38ヤード地点で痛恨のターンオーバー。そこから相手に右、左と走られ、わずか5プレーでゴール前1ヤード。そこでファイターズのお株を奪うようなトリッキーなパスを決められて再びTD。キックも決まって7点追加。試合開 始からわずか2分57秒で13-0とリードされた。
この間、関大が選択したプレーはすべて、ファイターズに備えて周到に準備してきたことがうかがえるものばかり。守備陣の気迫もすごく、春の関関戦とはまったく異なるチームに成長していた。逆に、ファイターズ守備陣は、立ち上がりで相手の動きに目が慣れていないせいもあったのか、ほとんど対応できないまま。前途の多難を思わせた。
しかし、この逆境にあっても、QB加納を中心に、ファイターズは全員が我慢のプレーを重ねた。自陣21ヤードから始まった次の攻撃シリーズ。加納からWR萬代、松原らへの短いパ ス、加納のスクランブル、RB稲毛、河原、石田らのランを織り交ぜ、約7分、14プレーを費やして、最後はRB河原の3ヤードTDランに結びつけた。
さらに2Q終了まで残り2分6秒、自陣30ヤードから始まった攻撃シリーズを今度はWR柴田、萬代へのパスと加納のスクランブルでリズムよく陣地を進め、加納がWR金村への35ヤードTDパスで仕上げた。ゴール右隅に浮かせたパスは、相手DBと競り合いになったが、最後は長身の金村が上からもぎ取る形でキャッチした。
この間、関大に2本のフィールドゴールを決められており、前半は結局19-14。関大リードのまま終えた。
後半はファイターズのリターンで攻撃開始。このシリーズから加納に代わって登場した2年生QB加藤がこれまた我慢のプレーコール。約8分30秒、17プレーを費やしたシリーズを、最後はRB多田羅の突進で締めくくって逆転。加納の2点コンバージョンも成功して22-19とリードを奪った。
このシリーズも、QBはインターセプトを警戒して派手なパスを封印。我慢の短いパスと確実なランプレーでじりじりと陣地を進めた。ベンチの作戦に応えた稲毛や河原、萬代や松原らの堅実なプレーが光った。短い距離を確実に稼ぎ、ダウンを更新した加納やRB多田羅の突進力も高く評価できる。
逆転した後はファイターズペース。次の攻撃シリーズでは、再び登場した加納が松原、萬代へのパスと豊富なRBを使い分けるランプレー交互に繰り出して陣地を進め、最後は残り1ヤードを加納が自ら押し込んでTD。リードを広げた。
後半は、守備もすっかり落ち着いた。LB吉井の見事なパスカットやLB深川のQBサックなどビッグプレーも飛び出し、関大の攻撃をほぼ完封した。
このように試合の流れを振り返っていくと、とにかく我慢、我慢だった。
いきなり自分たちのミスで13点を先行され、普通のチームならガタガタと崩れてもおかしくない状況でのスタート。勢いに乗っている相手の力をそぐためには、それ以上のミスは絶対に許されないという制約の中でのプレーコール。もちろん、どんなに苦しくても、イチかバチかのプレーは許されない。立命戦を前に、絶対に負けられないという重圧はどの選手にもあったろう。スタジアムに詰めかけたファイターズファンのすべてが「自分たちの方が力があるはず」と信じ込んでいる中でプレーする苦しさは、観客席の想像をはるかに越えるはずだ。
そういう苦しさに耐えきれず、自ら墓穴を掘って敗れた試合も、ファイターズの歴史に少なくはない。強力な陣容を整えながら法政に敗れた2000年の甲子園ボウル、せっかくリーグ戦で立命を倒しながら、ミスが相次いで足元をすくわれた2004年の京大戦。ともに地力では相手に勝っていたと思えるチームだっただけに、いま思い出しても悔しさがこみ上げてくる。
この日の関大戦も、そのように展開する可能性が少なくなかった。相手はファイターズを標的に、攻守とも周到な準備を重ねてきていることが、スタンドからでもよく分かった。選手も自分たちの思惑通りのプレーで13点を先行し、士気が上がっている。ベンチも自信を持ったに違いない。
そういう状況にあって、ファイターズが攻守のどこかで、新たなミスを一つでも犯せば万事休す、である。
しかし、早川主将を中心に、チームは攻守とも一丸となって我慢のプレーを重ねた。地味だが堅実なプレーコールをひとつひとつ確実に仕上げた。そのしたたかな精神力を、フィールドゴールをはじめ、すべてのキックの機会を確実に決めた1年生キッカー大西の冷静さとともに、心から称賛したい。
もちろん、立命を相手の戦いでは、関大戦のような立ち上がりは許されない。相手がかけてくる重圧も比較にならないほど大きいだろう。立命戦まで10日余り。この日の反省点を踏まえ、さらに高度な戦いができるように、しっかりと取り組んでもらいたい。それができるチームであると僕は信じている。
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