石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2022/6/16

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(5)実戦こそ成長の場

投稿日時:2022/06/16(木) 07:49

 12日、王子スタジアムで行われた東大との試合は、これまで観戦したどの試合とも異なる味わいがあった。
 互いに勝利を目指して戦っているのだが、それだけではない。自分たちの日頃の取り組みが力のあるチームに通用するのか、普段の練習とは異なる相手のスピードや当たりに、どこまで対応できるのか、チーム内の意思確認は練習時と同様、スムーズに運ぶのか。
 そうした数多くの課題をそれぞれのチームが実戦で試す機会としてこの日の試合を位置づけ、一つ一つのプレーに全力を尽くしたのだと僕は受け止めている。
 もちろん、双方ともに思い通りにいかなかったことが多かっただろう。公式戦なら致命傷になるようなミスもあったし、メンバーが交代すると同時に、まったく別のチームになったような場面も数多くあった。
 けれども双方のベンチはまったく動じた様子はなく、ひたすら自分たちの課題を追求し続けた。東大のオフェンスでいえば、終始一貫して続けたオプションプレー。1990年代、強力なQBとオフェンスラインを要した京大が工夫し、ファイターズやパンサーズを圧倒したフレックスボーン体系からの攻撃を次々に展開した。
 ただし、この日の相手は悪かった。ファイターズのベンチには、京大が強力な攻撃力を誇った時代に、その対応に日夜頭を悩まし続けた指導者が何人も存在する。グラウンドでプレーする選手たちには珍しく、対応が難しいプレーであっても、ベンチの対応力は別だ。相手が仕掛けてくる攻撃をしっかりと受け止め、次々に無力化していく。
 一方、ファイターズは遠投力のあるQB鎌田がお約束のようにパスを投げる。立ち上がりからWR糸川、衣笠に連続してミドルパスを通して陣地を進める。相手守備がパスに備えるとRB前島、澤井のランプレーを挟み、仕上げはWR河原林への19ヤードのパス。余裕でキャッチしてTD。試合が始まって2分少々、5プレー目の攻撃だった。
 驚いたのは次のシリーズ。東大最初のオフェンスは5プレー連続で同じような隊形からのランプレー。全盛期の京大が得意としてきたプレーである。最初のシリーズでそれが立て続けに決まり、ダウンを更新された時には、本当に驚いた。
 守備陣の対応で、なんとか次のシリーズを封じ込め第4ダウンはパント。これがまた素晴らしい。滞空時間も飛距離も長く、落ちてくるのを待ちかねたレシーバーがファンブルするおまけまでついた。何とか本人が確保して攻撃権を取り戻したが、観客席からも思わず驚きの声が上がった。
 けれども、能力の高いQBとWRを擁する攻撃陣は慌てない。QB鎌田が同学年のWR衣笠、鈴木へポンポンとパスを決め、仕上げは副将糸川への20ヤードのパス。福井のキックも決まって14ー0。ファイターズのパス攻撃のすごさを見せつける。
 次の東大の攻撃を4プレーで封じて迎えた次の攻撃は一転してランアタック。RB澤井、藤原が立て続けにドロープレーで陣地を進め、仕上げはRBのリーダー前島が55ヤードを走り切ってTD。まだ第一Qも終わっていないのに21ー0。
 手元のメモ帳を見てもわずか1ページの空間に赤い丸で囲んだTDとKの字がそれぞれ3箇所ずつ記されており、完全にファイターズペースで試合が進んでいることが裏付けられる。
 けれども、東大のオフェンスはひたすら似たような隊形からのランプレーを続ける。自分たちのプレーがどうすれば通るのか、どこに強みがあり、弱点があるのかとひたすら試し続けているようなプレーコール。そこには一つ一つのプレーと相手の反応をすべて映像に記録し、今後の改善につなげ、より洗練された攻撃スタイルを確立しようという執念のようなものが感じられた。東大がこの試合に求めていたものの正体が見えたようにも思えた。
 目先の成否ではなく、今後のチーム作りに資するものすべてをこの試合から吸収したいという高い目的意識。東大にとっては、それこそがこの試合に期待するすべてだったのではないか。そう考えると、さすが東大、という気持ちがふつふつとわいてきた。
 それはまた、この日の試合に出場したファイターズの諸君にとっても、大いに参考になる考え方ではないか。一つの失敗、一つの成功。相手との力比べ、臨機応変の競り合い、そしてスピード競争。そうした競り合いのすべてが成長の糧になる。高い目的意識を持って臨んだ実戦の経験は、悔しさも含め、すべてが成長のきっかけになる。
 先日、大村監督と少しばかり話した時の言葉が耳に残っている。「選手が成長するには実戦が一番。そこで悔しい思いをしてこそ、人は成長する。これからの試合にもどんどん下級生を起用して、成長のきっかけをつかませます」。春シーズンは残り少ないが、これから続くJV戦が一層、楽しみになってきた。

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