石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2021/1
(15)敗戦の中に来季への希望
投稿日時:2021/01/05(火) 14:38
新型コロナの感染拡大で東上できず、ライスボウルは西宮の自宅で観戦。テレビ中継を見ながらの応援となった。東京ドームでファイターズを応援することがかなわなかったのは、東京・有楽町駅付近で火災があり、新幹線が全面的にストップした年以来である。
今年も当初は、現場で選手に声をかけ、声を張り上げて応援するつもりだったが、新型コロナには勝てない。「大都市圏への往来は避けるように」という勤務先の方針もあり、それを部下に指示する立場の人間として「自分だけは勝手にします」とはいえない。
かくして、3日はテレビ観戦。しかし、もどかしい。一つ一つのプレーはしっかりと映し出してくれるのだが、ベンチの様子やプレーが始まる前、終わった後の選手の表情など、大事な情報が手に入らない。試合後にグラウンドに降りて、選手や監督、コーチと声をかわすこともできない。
そんな状況で、コラムを書くのは難しい。第一、取材もせずに書くという行為自体が、自分にとって納得がいかない。
そういう次第だから、今回はテレビに映し出された試合の様子、選手たちの表情などを見ての感想だけを書かせていただく。読者のみなさまにとっては、歯がゆいことだろうが、許されたい。
感想の第一は、存分に資金を投入して人材を集めることのできる社会人チームと、厳しい入試を突破して入部しても、4年間で卒業してしまう大学生チームとの基礎的条件の差である。その差は年々開く一方。いまや練習への取り組みや戦術面での工夫だけでは埋め切れないところまで来てしまった。
例えば、相手守備の最前列。そこには関西リーグで名を馳せた強力なラインが並んでいる。打倒!関学、を合い言葉に立ち向かってきた立命館や関西大学で主力選手として活躍した面々である。体重130?を超えるラインメンの圧力は半端ではなく、素早い動きが持ち味のQB奥野に圧力をかけ続けた。ランニングバックやレシーバー陣にも、名前を聞いただけで往事の活躍ぶりが目に浮かんでくるメンバーが数多く並んでいる。
ファイターズで時代を画した強力な先輩たちも後輩たちとの対決を心待ちにしている。この日、相手側最初のTDを挙げたRBの望月や試合の流れを一変させるパントブロックを決めた平澤はその代表である。
こうした豪華メンバーに対応するだけでもやっかいなのに、QBやDB、WRには、本場・アメリカで鍛えた才能あふれる選手たちが並んでいる。楽々と45ヤードから50ヤードのパスを通し、TDを重ねていくその姿を見ていると、戦術を工夫し、緻密な設計で試合を進めていくファイターズの戦いぶりが否定されたかのような気分にさえなってくる。
それでも、ファイターズの面々はおめず臆さずに戦った。QB奥野が短いパスを通し、スピードとパワーのあるランニングバック3人を使い分けて陣地を進める。ベンチからの的確な指示もあって、相手の隙を突いたプレーが矢継ぎ早に繰り出される。立ち上がりの狙い澄ませた短いキックとそれをカバーしたLB都賀の機敏な動き。前半終了間際、RB三宅の84ヤード独走TD。それぞれが日頃の練習で取り組んできた成果である。
パワフルな鶴留、スピードの三宅、パワーとスピードを兼ねそろえた前田。それぞれ特徴を持った3人のRB陣をフルに稼働させる作戦も機能し、とにもかくにも3本のTDを獲得した。相手の強力な守備陣を考慮に入れると、それだけでも大きな成果である。
もう一つ、僕が注目したのは、守備の最後列に位置するDB陣である。秋のシーズンが始まった当初は、メンバーをそろえるのも難しかったようなパートだが、関西大会、甲子園ボウルと強力な攻撃陣を擁する相手と戦う中で下級生が経験を積み、試合ごとに動きが良くなってきた。
この日も、体格が大きく、スピードもある相手レシーバー陣に振り回されながら、必死に立ち向かっていった。先発で出場した北川、竹原、宮城は3年生。山本は2年生、波田は1年生である。途中から交代メンバーとして投入された3年生の西脇、永嶋はともに未経験者。高校時代、西脇は野球部、永嶋はテニス部で活躍した選手である。そうした選手が持ち前のスピードを生かして相手のエースレシーバーに食いついて行く姿に、僕は感動さえ覚えた。途中、けがで退出した山本を含め、来季はこのパートがチームを引っ張っていく予感さえ抱いた。
ことはDBのパートに限らない。オフェンスラインの4年生は副将の高木だけ。それ以外は3年生と2年生で戦った。レシーバーやランニングバックにも下級生に人材が揃っている。デイフェンスラインにも、この日活躍した2年生、小林や3年生の青木がおり、1年生にも有望なメンバーが何人もいる。
そう、ここに学生スポーツの魅力があるのだ。年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず。ファイターズという花は毎年咲くが、それを咲かせる顔ぶれは毎年変わっていく。終始、相手に押される苦しい展開だったが、その中にあっても新しい希望が見えてきた。
この敗戦を糧にした彼らが新しいシーズン、どんな風に成長し、どんなプレーを見せてくれるのか。そんな期待が抱けるからこそ、学生スポーツは面白い。来季のファイターズに期待すること大である。
今年も当初は、現場で選手に声をかけ、声を張り上げて応援するつもりだったが、新型コロナには勝てない。「大都市圏への往来は避けるように」という勤務先の方針もあり、それを部下に指示する立場の人間として「自分だけは勝手にします」とはいえない。
かくして、3日はテレビ観戦。しかし、もどかしい。一つ一つのプレーはしっかりと映し出してくれるのだが、ベンチの様子やプレーが始まる前、終わった後の選手の表情など、大事な情報が手に入らない。試合後にグラウンドに降りて、選手や監督、コーチと声をかわすこともできない。
そんな状況で、コラムを書くのは難しい。第一、取材もせずに書くという行為自体が、自分にとって納得がいかない。
そういう次第だから、今回はテレビに映し出された試合の様子、選手たちの表情などを見ての感想だけを書かせていただく。読者のみなさまにとっては、歯がゆいことだろうが、許されたい。
感想の第一は、存分に資金を投入して人材を集めることのできる社会人チームと、厳しい入試を突破して入部しても、4年間で卒業してしまう大学生チームとの基礎的条件の差である。その差は年々開く一方。いまや練習への取り組みや戦術面での工夫だけでは埋め切れないところまで来てしまった。
例えば、相手守備の最前列。そこには関西リーグで名を馳せた強力なラインが並んでいる。打倒!関学、を合い言葉に立ち向かってきた立命館や関西大学で主力選手として活躍した面々である。体重130?を超えるラインメンの圧力は半端ではなく、素早い動きが持ち味のQB奥野に圧力をかけ続けた。ランニングバックやレシーバー陣にも、名前を聞いただけで往事の活躍ぶりが目に浮かんでくるメンバーが数多く並んでいる。
ファイターズで時代を画した強力な先輩たちも後輩たちとの対決を心待ちにしている。この日、相手側最初のTDを挙げたRBの望月や試合の流れを一変させるパントブロックを決めた平澤はその代表である。
こうした豪華メンバーに対応するだけでもやっかいなのに、QBやDB、WRには、本場・アメリカで鍛えた才能あふれる選手たちが並んでいる。楽々と45ヤードから50ヤードのパスを通し、TDを重ねていくその姿を見ていると、戦術を工夫し、緻密な設計で試合を進めていくファイターズの戦いぶりが否定されたかのような気分にさえなってくる。
それでも、ファイターズの面々はおめず臆さずに戦った。QB奥野が短いパスを通し、スピードとパワーのあるランニングバック3人を使い分けて陣地を進める。ベンチからの的確な指示もあって、相手の隙を突いたプレーが矢継ぎ早に繰り出される。立ち上がりの狙い澄ませた短いキックとそれをカバーしたLB都賀の機敏な動き。前半終了間際、RB三宅の84ヤード独走TD。それぞれが日頃の練習で取り組んできた成果である。
パワフルな鶴留、スピードの三宅、パワーとスピードを兼ねそろえた前田。それぞれ特徴を持った3人のRB陣をフルに稼働させる作戦も機能し、とにもかくにも3本のTDを獲得した。相手の強力な守備陣を考慮に入れると、それだけでも大きな成果である。
もう一つ、僕が注目したのは、守備の最後列に位置するDB陣である。秋のシーズンが始まった当初は、メンバーをそろえるのも難しかったようなパートだが、関西大会、甲子園ボウルと強力な攻撃陣を擁する相手と戦う中で下級生が経験を積み、試合ごとに動きが良くなってきた。
この日も、体格が大きく、スピードもある相手レシーバー陣に振り回されながら、必死に立ち向かっていった。先発で出場した北川、竹原、宮城は3年生。山本は2年生、波田は1年生である。途中から交代メンバーとして投入された3年生の西脇、永嶋はともに未経験者。高校時代、西脇は野球部、永嶋はテニス部で活躍した選手である。そうした選手が持ち前のスピードを生かして相手のエースレシーバーに食いついて行く姿に、僕は感動さえ覚えた。途中、けがで退出した山本を含め、来季はこのパートがチームを引っ張っていく予感さえ抱いた。
ことはDBのパートに限らない。オフェンスラインの4年生は副将の高木だけ。それ以外は3年生と2年生で戦った。レシーバーやランニングバックにも下級生に人材が揃っている。デイフェンスラインにも、この日活躍した2年生、小林や3年生の青木がおり、1年生にも有望なメンバーが何人もいる。
そう、ここに学生スポーツの魅力があるのだ。年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず。ファイターズという花は毎年咲くが、それを咲かせる顔ぶれは毎年変わっていく。終始、相手に押される苦しい展開だったが、その中にあっても新しい希望が見えてきた。
この敗戦を糧にした彼らが新しいシーズン、どんな風に成長し、どんなプレーを見せてくれるのか。そんな期待が抱けるからこそ、学生スポーツは面白い。来季のファイターズに期待すること大である。
(14)充実の時、うれしい時間
投稿日時:2021/01/01(金) 21:54
ファイターズの諸君にとって、今が一番充実している時ではないか。
世間は大晦日だ、正月だ、カウントダウンだと浮ついているが、ファイターズにとってそれらは一切関係なし。3日に控えた社会人王者との決戦に向けて、ひたすら自分たちを高め、チームを最高の状態に持って行くための毎日である。
大晦日も元旦も、ともに午前10時から練習開始。その1時間以上前からは準備運動を兼ねたパートごとの練習がある。通学に時間がかかる部員にとっては練習に参加するだけでも一苦労だ。
けれども、当の本人にとっては、毎日が充実感でいっぱいだろう。今日はこういう風に頑張ろう、昨日の反省をこのように生かしていこうと考えながらの登校は、わくわくする時間であるに違いない。
実際、練習が始まれば、社会人の王者を意識したプレーがどんどん投入される。チームの長所を生かし、短所をカバーするための工夫であり、練習である。練習のための練習ではなく、勝つための工夫を仲間とともに重ねていく日々。それはとてつもなく楽しく、充実した時間であるに違いない。日本にフットボールに取り組む学生は多くても、こういう時間を持てるのは俺たちだけ、という選ばれた人間だけが感じられる日々と言ってもよいだろう。
都合のつく限り練習を見学させてもらっている僕にとっても、それは胸弾む日々である。関西大会では立命館大学、甲子園ボウルでは日本大学。ともに強力な陣容を備えたチームに勝利したからこそ得られたこの時間。ライバルチームがすべて来季を見据えてスタートしているこの時期に、今年度の陣容のままでさらなる高みを目指して練習に取り組む日々。その1分1秒を慈しむように練習に励む選手やスタッフの動きを見るたびに、心から「勝ってよかった。いまこの時、この練習が明日のファイターズにつながって行く」という実感を手にすることができる。
俳人、高浜虚子に「去年今年(こぞことし)貫く棒のようなもの」という句がある。川端康成が戦後間もなく、この句を知って感嘆したことから、俳句関係者以外にも知られるようになった。
鑑賞する人それぞれに受け止め方は違うだろうが、僕はこの句をファイターズに当てはめ「棒のようなもの」を「ファイターズ魂」と受け止めている。それがこの時期の練習からも培われているのだろう。
他のチームにはなくて、ファイターズにだけ与えられたこの時間。それがどれほど貴重なことか。この10年間に甲子園ボウルに出場すること9回、そのうち大学王者になること8回。つまり、この10年間に8回も暮れから元旦にかけて「勝負に直結する」練習に取り組む機会を与えられているのがファイターズである。
毎年のように優れた素質を持つ高校生が次々と加わってくるライバル校を相手に勝利を収めることができるのも、こういう充実した時間をこのチームがほぼ独占的に有しているからではないかと僕はにらんでいる。
それは、ライスボウルという大きな舞台を前にしたメンバーに限らない。彼らの練習相手を務める控えのメンバーにとっても、貴重な時間である。守備のメンバーは、なんとかして先発メンバーが並ぶ攻撃陣を止めたいと知恵を絞り、攻撃の選手はこれまたリーグを代表する守備陣の穴をかいくぐろうと工夫する。そういう実戦的な練習の積み重ねが知らず知らずチームの底上げにつながり、新しい年度を迎えたときの力になっていくのではないか。
時には、1軍のメンバーの練習が終わった後、短い時間ではあるが、JVメンバーだけが攻守に分かれて試合形式の練習をすることもある。普段は本番で先発するメンバーの練習台になるのが役割だが、この時ばかりは攻守ともにJVの1、2年生が先発として出場し、互いに相手を凌駕しようと力を出し合う。
高校時代に華々しい活躍をしてきたメンバーもいるし、推薦入試でファイターズの門を敲いた選手もいる。高校時代は野球やサッカーなどに取り組んでいたが、ファイターズで日本一を目指したいと志願して入部したメンバーもいる。普段の年なら春に数回、JVメンバーが出場する試合が組まれ、そこで活躍した選手が秋には新しい戦力として登用されていくが、今季はコロナ禍ですべての活動が停止され、彼らにとっては、その能力を発揮する場面が極端に少なかった。
それを補う意味もあってか、今季は社会人代表との決戦を控えたこの時期に、あえてJVのメンバー限定で、試合形式の練習を取り入れ、新しいシーズンに備えているのである。
背番号を着けた選手はほとんどおらず、僕は交互に出場したQB二人の動きを追うことしかできなかったが、今はビデオ班が充実している。監督やコーチが後日、手の空いたときにこのビデオを見て、普段の練習では見えない部分まで細かくチェックし、来季のチーム作りの参考にされるのであろう。
目の前の試合に集中するだけでなく、そんなときにも、新しいシーズンを見据えた準備を怠らない。年末年始の慌ただしいこの時に、こういう濃密な時間を持てるのも、シーズンの最後まで目標を持って戦えるチームにだけ与えられたアドバンテージであろう。それをとことん生かそうとするチームのたたずまいに接して、僕はファイターズというチームの奥の深さを改めて感じた。
世間は大晦日だ、正月だ、カウントダウンだと浮ついているが、ファイターズにとってそれらは一切関係なし。3日に控えた社会人王者との決戦に向けて、ひたすら自分たちを高め、チームを最高の状態に持って行くための毎日である。
大晦日も元旦も、ともに午前10時から練習開始。その1時間以上前からは準備運動を兼ねたパートごとの練習がある。通学に時間がかかる部員にとっては練習に参加するだけでも一苦労だ。
けれども、当の本人にとっては、毎日が充実感でいっぱいだろう。今日はこういう風に頑張ろう、昨日の反省をこのように生かしていこうと考えながらの登校は、わくわくする時間であるに違いない。
実際、練習が始まれば、社会人の王者を意識したプレーがどんどん投入される。チームの長所を生かし、短所をカバーするための工夫であり、練習である。練習のための練習ではなく、勝つための工夫を仲間とともに重ねていく日々。それはとてつもなく楽しく、充実した時間であるに違いない。日本にフットボールに取り組む学生は多くても、こういう時間を持てるのは俺たちだけ、という選ばれた人間だけが感じられる日々と言ってもよいだろう。
都合のつく限り練習を見学させてもらっている僕にとっても、それは胸弾む日々である。関西大会では立命館大学、甲子園ボウルでは日本大学。ともに強力な陣容を備えたチームに勝利したからこそ得られたこの時間。ライバルチームがすべて来季を見据えてスタートしているこの時期に、今年度の陣容のままでさらなる高みを目指して練習に取り組む日々。その1分1秒を慈しむように練習に励む選手やスタッフの動きを見るたびに、心から「勝ってよかった。いまこの時、この練習が明日のファイターズにつながって行く」という実感を手にすることができる。
俳人、高浜虚子に「去年今年(こぞことし)貫く棒のようなもの」という句がある。川端康成が戦後間もなく、この句を知って感嘆したことから、俳句関係者以外にも知られるようになった。
鑑賞する人それぞれに受け止め方は違うだろうが、僕はこの句をファイターズに当てはめ「棒のようなもの」を「ファイターズ魂」と受け止めている。それがこの時期の練習からも培われているのだろう。
他のチームにはなくて、ファイターズにだけ与えられたこの時間。それがどれほど貴重なことか。この10年間に甲子園ボウルに出場すること9回、そのうち大学王者になること8回。つまり、この10年間に8回も暮れから元旦にかけて「勝負に直結する」練習に取り組む機会を与えられているのがファイターズである。
毎年のように優れた素質を持つ高校生が次々と加わってくるライバル校を相手に勝利を収めることができるのも、こういう充実した時間をこのチームがほぼ独占的に有しているからではないかと僕はにらんでいる。
それは、ライスボウルという大きな舞台を前にしたメンバーに限らない。彼らの練習相手を務める控えのメンバーにとっても、貴重な時間である。守備のメンバーは、なんとかして先発メンバーが並ぶ攻撃陣を止めたいと知恵を絞り、攻撃の選手はこれまたリーグを代表する守備陣の穴をかいくぐろうと工夫する。そういう実戦的な練習の積み重ねが知らず知らずチームの底上げにつながり、新しい年度を迎えたときの力になっていくのではないか。
時には、1軍のメンバーの練習が終わった後、短い時間ではあるが、JVメンバーだけが攻守に分かれて試合形式の練習をすることもある。普段は本番で先発するメンバーの練習台になるのが役割だが、この時ばかりは攻守ともにJVの1、2年生が先発として出場し、互いに相手を凌駕しようと力を出し合う。
高校時代に華々しい活躍をしてきたメンバーもいるし、推薦入試でファイターズの門を敲いた選手もいる。高校時代は野球やサッカーなどに取り組んでいたが、ファイターズで日本一を目指したいと志願して入部したメンバーもいる。普段の年なら春に数回、JVメンバーが出場する試合が組まれ、そこで活躍した選手が秋には新しい戦力として登用されていくが、今季はコロナ禍ですべての活動が停止され、彼らにとっては、その能力を発揮する場面が極端に少なかった。
それを補う意味もあってか、今季は社会人代表との決戦を控えたこの時期に、あえてJVのメンバー限定で、試合形式の練習を取り入れ、新しいシーズンに備えているのである。
背番号を着けた選手はほとんどおらず、僕は交互に出場したQB二人の動きを追うことしかできなかったが、今はビデオ班が充実している。監督やコーチが後日、手の空いたときにこのビデオを見て、普段の練習では見えない部分まで細かくチェックし、来季のチーム作りの参考にされるのであろう。
目の前の試合に集中するだけでなく、そんなときにも、新しいシーズンを見据えた準備を怠らない。年末年始の慌ただしいこの時に、こういう濃密な時間を持てるのも、シーズンの最後まで目標を持って戦えるチームにだけ与えられたアドバンテージであろう。それをとことん生かそうとするチームのたたずまいに接して、僕はファイターズというチームの奥の深さを改めて感じた。