石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2014/5
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(9)金色の若葉
投稿日時:2014/05/28(水) 08:50
とうとうやってしまいました。25日の関大との試合で、ファイターズが開設したFMラジオ局の「ゲスト解説」を担当してしまったのです。
試合会場にお見えの方は、もうとっくにご存じと思いますが、ファイターズは昨年から試合会場だけで聴取できるミニFM局を開設し、試合の進行に沿ってゲームを解説しています。司会進行は小野宏ディレクター、解説とゲームのリポーター役は91年卒の片山昌人氏と94年卒の小川原秀哉氏。ときおり本職のアナウンサーがゲスト出演してくださることもあります。
こういう専門家集団の中に、なぜ門外漢の僕が顔を出したのか。それは当日、大学の職員として、どうしても職場を離れることができなかった小野さんから「代わりにゲスト出演を」というご下命があったからです。つまり「枯れ木もにぎわい」「刺身のつま」。特段の期待はしていないが、ひょっとして何かの役に立つかもしれない、という思惑が働いたのでしょう。
ほかならぬ小野さんの依頼です。わが身の非力を顧みず、喜んで引き受けさせていただきました。でも、解説なんて、何を話せばいいのかわからない。この世に生を受けて70年。標準語でしゃべったこともない。朝日新聞で働いていたころに、何度か朝日放送の番組に出たことはあるけど、事前の打ち合わせに基づいて用意してきた話をするだけ。目の前で進行している試合の解説なんてどうすればいいのか、と一瞬思案に暮れました。
そこで旧知のアナウンサー、由紀ちゃんのブログを見て「適切な感情表現の仕方」をチェック。「困ったときは大阪弁」「無理に標準語で話す必要はない」という文章を見つけて、一安心。「そうか、ベタベタの大阪弁でプロ野球の解説をされている福本豊さんを見習えばいいんだ」と割り切りました。
放送が始まると、進行役の片山さんが話を振ってきます。
「今日の試合で、どんな選手に期待していますか」
いきなりやな、と一瞬戸惑いました。でも、実況放送です。考える間もなく、口が勝手にしゃべっています。
「2年生に注目したいですね。試合ごとに成長している選手がたくさんいますから」
すかさず片山さんが「具体的にはどんな選手ですか」と突っ込んできます。こちらは見事な標準語。まるで本職のアナウンサーのような調子です。
「そうですね。今日の先発メンバーに名前を連ねているRBの橋本君、OLの松井君。レシーバーでは、この2、3試合、見事な働きをしている芝山君や水野君、それに藤原君にも注目です」
「ディフェンスではキッカーを兼任しているLBの山岸君。それにDLの安田君、彼は今日もスタメンですね。さらにはパング君や大野君、福田君。彼らはみな2年生同士で競い合うようにして成長していますよ。DBには小池君がいますが、彼は昨年から試合に出ているから、もう2年生とは思えませんね。山本君もがんばっていますよ。冬の間の走りモノでは、いつも2番目にゴールしていました。一番はチーム切ってのアスリート、田中雄大君ですが、彼はいつもそれに次ぐ二番手でした。努力家だと思いました」
「1年生にも注目して下さい。今日は3人が登録されています。DLの藤木君、三木君、そしてWRの前田君。藤木君は高等部の主将をしていましたね。練習でも素早い動きが目立ちます。出番があれば、きっといいところを見せてくれるでしょう」
「そうそう、いま名前を挙げたなかには入っていませんが、何と言ってもQBの伊豆君が注目ですね。春の試合を任されて、試合のたびに力をつけています」
こんな調子で放送がスタート。後は試合の進行に沿って、経験豊富な片山さんと小川原さんが本職以上に味のある放送を展開してくださった。
ゲスト解説者としては、最初に名前を挙げた2年生や1年生がどんな活躍をしてくれるかに注目するだけ。彼らが期待通りに活躍してくれたら「さすがは石井さん。日頃からしっかり選手のことを見ている」と共感してもらえるし、期待外れなプレーぶりだったら「あのおっさんの目は節穴やな」といわれます。このコラムの信用にもかかわるかもしれません。
「これはやばいぞ。頑張ってくれ!2年生、1年生」。解説も上の空。祈るような気持ちで試合を見ていました。
結果は、見事に予想が的中。当初、名前を挙げるのを忘れていたKの西岡君、TEの杉山君らを含め2年生が驚くほどの活躍をしてくれました。
エースQB斎藤君の後を受けて第3Qから登場したQB伊豆君は、DB田中君の好リターンで得たチャンスをたった3プレーでTDに結びつけました。その後もWR芝山君に44ヤードのTDパス。これは文字通りピンポイントで、投げた方も確保した方も「お見事」というしかないプレーでした。
得点場面に絡んだ2年生の名前を挙げていくだけでも、立ち上がりに32ヤードのFGを決めた西岡君、前半斎藤君から計算され尽くしたTDパスをキャッチした杉山君、再三、豪快なラッシュを見せ、第4Qには中央をついてTDを決めた橋本君と2年生の名前が並びます。ついでにいうと、橋本君は強力な相手守備陣を引き裂いて、この日も82ヤードを走っています。水野君は見事なパスキャッチで52ヤードを獲得しており、ともにチームで一番の成績を挙げました。
山岸君は、相手ゴールラインをはるかに超すキックを何度か披露してくれましたし、本業のLBとしても元気なプレーを見せてくれました。安田君も試合経験を積むごとに動きがよくなっていますし、小池君は終盤、お約束のようにインターセプトを奪いました。
そして1年生。数少ない出番でしたが、藤木君がさっそくQBサックを記録。三木君も素早い動きを見せてくれました。前田君は2度パスをキャッチして20ヤードを獲得しています。相手の反則で動きを止められましたが、それがなければTDという場面もありました。
以上の通りです。急きょ引き受けた素人解説者が名前を挙げた2年生は全員、見事な活躍を見せてくれました。放送の際、名前を挙げるのを忘れた2年生、杉山君や池永君もいい動きをしていました。出場メンバーに登録されてすぐに素晴らしい活躍をしてくれた1年生を含めて、ファイターズの新しい芽は育っています。まだ芽吹いたばかりですが、それはまぶしいほどの光を放っています。金色の若葉といってよいでしょう。
みんな同じ学年です。今後、試合経験を重ね、互いに競い合って鍛えていけば、金色の新芽が濃い緑となり、存分に酸素を吸収して、ファイターズという大木に生命を注入してくれることは間違いありません。期待に胸がドキドキします。
試合会場にお見えの方は、もうとっくにご存じと思いますが、ファイターズは昨年から試合会場だけで聴取できるミニFM局を開設し、試合の進行に沿ってゲームを解説しています。司会進行は小野宏ディレクター、解説とゲームのリポーター役は91年卒の片山昌人氏と94年卒の小川原秀哉氏。ときおり本職のアナウンサーがゲスト出演してくださることもあります。
こういう専門家集団の中に、なぜ門外漢の僕が顔を出したのか。それは当日、大学の職員として、どうしても職場を離れることができなかった小野さんから「代わりにゲスト出演を」というご下命があったからです。つまり「枯れ木もにぎわい」「刺身のつま」。特段の期待はしていないが、ひょっとして何かの役に立つかもしれない、という思惑が働いたのでしょう。
ほかならぬ小野さんの依頼です。わが身の非力を顧みず、喜んで引き受けさせていただきました。でも、解説なんて、何を話せばいいのかわからない。この世に生を受けて70年。標準語でしゃべったこともない。朝日新聞で働いていたころに、何度か朝日放送の番組に出たことはあるけど、事前の打ち合わせに基づいて用意してきた話をするだけ。目の前で進行している試合の解説なんてどうすればいいのか、と一瞬思案に暮れました。
そこで旧知のアナウンサー、由紀ちゃんのブログを見て「適切な感情表現の仕方」をチェック。「困ったときは大阪弁」「無理に標準語で話す必要はない」という文章を見つけて、一安心。「そうか、ベタベタの大阪弁でプロ野球の解説をされている福本豊さんを見習えばいいんだ」と割り切りました。
放送が始まると、進行役の片山さんが話を振ってきます。
「今日の試合で、どんな選手に期待していますか」
いきなりやな、と一瞬戸惑いました。でも、実況放送です。考える間もなく、口が勝手にしゃべっています。
「2年生に注目したいですね。試合ごとに成長している選手がたくさんいますから」
すかさず片山さんが「具体的にはどんな選手ですか」と突っ込んできます。こちらは見事な標準語。まるで本職のアナウンサーのような調子です。
「そうですね。今日の先発メンバーに名前を連ねているRBの橋本君、OLの松井君。レシーバーでは、この2、3試合、見事な働きをしている芝山君や水野君、それに藤原君にも注目です」
「ディフェンスではキッカーを兼任しているLBの山岸君。それにDLの安田君、彼は今日もスタメンですね。さらにはパング君や大野君、福田君。彼らはみな2年生同士で競い合うようにして成長していますよ。DBには小池君がいますが、彼は昨年から試合に出ているから、もう2年生とは思えませんね。山本君もがんばっていますよ。冬の間の走りモノでは、いつも2番目にゴールしていました。一番はチーム切ってのアスリート、田中雄大君ですが、彼はいつもそれに次ぐ二番手でした。努力家だと思いました」
「1年生にも注目して下さい。今日は3人が登録されています。DLの藤木君、三木君、そしてWRの前田君。藤木君は高等部の主将をしていましたね。練習でも素早い動きが目立ちます。出番があれば、きっといいところを見せてくれるでしょう」
「そうそう、いま名前を挙げたなかには入っていませんが、何と言ってもQBの伊豆君が注目ですね。春の試合を任されて、試合のたびに力をつけています」
こんな調子で放送がスタート。後は試合の進行に沿って、経験豊富な片山さんと小川原さんが本職以上に味のある放送を展開してくださった。
ゲスト解説者としては、最初に名前を挙げた2年生や1年生がどんな活躍をしてくれるかに注目するだけ。彼らが期待通りに活躍してくれたら「さすがは石井さん。日頃からしっかり選手のことを見ている」と共感してもらえるし、期待外れなプレーぶりだったら「あのおっさんの目は節穴やな」といわれます。このコラムの信用にもかかわるかもしれません。
「これはやばいぞ。頑張ってくれ!2年生、1年生」。解説も上の空。祈るような気持ちで試合を見ていました。
結果は、見事に予想が的中。当初、名前を挙げるのを忘れていたKの西岡君、TEの杉山君らを含め2年生が驚くほどの活躍をしてくれました。
エースQB斎藤君の後を受けて第3Qから登場したQB伊豆君は、DB田中君の好リターンで得たチャンスをたった3プレーでTDに結びつけました。その後もWR芝山君に44ヤードのTDパス。これは文字通りピンポイントで、投げた方も確保した方も「お見事」というしかないプレーでした。
得点場面に絡んだ2年生の名前を挙げていくだけでも、立ち上がりに32ヤードのFGを決めた西岡君、前半斎藤君から計算され尽くしたTDパスをキャッチした杉山君、再三、豪快なラッシュを見せ、第4Qには中央をついてTDを決めた橋本君と2年生の名前が並びます。ついでにいうと、橋本君は強力な相手守備陣を引き裂いて、この日も82ヤードを走っています。水野君は見事なパスキャッチで52ヤードを獲得しており、ともにチームで一番の成績を挙げました。
山岸君は、相手ゴールラインをはるかに超すキックを何度か披露してくれましたし、本業のLBとしても元気なプレーを見せてくれました。安田君も試合経験を積むごとに動きがよくなっていますし、小池君は終盤、お約束のようにインターセプトを奪いました。
そして1年生。数少ない出番でしたが、藤木君がさっそくQBサックを記録。三木君も素早い動きを見せてくれました。前田君は2度パスをキャッチして20ヤードを獲得しています。相手の反則で動きを止められましたが、それがなければTDという場面もありました。
以上の通りです。急きょ引き受けた素人解説者が名前を挙げた2年生は全員、見事な活躍を見せてくれました。放送の際、名前を挙げるのを忘れた2年生、杉山君や池永君もいい動きをしていました。出場メンバーに登録されてすぐに素晴らしい活躍をしてくれた1年生を含めて、ファイターズの新しい芽は育っています。まだ芽吹いたばかりですが、それはまぶしいほどの光を放っています。金色の若葉といってよいでしょう。
みんな同じ学年です。今後、試合経験を重ね、互いに競い合って鍛えていけば、金色の新芽が濃い緑となり、存分に酸素を吸収して、ファイターズという大木に生命を注入してくれることは間違いありません。期待に胸がドキドキします。
(8)時計台とフットボール
投稿日時:2014/05/21(水) 09:39
関西学院は今年9月、創立125周年を迎える。節目の年に向けて、大学ではいま中央講堂の建て替え工事などが進み、募金活動も佳境に入っている。
上ヶ原キャンパスの正門を入った正面には、記念式典までの日付を日々更新する「カウントダウン・モニュメント」が設置され、道の両側には125周年と書いた青い旗が何本もはためいている。
125周年をアピールするそんな事業の一つとして、学院広報室が生協の書籍販売部で書籍購入者に「記念ブックカバー」を無料配布している。デザインは、1回目がKGブルーを基調とした時計台と正面のヒマラヤスギ。2回目が有名な版画家、川西英さんの作品を思わせるような色合いの時計台と甲山。
そして現在配布中の3回目が学院の創設者、ランバス先生の肖像と時計台である。そこにはヤシの木やカルガモの親子など、キャンパスに彩りを添えるあしらいもある。注意して見れば、ランバス先生の肖像の左下にアメフットのボールが描かれ、その隣にAmerican footballの文字がある。
関西学院と聞いた時、卒業生や在校生の誰もが思い浮かべるを時計台や甲山、ランバス先生やヒマラヤスギに混じって、なぜアメリカンフットボールのボールが描かれているのか。それがなぜ全体のデザインのなかで、しっくり収まっているのか。
関西学院には、全国に知られた競技団体がいくつもあるし、文化団体もある。けれども、このブックカバーをデザインした作者は、迷うことなく学生の課外活動を代表するイメージとしてアメフットのボールを描いた。そしてそのボールが全体の構図にしっくり収まって、何の違和感もない。なぜだろう。
関西学院の課外活動を象徴する団体がアメリカンフットボール部であり、そう呼ばれるのにふさわしい実績を積み上げてきたからだと、僕は決めつけている。念のために広報室に取材し、カバーの真ん中にアメフットのボールをデザインしたことに、ほかの団体から苦情めいたものはきていませんかと聞いて見た。答えは「そんな質問をしてきたのは石井さんが初めて。関学といえばアメフットと、大抵の人は思っているから、別に違和感はないのでしょう」ということだった。
つまり「関学といえばアメフット」という考え方がキャンパス内で定着しているから、このカバーをデザインした作者も「当然のように」ボールをその構図の中にあしらったのである。
広報室に居合わせた職員は全員、それが当然でしょう、という雰囲気だったが、よく考えればこれは大変なことである。
学生はもちろん、世間には多様な考え方がある。スポーツの好きな人がいれば、文化活動に熱中する人もいる。自らはクラブ活動に参加せず、学業やボランティア活動に集中している学生もいる。大学の職員や先生も同様である。みんながみんな、アメフット部を応援しているわけではない。自分の関心事を追うことに忙しく、部活のことなんて知ったことか、と思う人も多いはずだ。
けれども、そんな人たちを含めて、関西学院といえばアメリカンフットボール、ということに何の違和感も持っていない。すごいことではないか。
これは1941年の創部以来、営々として築いてきたチームの歴史が学院関係者に高く評価されてきた証しである。清く戦い、勝利者の名を誇りに思い、その名に恥じない品性を持ったチームを営々として築いてきた歴代の選手、部員、指導者がいたからこそ、甲子園ボウル出場48回、優勝26回(引き分け、両校優勝を含む)、関西リーグ優勝53回(複数校優勝を含む)という他に類を見ない成績が残せたのである。
もちろん、数字だけが評価されているのではない。以下の数行は3年前、アエラの「関西学院特集号」にも書いたことだが、ファイターズというチームの本質を表現していると思うのであらためて引用したい。
「たとえ戦力的に劣っている時でも、戦術を工夫し、知恵をしぼり、精神性を高めて、いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきたのがファイターズであり、戦後、一貫してアメフット界の頂点を争い続けて来た唯一のチームとしての矜持である。関西学院のスクールスポーツとして敬意を払われ、部員たちもそのことに特別の思いを持つ基盤はここにある」
こういうことである。
だから、関西学院をアピールする素材にアメリカンフットボールが取り上げられても、誰も違和感を持たず、それが当然と思ってくれるのである。
現役の諸君は全員、こういう歴史を背負って日々戦っているのだ。そのことを心に刻んで努力し、さらなる高みを目指していただきたい。
上ヶ原キャンパスの正門を入った正面には、記念式典までの日付を日々更新する「カウントダウン・モニュメント」が設置され、道の両側には125周年と書いた青い旗が何本もはためいている。
125周年をアピールするそんな事業の一つとして、学院広報室が生協の書籍販売部で書籍購入者に「記念ブックカバー」を無料配布している。デザインは、1回目がKGブルーを基調とした時計台と正面のヒマラヤスギ。2回目が有名な版画家、川西英さんの作品を思わせるような色合いの時計台と甲山。
そして現在配布中の3回目が学院の創設者、ランバス先生の肖像と時計台である。そこにはヤシの木やカルガモの親子など、キャンパスに彩りを添えるあしらいもある。注意して見れば、ランバス先生の肖像の左下にアメフットのボールが描かれ、その隣にAmerican footballの文字がある。
関西学院と聞いた時、卒業生や在校生の誰もが思い浮かべるを時計台や甲山、ランバス先生やヒマラヤスギに混じって、なぜアメリカンフットボールのボールが描かれているのか。それがなぜ全体のデザインのなかで、しっくり収まっているのか。
関西学院には、全国に知られた競技団体がいくつもあるし、文化団体もある。けれども、このブックカバーをデザインした作者は、迷うことなく学生の課外活動を代表するイメージとしてアメフットのボールを描いた。そしてそのボールが全体の構図にしっくり収まって、何の違和感もない。なぜだろう。
関西学院の課外活動を象徴する団体がアメリカンフットボール部であり、そう呼ばれるのにふさわしい実績を積み上げてきたからだと、僕は決めつけている。念のために広報室に取材し、カバーの真ん中にアメフットのボールをデザインしたことに、ほかの団体から苦情めいたものはきていませんかと聞いて見た。答えは「そんな質問をしてきたのは石井さんが初めて。関学といえばアメフットと、大抵の人は思っているから、別に違和感はないのでしょう」ということだった。
つまり「関学といえばアメフット」という考え方がキャンパス内で定着しているから、このカバーをデザインした作者も「当然のように」ボールをその構図の中にあしらったのである。
広報室に居合わせた職員は全員、それが当然でしょう、という雰囲気だったが、よく考えればこれは大変なことである。
学生はもちろん、世間には多様な考え方がある。スポーツの好きな人がいれば、文化活動に熱中する人もいる。自らはクラブ活動に参加せず、学業やボランティア活動に集中している学生もいる。大学の職員や先生も同様である。みんながみんな、アメフット部を応援しているわけではない。自分の関心事を追うことに忙しく、部活のことなんて知ったことか、と思う人も多いはずだ。
けれども、そんな人たちを含めて、関西学院といえばアメリカンフットボール、ということに何の違和感も持っていない。すごいことではないか。
これは1941年の創部以来、営々として築いてきたチームの歴史が学院関係者に高く評価されてきた証しである。清く戦い、勝利者の名を誇りに思い、その名に恥じない品性を持ったチームを営々として築いてきた歴代の選手、部員、指導者がいたからこそ、甲子園ボウル出場48回、優勝26回(引き分け、両校優勝を含む)、関西リーグ優勝53回(複数校優勝を含む)という他に類を見ない成績が残せたのである。
もちろん、数字だけが評価されているのではない。以下の数行は3年前、アエラの「関西学院特集号」にも書いたことだが、ファイターズというチームの本質を表現していると思うのであらためて引用したい。
「たとえ戦力的に劣っている時でも、戦術を工夫し、知恵をしぼり、精神性を高めて、いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきたのがファイターズであり、戦後、一貫してアメフット界の頂点を争い続けて来た唯一のチームとしての矜持である。関西学院のスクールスポーツとして敬意を払われ、部員たちもそのことに特別の思いを持つ基盤はここにある」
こういうことである。
だから、関西学院をアピールする素材にアメリカンフットボールが取り上げられても、誰も違和感を持たず、それが当然と思ってくれるのである。
現役の諸君は全員、こういう歴史を背負って日々戦っているのだ。そのことを心に刻んで努力し、さらなる高みを目指していただきたい。
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