石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2013/5
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(9)「雲外蒼天」
投稿日時:2013/05/28(火) 22:38
いま働く若い女性から熱狂的な支持を受けている小説に「みをつくし料理帖」シリーズ(角川春樹事務所)がある。第一作の「八朔の雪」から始まり、7作目の「夏天の虹」まで、文庫の書き下ろしで7作が刊行され、それぞれがベストセラーになっている。もちろん、男が読んでも面白い。作者は阪急今津線沿線にお住まいの高田郁さんである。
主人公は澪(みお)。8歳の時、大阪の洪水で肉親を失い、いまは江戸で小さな店を持ち、数々の試練を克服しながら、一途に料理人の修行を続けている。
そんな彼女を、子どもの頃に占った易者の見立てが「雲外蒼天」。そう、澪はいま、どんよりとした雲の中で、自身の運命を切り開くため、悪戦苦闘しているが、そこを突き抜ければ「蒼天」すなわち突き抜けるような青い空が広がっている。そういう話である。
長々と余計なことを書いてきた。でも、ファイターズのQB斎藤がいま、まさにそのような状況、つまり「雲外蒼天」の場面を迎えようとしていると思えてならないので、あえて本筋と関係のない話を持ち出した次第であえる。忙しい人は、ここから読んでいただきたい。
26日、晴天の王子スタジアムで行われた関大との戦いは、秋本番のような緊迫したゲームになった。
第1Qこそ、互いに攻撃が続かず0-0だったが、第2Qに入ると、斎藤からのパスが立て続けに通り始める。自陣7ヤードから始まった攻撃だったが、WR林、梅本、樋之本、さらにはRB飯田へと4本連続してパスを成功させ、あっという間にゴール前8ヤード。ここで斎藤がパスのフェイクからそのまま右オープンを切れ上がってTD。K三輪のキックも決まって7-0とリードする。
すぐさま関大が反撃。松田、地村というスピード豊かなRB陣が立て続けにラッシュを決め、ランプレーだけでTDに持ち込み、あっという間に同点。
しかし、ファイターズも負けてはいない。自陣36ヤードからの攻撃では、またまた斎藤のパスが炸裂。WR木戸、横山、梅本に長短織り交ぜたパスを3本続けてヒットさせ、わずか5回の攻撃でゴール前1ヤード。ここからRB三好が走り込んで、再び14-7とリードして前半は終了。
しかし、本当の勝負は後半に入ってから。第3Qファイターズの最初の攻撃シリーズでは斎藤のスクランブル、斎藤から木戸への46ヤードパスであっという間に敵陣に入り、仕上げは斎藤から梅本への38ヤードTDパス。21-7とリードしたが、それもつかの間。相手のエース高崎に約95ヤードのキックオフリターンTDを決められ、再び勝負の行方へは分からなくなる。
なんせディフェンスが、相手の切れのよいランに対応出来ない。要所要所で1年生のLB西田、山岸、松尾が競うようにロスタックルやQBサックを決め、しのいできたが、ついに終了直前にゴール前15ヤードからTDパスを決められて21-20。勢いに乗る関大はここでキックではなく逆転を狙ってプレーを選択。このパスが失敗して、何とかファイターズが勝利を収めた。
このように得点経過をたどっていけば、ファイターズは斎藤のパスが攻撃のキーになっていたことがよく分かる。この日は能力の高いレシーバー陣がそろっていたこともあり、糸を引くような美しいパスが何度も成功した。パスが通るから、時折見せるQBドローやパスフェイクのランも余裕で決まる。シーズン当初の日大や神戸大との試合、さらには昨年の甲子園ボウルでパスが通らず、もがき苦しんでいた姿はすっか
り消えていた。
まさに「雲外蒼天」を絵に描いたような変身ぶりである。前回のコラム「晴れたらいいね」で書いたように、この前の日体大戦から変身の兆候は見えていたが、正直言って、ここまで素晴らしいプレーを見せてくれるとは想像外だった。
でも、変身は偶然のたまものではない。試合ごとにインターセプトを喫し、先発メンバーからも外れるなど苦しい状況が続く中でも腐らず、誰よりも早くグラウンドに出て黙々とパスの練習に励んできたからこそ、重苦しい雲、分厚い雲を突破できたのである。
その相手を必ずといっていいほど務めてきたのが梅本や木戸、そして横山。この日のパスゲームの一方の主役を務めた面々である。
練習は裏切らないという言葉は、生きている。この日、主力選手の何人かを欠いて、いまひとつ関大のラン攻撃に対応仕切れなかった守備陣もまた、この言葉を胸に刻んで頑張ってくれることを期待する。
主人公は澪(みお)。8歳の時、大阪の洪水で肉親を失い、いまは江戸で小さな店を持ち、数々の試練を克服しながら、一途に料理人の修行を続けている。
そんな彼女を、子どもの頃に占った易者の見立てが「雲外蒼天」。そう、澪はいま、どんよりとした雲の中で、自身の運命を切り開くため、悪戦苦闘しているが、そこを突き抜ければ「蒼天」すなわち突き抜けるような青い空が広がっている。そういう話である。
長々と余計なことを書いてきた。でも、ファイターズのQB斎藤がいま、まさにそのような状況、つまり「雲外蒼天」の場面を迎えようとしていると思えてならないので、あえて本筋と関係のない話を持ち出した次第であえる。忙しい人は、ここから読んでいただきたい。
26日、晴天の王子スタジアムで行われた関大との戦いは、秋本番のような緊迫したゲームになった。
第1Qこそ、互いに攻撃が続かず0-0だったが、第2Qに入ると、斎藤からのパスが立て続けに通り始める。自陣7ヤードから始まった攻撃だったが、WR林、梅本、樋之本、さらにはRB飯田へと4本連続してパスを成功させ、あっという間にゴール前8ヤード。ここで斎藤がパスのフェイクからそのまま右オープンを切れ上がってTD。K三輪のキックも決まって7-0とリードする。
すぐさま関大が反撃。松田、地村というスピード豊かなRB陣が立て続けにラッシュを決め、ランプレーだけでTDに持ち込み、あっという間に同点。
しかし、ファイターズも負けてはいない。自陣36ヤードからの攻撃では、またまた斎藤のパスが炸裂。WR木戸、横山、梅本に長短織り交ぜたパスを3本続けてヒットさせ、わずか5回の攻撃でゴール前1ヤード。ここからRB三好が走り込んで、再び14-7とリードして前半は終了。
しかし、本当の勝負は後半に入ってから。第3Qファイターズの最初の攻撃シリーズでは斎藤のスクランブル、斎藤から木戸への46ヤードパスであっという間に敵陣に入り、仕上げは斎藤から梅本への38ヤードTDパス。21-7とリードしたが、それもつかの間。相手のエース高崎に約95ヤードのキックオフリターンTDを決められ、再び勝負の行方へは分からなくなる。
なんせディフェンスが、相手の切れのよいランに対応出来ない。要所要所で1年生のLB西田、山岸、松尾が競うようにロスタックルやQBサックを決め、しのいできたが、ついに終了直前にゴール前15ヤードからTDパスを決められて21-20。勢いに乗る関大はここでキックではなく逆転を狙ってプレーを選択。このパスが失敗して、何とかファイターズが勝利を収めた。
このように得点経過をたどっていけば、ファイターズは斎藤のパスが攻撃のキーになっていたことがよく分かる。この日は能力の高いレシーバー陣がそろっていたこともあり、糸を引くような美しいパスが何度も成功した。パスが通るから、時折見せるQBドローやパスフェイクのランも余裕で決まる。シーズン当初の日大や神戸大との試合、さらには昨年の甲子園ボウルでパスが通らず、もがき苦しんでいた姿はすっか
り消えていた。
まさに「雲外蒼天」を絵に描いたような変身ぶりである。前回のコラム「晴れたらいいね」で書いたように、この前の日体大戦から変身の兆候は見えていたが、正直言って、ここまで素晴らしいプレーを見せてくれるとは想像外だった。
でも、変身は偶然のたまものではない。試合ごとにインターセプトを喫し、先発メンバーからも外れるなど苦しい状況が続く中でも腐らず、誰よりも早くグラウンドに出て黙々とパスの練習に励んできたからこそ、重苦しい雲、分厚い雲を突破できたのである。
その相手を必ずといっていいほど務めてきたのが梅本や木戸、そして横山。この日のパスゲームの一方の主役を務めた面々である。
練習は裏切らないという言葉は、生きている。この日、主力選手の何人かを欠いて、いまひとつ関大のラン攻撃に対応仕切れなかった守備陣もまた、この言葉を胸に刻んで頑張ってくれることを期待する。
(8)「晴れたらいいね」
投稿日時:2013/05/20(月) 18:57
ドリカムの吉田美和が「晴れたらいいね」と元気よく歌っていたのは、もう20年ほど前。その頃、僕は社会部のデスクで、深夜というか未明までの勤務が多かった。当時、結構気の合った上司が新地で飲んだ後、朝刊の締め切り間際に上機嫌でデスク席に顔を出し、ゲラ刷りを見ながら、この歌を鼻歌で歌っていたので、なぜかよく覚えている。
18日の日体大戦は快晴。大阪湾から吹き上げてくる風は強かったが、これ以上の天候は望めないほどの好天のもと、上ケ原の第3フィールドで行われた。
ファイターズのQBにとっては、まさに「晴れたらいいね」の試合内容。先発が斎藤、後半が前田、最後が1年生伊豆という順番に登場したが、それぞれ雨とゴムボールに苦しんだ1週間前の神戸大戦とは見違えるような軽快な動きを見せた。
まずは斎藤。立ち上がりこそ、RB三好、榎本を使ったランプレーが中心だったが、2シリーズ目からはTE山本、WR木村に短いパスをびしびしと決めていく。そして3シリーズ目。自らのスクランブルとWR西山へのパスを足がかりに相手ゴール前に迫り、仕上げはRB榎本、吉澤、榎本とランを3本続けてTD。主導権を握った。
次の日体大の攻撃シリーズでは鮮やかなTDパスを通されてしまったが、自陣20ヤードから始まった次のシリーズでファイターズが反撃。榎本の20ヤードラン、斎藤から山本への53ヤードのパスで、あっというまに敵陣7ヤード。そこから吉澤が中央を切れ上がってTD。わずか3プレーで逆転に成功。2点を狙った斎藤からWR横山へのパスも通って、上々の攻撃だ。
自陣40ヤードから始まった次の攻撃シリーズも、吉澤のラン、WR木村へのパス、RB池永のラン、WR林へのパスで陣地を進め、仕上げは三好の18ヤードランでTD。ランとパスを交互に使った攻撃で相手守備陣に的を絞らせなかった。さらに残り1分24秒、自陣28ヤードから始まった次のシリーズも、WR宮原、横山、TE山本へのパスを立て続けにヒット、最後は三好のランでTD。その間、攻撃に要した時間はわずかに40秒ほどだった。
振り返れば、第1Q終了間際から始まった4回の攻撃シリーズをすべてTDに仕上げるテンポのよい攻撃。前の週まで、雨の中でパスが通らず、四苦八苦していた斎藤とは別人のような試合運びだった。まさに「晴れたらいいね」である。
後半に登場した前田もまた、先週までとは見違えるような動きを見せた。要所要所で自らのキープで陣地を稼ぎ、急所では木村への62ヤードのTDパスや山本へのTDパスに代表されるパスを決めた。
とにかく獲得したヤードが500ヤードを超えているのだから、QBを中心にオフェンス陣が頑張ったことは間違いない。そういえば、ラインが割られてQBが逃げ回る場面はほとんどなかった。
守備はどうか。こちらは、よい点も悪い点もいっぱいあった。なんせ、出場したのが下級生中心で、ほとんどが試合経験の少ないメンバーだ。彼らがプレーごとに入れ替わり立ち替わり登場するのだから、タイミングを合わせるだけでも大変だ。無用なオフサイドなど反則が多かったのも、その影響だろう。
しかし、それでも見せ場はいくつもあった。その象徴が日体大の流れを断ち切った4本のインターセプト。そのままリターンTDに持ち込んだDB伊藤(2年)をはじめ、市川(3年)、菊山(2年)、LB山岸(1年)と、相手のパスを見事に奪った選手の名前を挙げていっても、よほど熱心なファン以外はご存じないだろう。
神戸大戦で活躍した2年生LB山崎、1年生LB西田(啓明学院)、山岸(中央大付属)らがこの日も上級生顔負けの動きを見せ、1年生DL松本、安田(ともに高等部)、堀川(大阪学芸)らも、強い当たりで相手攻撃の芽を摘んだ。
そしてもう一人、この日初めて登場し、いきなりTDランを見せた1年生RBパング(横浜栄)が注目される。高校ではDLをやっていたが、動きの良さを買われてRBに転向、最初の試合で結果を出した。
試合内容をビデオで分析すれば、問題点はいくつもあるに違いない。立ち上がり、ずるずると日体大に押され、簡単に陣地を進められていたこと、無用な反則が多く、せっかくの攻撃のリズムに水を差していたことなど、昨年の関西リーグ終盤からライスボウルまでの道のりを経験している上級生との力の差は歴然としている。
しかし、いまは春である。秋に備えてチームの底上げを図り、選手に経験を積ませることが何よりも優先する。その意味で、QB陣をはじめ、期待の新戦力が存分に活躍してくれたこの日の試合は「晴れたらいいね」と総括したい。
18日の日体大戦は快晴。大阪湾から吹き上げてくる風は強かったが、これ以上の天候は望めないほどの好天のもと、上ケ原の第3フィールドで行われた。
ファイターズのQBにとっては、まさに「晴れたらいいね」の試合内容。先発が斎藤、後半が前田、最後が1年生伊豆という順番に登場したが、それぞれ雨とゴムボールに苦しんだ1週間前の神戸大戦とは見違えるような軽快な動きを見せた。
まずは斎藤。立ち上がりこそ、RB三好、榎本を使ったランプレーが中心だったが、2シリーズ目からはTE山本、WR木村に短いパスをびしびしと決めていく。そして3シリーズ目。自らのスクランブルとWR西山へのパスを足がかりに相手ゴール前に迫り、仕上げはRB榎本、吉澤、榎本とランを3本続けてTD。主導権を握った。
次の日体大の攻撃シリーズでは鮮やかなTDパスを通されてしまったが、自陣20ヤードから始まった次のシリーズでファイターズが反撃。榎本の20ヤードラン、斎藤から山本への53ヤードのパスで、あっというまに敵陣7ヤード。そこから吉澤が中央を切れ上がってTD。わずか3プレーで逆転に成功。2点を狙った斎藤からWR横山へのパスも通って、上々の攻撃だ。
自陣40ヤードから始まった次の攻撃シリーズも、吉澤のラン、WR木村へのパス、RB池永のラン、WR林へのパスで陣地を進め、仕上げは三好の18ヤードランでTD。ランとパスを交互に使った攻撃で相手守備陣に的を絞らせなかった。さらに残り1分24秒、自陣28ヤードから始まった次のシリーズも、WR宮原、横山、TE山本へのパスを立て続けにヒット、最後は三好のランでTD。その間、攻撃に要した時間はわずかに40秒ほどだった。
振り返れば、第1Q終了間際から始まった4回の攻撃シリーズをすべてTDに仕上げるテンポのよい攻撃。前の週まで、雨の中でパスが通らず、四苦八苦していた斎藤とは別人のような試合運びだった。まさに「晴れたらいいね」である。
後半に登場した前田もまた、先週までとは見違えるような動きを見せた。要所要所で自らのキープで陣地を稼ぎ、急所では木村への62ヤードのTDパスや山本へのTDパスに代表されるパスを決めた。
とにかく獲得したヤードが500ヤードを超えているのだから、QBを中心にオフェンス陣が頑張ったことは間違いない。そういえば、ラインが割られてQBが逃げ回る場面はほとんどなかった。
守備はどうか。こちらは、よい点も悪い点もいっぱいあった。なんせ、出場したのが下級生中心で、ほとんどが試合経験の少ないメンバーだ。彼らがプレーごとに入れ替わり立ち替わり登場するのだから、タイミングを合わせるだけでも大変だ。無用なオフサイドなど反則が多かったのも、その影響だろう。
しかし、それでも見せ場はいくつもあった。その象徴が日体大の流れを断ち切った4本のインターセプト。そのままリターンTDに持ち込んだDB伊藤(2年)をはじめ、市川(3年)、菊山(2年)、LB山岸(1年)と、相手のパスを見事に奪った選手の名前を挙げていっても、よほど熱心なファン以外はご存じないだろう。
神戸大戦で活躍した2年生LB山崎、1年生LB西田(啓明学院)、山岸(中央大付属)らがこの日も上級生顔負けの動きを見せ、1年生DL松本、安田(ともに高等部)、堀川(大阪学芸)らも、強い当たりで相手攻撃の芽を摘んだ。
そしてもう一人、この日初めて登場し、いきなりTDランを見せた1年生RBパング(横浜栄)が注目される。高校ではDLをやっていたが、動きの良さを買われてRBに転向、最初の試合で結果を出した。
試合内容をビデオで分析すれば、問題点はいくつもあるに違いない。立ち上がり、ずるずると日体大に押され、簡単に陣地を進められていたこと、無用な反則が多く、せっかくの攻撃のリズムに水を差していたことなど、昨年の関西リーグ終盤からライスボウルまでの道のりを経験している上級生との力の差は歴然としている。
しかし、いまは春である。秋に備えてチームの底上げを図り、選手に経験を積ませることが何よりも優先する。その意味で、QB陣をはじめ、期待の新戦力が存分に活躍してくれたこの日の試合は「晴れたらいいね」と総括したい。
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