石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2013/4

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(4)朝鍛夕錬

投稿日時:2013/04/22(月) 18:56

 4月20日、土曜日。2013年シーズンは、慶応大学との戦いから始まった。王子スタジアムは前日からの戻り寒波、おまけに試合途中から小雨の降るあいにくの天候だったが、開幕を待ちかねたファンで、ファイターズ応援席は満員。同じ王子スタジアムで行われる秋のリーグ戦よりも多くの観客が詰めかけた。
 この試合が春恒例の新入生歓迎試合として、すべてをファイターズの仕切りで行われたこともあって、スタンドには大学の新入生はもちろん、中学部や啓明学院の新入生も大勢詰めかけている。この2年間、甲子園ボウルで勝ち、ライスボウルでも記憶に残る名勝負を演じたことが影響したのだろう。今年はとりわけ若い女性が多く、いつもの開幕戦とはひと味もふた味も異なって見えた。
 これは、かねがね言っていることだが、新しいフットボールを開拓するためには、若い女性に来てもらうのが一番。流行に敏感な女性の人気に火がつけば、男性は勝手について来てくれる。そうなれば、一気に人気が盛り上がり、競技人口が増え、よりレベルの高い試合が展開される。それが評判を呼んで、日本でもフットボールがメジャーになる。この日がそういうストーリーの幕開けかもしれない……そう思うと、主催者でもいないのに、ワクワクしてきた。
 ということで、試合の話である。
 この評価が難しい。得点は45-9。数字だけを見れば、ファイターズの圧勝である。だが、双方の記録を見ると、様子は一変する。獲得ヤードは335ヤードと302ヤード、ファーストダウンの獲得回数は16回と14回。パス成功回数はともに24回投げて12回。全くの互角である。攻撃時間にいたっては、ファイターズが16分56秒しかないのに、慶応が31分4秒。まるでどちらが勝ったのか分からないような内容である。
 原因ははっきりしている。ファイターズがRB鷺野とWR木戸が都合3度に渡って、独走タッチダウン(TD)を獲得主導権を握ってしまったからだ。最初は鷺野が64ヤードを独走。次は木戸が78ヤードのパントリターンTD、第3Qの開始直後に再び鷺野がキックオフリターンTD。こんなスポ根ドラマのような場面が連続したのだから、見ている方は満足、満足である。
 だが、それ以外の攻撃が振るわない。単発では、パスもランもいいプレーが出るのだが、一つ一つのプレーに物語を盛り込んだような攻撃がシリーズとして展開出来ないのである。前半は斎藤、後半は前田という3年生QBが急所でパスを投じ、RB三好やRB飯田のランがあって、なんとか3本のTDを獲得したが、鷺野と木戸の個人技で挙げた3本のTDがなかったら、もっともっと競り合ったゲームになっていただろう。
 守備も苦しかった。DL池永、LB小野、DB池田、鳥内というライスボウルで活躍した選手たちが出ているときは、相手を完封していたが、メンバーが交代すると、一気につけ込まれる。同じ第3ダウンロングという状況から、同じようなパスを同じレシーバーに何度も通されたし、中央の同じようなランプレーでも陣地を稼がれた。
 とにかくランとパスで計300ヤード以上進まれたのだ。そんな試合は、昨シーズンほとんどなかった。それは、慶応のスキルポジションに、能力の高い選手が何人もいたことが一番の原因だろう。だが、試合経験のほとんどないメンバーがどう動けばいいか、迷いに迷った点にも一因はあった。
 その意味では、試合経験の少ない下級生に彼我の力の差を体感させる、極めて収穫の多い試合だったともいえる。同時にそれは、まだまだ練習して身につけなければならないことがたくさんある、ということの裏返しでもある。
 幸いDB陣を中心に、下級生にはポテンシャルの高い選手が何人もいる。2年生の田中はこの日の先発だったし、交代要員として登場した奥田や伊藤、梅本弟ら、フットボール未経験者の素早い動きも特筆される。同じ未経験者で3年生の森岡は、この日の試合には出なかったが、先日の紅白戦ではピカイチの活躍だった。
 この日登場した3年生QB二人とともに、今後、しっかり練習を積めば、十分試合を担えるプレーヤになれるに違いない。
 振り返れば、この日、立て続けにビッグプレーを披露した木戸も鷺野も、1年生の時から、同期の誰よりも熱心に練習に取り組んできた選手である。トレーニングセンターでの筋力トレーニング、グラウンドでの当たりモノ。それらを徹底することで、想像を絶する強靱(きょうじん)な体を作り上げてきた。少々、相手のタックルを受けても倒れない体をつくり、ふりほどける動きを身に付けてきたのである。
 彼らの努力、精進がお手本になる。たとえいまは不本意でも、その失敗を糧にして練習に励めば道は開けるのだ。
 キーワードは鍛錬である。宮本武蔵の言う「朝鍛夕錬」。その大切さに気付き、トレーニングに取り組むことが出来たなら、この日の苦しみもやがては思い出話になるに違いない。頑張ろう。

(3)70人のニューカマー

投稿日時:2013/04/17(水) 19:16

 アメフットは攻守それぞれ11人。分業が進んだ最近では、それにキッカーやホールダー、スナッパーが専門職のようになっているから、とりあえず25人のメンバーを揃えれば、試合は可能である。
 でも、出来ればそれぞれのポジションに1人ずつは交代メンバーがほしい。それらのメンバーがけがや体調不良で出場できない時に備えて、もう1組(合計3組75人)のメンバーが集まれば、日本の大学では上々の部類だろう。これにマネジャーやトレーナー、分析スタッフがそれぞれ何人か集まれば、計算上は立派なチームが出来る。
 ところが、ファイターズには、今春入学した1年生が4月半ばの時点で、なんと70人近くも入部している。平均的な大学なら、4年生まですべてを足した人数である。えらいこっちゃ。
 先週の土曜日、チーム練習の後で、彼、彼女らが全員集合し、上級生に向かって自己紹介をしている現場に居合わせたが、ほんの一言ずつの紹介なのに、30分以上はかかった。その内容を紹介すれば、それはそれで楽しいけど、今回はカット。代わりにこの70人の内訳をざっと紹介してみる。
 一番多いのは高等部と啓明学院でフットボールをしていたメンバー。両校は昨年の兵庫大会決勝で、追いつ追われつの熱戦を展開した実力校。高等部はその余勢をかって関西大会で勝ち、クリスマスボウルに進出した。そのメンバーの多くが入部しているのだから頼もしい。
 さらに高等部からは、野球部で活躍していた5人も団体で入部している。4年生のDB鳥内君やWR梅本君ら野球部出身者がチームの中心選手に育っている現状を見ると、彼らの中から第2、第3の鳥内君や梅本君が出てくれることが期待できる。
 もう一つの固まりはスポーツ選抜入試で合格したメンバー。総勢10人あまりだが、こちらにはタッチダウン誌のトップボーイズに選ばれた選手が何人もいる。体がでかくて動ける選手、俊敏な選手、そして見るからにクレバーな選手。まだまだ体はできあがっていないが、身長だけなら巨漢揃いのOLにひけをとらないメンバーも少なくない。加えてAO入試でもトップボーイズや実績のある選手が何人も入部している。
 いまはまだ、大半が上級生とは別メニューで、練習に参加できる体を作り、基本的な動きを反復している段階だが、鳥内監督が優先的にその練習を見て、指導者役のトレーナーや上級生に細かい点を注意しているのを見ても、期待の高さが分かる。
 もちろん、入学前からしっかり体作りをしてきた数人の選手(ほとんどがトップボーイズに選出されたメンバーである)は、先週末から上級生の練習に参加し(当たりモノなどハードな内容は別にして)、その実力の片鱗を披露している。試合に出るまでには時間がかかるだろうが、それでも春の後半には複数の選手に出場機会がありそうだ。
 つい先日、親しくつきあってきた多くの4年生を送り出したばかりのグラウンドだが、こうした状況で、あっという間ににぎやかになった。
 さて、こうした原石をどのように宝石に磨き上げるか。ここからがファイターズの勝負である。真価が問われるところである。
 スポーツ選抜や高等部の経験者を鍛えるだけで、勝てるチームが出来るのなら苦労はない。本当に強いチームは、この世界では無名の高校からの出身者や他のスポーツ経験者、それに全くの未経験者を育てて初めてできあがる。近年、甲子園ボウルで優勝したときのメンバーには、そういう選手が必ずいた。例えば、2007年度にはWR秋山君、11年度にはOLのスーパーサブ小林君、12年度は野球部出身のDB保宗君。3年生だった梅本君や鳥内君の活躍も特筆される。
 つまり、ファイターズは高校時代にフットボールをしていなかったメンバーを大学進学後に部内で鍛え、重要な戦力に育て上げるノウハウと環境を持っているということだ。
 未経験者でも甲子園ボウルの舞台に立てる、ライスボウルでも活躍できる選手に育てる、というファイターズのシステムは、もっと評価されていい。その意味でも、70人を数えるニューカマーのこれからが期待される。この中から2年後、3年後にどんな選手が活躍してくれるか、大いに注目している。
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