石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2013/11
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(32)負けない試合
投稿日時:2013/11/26(火) 13:09
お見事!という言葉がこれほど似合う試合は、そうそうお目にかかれない。11月24日、長居スタジアムで行われた関西リーグの最終戦。甲子園出場権をかけた関学と立命の決戦は、両チームの力と力、技と技、意地と誇りが真っ向からぶつかり、それに両軍ベンチの采配が火花を散らせる熱戦だった。
結果は0-0。長いフットボール観戦歴で初めて体験するスコアだった。
両チームともに点をとることが出来なかったが、それほど試合は拮抗していた。互いの守備が相手の得意とする攻撃を徹底的に封じ込め、ミスを最小限に抑え、にもかかわらず両チームのオフェンス陣が果敢に攻め続けた、これが結果である。得点は1点も入らなかったが、見応えは満点だった。
コイントスに勝ったファイターズが前半は守備からという選択をしたところから、ゲームはスタートした。いつもの立命戦なら「先行、逃げ切り」を目指すはずだが、ベンチに「今日は守り合い」というこの日のシナリオがあったからに違いない。
今シーズン、ファイターズは攻守が互いに連携して順調に勝ち星を重ねてきた。ところが立命は前節、京大に完敗して遅れをとった。それを挽回するには、この日の試合に勝ち、再度、甲子園出場権をかけてファイターズに勝つしかない。もちろん、ファイターズも負けられない。たとえ1敗しても決定戦があるなんて甘いことを考えた瞬間に、相手を勢いづかせてしまう。まして相手は、手負いである。死にものぐるいで立ち向かってくる。それを受けて立つには、相手を上回る強い意志とチームの結束が必要だ。
「とことん守りきって勝つ。点を与えなければ負けることはない」。守備を担当する堀口コーチの言葉の意味するところがチームの全員に浸透し、攻守ともにその方針に徹した結果が0-0というスコアである。
互いに爆発的な攻撃力を持ち、パスでもランでも、いかようにも得点する力を持っている。キッキングチームも鍛えられているし、守備陣が点を取って突破口を開いてきた試合もある。スペシャルプレーを入念に準備してきたことも、過去の戦いを振り返れば、ともに想定の範囲だろう。
そういう両チームが試合終了の笛が鳴るまで、互いに相手の攻撃の芽を摘み、得意技を封じ、ミスを防ぎあって戦った試合である。ファイターズの守備陣があの強力な立命オフェンスを相手に、ラン攻撃を0ヤードに封じたという一事を見ても、その素晴らしさが証明されている。見事というしかない。
それでも、互いに付け入るチャンスはあった。ファイターズにとっては、第2Qの半ば、自陣40ヤード付近からの第4ダウン、パンター伊豆がスナッパーの横山にパントフェイクのパスを通して敵陣38ヤード付近に攻め込んだ場面はそのひとつである。だが、この好機も、立命守備陣の奮起で逸してしまう。
立命も2Qの終盤、アグレッシブなパントカバーチームのプレーで好機をつかむ。高く上がったパントをキャッチしたWR木戸が相手DB二人から強烈なタックルを浴び、腕からボールをもぎ取られてしまったのだ。ターンオーバー。ゴール前23ヤードで攻撃権を失うという厳しい局面だったが、ここでもファイターズ守備陣が奮起した。
立命の第1プレー、QBからのパスをLB池田が指先ではじき、少し浮いたボールを今度はLB吉原がカット。大きく跳ね上がったボールをDB大森がキャッチして、またまた攻撃権を奪い返した。
この場面、最初にQBの前に立ちはだかった池田、飛び上がってボールをカットした吉原、そのボールを冷静に確保し11ヤードをリターンした大森の3人の息がぴたりとあって、絵に描いたようなインターセプトが完成した。
こうなると、後半は完全に守り合いと時間のつぶし合いである。
ここでも特筆すべきは、ファイターズ守備陣の活躍だった。相手にレシーバーを捜す余裕を与えない機敏な動きでパスを封じ、決定的なチャンスを一度も与えなかった。なんせあの強力な立命オフェンスを相手に、前後半に5度のQBサックを決め、ロスタックルを何度も浴びせて、(繰り返しになるが)ラン攻撃を0ヤードに封じ込めたのである。
攻撃陣もこれに呼応して、徹底的に時間を消費する作戦を展開する。力の梶原、技の飯田、スピードの鷺野という3人のRBと、終始冷静に判断して自らボールをキープするQB斎藤のキーププレーを組み合わせ、ごりごりと陣地を進め、時計を進めていく。
記録を見れば、この試合の攻撃時間は立命が約20分、ファイターズ約28分。ファイターズがいかにリスク管理をしながら、負けない試合運びをしたかかが、こうした時間の使い方からも理解できるだろう。
時間の使い方で、特筆しておきたいことがひとつある。タイムアウトの取り方をめぐる両軍ベンチの駆け引きである。
立命はこの試合、前半と後半に2回ずつまとめてタイムアウトを取った。ともに第4ダウンショート。ファイターズはパント隊形をとったが、立命ベンチは何か不穏なものを感じたのだろう。プレーの直前にタイムアウトをとって、万一のフェイクプレーに備えた。
なにしろ、まだ第2Qに入ったばかりなのに伊豆から横山へのパントフェイクのパスを成功させてダウンを更新しているファイターズである。過去にもこうしたフェイクプレーで、ファイターズは活路を開いてきた。その記憶が相手ベンチに刻まれているから、入念な打ち合わせでカバーチームに備えさせたのはよく分かる。
もちろん、僕のような部外者にはファイターズベンチがそれぞれの場面で、どんなプレーを用意していたのかは分からない。それでも、グラウンドで戦う者同士、互いに不穏な気配が流れていたのだろう。だからこそタイムアウトを連発したのだろうが、結果として終盤、ファイターズの「時間を消費する攻撃」が進めやすくなったことは確かである。
こういう両軍ベンチの微妙な駆け引きを含めて、本当に奥の深い見事な試合であり、見応えがあった。
結果は0-0。長いフットボール観戦歴で初めて体験するスコアだった。
両チームともに点をとることが出来なかったが、それほど試合は拮抗していた。互いの守備が相手の得意とする攻撃を徹底的に封じ込め、ミスを最小限に抑え、にもかかわらず両チームのオフェンス陣が果敢に攻め続けた、これが結果である。得点は1点も入らなかったが、見応えは満点だった。
コイントスに勝ったファイターズが前半は守備からという選択をしたところから、ゲームはスタートした。いつもの立命戦なら「先行、逃げ切り」を目指すはずだが、ベンチに「今日は守り合い」というこの日のシナリオがあったからに違いない。
今シーズン、ファイターズは攻守が互いに連携して順調に勝ち星を重ねてきた。ところが立命は前節、京大に完敗して遅れをとった。それを挽回するには、この日の試合に勝ち、再度、甲子園出場権をかけてファイターズに勝つしかない。もちろん、ファイターズも負けられない。たとえ1敗しても決定戦があるなんて甘いことを考えた瞬間に、相手を勢いづかせてしまう。まして相手は、手負いである。死にものぐるいで立ち向かってくる。それを受けて立つには、相手を上回る強い意志とチームの結束が必要だ。
「とことん守りきって勝つ。点を与えなければ負けることはない」。守備を担当する堀口コーチの言葉の意味するところがチームの全員に浸透し、攻守ともにその方針に徹した結果が0-0というスコアである。
互いに爆発的な攻撃力を持ち、パスでもランでも、いかようにも得点する力を持っている。キッキングチームも鍛えられているし、守備陣が点を取って突破口を開いてきた試合もある。スペシャルプレーを入念に準備してきたことも、過去の戦いを振り返れば、ともに想定の範囲だろう。
そういう両チームが試合終了の笛が鳴るまで、互いに相手の攻撃の芽を摘み、得意技を封じ、ミスを防ぎあって戦った試合である。ファイターズの守備陣があの強力な立命オフェンスを相手に、ラン攻撃を0ヤードに封じたという一事を見ても、その素晴らしさが証明されている。見事というしかない。
それでも、互いに付け入るチャンスはあった。ファイターズにとっては、第2Qの半ば、自陣40ヤード付近からの第4ダウン、パンター伊豆がスナッパーの横山にパントフェイクのパスを通して敵陣38ヤード付近に攻め込んだ場面はそのひとつである。だが、この好機も、立命守備陣の奮起で逸してしまう。
立命も2Qの終盤、アグレッシブなパントカバーチームのプレーで好機をつかむ。高く上がったパントをキャッチしたWR木戸が相手DB二人から強烈なタックルを浴び、腕からボールをもぎ取られてしまったのだ。ターンオーバー。ゴール前23ヤードで攻撃権を失うという厳しい局面だったが、ここでもファイターズ守備陣が奮起した。
立命の第1プレー、QBからのパスをLB池田が指先ではじき、少し浮いたボールを今度はLB吉原がカット。大きく跳ね上がったボールをDB大森がキャッチして、またまた攻撃権を奪い返した。
この場面、最初にQBの前に立ちはだかった池田、飛び上がってボールをカットした吉原、そのボールを冷静に確保し11ヤードをリターンした大森の3人の息がぴたりとあって、絵に描いたようなインターセプトが完成した。
こうなると、後半は完全に守り合いと時間のつぶし合いである。
ここでも特筆すべきは、ファイターズ守備陣の活躍だった。相手にレシーバーを捜す余裕を与えない機敏な動きでパスを封じ、決定的なチャンスを一度も与えなかった。なんせあの強力な立命オフェンスを相手に、前後半に5度のQBサックを決め、ロスタックルを何度も浴びせて、(繰り返しになるが)ラン攻撃を0ヤードに封じ込めたのである。
攻撃陣もこれに呼応して、徹底的に時間を消費する作戦を展開する。力の梶原、技の飯田、スピードの鷺野という3人のRBと、終始冷静に判断して自らボールをキープするQB斎藤のキーププレーを組み合わせ、ごりごりと陣地を進め、時計を進めていく。
記録を見れば、この試合の攻撃時間は立命が約20分、ファイターズ約28分。ファイターズがいかにリスク管理をしながら、負けない試合運びをしたかかが、こうした時間の使い方からも理解できるだろう。
時間の使い方で、特筆しておきたいことがひとつある。タイムアウトの取り方をめぐる両軍ベンチの駆け引きである。
立命はこの試合、前半と後半に2回ずつまとめてタイムアウトを取った。ともに第4ダウンショート。ファイターズはパント隊形をとったが、立命ベンチは何か不穏なものを感じたのだろう。プレーの直前にタイムアウトをとって、万一のフェイクプレーに備えた。
なにしろ、まだ第2Qに入ったばかりなのに伊豆から横山へのパントフェイクのパスを成功させてダウンを更新しているファイターズである。過去にもこうしたフェイクプレーで、ファイターズは活路を開いてきた。その記憶が相手ベンチに刻まれているから、入念な打ち合わせでカバーチームに備えさせたのはよく分かる。
もちろん、僕のような部外者にはファイターズベンチがそれぞれの場面で、どんなプレーを用意していたのかは分からない。それでも、グラウンドで戦う者同士、互いに不穏な気配が流れていたのだろう。だからこそタイムアウトを連発したのだろうが、結果として終盤、ファイターズの「時間を消費する攻撃」が進めやすくなったことは確かである。
こういう両軍ベンチの微妙な駆け引きを含めて、本当に奥の深い見事な試合であり、見応えがあった。
(31)見届ける人
投稿日時:2013/11/19(火) 06:19
時は晩秋。上ヶ原のキャンパスは日ごとに紅葉が進んでいる。日本庭園のカエデは赤く色づき、中央芝生の回りを取り巻くピラカンサの実も赤くなってきた。社会学部と文学部の間の広場にあるイチョウも黄色くなって秋の日差しに映えている。
第3フィールドの入り口近くにあるアメリカ楓の葉っぱは真っ赤になって散り始め、野球場のコンリート壁を覆うツタも秋色になった。「つるべ落としの秋の暮れ」というが、日が暮れるのも早い。甲山から吹き下ろす風は、真冬のような冷たさだ。
グラウンドに目をやれば、チーム練習の2時間も前から試合を担うQBとWRがパスの練習に励んでいる。日に日に完成度が上がり、投げる方も受ける方もほとんど失敗することがない。片隅では、攻守のラインがダミーに向かってヒットの練習。みんな真剣そのものだ。シーズン当初とは違って、明らかに体も表情も引き締まっている。
4時限、5時限まで授業のある2年生や1年生がかさばる防具を肩にグラウンドまでの坂道を駆け上がってくるのも、この季節ならではのこと。シーズン当初、仲間とのんびり談笑しながらゆっくりと集まっていたころの甘ったれた面影は、もうどこにもない。
こういう季節になると、それは例年のことだが、このメンバーたちがそろってプレーできるのは、もうほんの短い期間しかないことを実感する。もちろん人生は長い。大学時代の仲間は、かけがいのない存在として、これからも生涯のつきあいが続くだろう。でも、このメンバーでプレーできるのは、最長でも1月3日まで。それが分かっているから、その短い時間がいとおしくてならない。それは横から見ている僕の勝手な感傷だが、実際にグラウンドに立っている部員にとっては、もっともっと感じることの多い時間だろう。
だからこそ、監督やコーチはもちろん、アシスタントコーチを務める先輩たちを含め、言葉の一つひとつ、所作のひとつ一つにメリハリが生まれてくる。プレーの流れは秒刻みになり、ハドルへの集散は自然に早くなる。スタッフを含め、みんなが自発的にその場に必要な行動をとるから、もう怒鳴り声が聞こえてくることもない。張り詰めた空気、透明な空間があるだけだ。
そういう場に居合わせると、僕にできることはほとんどない。元々、チームを「見守る人」というのが、僕の立ち位置だが、この時期になると顔を合わせた選手に少しばかり声を掛けるだけで、気持ちは通じる。
代わりに思うことはただひとつ。勝っても負けても、僕はこのチームを見届け続けよう、ということだ。
ファイターズを応援して下さる方は、どのチームよりも多い。スタジアムに足を運ぶだけでなく、合宿と聞けば差し入れをして下さる方、支援金を集めてチームに贈って下さる方々も多い。もちろん、OB会長は率先して激励に来て下さる。
そんな中で、少しばかり社会経験の豊富な年長者として、僕に出来るのは、ひたすら選手たちを見守ること。部員の動きを細かく見届けること。そして、見届けた結果をこういう場を通じて記録しておくことである。
2013年、池永主将を中心とするチームは、確かに一丸となって戦う態勢を整えた。僕はそれを見届けた。たったこれだけの言葉ですべてが言い尽くされている。
あとは、心置きなく戦うだけ。今までやってきた取り組みに自信を持ち、仲間を信頼する。それだけでいい。
相手がいかに強力であろうと、死にものぐるいの戦いを挑んでこようと、そんなことは関係ない。ひるまず、臆せずに戦い続ければ、必ず道は開ける。諸君が勝者の名にふさわしい取り組みをしてきたことは、この1年間、じっくりと見せてもらった。
11月24日、長居スタジアム。「ファイト オン」の歌詞にある通りの戦いを期待する。
第3フィールドの入り口近くにあるアメリカ楓の葉っぱは真っ赤になって散り始め、野球場のコンリート壁を覆うツタも秋色になった。「つるべ落としの秋の暮れ」というが、日が暮れるのも早い。甲山から吹き下ろす風は、真冬のような冷たさだ。
グラウンドに目をやれば、チーム練習の2時間も前から試合を担うQBとWRがパスの練習に励んでいる。日に日に完成度が上がり、投げる方も受ける方もほとんど失敗することがない。片隅では、攻守のラインがダミーに向かってヒットの練習。みんな真剣そのものだ。シーズン当初とは違って、明らかに体も表情も引き締まっている。
4時限、5時限まで授業のある2年生や1年生がかさばる防具を肩にグラウンドまでの坂道を駆け上がってくるのも、この季節ならではのこと。シーズン当初、仲間とのんびり談笑しながらゆっくりと集まっていたころの甘ったれた面影は、もうどこにもない。
こういう季節になると、それは例年のことだが、このメンバーたちがそろってプレーできるのは、もうほんの短い期間しかないことを実感する。もちろん人生は長い。大学時代の仲間は、かけがいのない存在として、これからも生涯のつきあいが続くだろう。でも、このメンバーでプレーできるのは、最長でも1月3日まで。それが分かっているから、その短い時間がいとおしくてならない。それは横から見ている僕の勝手な感傷だが、実際にグラウンドに立っている部員にとっては、もっともっと感じることの多い時間だろう。
だからこそ、監督やコーチはもちろん、アシスタントコーチを務める先輩たちを含め、言葉の一つひとつ、所作のひとつ一つにメリハリが生まれてくる。プレーの流れは秒刻みになり、ハドルへの集散は自然に早くなる。スタッフを含め、みんなが自発的にその場に必要な行動をとるから、もう怒鳴り声が聞こえてくることもない。張り詰めた空気、透明な空間があるだけだ。
そういう場に居合わせると、僕にできることはほとんどない。元々、チームを「見守る人」というのが、僕の立ち位置だが、この時期になると顔を合わせた選手に少しばかり声を掛けるだけで、気持ちは通じる。
代わりに思うことはただひとつ。勝っても負けても、僕はこのチームを見届け続けよう、ということだ。
ファイターズを応援して下さる方は、どのチームよりも多い。スタジアムに足を運ぶだけでなく、合宿と聞けば差し入れをして下さる方、支援金を集めてチームに贈って下さる方々も多い。もちろん、OB会長は率先して激励に来て下さる。
そんな中で、少しばかり社会経験の豊富な年長者として、僕に出来るのは、ひたすら選手たちを見守ること。部員の動きを細かく見届けること。そして、見届けた結果をこういう場を通じて記録しておくことである。
2013年、池永主将を中心とするチームは、確かに一丸となって戦う態勢を整えた。僕はそれを見届けた。たったこれだけの言葉ですべてが言い尽くされている。
あとは、心置きなく戦うだけ。今までやってきた取り組みに自信を持ち、仲間を信頼する。それだけでいい。
相手がいかに強力であろうと、死にものぐるいの戦いを挑んでこようと、そんなことは関係ない。ひるまず、臆せずに戦い続ければ、必ず道は開ける。諸君が勝者の名にふさわしい取り組みをしてきたことは、この1年間、じっくりと見せてもらった。
11月24日、長居スタジアム。「ファイト オン」の歌詞にある通りの戦いを期待する。
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