石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2010/10

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(26)みんなの笑顔が見たい

投稿日時:2010/10/26(火) 07:20

 先週末、上ヶ原の第3フィールドに顔を出したら、冷たい「甲山おろし」が吹き付けていた。涼しいを通り越して、寒い寒い。一緒に練習を見学していた顧問の前島先生と二人で、かわるがわるに「寒いですね」「たまりませんね」とボヤキ続けていた。
 前例のないほどの酷暑も終わり、キャンパスには秋が訪れている。校内のカエデやイチョウは色づき始め、池のほとりのツツジも赤くなってきた。野球場の壁を覆っている蔦も日に日に紅葉している。
 シーズンも折り返しを過ぎ、今週末はいよいよ立命館との決戦。毎年のことだが、この季節になると、練習はがぜん活気づく。選手やスタッフの集散は速くなるし、だれかがいつもグラウンド全体に響くような声を出している。プレーのリズムは格段によくなってくるし、精度も上がっている。
 グラウンドの入口に「試合練習のため、関係者以外立ち入りお断り」の張り紙が出され、けがでリハビリ中の選手が外来者をチェックするようになるのもこの時季だ。グラウンドに緊張感がみなぎり、不用意な反則をしたレギュラー選手を下級生が本気で怒鳴りつけるのも、この時季ならではの光景である。
 「こういう雰囲気の練習をせめて2か月前から続けていたら、恐ろしいチームが出来上がるでしょうね」と前島先生。「分かっていても、それができなんですよね、試験勉強と一緒で。尻に火がつかないと、本気になれないのが人間という動物でしょう」と僕。お里が知れるというのか、こんな場面でも、昔、試験という試験で苦しみ続けた人間ならではの反応をしてしまう。なんせ、語学は「オール可」、フランス語は4年生まで履修という情けない経歴の持ち主なんです、僕は。
 余談はともかく、先週の京大戦以降、チームの雰囲気は確実に変わっている。京大という厄介な相手に、終始先手を取り、手応えのある試合をしたことで、自信をつけた選手が多いからだろう。
 例えば、京大戦後半の立ち上がり、見事なオンサイドキックを決め、相手の度肝を抜いたキッカーの大西君。今季は、彼の力をもってすれば簡単に決められそうなフィールドゴールを立て続けに失敗するなど、もう一つ結果が出ていなかったが、京大戦で変身。本来の冷静さを取り戻して、パントもフィールドゴールも自在に決めた。
 その象徴が、あのオンサイドキック。キックしたボールを自ら抑えた瞬間のはじけるような笑顔がすべてを物語っていた。テレビ放送の録画を何度も見直したが、何かが吹っ切れたような彼の表情はもう、完全に戦いのモードに入っていた。
 京大戦終了後の西京極競技場のグラウンドで言葉を交わした選手たちも同様だ。急所で2度のラッシュを成功させたLBの望月君は「2回走って3ヤード。でも、決めましたよね」とにっこり。最初は第3ダウン2ヤードから、2度目は第4ダウン、ゴール前1ヤードからという状況で、QB加藤君からハンドオフされたボールを抱えて、ともにダウン更新、タッチダウンという成果につなげた。「大村コーチからいわれて練習していたプレーですが、初めは完全にテンパっていました。でも、ともに成功したので、思い切り自信がつきました」と笑顔が弾む。
 後半から登場し、第4Qにダメ押しとなる29ヤード独走TDを決めた1年生RB野々垣君も、ニコニコしながら「京大相手のタッチダウンですから自信になりました。これからも思い切り走ります」。拭いても拭いても汗が吹き出す笑顔が印象的だった。
 ここで名前を挙げて紹介するのは3人だけだが、試合終了後、多くの選手たちが笑顔で引き揚げてきた。勝利したことの喜びというよりも、それぞれ持てる力を発揮できたことがうれしかったのだろう。スコアだけでみると、開幕後3試合の方が開いているのに、それらの試合でははじけるような笑顔で引き揚げてくる選手が少なかったのが、その間の消息を物語っている。
 今週末は立命戦。京大よりもはるかに厄介な相手である。その強敵を相手に、ファイターズは毎年、アメフットの歴史に語り継がれるような試合を続けてきた。その時代、その時代の選手たちがなんとか倒したい、どうしても勝ちたいと、心血を注ぎ、脳髄を絞るように戦術を練り上げてきたからこその結果である。
 もちろん、敗れることもあった。でも、いつの時代でもファイターズの諸君は、全力でこの強敵に立ち向かってきた。立命の選手もまた、目の色を変えて戦った。だからこそ、伝説となる試合が次々と展開されてきたのである。
 今年もタフな試合になるだろう。チームとして個人として、それぞれが持てる力のすべてを発揮しても、なお勝利に結びつかない可能性もある。けれどもファイターズにつながるすべての人間は、この試合にプライドをかけている。勝敗はどうあれ、自分に負けるわけにはいかないのである。
 プライドという一言にすべてをかけ、存分に戦ってくれ。そして、試合が終ったら、みんなが笑顔を見せてくれ。それは持てる力のすべてを出し切った証拠である。僕は君たちみんなの笑顔が見たい。

(25)準備のスポーツ

投稿日時:2010/10/19(火) 06:35

 アメフットは準備のスポーツであるといわれる。日曜日の京大戦では、そのことを思い知らされる場面に何度も遭遇した。
 例えば立ち上がり、ファイターズの先制点につながったLB辻本のパントブロック。ボールが蹴られる瞬間に相手パンターの足元に飛び込むには、事前の綿密な準備と分析が必須条件。データをもとに、何度も何度もタイミングを計り、それを練習で身につけてきたからこそ、相手の防御網を突破することができたのだろう。彼がブロックしたボールを確保したLB村上をはじめ、キッキングチームの周到な準備が呼び込んだファインプレーである。
 こうして手に入れた相手ゴール前1ヤードからの攻撃。加藤からRB兵田へのタッチダウン(TD)パスも、周到な準備から生まれた。一般的にいって、ゴール前に詰め寄っても、それをTDに結びつけるのは意外に難しい。チームの力量に圧倒的な差がある場合は別にして、通常は事前の準備がなければ攻撃側が苦労する。守備側にとっては、守るスペースが限定されるため、あれもこれもと考えず、思い切ったディフェンスができるからである。順調に進んできた攻撃がFGで終わる例は、それを裏付けている。
 攻撃側がこの困難な条件を突破するには、単純なランプレーや見え透いたパスプレーでは限界がある。相手の考えの裏の裏をかくプレーを日ごろから準備し、その完成度を高めておかなければならない所以(ゆえん)である。加藤と兵田のコンビがこともなげに決めたパスは、そういう準備から生まれたプレーであり、それが守備陣の意表を突いたからこそ、簡単に決まったのである。
 第3Q4分46秒。第4ダウン、相手ゴールまで1ヤードという状況で、LB望月が中央を突破して決めたTDもそういうプレーだった。その時点でファイターズは10点リード。この場面では、キッカー大西を信頼し、FGで点差を広げるという選択もあったが、ベンチはTDを狙いに行った。後半の立ち上がりとあって、どうしてもプレーを成功させ、勢いに乗りたかったのだろう。
 そういう条件を前提に、相手守備側から見れば、考えられるプレーは、テールバックの中央ダイブ、QBスニーク、そしてエースレシーバー、松原へのパスといったところだったろう。ブロック力のあるLB望月をフルバックの位置に起用したファイターズの隊形も、それらのプレーを想定しているように見えた。
 ところが、ベンチが選択したのは、ボールを望月に直接ボールを渡し、そのままゴールになだれ込むプレー。これが相手の意表を突いてTD。大西のキックも決まって17-0、ファイターズが完全に主導権を握った。
 さかのぼれば、このチャンスもファイターズが周到に準備したオンサイドキックから生まれた。第3Qは、ファイターズのキックで開始したが、この場面で大西がフィールド中央、自陣45ヤード付近にゆるいゴロを蹴り、それを自ら走りこんで確保した。まるでサッカーのドリブルのようなプレーだったが、これが大西のキック力を警戒して後方に注意を払っていた京大の守備陣の意表を突き、守備から始まるはずだった後半を、攻撃からスタートさせることに成功した。
 これもまた、局面を打開するために周到に準備されていたプレーである。鳥内監督は試合後、記者団の質問に「やりたい、いうからやらせた」「守備陣が止めていたから(たとえ失敗して相手に好位置を与えても)なんとかするやろと思ってました」と、独特の言い回しで答えていた。でも、その表情を見ていると、初めから成功することを確信していた様子がありあり。キッキングチームの日ごろの練習、準備に注目している監督ならではの発言だった。
 もちろん、監督の言葉のように前半、守備陣がしっかり京大の攻撃を食い止めていたからこそ、あのような思い切ったプレーが選択できたのだろう。それが成功したことにより、攻撃にリズムが生まれ、追加点につながったことは間違いない。
 それほど守備陣は安定していた。平澤主将を中心としたスピードがあって力強いDL陣、速くて当たれる善元と成長著しい望月、そこへ村上が復帰してきたLB陣、この日もインターセプトを決めたアスリート、吉井駿哉を中心にしたDB陣。彼らは強力なランとパスを持つ京大の攻撃陣を相手に、得点を与えなかった。今季4試合を終え、ディフェンスとしてはいまだに失点ゼロである。
 安定した守備陣が控えているからこそ、攻撃陣も落ち着いて攻撃できる。事前に準備した思い切ったプレーも選択できる。攻守とも強力な京大を相手に戦って、ようやくチームの歯車がかみ合ってきたようだ。
 負傷者が多いのは気がかりだが、次週はいよいよ立命戦。選手だけでなくコーチ、アナライジングスタッフ、スカウトチーム、スペシャルチームを挙げて、準備に準備を重ねてきたことの成果を示すときである。
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