石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2009/11
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(30)素晴らしい勝利
投稿日時:2009/11/26(木) 09:03
素晴らしい試合だった。23日、関西学生リーグの最終戦。難敵中の難敵、立命館を相手に、ひるまず、臆さず、全知全能を尽くして戦い続けたファイターズの面々が、みんな輝いて見えた。結果は31-7。この20年間、立命戦では見たこともない点差をつけて勝った。
その試合ぶりを2005年の主将、松本喬行氏は「白刃を手に、裸で敵陣に突っ込んでいくような戦い」と表現した。まさにその通り。失うものは何一つない。攻守の全員が「戦って、戦って、そして、死ね」というような見事な奮闘だった。
どんなに追い込まれても、ひたすらパスを投げ続けたQB加藤。そのパスを必死の形相で確保し続けたWRの萬代や柴田。攻撃が手詰まりになるたびに登場し、磨きに磨いたバスケットボールのシュートのようなパスを立て続けに決めたQB浅海。それを確実にキャッチしたWRの柴田と春日。倒されても倒されても走り続けたRB河原、松岡、平田。急所でパスを確保したTE垣内。
こんなに強かったのか、と目を見張らせてくれたのが、右から濱本、谷山、亀井、村田、新谷と並んだオフェンスライン。5人が一体となって相手を押し続け、QBを守り、RBのために走路をこじ開けた。
作戦がまた攻め一辺倒。フォースダウンロングという状況から再三ギャンブルに挑み、そのうち3度は、見たこともないようなスペシャルプレーを成功させた。
前半が、スペシャルプレーの見本市とすれば、後半は練りに練ったノーハドルオフェンス。相手守備陣に対応する時間とゆとりを与えず、右に左に、前に後ろにと振り回す。立命守備陣のユニフォームは汗でびっしょり。主力選手も肩で息をしている。たまらず足が止まった所を快足RB陣が駆け抜けていく。
試合前、小野コーチが「後半はノーハドルで行きます。加藤が成長しているので勝算はあります」と力強く宣言していた通り、会心の試合運びである。
ディフェンスの面々も負けてはいない。3年生の平澤と村上を軸にしたラインは、再三相手ラインを割ってQBに襲いかかり、ボールキャリアーを倒す。古下、吉川、福井と4年生ばかりを並べたLB陣も、強く激しいタックルで、ロングゲインを許さない。
守備の砦ともいうべきDB陣も、この日の動きは殺気立っていた。善元が再三、強烈なタックルを見舞えば、頼本、三木の岡山東商業野球部コンビが、ともに急所でインターセプトを決める。吉井駿哉は第4ダウン残り4ヤードのシチュエーションから、パント隊形からのフェイクプレーを成功させ、相手に攻撃権を渡さない。
キッキングゲームもスペシャルプレーのてんこ盛り。キッカー高野のフェイクでLB三村が蹴るオンサイドキックをはじめ、相手守備陣の意表を突くプレーの連続である。
ファイターズが攻めに攻め、守りに守って場内が興奮のるつぼと化した中、一人冷静だったのは、キッカーの大西。タッチダウンの後のキックとフィールドゴールを確実に決め、昨年の悔しさを晴らした。
すでに関大が7戦全勝で優勝を決めていたため、この試合を「消化試合」と呼ぶ人もいた。実際、長居陸上競技場に詰めかけた観客はいつもの年より、はるかに少なかった。
けれども、戦う選手たちは誰ひとりそんなことを思っていなかった。関大に敗れたという結果は取り消せない。それをとやかく言うのではなく、とにかく「立命に勝つ」ことを目標として練習に取り組んできた。監督もコーチも、懸命にそれをサポートしてきた。チーム練習の何時間も前から、4年生を中心にひたすら練習に取り組み、手の空いたメンバーは、互いに当たりあって力を養ってきた。それを終始、大村コーチが見守ってきた。
練習前、グラウンドの端っこでハードなコンタクトをしているメンバーには、必ず主将の新谷君や副将の亀井君が含まれていた。真ん中で松原君や萬代君を相手にパスを投げ続けるのはQB加藤君と糟谷君。浅海君はこの2週間いつ見ても柴田君や春日君を相手にスペシャルプレーのタイミングを計っていた。1年生のQB遠藤君は終始、仮想立命チームを率いて守備陣に実戦的な練習機会を提供していた。
4年生の高野君と三村君を中心にしたキッキングチームは繰り返し繰り返し特別のオンサイドキックの練習に励み、それを4年生の池田君が仕切っていた。
マネジャーやトレーナーも、4年生の三井君を中心に、全力でチームを支えていた。ある日の練習では、三井君が防具を着けて練習台になっていた。その姿を見て、「彼らは本気や。何としても、立命に勝たせてやりたい」と心の底から思ったことだった。
似たような話を、関大戦に敗れた後、萬代君と浅海君が所属しているゼミの先生からも聞いた。先生は京大が初めて全国制覇したころに京大を卒業され、アメフットが大好きだという。先生いわく「浅海君と萬代君は元気に練習していますか。とことんアメフットに賭けている二人に、何としてもいい形でシーズンを終わらせてあげたいと思っています」ということだった。
部員はもちろん、ファイターズにつながる多くの人たちの思いのこもった立命戦で、選手たちは「白刃を手に、裸で敵のまっただ中に突っ込んでいく」戦士になった。鳥内監督が常々口にされている「男になった」のである。努力は裏切らなかった。素晴らしい勝利だった。
その試合ぶりを2005年の主将、松本喬行氏は「白刃を手に、裸で敵陣に突っ込んでいくような戦い」と表現した。まさにその通り。失うものは何一つない。攻守の全員が「戦って、戦って、そして、死ね」というような見事な奮闘だった。
どんなに追い込まれても、ひたすらパスを投げ続けたQB加藤。そのパスを必死の形相で確保し続けたWRの萬代や柴田。攻撃が手詰まりになるたびに登場し、磨きに磨いたバスケットボールのシュートのようなパスを立て続けに決めたQB浅海。それを確実にキャッチしたWRの柴田と春日。倒されても倒されても走り続けたRB河原、松岡、平田。急所でパスを確保したTE垣内。
こんなに強かったのか、と目を見張らせてくれたのが、右から濱本、谷山、亀井、村田、新谷と並んだオフェンスライン。5人が一体となって相手を押し続け、QBを守り、RBのために走路をこじ開けた。
作戦がまた攻め一辺倒。フォースダウンロングという状況から再三ギャンブルに挑み、そのうち3度は、見たこともないようなスペシャルプレーを成功させた。
前半が、スペシャルプレーの見本市とすれば、後半は練りに練ったノーハドルオフェンス。相手守備陣に対応する時間とゆとりを与えず、右に左に、前に後ろにと振り回す。立命守備陣のユニフォームは汗でびっしょり。主力選手も肩で息をしている。たまらず足が止まった所を快足RB陣が駆け抜けていく。
試合前、小野コーチが「後半はノーハドルで行きます。加藤が成長しているので勝算はあります」と力強く宣言していた通り、会心の試合運びである。
ディフェンスの面々も負けてはいない。3年生の平澤と村上を軸にしたラインは、再三相手ラインを割ってQBに襲いかかり、ボールキャリアーを倒す。古下、吉川、福井と4年生ばかりを並べたLB陣も、強く激しいタックルで、ロングゲインを許さない。
守備の砦ともいうべきDB陣も、この日の動きは殺気立っていた。善元が再三、強烈なタックルを見舞えば、頼本、三木の岡山東商業野球部コンビが、ともに急所でインターセプトを決める。吉井駿哉は第4ダウン残り4ヤードのシチュエーションから、パント隊形からのフェイクプレーを成功させ、相手に攻撃権を渡さない。
キッキングゲームもスペシャルプレーのてんこ盛り。キッカー高野のフェイクでLB三村が蹴るオンサイドキックをはじめ、相手守備陣の意表を突くプレーの連続である。
ファイターズが攻めに攻め、守りに守って場内が興奮のるつぼと化した中、一人冷静だったのは、キッカーの大西。タッチダウンの後のキックとフィールドゴールを確実に決め、昨年の悔しさを晴らした。
すでに関大が7戦全勝で優勝を決めていたため、この試合を「消化試合」と呼ぶ人もいた。実際、長居陸上競技場に詰めかけた観客はいつもの年より、はるかに少なかった。
けれども、戦う選手たちは誰ひとりそんなことを思っていなかった。関大に敗れたという結果は取り消せない。それをとやかく言うのではなく、とにかく「立命に勝つ」ことを目標として練習に取り組んできた。監督もコーチも、懸命にそれをサポートしてきた。チーム練習の何時間も前から、4年生を中心にひたすら練習に取り組み、手の空いたメンバーは、互いに当たりあって力を養ってきた。それを終始、大村コーチが見守ってきた。
練習前、グラウンドの端っこでハードなコンタクトをしているメンバーには、必ず主将の新谷君や副将の亀井君が含まれていた。真ん中で松原君や萬代君を相手にパスを投げ続けるのはQB加藤君と糟谷君。浅海君はこの2週間いつ見ても柴田君や春日君を相手にスペシャルプレーのタイミングを計っていた。1年生のQB遠藤君は終始、仮想立命チームを率いて守備陣に実戦的な練習機会を提供していた。
4年生の高野君と三村君を中心にしたキッキングチームは繰り返し繰り返し特別のオンサイドキックの練習に励み、それを4年生の池田君が仕切っていた。
マネジャーやトレーナーも、4年生の三井君を中心に、全力でチームを支えていた。ある日の練習では、三井君が防具を着けて練習台になっていた。その姿を見て、「彼らは本気や。何としても、立命に勝たせてやりたい」と心の底から思ったことだった。
似たような話を、関大戦に敗れた後、萬代君と浅海君が所属しているゼミの先生からも聞いた。先生は京大が初めて全国制覇したころに京大を卒業され、アメフットが大好きだという。先生いわく「浅海君と萬代君は元気に練習していますか。とことんアメフットに賭けている二人に、何としてもいい形でシーズンを終わらせてあげたいと思っています」ということだった。
部員はもちろん、ファイターズにつながる多くの人たちの思いのこもった立命戦で、選手たちは「白刃を手に、裸で敵のまっただ中に突っ込んでいく」戦士になった。鳥内監督が常々口にされている「男になった」のである。努力は裏切らなかった。素晴らしい勝利だった。
(29)決戦の月曜日
投稿日時:2009/11/18(水) 12:06
いよいよ決戦の日がきた。ときは2009年11月23日。舞台は長居陸上競技場。昨年は圧倒された立命館に、雪辱を期してファイターズの面々が立ちふさがる。
いつもの年なら、最高に盛り上がる試合である。しかし今年は、両軍とも関大に苦杯を喫し、自力優勝の目は絶たれている。関大が残る甲南戦に敗れない限り、この10年間、関西のいや日本学生フットボール界の覇権を争ってきた両軍の宿命の戦いが、2位争いになってしまうのである。
それを寂しいと思われるファンは少なくないだろう。打ち明ければ、僕もそのひとりである。
けれども、戦うチームにとっては、そんなことはまったく関係ない。「立命に勝って日本1」を目標に掲げ、この1年間、懸命に努力してきた選手たちから見れば、ようやく目標のチームと戦える機会が巡ってきたということである。全力を尽くし、完全燃焼して、自らの選手生活に刻印を刻んでほしい。
先週末は、木曜日から日曜日まで、それぞれ短い時間ではあるが、上ケ原の第3フィールドに出掛け、練習を見ることができた。さすがに空気は張りつめている。
例年のことだが、入口には「部外者の見学お断り」の張り紙があり、1年生部員が来場者をチェックしている。練習の進行を仕切るマネジャーの声は枯れているし、トレーナーの走るスピードも上がっている。攻守とも、立命館チームを想定した選手は、マルーン色のユニフォームを着けてプレーをしている。ハドルの集散も目に見えて早くなってきた。
素人目に見ても、攻撃に立命戦用の新しいプレーが含まれていることが見て取れる。その一つひとつのプレーを1年がかりで練習し、精度を上げてきたチームの努力に思いを馳せる。
いくらとっておきのプレーでも、使える状況が出現しなければ宝の持ち腐れ。試合で使って経験値を上げようと思っても、ベールを脱いでしまったら、戦術としての価値は落ちてしまう。一方では、ベーシックなプレーや体力づくりも同時並行で進めなければならない。
ライバルチームも、そういう難しい条件を克服しながら、それぞれのチームの特徴を生かしたプレーを磨いているはずだ。たとえ、試合で使えるのは一部であっても、それぞれのチームが彼我の力関係を想定して、いくつもの特別のプレーを作り上げてくるから、アメフットは楽しい。奥が深い。
もちろん、基本は真っ向からのぶつかり合いだ。火花の散るようなタックルを浴びせ、相手を圧倒する魅力に勝るものはない。それがあるから、ピンポイントのパスも、相手の守りをギリギリでかわして突っ走るランプレーも、さらに光ってくる。そういうプレーの応酬があって初めて、特別なプレーの出番が回ってくるのである。
言い換えれば、ファイターズが開発してきたプレーも、それを披露できる条件ができあがってこそ、威力を発揮する。そのためにこそ、日ごろからベーシックなプレーを繰り返し繰り返し練習し、精度を上げてきたのである。
そういう努力を全開でぶつけられるのが立命戦である。そういうギリギリの戦いを毎年毎年、営々と繰り広げてきたからこそ、ライバルがライバルとして存在してきたのである。相手に敬意を持って戦うことができたのである。
少なくとも、この10年余、ファイターズにとって、立命館は特別のチームである。ただ目の前に立ちふさがる壁というだけではなく、全知全能を駆使して戦うにふさわしい相手である。それは、毎年のように1プレーで勝敗が左右されるという試合内容が表し、得点差が示している。
自力優勝の目がなくなったという悔しい状況ではあるが、選手にとっては、特別の思いを持って臨むべき試合である。存分に戦ってほしい。思い残すことなく諸君のすべてをぶつけてほしい。その果てにアメフットの神様が見えてくるだろう。
いつもの年なら、最高に盛り上がる試合である。しかし今年は、両軍とも関大に苦杯を喫し、自力優勝の目は絶たれている。関大が残る甲南戦に敗れない限り、この10年間、関西のいや日本学生フットボール界の覇権を争ってきた両軍の宿命の戦いが、2位争いになってしまうのである。
それを寂しいと思われるファンは少なくないだろう。打ち明ければ、僕もそのひとりである。
けれども、戦うチームにとっては、そんなことはまったく関係ない。「立命に勝って日本1」を目標に掲げ、この1年間、懸命に努力してきた選手たちから見れば、ようやく目標のチームと戦える機会が巡ってきたということである。全力を尽くし、完全燃焼して、自らの選手生活に刻印を刻んでほしい。
先週末は、木曜日から日曜日まで、それぞれ短い時間ではあるが、上ケ原の第3フィールドに出掛け、練習を見ることができた。さすがに空気は張りつめている。
例年のことだが、入口には「部外者の見学お断り」の張り紙があり、1年生部員が来場者をチェックしている。練習の進行を仕切るマネジャーの声は枯れているし、トレーナーの走るスピードも上がっている。攻守とも、立命館チームを想定した選手は、マルーン色のユニフォームを着けてプレーをしている。ハドルの集散も目に見えて早くなってきた。
素人目に見ても、攻撃に立命戦用の新しいプレーが含まれていることが見て取れる。その一つひとつのプレーを1年がかりで練習し、精度を上げてきたチームの努力に思いを馳せる。
いくらとっておきのプレーでも、使える状況が出現しなければ宝の持ち腐れ。試合で使って経験値を上げようと思っても、ベールを脱いでしまったら、戦術としての価値は落ちてしまう。一方では、ベーシックなプレーや体力づくりも同時並行で進めなければならない。
ライバルチームも、そういう難しい条件を克服しながら、それぞれのチームの特徴を生かしたプレーを磨いているはずだ。たとえ、試合で使えるのは一部であっても、それぞれのチームが彼我の力関係を想定して、いくつもの特別のプレーを作り上げてくるから、アメフットは楽しい。奥が深い。
もちろん、基本は真っ向からのぶつかり合いだ。火花の散るようなタックルを浴びせ、相手を圧倒する魅力に勝るものはない。それがあるから、ピンポイントのパスも、相手の守りをギリギリでかわして突っ走るランプレーも、さらに光ってくる。そういうプレーの応酬があって初めて、特別なプレーの出番が回ってくるのである。
言い換えれば、ファイターズが開発してきたプレーも、それを披露できる条件ができあがってこそ、威力を発揮する。そのためにこそ、日ごろからベーシックなプレーを繰り返し繰り返し練習し、精度を上げてきたのである。
そういう努力を全開でぶつけられるのが立命戦である。そういうギリギリの戦いを毎年毎年、営々と繰り広げてきたからこそ、ライバルがライバルとして存在してきたのである。相手に敬意を持って戦うことができたのである。
少なくとも、この10年余、ファイターズにとって、立命館は特別のチームである。ただ目の前に立ちふさがる壁というだけではなく、全知全能を駆使して戦うにふさわしい相手である。それは、毎年のように1プレーで勝敗が左右されるという試合内容が表し、得点差が示している。
自力優勝の目がなくなったという悔しい状況ではあるが、選手にとっては、特別の思いを持って臨むべき試合である。存分に戦ってほしい。思い残すことなく諸君のすべてをぶつけてほしい。その果てにアメフットの神様が見えてくるだろう。
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