石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
<<前へ | 次へ>> |
(18)苦戦を良薬に
投稿日時:2019/09/03(火) 14:29
1日夜、同志社との戦いが終わった直後、新聞記者に囲まれて取材を受ける鳥内監督の表情は厳しかった。
「今日は全部、意識の問題」「頭の準備ができてないねん」「みんな誰かに頼っている。そんな集団が勝てるわけない」。口から出てくる言葉も厳しかった。
けれども、囲み取材が解けて記者団が離れた後、僕が「一昨日言われていた通りの内容でしたね」と声をかけると、ニコニコしながら「そうでしょう。想定外のことをされた時にどうするか。もっと練習の時から考えてやらんと」という答えが返ってきた。
その言葉は、一昨日の練習を監督の隣で見学していたときに聞いたばかり。その予測をきっちり裏付けるような試合展開だったから、監督も思わず笑ってしまわれたのだろう。同時に、これが初戦でよかった。まだ修正する時間はある。この日の苦戦を肝に銘じて練習に励めば、まだまだ成長出来る。苦い薬も良薬になる。そういう、選手たちへの期待もあって、思わず口元がほころんだのだろう。
確かに苦しい試合だった。ファイターズのレシーブから試合開始。いきなりQB奥野からWR阿部に28ヤードのパスを通した時には、今日は何点とれるかなというお気楽な感じだったが、後が続かない。奥野のパスはなぜかうわずり、OLも相手守備陣に簡単に割られる。あげくに頼みの奥野が相手のヘルメットを腹部に受けて倒れてしまう。
やばい、と思ったが、ここはディフェンスが踏ん張って、即座に攻撃権を取り戻す。交代で出たQB平尾が冷静にRB三宅へピッチし、三宅が相手ゴール前15ヤードまで進む。さらに1年生WR河原林への短いパスを決め、ゴール前1ヤード。これをRB前田弟が一発でゴールに持ち込んでTD。K永田のキックも決まって7-0。
1Q終了前には、奥野が復帰。幸い大きなけがではなさそうで、応援しているファンもほっとする。ボールも手に馴染んできたようで、WR山下や鈴木へのパスが決まり始まる。第2Qに入るとすぐ、奥野からWR阿部への長いパスが通るが、惜しくもゴールラインをオーバーしてTDにはならず。しかし、その3プレー後には奥野がWR鈴木への13ヤードのパスを決めてTD。14-0とリードを広げる。
続く相手の攻撃も、守備陣が一発で仕留め、再びファイターズの攻撃。ここでも奥野が阿部や鈴木へのパスを立て続けに決めて相手陣30ヤード。このチャンスに再び前田弟が30ヤードを独走してTD。21-0とリードして前半終了。
前半の戦い振りを見れば、明らかにファイターズペース。しかし後半、交代メンバーを起用し始めると、一気に流れは同志社に傾く。相手にリードを許して開き直ったのか、攻守とも思い切ったプレーを連発。逆にファイターズのメンバーは、それに対応できない。攻めてはラインが割られてQBが孤立。守ってはロングゲインを許してあっという間にTDを返される。
勢い付く相手に対して、ファイターズの攻撃は進まない。ラインが簡単に割られてQBが孤立する場面が相次ぎ、守備陣もまた浮き足立つ。負の連鎖である。
このピンチを救ったのが2年生RB斎藤。168センチ、74キロの小柄な選手だが、トップスピードに乗ると一気にゴールまで走り込む快足を持っている。第4Qの半ば。ファイターズが反則で自陣37まで下げられた場面でボールを手にすると、一気に相手守備陣を抜き去り、63ヤードを独走してTD。永田のキックも決まって28-7と
リードを広げ、浮き足立ったチームを落ち着かせる。
逆に同志社はこの独走で反撃の意欲をそがれたのか、雑なプレーが多くなってくる。終了間際には永田がFGを決め、最終スコアは31-7。
このように得点経過だけを追うと、ファイターズペースで試合が進んだように思われるかも知れない。しかし、現場ではとてもとても。そんなお気楽な気分ではなかった。意味不明な反則はあるし、タイプの異なる二人のQBを使い分けて攻め込んで来る相手の攻撃も防ぎ切れない。逆にファイターズの攻撃は、相手守備陣の変幻自在の動きに振り回される。これが昨年度の優勝チームと今季1部リーグに復帰したばかりのチームの戦いとは到底思えないような内容だった。
それを目の前で見せつけられたばかりだから、鳥内監督も取材陣を前にして、厳しい発言を連発されたのだろう。
さて、この厳しい発言を選手たちはどう受け止め、どのように行動するのか。次の龍谷ととの試合は8日、その翌週21日は、早くも京大との試合が迫っている。
その短い時間に、初戦の苦しい戦いを良薬として消化できるかどうか。部員全員の覚醒を刮目(かつもく)して待っている。
「今日は全部、意識の問題」「頭の準備ができてないねん」「みんな誰かに頼っている。そんな集団が勝てるわけない」。口から出てくる言葉も厳しかった。
けれども、囲み取材が解けて記者団が離れた後、僕が「一昨日言われていた通りの内容でしたね」と声をかけると、ニコニコしながら「そうでしょう。想定外のことをされた時にどうするか。もっと練習の時から考えてやらんと」という答えが返ってきた。
その言葉は、一昨日の練習を監督の隣で見学していたときに聞いたばかり。その予測をきっちり裏付けるような試合展開だったから、監督も思わず笑ってしまわれたのだろう。同時に、これが初戦でよかった。まだ修正する時間はある。この日の苦戦を肝に銘じて練習に励めば、まだまだ成長出来る。苦い薬も良薬になる。そういう、選手たちへの期待もあって、思わず口元がほころんだのだろう。
確かに苦しい試合だった。ファイターズのレシーブから試合開始。いきなりQB奥野からWR阿部に28ヤードのパスを通した時には、今日は何点とれるかなというお気楽な感じだったが、後が続かない。奥野のパスはなぜかうわずり、OLも相手守備陣に簡単に割られる。あげくに頼みの奥野が相手のヘルメットを腹部に受けて倒れてしまう。
やばい、と思ったが、ここはディフェンスが踏ん張って、即座に攻撃権を取り戻す。交代で出たQB平尾が冷静にRB三宅へピッチし、三宅が相手ゴール前15ヤードまで進む。さらに1年生WR河原林への短いパスを決め、ゴール前1ヤード。これをRB前田弟が一発でゴールに持ち込んでTD。K永田のキックも決まって7-0。
1Q終了前には、奥野が復帰。幸い大きなけがではなさそうで、応援しているファンもほっとする。ボールも手に馴染んできたようで、WR山下や鈴木へのパスが決まり始まる。第2Qに入るとすぐ、奥野からWR阿部への長いパスが通るが、惜しくもゴールラインをオーバーしてTDにはならず。しかし、その3プレー後には奥野がWR鈴木への13ヤードのパスを決めてTD。14-0とリードを広げる。
続く相手の攻撃も、守備陣が一発で仕留め、再びファイターズの攻撃。ここでも奥野が阿部や鈴木へのパスを立て続けに決めて相手陣30ヤード。このチャンスに再び前田弟が30ヤードを独走してTD。21-0とリードして前半終了。
前半の戦い振りを見れば、明らかにファイターズペース。しかし後半、交代メンバーを起用し始めると、一気に流れは同志社に傾く。相手にリードを許して開き直ったのか、攻守とも思い切ったプレーを連発。逆にファイターズのメンバーは、それに対応できない。攻めてはラインが割られてQBが孤立。守ってはロングゲインを許してあっという間にTDを返される。
勢い付く相手に対して、ファイターズの攻撃は進まない。ラインが簡単に割られてQBが孤立する場面が相次ぎ、守備陣もまた浮き足立つ。負の連鎖である。
このピンチを救ったのが2年生RB斎藤。168センチ、74キロの小柄な選手だが、トップスピードに乗ると一気にゴールまで走り込む快足を持っている。第4Qの半ば。ファイターズが反則で自陣37まで下げられた場面でボールを手にすると、一気に相手守備陣を抜き去り、63ヤードを独走してTD。永田のキックも決まって28-7と
リードを広げ、浮き足立ったチームを落ち着かせる。
逆に同志社はこの独走で反撃の意欲をそがれたのか、雑なプレーが多くなってくる。終了間際には永田がFGを決め、最終スコアは31-7。
このように得点経過だけを追うと、ファイターズペースで試合が進んだように思われるかも知れない。しかし、現場ではとてもとても。そんなお気楽な気分ではなかった。意味不明な反則はあるし、タイプの異なる二人のQBを使い分けて攻め込んで来る相手の攻撃も防ぎ切れない。逆にファイターズの攻撃は、相手守備陣の変幻自在の動きに振り回される。これが昨年度の優勝チームと今季1部リーグに復帰したばかりのチームの戦いとは到底思えないような内容だった。
それを目の前で見せつけられたばかりだから、鳥内監督も取材陣を前にして、厳しい発言を連発されたのだろう。
さて、この厳しい発言を選手たちはどう受け止め、どのように行動するのか。次の龍谷ととの試合は8日、その翌週21日は、早くも京大との試合が迫っている。
その短い時間に、初戦の苦しい戦いを良薬として消化できるかどうか。部員全員の覚醒を刮目(かつもく)して待っている。
(17)いざ!いざ!いざ!
投稿日時:2019/08/31(土) 14:33
今日で暑すぎた8月も終わり。自分が勝手にとったコラムの夏休みも終了である。
開けて1日、2019年ファイターズの真価が問われるシーズンが始まる。校歌にある「いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」の季節到来である。
事実上、シーズン開幕前最後となる30日の練習で、興味深い場面があった。初戦を想定した「チームタイム」と呼ばれる練習の、最後のプレーが終わると同時に稲妻が光り、雷が鳴った。即座に全員が「屋根下」と呼ばれるグラウンド脇のスペースに退避する。
雷が鳴ると、即座に一番近くの建物に避難し、不測の事故を防ごうとするのがファイターズのルール。たとえ、練習終了予定時間の10分前であっても、それがはるか遠くであったとしても、雷鳴が聞こえると同時に「練習中止」「屋根下に退避」という指示があちこちから飛び、即座に安全な場所に避難し、30分近く待機することになっている。その間にまた雷鳴がとどろくと、再び待機の時間が延長され、あっという間に1時間は練習がストップしてしまう。
前日の練習中にも、そういう場面に遭遇したばかり。やっかいな雷だが、この日はちょうど「チームタイム」が終了した瞬間に鳴った。なんというタイミング。グッドタイミングというのか、ラッキーといえばいいのか。あまりにも区切りがいい。今年は何かいいことがあるのだろうか。
狭い屋根下で、練習後のハドル。鳥内監督がシーズンに向かう心得を説き、汗だくになった副将、主将がそれぞれの言葉で開幕戦に向けて檄を飛ばす。
「俺たちは挑戦者や。周囲の評価は関係ない。挑戦者であることにこだわって徹底的にやろう」「自分のやれることを全部やろう。まだまだやれることはある。突き詰めていこう」。静かに語り掛ける幹部がいれば、何度も同じ言葉を熱く繰り返す幹部もいる。しかし、語りの口調は違っても、今季の初戦に向けた強い決意はしっかりと伝わってくる。
マネジャーやトレーナーからの注意事項を含めて、こういう切羽詰まった発言を聞いていると、いよいよシーズンが始まるという実感が湧いてくる。
この夏は天候が不順で雨も多かった。暑い日も続いた。前期試験後の暑気馴化トレーニング期間も含めて、練習環境は相対的に恵まれなかった。それでも、2度にわたる学内合宿と例年より2日長くなった東鉢伏での合宿を敢行し、チームとしての地力を上げてきた。日々の練習は、時間的には短いが、その分濃密な練習を積んだ。そのせいもあってか、攻守ともにけが人も相次いだ。
一方で、新しい戦力も台頭してきた。これまでほとんど試合に出場実績のなかった3年生や2年生が何人も1軍のメンバーに名を連ね、経験豊富なメンバーとも対等に戦っている。側から見ているだけでも当たりが強くなった、走るスピードが上がったと目を見張らされる選手が何人もいる。
うれしいことに、今春、入部したばかりの1年生にも、開幕戦から登用され、活躍してくれそうな選手が何人もいる。彼らが初めての夏を乗り越えてどこまで成長してきたのか。それを実戦で確かめるのも大きな楽しみである。
チーム全体の底上げを目指し、春は数多くの選手に次々と試合経験を積ませてきたチームの方針が実りつつあるのだろう。彼らの成長曲線が秋の試合を通じて、さらに右肩上がりになるのか。格言をなぞっていえば「乞う 刮目(かつもく)して夏の成果を見よ」というところだ。
一方で、彼らにポジションを奪われてなるものか、と実績のあるメンバーがさらに奮起するのか。いまはけがでリハビリに励んでいるメンバーがどの時期から戦列に復帰してくれるのか。
そんなことを考えながら、グラウンドの練習を眺めていると、本当に選手層が厚くなったなあと実感する。帰宅後、できあがったばかりのイヤーブックを読み返し、彼らのグラウンドでの振る舞いを思い浮かべるたびに、初戦のメンバー表を予想するのが楽しみになってくる。
初戦は1日午後5時、王子スタジアムでキックオフ。「いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」と声を張り上げて送り出したい。
開けて1日、2019年ファイターズの真価が問われるシーズンが始まる。校歌にある「いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」の季節到来である。
事実上、シーズン開幕前最後となる30日の練習で、興味深い場面があった。初戦を想定した「チームタイム」と呼ばれる練習の、最後のプレーが終わると同時に稲妻が光り、雷が鳴った。即座に全員が「屋根下」と呼ばれるグラウンド脇のスペースに退避する。
雷が鳴ると、即座に一番近くの建物に避難し、不測の事故を防ごうとするのがファイターズのルール。たとえ、練習終了予定時間の10分前であっても、それがはるか遠くであったとしても、雷鳴が聞こえると同時に「練習中止」「屋根下に退避」という指示があちこちから飛び、即座に安全な場所に避難し、30分近く待機することになっている。その間にまた雷鳴がとどろくと、再び待機の時間が延長され、あっという間に1時間は練習がストップしてしまう。
前日の練習中にも、そういう場面に遭遇したばかり。やっかいな雷だが、この日はちょうど「チームタイム」が終了した瞬間に鳴った。なんというタイミング。グッドタイミングというのか、ラッキーといえばいいのか。あまりにも区切りがいい。今年は何かいいことがあるのだろうか。
狭い屋根下で、練習後のハドル。鳥内監督がシーズンに向かう心得を説き、汗だくになった副将、主将がそれぞれの言葉で開幕戦に向けて檄を飛ばす。
「俺たちは挑戦者や。周囲の評価は関係ない。挑戦者であることにこだわって徹底的にやろう」「自分のやれることを全部やろう。まだまだやれることはある。突き詰めていこう」。静かに語り掛ける幹部がいれば、何度も同じ言葉を熱く繰り返す幹部もいる。しかし、語りの口調は違っても、今季の初戦に向けた強い決意はしっかりと伝わってくる。
マネジャーやトレーナーからの注意事項を含めて、こういう切羽詰まった発言を聞いていると、いよいよシーズンが始まるという実感が湧いてくる。
この夏は天候が不順で雨も多かった。暑い日も続いた。前期試験後の暑気馴化トレーニング期間も含めて、練習環境は相対的に恵まれなかった。それでも、2度にわたる学内合宿と例年より2日長くなった東鉢伏での合宿を敢行し、チームとしての地力を上げてきた。日々の練習は、時間的には短いが、その分濃密な練習を積んだ。そのせいもあってか、攻守ともにけが人も相次いだ。
一方で、新しい戦力も台頭してきた。これまでほとんど試合に出場実績のなかった3年生や2年生が何人も1軍のメンバーに名を連ね、経験豊富なメンバーとも対等に戦っている。側から見ているだけでも当たりが強くなった、走るスピードが上がったと目を見張らされる選手が何人もいる。
うれしいことに、今春、入部したばかりの1年生にも、開幕戦から登用され、活躍してくれそうな選手が何人もいる。彼らが初めての夏を乗り越えてどこまで成長してきたのか。それを実戦で確かめるのも大きな楽しみである。
チーム全体の底上げを目指し、春は数多くの選手に次々と試合経験を積ませてきたチームの方針が実りつつあるのだろう。彼らの成長曲線が秋の試合を通じて、さらに右肩上がりになるのか。格言をなぞっていえば「乞う 刮目(かつもく)して夏の成果を見よ」というところだ。
一方で、彼らにポジションを奪われてなるものか、と実績のあるメンバーがさらに奮起するのか。いまはけがでリハビリに励んでいるメンバーがどの時期から戦列に復帰してくれるのか。
そんなことを考えながら、グラウンドの練習を眺めていると、本当に選手層が厚くなったなあと実感する。帰宅後、できあがったばかりのイヤーブックを読み返し、彼らのグラウンドでの振る舞いを思い浮かべるたびに、初戦のメンバー表を予想するのが楽しみになってくる。
初戦は1日午後5時、王子スタジアムでキックオフ。「いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」と声を張り上げて送り出したい。
«前へ | 次へ» |