石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(17)いざ!いざ!いざ!

投稿日時:2019/08/31(土) 14:33

 今日で暑すぎた8月も終わり。自分が勝手にとったコラムの夏休みも終了である。
 開けて1日、2019年ファイターズの真価が問われるシーズンが始まる。校歌にある「いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」の季節到来である。
 事実上、シーズン開幕前最後となる30日の練習で、興味深い場面があった。初戦を想定した「チームタイム」と呼ばれる練習の、最後のプレーが終わると同時に稲妻が光り、雷が鳴った。即座に全員が「屋根下」と呼ばれるグラウンド脇のスペースに退避する。
 雷が鳴ると、即座に一番近くの建物に避難し、不測の事故を防ごうとするのがファイターズのルール。たとえ、練習終了予定時間の10分前であっても、それがはるか遠くであったとしても、雷鳴が聞こえると同時に「練習中止」「屋根下に退避」という指示があちこちから飛び、即座に安全な場所に避難し、30分近く待機することになっている。その間にまた雷鳴がとどろくと、再び待機の時間が延長され、あっという間に1時間は練習がストップしてしまう。
 前日の練習中にも、そういう場面に遭遇したばかり。やっかいな雷だが、この日はちょうど「チームタイム」が終了した瞬間に鳴った。なんというタイミング。グッドタイミングというのか、ラッキーといえばいいのか。あまりにも区切りがいい。今年は何かいいことがあるのだろうか。
 狭い屋根下で、練習後のハドル。鳥内監督がシーズンに向かう心得を説き、汗だくになった副将、主将がそれぞれの言葉で開幕戦に向けて檄を飛ばす。
 「俺たちは挑戦者や。周囲の評価は関係ない。挑戦者であることにこだわって徹底的にやろう」「自分のやれることを全部やろう。まだまだやれることはある。突き詰めていこう」。静かに語り掛ける幹部がいれば、何度も同じ言葉を熱く繰り返す幹部もいる。しかし、語りの口調は違っても、今季の初戦に向けた強い決意はしっかりと伝わってくる。
 マネジャーやトレーナーからの注意事項を含めて、こういう切羽詰まった発言を聞いていると、いよいよシーズンが始まるという実感が湧いてくる。
 この夏は天候が不順で雨も多かった。暑い日も続いた。前期試験後の暑気馴化トレーニング期間も含めて、練習環境は相対的に恵まれなかった。それでも、2度にわたる学内合宿と例年より2日長くなった東鉢伏での合宿を敢行し、チームとしての地力を上げてきた。日々の練習は、時間的には短いが、その分濃密な練習を積んだ。そのせいもあってか、攻守ともにけが人も相次いだ。
 一方で、新しい戦力も台頭してきた。これまでほとんど試合に出場実績のなかった3年生や2年生が何人も1軍のメンバーに名を連ね、経験豊富なメンバーとも対等に戦っている。側から見ているだけでも当たりが強くなった、走るスピードが上がったと目を見張らされる選手が何人もいる。
 うれしいことに、今春、入部したばかりの1年生にも、開幕戦から登用され、活躍してくれそうな選手が何人もいる。彼らが初めての夏を乗り越えてどこまで成長してきたのか。それを実戦で確かめるのも大きな楽しみである。
 チーム全体の底上げを目指し、春は数多くの選手に次々と試合経験を積ませてきたチームの方針が実りつつあるのだろう。彼らの成長曲線が秋の試合を通じて、さらに右肩上がりになるのか。格言をなぞっていえば「乞う 刮目(かつもく)して夏の成果を見よ」というところだ。
 一方で、彼らにポジションを奪われてなるものか、と実績のあるメンバーがさらに奮起するのか。いまはけがでリハビリに励んでいるメンバーがどの時期から戦列に復帰してくれるのか。
 そんなことを考えながら、グラウンドの練習を眺めていると、本当に選手層が厚くなったなあと実感する。帰宅後、できあがったばかりのイヤーブックを読み返し、彼らのグラウンドでの振る舞いを思い浮かべるたびに、初戦のメンバー表を予想するのが楽しみになってくる。
 初戦は1日午後5時、王子スタジアムでキックオフ。「いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」と声を張り上げて送り出したい。

(16)東鉢伏から

投稿日時:2019/08/14(水) 07:05

 先週末、仕事の隙間を縫って東鉢伏に車を走らせた。8日から始まったファイターズの合宿を見学するのが目的である。
 午前4時半過ぎに仁川の自宅を出発。辺りは薄暗いが、その分、行き交う車は少なく、普段は混雑している宝塚西トンネル付近も快調に走れる。赤松峠付近から舞鶴道に入ればさらに車が少なくなり、快適なドライブが続く。高速道路を降りると、コンビニに立ち寄ってサンドイッチと野菜ジュースを購入。ファイターズが合宿している「かねいちや」から1kmほど行き過ぎた場所にある県指定天然記念物「別宮の大カツラ」の駐車場で食べる。ここには高さ27mにも達するカツラの木が密集して生育し、その付近からこんこんと清流が流れている。その水で顔を洗い、口をすすいで見学の臨戦態勢を整える。
 しばらく時間を調整し、7時前には「かねいちや」に到着。宿舎のロビーで監督に挨拶した後、すぐに人工芝のグラウンドに向かう。すでにJVメンバーの練習が始まっている。
 毎年のことだが、夏合宿の朝は早い。まずはJVのメンバーが約1時間、パートごとの練習に取り組み、それが終わると朝食に向かう。入れ替わって、今度は準備運動を終えたVのメンバーが練習を始める。
 驚くのは、その取り組みの密度が年々濃くなっていること。初めてこの合宿を見学にきた十数年前も、さすが夏合宿、密度が濃いと感心したが、いまはそれに強度が上積みされている。以前は意識的に「寸止め」にするプレーが主体だったが、いまはオフェンスとディフェンスのメンバーが対抗心をむき出しにして渡り合う。
 しかし、練習密度が濃くなれば、その分、負傷する選手も増える。ホテルのロビーに立てかけられた練習メニュー表の隣には、日々、その日の練習に加わるメンバーが書き込まれるが、その中には「練習不可」とされている選手名が何人も見える。
 練習の密度を上げれば、負傷者も増える。しかし、間延びした練習では、実戦で使える動きは身につかない。双方の利害、得失を計算し、選手の疲労度を考慮したうえで、日々の練習メニューを決めていくのがチームの方針であろう。
 そんなあれこれを考えている間にも、グラウンドでは練習が続いている。けれども、時間を決めて休憩時間をとり、水分や栄養補給ゼリーを規則的に摂取させる時間は必ず設けている。グラウンドの両側にはチームの持ち込んだテントが何張も立てられ、休憩タイムの選手に日陰を提供する。
 合宿地は、冬場はスキー客で賑わう高原にあるが、下界と同様、日が昇れば強い日差しが照りつける。朝、車で走っているときは、高速道路脇の表示に「22.5度」とあったので、これは涼しいぞ、と思っていたが、太陽が照りつける時間になれば、気温はぐんぐん上がる。午前9時ごろには、木陰のない場所ではもう30度近くまで上昇しており、過去十数年の見学時には記憶がないほどの暑さである。
 しかし、そこは合理的な思考をするファイターズである。一番暑い時間帯には、グラウンドのチーム練習はすべてストップし、食事と昼寝、そして簡単なミーティングの時間に充てる。練習が再開されるのは午後3時。湿気の少ない高原なので、この時間になると、太陽が照りつけていても、風さえ通れば幾分暑さも緩和される。
 まずはJVのメンバーから始まり、より強度の上がるVチームの練習は4時から6時までと決めている。さらに合宿中には合計2日間、全員にグラウンドでの練習を休ませ、体力の回復に充てる日も設けている。
 体力を養い、新たなプレーを習得し、チームの士気を上げるための合宿だが、フルに練習プログラムを組むのではなく、途中に休憩時間や休息日を設けて、より安全に、より効率的にと心掛けているのがファイターズである。その発想は上ヶ原でも東鉢伏でも変わらない。
 変わりつつあると見えたのは、合宿に参加しているメンバーの気持ちの持ち方である。この日、僕が声を掛けたりその行動に接したりしたメンバーの名前や行動を具体的に挙げて、彼らがこの合宿にかける思いの強さを紹介したいところだが、いまは個々の名前を挙げる場面ではない。いつか別の機会にでも紹介したいと考えている。
 ただし、この合宿でチームの何かが変わりつつあるという印象を持ったことだけは伝えておきたい。僕はいま、その変化の行き着く場所に、大きな期待を持っている。
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