石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(20)イチローさんの言葉

投稿日時:2019/09/17(火) 18:56

 日米通算で4367安打を記録したイチローさん(45)がマリナーズから「球団に貢献し、大きな功績を残した人」に贈られる「フランチャイズ・アチーブメント賞」(特別功労賞)を贈られた。マリナーズの本拠地Tモバイルパークで行われた授与式での挨拶がめちゃくちゃかっこいい。
 原文は英語だが、ネットでそのニュースを伝える「full Count」の翻訳を引用して、そのさわりの部分を紹介したい。
 冒頭、シアトルのファンに対し「みなさんからの何年にもわたるサポートに対して感謝の気持ちを表したい」とあいさつ。「2001年に私がシアトルに来た時、それまで日本から来た野手は一人もいませんでした。みなさんが見たのは27歳の、小柄で、細い、無名の選手でした。みなさんが私を受け入れない理由は多くありました。しかし、大きな心で私を受け入れてくれました。そしてそれは、私がここを離れても、そして戻ってきたときも、決して止むことはありませんでした。2018年にここへ戻ってくるチャンスを与えて頂き、本当にありがたく思っています。その理由はみなさん、ファンの方々です」と続ける。
 そのうえで「野球をこよなく愛し、リスペクトしてやまない人たちの前でプレーすることは、私にとっても幸せなことでした」「私が知っている最も素晴らしい選手たちと共に、またはそのような選手を相手にプレーできたことは、大きな誇りです」と続ける。
 最後に、キャリアを振り返って「私が誇りに思うことが少しでもあるとすれば、毎日、困難を乗り越え、毎日、同じような情熱を持って2001年の最初の日から2019年の最後の日まで臨むことができたことです」「選手たちに思い出してほしいのは、プロフェッショナルであると言うことの意味です。シーズンが終わりに近づいた日々は、シーズンの初めの日々、そしてその間の日々と同じように重要です。毎日、同じ情熱を持って仕事に臨んでいかなければなりません。それが自身のパフォーマンスに与える、そしてこの特別な試合を楽しんでいるファンに与える最高のギフトとなります」と結ぶ。
 自らの人生をかけて野球に生きたプロフェッショナルならではの言葉である。日本で比類なき実績を挙げてきた選手であっても、メジャーリーグでは「27歳の、小柄で、細い、無名の選手」が、「毎日、困難を乗り越え、毎日、同じような情熱を持って、2001年の最初の日から2019年の最後の日まで、臨むことができたことを誇りに思う」と言い切る、その長い歳月とたゆまぬ努力に思いを馳せたとき、僕には言いしれぬ感動が押し寄せてきた。そして、この感動をファイターズの諸君にも共有してもらい、自己研鑽の道標にしてもらいたいと思った。
 イチローさんの言葉は、競技種目は異なり、プロとアマとの違いはあっても、日々、向上心を持ってフットボールに取り組んでいるファイターズの諸君の胸にも、きっと響くに違いない。というより、こういう言葉にインスパイアされないようでは、フットボールのレベルも人間としての感受性も養われるはずがないとまで思う。
 イチローさんはファイターズにとっても、縁の深い選手だった。毎年、シーズンが始まる前には、オリックスの選手時代からなじみのある球場で自主トレーニングをされるのが習慣になっていたが、そのトレーニングを共にする機会を与えられた選手が何人もいる。特別サービスで、打席に立たせてもらい、氏の投げるボールを打たせてもらった選手もいる。
 氏の取材を都合19年間にわたって取材し「イチローの流儀」(新潮社)という読み応えのある著書もある小西慶三氏(1988年度卒)から、イチロー選手の野球に対する取り組みについて講義を受けた学年もある。
 そうした体験が選手にどんな影響を及ぼしたかは僕の知るところではない。しかし、少なくとも僕は今春、ほんの短時間だったが、イチロー選手が自主トレーニングされている場に同席させていただき、大きな刺激を受けた。今回の授与式でのイチローさんの言葉もまた、僕の胸に突き刺さる。ファイターズの諸君の胸にもきっと強い影響を与えると思って、たまたまネットで見つけた話を紹介させていただいた(full Countさん、ありがとうございます)。
 最後にひとこと。小西氏とイチローさんとの関わりは、今年のイヤーブックの巻末にある「社会で輝く青い星」でも紹介されている。示唆に富む内容であり、選手諸君にはぜひとも熟読してもらいたい。

(19)チャンスは前髪しかない

投稿日時:2019/09/11(水) 05:29

 「チャンスは前髪しかない」という。後ろは禿げているから、つかもうとしてもつかめない。いま、この瞬間につかまなくては、後からではつかむことはできないという意味である。
 秋のリーグ戦2試合を週末ごとに観戦して、思わずこの言葉をファイターズの諸君に贈りたくなった。
 どういうことか。説明する。
 今季のファイターズは初戦の同志社戦、2戦目の龍谷戦ともに、昨年秋には試合経験のほとんどなかったメンバーを次々に投入している。初戦の先発メンバーで、昨年の甲子園ボウルでも先発していたのはOLの高木、WR阿部、QB奥野、LB海崎、繁治、DB畑中ぐらいだ。2戦目の龍谷大戦のスタメンを見ても、このメンバーにOL森田、DL大竹が加わる程度。交代メンバーとして出場経験のある選手を見ても、オフェンスではRB三宅、WR鈴木、山下、OL村田、藤田兄、DL板敷、松永弟、DB北川、それにキッキングチームのフォールダーやパンターとして活躍していたQB中岡の名前が浮かぶくらいだ。
 つまり、昨シーズンの終盤、関大と引き分けた試合や2度に渡る立命との死闘を経験した主力メンバーをほとんど欠いたままで、この2戦を戦ったのだ。
 その理由として、一つは数多くの故障者が出ていること、そしてもう一つは監督やコーチが意図的に新しいメンバーを登用し、彼らに実戦の経験を積ませて、チームの底上げを図りたいという意図が秘められているからだろう。とりわけ2、3年生にはフレッシュな顔ぶれが揃っている。
 2戦目の先発に名前を連ねたメンバーに限っても、昨年は交代メンバーとして先発メンバーと肩を並べる活躍をしたWR鈴木やRB三宅は別として、オフェンスでは3年生の亀井、2年生の牧野、田中がOLの先発、QB平尾弟、TE遠藤、K永田もスタメンに名を連ねた。ディフェンスでもDB5人中、3年生の中村、2年生の北川、和泉、竹原の4人が先発として起用された。
 驚くのは、1年生でもWR糸川が先発で出場し、同じく1年生の河原林とともに、鮮やかなパスキャッチを見せたこと。交代メンバーとして出場したTE小林陸、DL山本、DB小林龍斗らの動きも目についた。
 とりわけ驚くのは、DLの交代メンバーとして出場した3年生野村。鋭いラッシュで再三相手のラインを割り、2試合ともQBサックを決めた。高校時代は野球部でフットボールは全くの未経験者だが、いまではすっかりファイターズの水に馴染み、先発メンバーを脅かす存在として注目されている。
 このように新鮮な名前を何人も挙げてみたが、それ以外の交代メンバーも含めて、出場した選手全員が、ベンチの期待する力量を発揮できたかどうか。せっかくのチャンスを見事につかめたか。首尾よくチャンスの前髪がつかめたかどうか。そこが問題だ。
 僕が試合前の練習を見る機会は、週末の1日か2日しかないが、そこではいま名前を挙げたメンバーはみな、素晴らしい動きを見せている。パスは次々に通るし、ランも描いた通りに出る。攻守とも、相手がJVのメンバーということを割り引いても、大いに期待の持てるプレーが次々と成功する。
 しかし、その動きが本番で思い通りに再現できたかどうか。ロースコアで展開されている試合でも、あえて交代メンバーを次々と送り込み、実戦での動きに注目していたベンチの期待に応えることのできたメンバーはどれほどいるか。
 試合後の鳥内監督の談話が興味深い。「なんでこんなミスが起こっているのかを見極めなあかん」「交代メンバーがあかん。チャンスをものにせんと」。言葉は思いっきり省略されているが、言わんとされていることはよく分かる。
 前半を終わって10-0、3Q終了時点でも点差は広がらず。安全圏というにはほど遠い状況でも、ベンチは次々とメンバーを入れ替え、緊迫した状況での実戦経験を積ませようとしているのに、それを挑戦の好機と捉えず、失敗を怖れて守りに入っているプレーヤーが多いことを指摘されていたのに違いない。
 アメフットは、どのスポーツにも増して、チームの総合力が試される。攻撃には攻撃の役割があるし、守備には守備の役割がある。先発で出場する選手に託された役割は大きいが、交代メンバーの役割も同じように大きい。今年のように試合の間隔が短くなり、1カ月間に4試合を本気で戦い、そのすべてに勝たなければならない状況では、交代メンバーの役割は例年以上に重要になる。
 頼りになるそうしたメンバーをどれだけ育成できるか。先発メンバーだけでなく、チームの総合力が勝敗を分けるのが今季の特徴である。
 だからこそ、緊迫した試合でも、あえて多くのメンバーにチャンスを与えているのが今季のファイターズであると言ってもよい。その期待にどれだけの選手が応えられているか。前髪をしっかりつかめたメンバーがどれだけいるか。次戦の京大との戦いでその真価が試される。ここが勝負、と腹をくくって頑張ってもらいたい。チャンスは前髪しかない。
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