石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(19)チャンスは前髪しかない

投稿日時:2019/09/11(水) 05:29

 「チャンスは前髪しかない」という。後ろは禿げているから、つかもうとしてもつかめない。いま、この瞬間につかまなくては、後からではつかむことはできないという意味である。
 秋のリーグ戦2試合を週末ごとに観戦して、思わずこの言葉をファイターズの諸君に贈りたくなった。
 どういうことか。説明する。
 今季のファイターズは初戦の同志社戦、2戦目の龍谷戦ともに、昨年秋には試合経験のほとんどなかったメンバーを次々に投入している。初戦の先発メンバーで、昨年の甲子園ボウルでも先発していたのはOLの高木、WR阿部、QB奥野、LB海崎、繁治、DB畑中ぐらいだ。2戦目の龍谷大戦のスタメンを見ても、このメンバーにOL森田、DL大竹が加わる程度。交代メンバーとして出場経験のある選手を見ても、オフェンスではRB三宅、WR鈴木、山下、OL村田、藤田兄、DL板敷、松永弟、DB北川、それにキッキングチームのフォールダーやパンターとして活躍していたQB中岡の名前が浮かぶくらいだ。
 つまり、昨シーズンの終盤、関大と引き分けた試合や2度に渡る立命との死闘を経験した主力メンバーをほとんど欠いたままで、この2戦を戦ったのだ。
 その理由として、一つは数多くの故障者が出ていること、そしてもう一つは監督やコーチが意図的に新しいメンバーを登用し、彼らに実戦の経験を積ませて、チームの底上げを図りたいという意図が秘められているからだろう。とりわけ2、3年生にはフレッシュな顔ぶれが揃っている。
 2戦目の先発に名前を連ねたメンバーに限っても、昨年は交代メンバーとして先発メンバーと肩を並べる活躍をしたWR鈴木やRB三宅は別として、オフェンスでは3年生の亀井、2年生の牧野、田中がOLの先発、QB平尾弟、TE遠藤、K永田もスタメンに名を連ねた。ディフェンスでもDB5人中、3年生の中村、2年生の北川、和泉、竹原の4人が先発として起用された。
 驚くのは、1年生でもWR糸川が先発で出場し、同じく1年生の河原林とともに、鮮やかなパスキャッチを見せたこと。交代メンバーとして出場したTE小林陸、DL山本、DB小林龍斗らの動きも目についた。
 とりわけ驚くのは、DLの交代メンバーとして出場した3年生野村。鋭いラッシュで再三相手のラインを割り、2試合ともQBサックを決めた。高校時代は野球部でフットボールは全くの未経験者だが、いまではすっかりファイターズの水に馴染み、先発メンバーを脅かす存在として注目されている。
 このように新鮮な名前を何人も挙げてみたが、それ以外の交代メンバーも含めて、出場した選手全員が、ベンチの期待する力量を発揮できたかどうか。せっかくのチャンスを見事につかめたか。首尾よくチャンスの前髪がつかめたかどうか。そこが問題だ。
 僕が試合前の練習を見る機会は、週末の1日か2日しかないが、そこではいま名前を挙げたメンバーはみな、素晴らしい動きを見せている。パスは次々に通るし、ランも描いた通りに出る。攻守とも、相手がJVのメンバーということを割り引いても、大いに期待の持てるプレーが次々と成功する。
 しかし、その動きが本番で思い通りに再現できたかどうか。ロースコアで展開されている試合でも、あえて交代メンバーを次々と送り込み、実戦での動きに注目していたベンチの期待に応えることのできたメンバーはどれほどいるか。
 試合後の鳥内監督の談話が興味深い。「なんでこんなミスが起こっているのかを見極めなあかん」「交代メンバーがあかん。チャンスをものにせんと」。言葉は思いっきり省略されているが、言わんとされていることはよく分かる。
 前半を終わって10-0、3Q終了時点でも点差は広がらず。安全圏というにはほど遠い状況でも、ベンチは次々とメンバーを入れ替え、緊迫した状況での実戦経験を積ませようとしているのに、それを挑戦の好機と捉えず、失敗を怖れて守りに入っているプレーヤーが多いことを指摘されていたのに違いない。
 アメフットは、どのスポーツにも増して、チームの総合力が試される。攻撃には攻撃の役割があるし、守備には守備の役割がある。先発で出場する選手に託された役割は大きいが、交代メンバーの役割も同じように大きい。今年のように試合の間隔が短くなり、1カ月間に4試合を本気で戦い、そのすべてに勝たなければならない状況では、交代メンバーの役割は例年以上に重要になる。
 頼りになるそうしたメンバーをどれだけ育成できるか。先発メンバーだけでなく、チームの総合力が勝敗を分けるのが今季の特徴である。
 だからこそ、緊迫した試合でも、あえて多くのメンバーにチャンスを与えているのが今季のファイターズであると言ってもよい。その期待にどれだけの選手が応えられているか。前髪をしっかりつかめたメンバーがどれだけいるか。次戦の京大との戦いでその真価が試される。ここが勝負、と腹をくくって頑張ってもらいたい。チャンスは前髪しかない。

(18)苦戦を良薬に

投稿日時:2019/09/03(火) 14:29

 1日夜、同志社との戦いが終わった直後、新聞記者に囲まれて取材を受ける鳥内監督の表情は厳しかった。
 「今日は全部、意識の問題」「頭の準備ができてないねん」「みんな誰かに頼っている。そんな集団が勝てるわけない」。口から出てくる言葉も厳しかった。
 けれども、囲み取材が解けて記者団が離れた後、僕が「一昨日言われていた通りの内容でしたね」と声をかけると、ニコニコしながら「そうでしょう。想定外のことをされた時にどうするか。もっと練習の時から考えてやらんと」という答えが返ってきた。
 その言葉は、一昨日の練習を監督の隣で見学していたときに聞いたばかり。その予測をきっちり裏付けるような試合展開だったから、監督も思わず笑ってしまわれたのだろう。同時に、これが初戦でよかった。まだ修正する時間はある。この日の苦戦を肝に銘じて練習に励めば、まだまだ成長出来る。苦い薬も良薬になる。そういう、選手たちへの期待もあって、思わず口元がほころんだのだろう。
 確かに苦しい試合だった。ファイターズのレシーブから試合開始。いきなりQB奥野からWR阿部に28ヤードのパスを通した時には、今日は何点とれるかなというお気楽な感じだったが、後が続かない。奥野のパスはなぜかうわずり、OLも相手守備陣に簡単に割られる。あげくに頼みの奥野が相手のヘルメットを腹部に受けて倒れてしまう。
 やばい、と思ったが、ここはディフェンスが踏ん張って、即座に攻撃権を取り戻す。交代で出たQB平尾が冷静にRB三宅へピッチし、三宅が相手ゴール前15ヤードまで進む。さらに1年生WR河原林への短いパスを決め、ゴール前1ヤード。これをRB前田弟が一発でゴールに持ち込んでTD。K永田のキックも決まって7-0。
 1Q終了前には、奥野が復帰。幸い大きなけがではなさそうで、応援しているファンもほっとする。ボールも手に馴染んできたようで、WR山下や鈴木へのパスが決まり始まる。第2Qに入るとすぐ、奥野からWR阿部への長いパスが通るが、惜しくもゴールラインをオーバーしてTDにはならず。しかし、その3プレー後には奥野がWR鈴木への13ヤードのパスを決めてTD。14-0とリードを広げる。
 続く相手の攻撃も、守備陣が一発で仕留め、再びファイターズの攻撃。ここでも奥野が阿部や鈴木へのパスを立て続けに決めて相手陣30ヤード。このチャンスに再び前田弟が30ヤードを独走してTD。21-0とリードして前半終了。
 前半の戦い振りを見れば、明らかにファイターズペース。しかし後半、交代メンバーを起用し始めると、一気に流れは同志社に傾く。相手にリードを許して開き直ったのか、攻守とも思い切ったプレーを連発。逆にファイターズのメンバーは、それに対応できない。攻めてはラインが割られてQBが孤立。守ってはロングゲインを許してあっという間にTDを返される。
 勢い付く相手に対して、ファイターズの攻撃は進まない。ラインが簡単に割られてQBが孤立する場面が相次ぎ、守備陣もまた浮き足立つ。負の連鎖である。
 このピンチを救ったのが2年生RB斎藤。168センチ、74キロの小柄な選手だが、トップスピードに乗ると一気にゴールまで走り込む快足を持っている。第4Qの半ば。ファイターズが反則で自陣37まで下げられた場面でボールを手にすると、一気に相手守備陣を抜き去り、63ヤードを独走してTD。永田のキックも決まって28-7と
リードを広げ、浮き足立ったチームを落ち着かせる。
 逆に同志社はこの独走で反撃の意欲をそがれたのか、雑なプレーが多くなってくる。終了間際には永田がFGを決め、最終スコアは31-7。
 このように得点経過だけを追うと、ファイターズペースで試合が進んだように思われるかも知れない。しかし、現場ではとてもとても。そんなお気楽な気分ではなかった。意味不明な反則はあるし、タイプの異なる二人のQBを使い分けて攻め込んで来る相手の攻撃も防ぎ切れない。逆にファイターズの攻撃は、相手守備陣の変幻自在の動きに振り回される。これが昨年度の優勝チームと今季1部リーグに復帰したばかりのチームの戦いとは到底思えないような内容だった。
 それを目の前で見せつけられたばかりだから、鳥内監督も取材陣を前にして、厳しい発言を連発されたのだろう。
 さて、この厳しい発言を選手たちはどう受け止め、どのように行動するのか。次の龍谷ととの試合は8日、その翌週21日は、早くも京大との試合が迫っている。
 その短い時間に、初戦の苦しい戦いを良薬として消化できるかどうか。部員全員の覚醒を刮目(かつもく)して待っている。
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