石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(35)最高の広報部長

投稿日時:2020/01/09(木) 09:32

 ファイターズの試合後、スポーツ担当の記者が鳥内監督を囲んで取材する、いわゆる「囲み取材」を横合いから眺めることが多い。そのたびに「監督は、役所や企業の広報担当としても名を成される人ではないか」と思わせられた。
 それほど、記者への対応がうまい。キャラも立っている。
 どこがうまいのか。まず、記者の質問を正面から受けて立つ。試合の感想は、ずばっとひとこと。それがそのまま見出しになる。親しくしているベテラン記者から、チームの内情に関するややこしい質問が飛んでも「そんなん知らん」と言い切る。開けっ広げな大阪の「おっちゃん言葉」で応答し、特段、隠し立てもしているようには見えないから、記者も納得して次の質問に移る。
 逆に、フットボールに詳しくなさそうな記者の質問には、少しばかり丁寧度を上げて応答する。
 取材の切り上げ方もうまい。たいていは5分か10分。監督が「以上っ!」と言えば、それで全員が納得する。取材時間は短くても、記事を書くうえで必要な言葉が当意即妙で返ってくるから、記者にとっては記事にまとめやすい。監督の言葉がそのまま活字になり、見出しになる。何よりも嘘をついたり、曖昧な言葉でごまかしたりしないのが書き手にとってはたのもしい。試合後の短い時間に原稿を仕上げなければならない記者には、それが何よりありがたい。
 監督といえば、一軍を率いる将である。ともすれば偉そうに威張ったり、何も考えていないのに考えている風に装ったりする人もいる。
 僕も社会部記者として長年、スポーツ取材の現場も事件取材の現場も踏んできたからその呼吸はよく分かる。政治家の取材も、まちのじいちゃん、ばあちゃん、中学高校生の取材も続けてきた。新聞記者生活53年。今もコラムや記事を書き続けている現役の記者だ。徹夜でも1週間でも、話し続けても話しきれないほどの経験は積んでいる。
 けれども、鳥内さんほど記者あしらいが上手な人にはお目に掛かったことはない。
 その人が監督としてファイターズを率いて28年。チームづくりに苦労を重ね、実績を上げ、指導者として高い評価を得られてきた。それはもう、広く知られているが、それらと並んで、チームの広報面でも大きな役割を果たされてきた。その実績は、一度でも取材の現場に居合わせたことのある記者なら、全員が高く評価するはずだ。僕もまた、心から評価している。
 KGファイターズのチーム作りが関西だけでなく、東京でも高く評価され、アメフット界で一番の観客動員力を持っている一因として、広報担当としての監督の力が大きく貢献していることは間違いない。
 その監督が今期限りで退任される。チームには監督の後を継ぐ有能なコーチが育っているから、チームづくりという面では、特段の支障もないだろう。しかし、何かと難しい記者諸兄姉への対応を試合会場で一手に引き受けて来られた「広報部長」を失うのは大きい。身近でその対応ぶりに接してきた人間だからこそ、その喪失感が身に染みる。残念だ。
     ◇   ◇
 鳥内監督の勇退を惜しみながら、新たに出発するチームのさらなる発展を祈って、今季のコラムを終了します。いつも長ったらしい文章で申し訳ありません。それでも懲りずに新たなシーズンもこのコラムを続けます。今後とも、ファイターズ、並びにこのコラムのお引き立てをよろしくお願い申し上げます。

(34)敗戦。そして再出発

投稿日時:2020/01/06(月) 08:23

 3日はライスボウル。社会人選手権の勝者と大学選手権の勝者が雌雄を決する大きな戦い試合である。舞台は東京ドーム。選手たちは前日から東京に入り、試合前、最後の練習を終えている。僕は3日の早朝、仁川の自宅を出て、新大阪駅8時20分発ののぞみで東京に向かう。
 いつもの年なら、この車中から気分が高揚し、その日の試合展開を想像したり、注目選手の活躍ぶりに思いをはせたりしている。気がつけば新横浜、もうすぐ東京か、と思うことも再三だったが、今年はどうもそんな気分になれない。試合のことを考えると、どうしてもライスボウルの仕組みのことが思い浮かび、頭がモヤモヤしてくる。仕方なく、車中のほとんどを持参した文庫本を読んで過ごした。
 東京駅に到着するとそのまま丸の内の改札口から出て皇居のお堀端に向かう。そこからお堀端の歩道を歩いて北の丸庭園、靖国神社の大鳥居を巡り、そこで気持ちばかりの「戦勝祈願」をした上で東京ドームへ。
 この1時間あまりの散歩の間に、その日の試合展開を予想し、活躍してくれそうな選手の顔を次々に思い浮かべる。そして「どうか選手生命に影響するような大きなけががありませんように」と祈るのが最近の僕の決めごとだ。
 それほど、近年は社会人チームと学生チームの体力差は大きくなっている。アメリカの本場で鍛え、頭角を現した外国人選手や各大学から選りすぐった選手を毎年補強している社会人。最近は、チームを支える企業の理解も深まり、チームを挙げて試合を想定した練習に取り組む時間も、それなりに確保できているようだ。
 それに対して、ファイターズは22歳以下の発展途上の選手ばかり。中には大学に入るまでフットボールとは縁のなかった選手も少なくない。学生である以上、学業との両立が求められ、十分な練習時間の確保も難しい。各自が授業の空きコマに筋力トレーニングに励み、夏休みには早朝からの練習も取り入れているが、それでも肝心のチーム練習に割ける時間は限られている。
 10年ほど前までは「学生が勝負をかけるのは後半。練習量の足りない社会人選手は、後半になると必ずバテてくる。そこで勝負すれば突破口が開ける」といわれていたが、ここ数年は正反対。社会人のサイドからは「基礎体力が勝る社会人が前半からガンガンいけば、学生を圧倒できる。必然的に(相手には)けが人も出る。主導権は終始社会人にある」という状況だ。
 それは、近年のスコアが証明している。昨年は52-17、1昨年は37-9、その前は30-13でそれぞれ社会人の勝利。学生が最後に勝ったのは、2009年に立命が17-13でパナソニック電工に勝った試合まで遡らなければならない。
 ここまで力の差が明確になれば、学生王者対社会人王者の対戦というライスボウルの在り方そのものを再考する必要がある。鳥内監督が再三、記者会見の席などで述べられているように「重大な事故が起きてからでは、遅い」のである。
 この件に関しては、4日の朝日新聞紙上で榊原一成記者が丁寧に書き込んでいる。主催者に名を連ねる朝日新聞を含めて、それぞれの関係者がじっくりと議論し、主催者の都合だけではなく、選手も指導者も、そしてファンも納得するような結論を見いだしてもらいたい。
閑話休題
 気がつけば、肝心の試合のことを書く前に、スペースが埋まってしまった。急いで、試合会場に戻ろう。
 試合はファイターズのレシーブで開始。立ち上がりはQB奥野からWR阿部、糸川に立て続けに短いパスを決めてダウンを更新。続く攻撃もRB三宅の20ヤードのランなどで陣地を進める。もう少しでフィールドゴール圏内というところまで迫ったが、後が続かず攻守交代。
 自陣16ヤードから始まった相手の攻撃は予想通りにすさまじい。ランとパスでぐいぐいと陣地を進め、わずか5プレーでTD。
 ランが止まらないからパスも通る。でも、ランを止めるために人数を割けば、後ろが手薄になる。そうした混乱をあざ笑うように、相手は次の攻撃シリーズでもわずか3プレーでTD。14-0とリードが広がる。
 それでもファイターズの士気は高い。WR阿部へのパス、QB奥野のキープ、RB三宅のランなどで懸命に陣地を進める。しかし、そのたびといってもいいほど攻撃陣に反則が出る。パスインターフェア、フォルススタート、交代違反。せっかく陣地を進めても、それを帳消しにするような反則が続いてリズムに乗れない。
 逆に相手は、自陣7ヤードからの攻撃をラン、パス、パス、パス、パスとそれぞれ1プレーでダウンを更新。5プレー目もパスでTD。瞬く間に21-0。異次元の能力を持つ外国人選手のランを警戒して守備陣が前に上がっているから、パスは止めようがない状態が続く。
 ここで一矢を報いたのがRB三宅。自陣36ヤード付近から一気に64ヤードを独走してTD。ファイターズ応援席を一気に沸かせる。相手ディフェンス陣を振り切って突っ走る姿は、とてつもなくかっこよかった。
 しかし、相手も即座に反撃。エースランナーが40ヤードを独走してTD。ここもまた、わずか6プレーでのTDだ。数えてみれば、相手は前半だけで4本のTDを獲得しているが、それに要したのは都合20プレー。平均すると、わずか5プレーごとにTDに仕上げているのだから、手がつけられない。これはもう、守備隊形がどうの、スピードの違いがどうのというレベルの話ではなく地力の差そのものというしかないだろう。
 後半になると、さすがにその勢いにも陰りが出てきたが、それも鳥内監督にいわせれば「相手がメンバーを落としてきたから」ということらしい。
 しかし、そうした一方的な展開だったが、ファイターズの諸君はくじけず、一歩もひかずに戦った。攻守ともに、極端に言えば1プレーごとにけが人が出るような状態だったが、それでもひるまず、相手にぶつかった。
 守備陣は立て続けにブリッツを繰り返して相手のボールキャリアに襲いかかり、QBサックも連発した。DLでは板敷、今井、寺岡、藤本、大竹、LBの繁治、海崎、DBの松本、畑中……。攻撃陣ではOL陣がなんとか相手の突進を支え、RBの三宅、前田、鶴留らに走路を開いた。阿部が率いるレシーバー陣も活躍、最後は鈴木が見事に奥野からのTDパスを確保して一矢を報いた。
 最終盤、だれの目にもオンサイドキックが見えている状態でK安藤が蹴ったボールをキッキングチームが確保したのも、練習の成果であり、最後まで衰えぬ士気の高さがもたらしたものだろう。
 最終的な得点は38-14。今年も大きな差がついたが、少なくとも士気の高さと運動量では相手に一歩も譲るところはなかった。それはこの日の戦い、特に第4Q残り38秒から展開した魂の攻撃が証明している。
 今後、ライスボウルの在り方などについて様々な議論がなされるだろうが、この試合を戦った選手諸君にとっては、あの38秒が大きな財産となるに違いない。
 それは試合後、グラウンドに降りて一言二言、声をかける機会のあった下級生たちの表情を見た僕が確信したことである。
 冬来たりなば、春遠からじ。この試合を最後に卒業する4年生の奮闘を特筆すると同時に、この敗戦から次の一歩を踏み出す下級生たちの今後に期待する。さあ、再出発だ。
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