石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
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(3)空白の半年を埋めよう
投稿日時:2020/10/04(日) 18:34
この一カ月、週末ごとに上ヶ原の第3フィールドを訪れ、ファイターズの練習を遠くから眺めている。そのたびに、新型コロナウイルスの感染が広がったこの社会の変容に思いを馳せ、それが大学生活や課外活動に与えた影響の大きさを実感する。
第一に、例年なら大学の後期試験が終わった後、2月から新しいチームがスタートし、「虎の穴」とも形容される千刈キャンプ場でのトレーニング合宿などが進んでいたが、3月には学内スポーツセンターで予定されていた二度の合宿が中止となった。4月になって大学への立ち入りが禁止され、チームとしての活動はすべてストップ。練習はおろかミーティングもできなくなった。
6月下旬から練習が再開されたが、1日に1時間、グラウンドに入れるのは20人以内という条件付き。部員同士が距離をとってのフィールドトレーニングだけ。
いつもの年ならこの時期には関東のチームとの交流戦や社会人との試合が組まれ、JV戦も3試合程度は組まれる。その間、グラウンドでの練習がない日には、パートごと、あるいは全体でミーティングの時間を持ち、練習や試合のビデオを見て、それぞれのプレーの精度を高める工夫もする。新しく入部した1年生もそうした機会を通じて徐々にファイターズというチームになじみ、その文化を吸収していく。
その仕上げになるのが東鉢伏高原での夏合宿であり、チームはそこで骨格を整えて秋のシーズンを迎える。
しかし、今年はその機会がすべて失われた。体力・技術・精神面を含めたチームの土台作りが不十分なまま秋のシーズンを迎えなければならないのである。
7月には再び活動が止まり、8月1日から練習が再開されたが、人数制限が維持され、人と人が接触する練習は禁止といった限定付きでそれでだけではできることは限られている。学内の食堂なども閉鎖されていたから、日々の食事にも苦労した。
ようやく8月も下旬になって、徐々に練習の機会が増え、9月23日に授業が再開されてからはほぼ例年通りの練習ができるようになったが、この半年間のブランクは大きい。
それは、グラウンドでの部員の動きを見れば、即座に分かる。昨年の秋、あの厳しい関西リーグを戦い、立命館との決戦を制して甲子園の舞台に立ち、さらには東京ドームで社会人代表と戦ったメンバーたちの姿がやたらと目立つのだ。逆の言い方をすれば、新しいメンバーの台頭が見えてこないということである。今季のチームは、昨年卒業した4年生を欠いたままの戦力で、戦いに挑まなければならない可能性がある。
試合を想定したチーム練習になると、それはさらに明確になる。キッキングの練習でも同様だ。チームとしての練習量が決定的に少ないのだから、ミスも出る。当然と言えば当然だろうが、例年、この時期には春のシーズンを通して急激に伸びてきた選手がけっこう目に付くのに、今年はそれが少ない。
大量に入部した1年生には、素人目に見ても有望な選手が何人もいる。けれども、彼らにはまだまだ先輩に対する遠慮が見える。僕のような「観客席の人間」でさえ素晴らしい才能を感じ、実際に1年生とは到底思えないようなプレーができていても、大学での試合を経験していないせいか、なんとなく「お客さん」という感じがしてしまうのである。
本来なら、こうした1年生も春のJV戦から出場の機会をつかみ、そこで堂々のアピールをしてチームに溶け込み、今頃は名実ともに試合に出るのが当たり前となっていたはずなのに、今年はその機会が失われている。そこがつらい。
今季はリーグ戦でなくトーナメント。負ければ終わりの一発勝負である。そこでどれだけ新しい戦力が活躍できるか。と言うよりも、学年に関係なくそうした選手の台頭なしには今季は戦い切れないだろう。
開幕までの時間は限られている。だからこそ、昨年活躍したメンバーを追い抜いて活躍してやると心に誓い、努力してくれる選手の登場を待ちたい。新しく入部したメンバーも遠慮は無用。自らの才能を信じて努力を重ね、戦列に加わってもらいたい。ここからが本当の勝負である。一所懸命。努力で空白の半年を埋めようではないか。
第一に、例年なら大学の後期試験が終わった後、2月から新しいチームがスタートし、「虎の穴」とも形容される千刈キャンプ場でのトレーニング合宿などが進んでいたが、3月には学内スポーツセンターで予定されていた二度の合宿が中止となった。4月になって大学への立ち入りが禁止され、チームとしての活動はすべてストップ。練習はおろかミーティングもできなくなった。
6月下旬から練習が再開されたが、1日に1時間、グラウンドに入れるのは20人以内という条件付き。部員同士が距離をとってのフィールドトレーニングだけ。
いつもの年ならこの時期には関東のチームとの交流戦や社会人との試合が組まれ、JV戦も3試合程度は組まれる。その間、グラウンドでの練習がない日には、パートごと、あるいは全体でミーティングの時間を持ち、練習や試合のビデオを見て、それぞれのプレーの精度を高める工夫もする。新しく入部した1年生もそうした機会を通じて徐々にファイターズというチームになじみ、その文化を吸収していく。
その仕上げになるのが東鉢伏高原での夏合宿であり、チームはそこで骨格を整えて秋のシーズンを迎える。
しかし、今年はその機会がすべて失われた。体力・技術・精神面を含めたチームの土台作りが不十分なまま秋のシーズンを迎えなければならないのである。
7月には再び活動が止まり、8月1日から練習が再開されたが、人数制限が維持され、人と人が接触する練習は禁止といった限定付きでそれでだけではできることは限られている。学内の食堂なども閉鎖されていたから、日々の食事にも苦労した。
ようやく8月も下旬になって、徐々に練習の機会が増え、9月23日に授業が再開されてからはほぼ例年通りの練習ができるようになったが、この半年間のブランクは大きい。
それは、グラウンドでの部員の動きを見れば、即座に分かる。昨年の秋、あの厳しい関西リーグを戦い、立命館との決戦を制して甲子園の舞台に立ち、さらには東京ドームで社会人代表と戦ったメンバーたちの姿がやたらと目立つのだ。逆の言い方をすれば、新しいメンバーの台頭が見えてこないということである。今季のチームは、昨年卒業した4年生を欠いたままの戦力で、戦いに挑まなければならない可能性がある。
試合を想定したチーム練習になると、それはさらに明確になる。キッキングの練習でも同様だ。チームとしての練習量が決定的に少ないのだから、ミスも出る。当然と言えば当然だろうが、例年、この時期には春のシーズンを通して急激に伸びてきた選手がけっこう目に付くのに、今年はそれが少ない。
大量に入部した1年生には、素人目に見ても有望な選手が何人もいる。けれども、彼らにはまだまだ先輩に対する遠慮が見える。僕のような「観客席の人間」でさえ素晴らしい才能を感じ、実際に1年生とは到底思えないようなプレーができていても、大学での試合を経験していないせいか、なんとなく「お客さん」という感じがしてしまうのである。
本来なら、こうした1年生も春のJV戦から出場の機会をつかみ、そこで堂々のアピールをしてチームに溶け込み、今頃は名実ともに試合に出るのが当たり前となっていたはずなのに、今年はその機会が失われている。そこがつらい。
今季はリーグ戦でなくトーナメント。負ければ終わりの一発勝負である。そこでどれだけ新しい戦力が活躍できるか。と言うよりも、学年に関係なくそうした選手の台頭なしには今季は戦い切れないだろう。
開幕までの時間は限られている。だからこそ、昨年活躍したメンバーを追い抜いて活躍してやると心に誓い、努力してくれる選手の登場を待ちたい。新しく入部したメンバーも遠慮は無用。自らの才能を信じて努力を重ね、戦列に加わってもらいたい。ここからが本当の勝負である。一所懸命。努力で空白の半年を埋めようではないか。
(2)出発の時
投稿日時:2020/09/23(水) 14:38
19日からJVとVのメンバーがグラウンドの全面を使って練習できるようになった。彼らがグラウンドに出る前には、今年入部したフレッシュマンが合同で体幹作りのトレーニングをしているから、やっとフルに近い状態で練習できる環境が整ったのである。
長い空白である。今年の9月19日は、例年なら4月1日に相当すると言ってもよいほどだ。単にグラウンドでの練習が許されなかっただけでなく、春の交流試合やJVメンバーによる新人戦はすべて中止。そして8月の鉢伏高原での夏合宿も中止になった。部員は登校もできず、実家に帰ったまま就職活動に集中する4年生も少なくなかった。
ようやく6月後半から少しずつ、メンバーを20人に限って暑熱順化訓練程度の練習が始まったが、その内容も「合同準備運動」の延長という程度の軽い内容。選手同士のコンタクトもボールを使った練習もできなかったから、とても試合に向けて内実を高めていくような段階までは進めなかった。
しかし、9月になり関西大会の日程が固まってくるに応じて、練習に対する大学側の規制も徐々に緩和され、ようやく19日から例年に近い状態で練習がスタートした。
その意味では、今年の9月19日は記念すべき日であり、ファイターズの新しいシーズンがスタートする日でもあった。
その練習をスタンドからずっと目をこらして眺めていると、それなりに感想はあった。しかし、たかだか週末だけの練習を見て、あれがよかった、ここが悪かったということにはためらいがある。
代わりに動かぬ事実だけを書いておきたい。一つは、今季加入したばかりのフレッシュマンがこの日から攻守合わせて10人近く、JV・Vのメンバーに抜擢され、先輩たちに交じって元気よくプレーしていたこと。俊敏な動きで、とても新人とは思えないようなWRやRBがいたし、彼らを止めに回るDBにも動きのよい選手がいた。身体が大きくて動きのよいラインメンがいるし、肩の強さが先輩QBを凌駕するようなQBもいる。初めての試合形式の練習にも戸惑いを見せず、元気に振る舞う彼らの姿を見て、大いに希望が見えたことは特筆される。
もちろん、上級生も久しぶりのチーム練習で生き生きと身体を動かせていた。幸い、軽いけがをしている選手は少数ながらいるが、大きなけがで休んでいる選手はおらず、今後練習を積んでいくにつれて、試合の感覚を取り戻してくれることは間違いなさそうだ。
驚いたのは、チーム練習が一段落した時にチームのディレクター、小野宏氏が訓示されたこととその内容だ。僕はグラウンドに降りられないので、スタンドから耳を澄ませていたのだが、その内容はほとんど聞き取れない。ただ、ものすごく熱心に、熱を込めて部員に語りかけられているのを見て、一体、何が起きたのかと気になった。
訓示の後、スタンドに上がってこられたのを待ち構えて聞くと、話の内容は新型コロナ禍の中での試合に臨む心得。その趣旨は、以下のようなことだった。
今季は新型コロナウイルスの感染が広がってる中での試合であり、感染者が出ればチームは試合に出場できなくなる可能性がある。今季はリーグ戦ではなくトーナメント戦であり、出場がかなわなくなれば、それでチームは敗退が決まる。絶対に感染者を出さないという気持ちで日々の行動を慎み、学生生活を送ろう。
23日からは大学は秋学期が始まり、一部の科目では対面授業が始まる。キャンパスへの学生の入構制限も解除される。そうすると、級友と食事などに出かける機会も増えるだろう。しかし、飲食をともにすることは、それだけ感染リスクが高まること。今の日本の感染者の比率から考えると、ファイターズから数人の感染者が出てもおかしくない。けれどもチームが試合に出るためには、それをゼロにしなければならない。部員全員が改めて日常生活に細心の注意を払う必要がある。ファイターズの諸君が関学生のモデルとなるような行動を心掛けていこう。
以上のような話だった。この話を聞いて、本当に今季のメンバーは大変だなと改めて思った。けれども、そういう歴史的なシーズンに巡り合わせたのも何かの縁である。とにかく個人ができること、チームとしてできること、双方ともに、細心の注意を払い、最善の努力をして来たるべき開幕に備えようではないか。前途が見えないシーズン。だからこそ中途半端な行動は許されない。公私ともに、日々全力を挙げて取り組もう。
終生、忘れることのできないシーズンが間もなく始まる。今はすべてを賭して旅立つときだ。
長い空白である。今年の9月19日は、例年なら4月1日に相当すると言ってもよいほどだ。単にグラウンドでの練習が許されなかっただけでなく、春の交流試合やJVメンバーによる新人戦はすべて中止。そして8月の鉢伏高原での夏合宿も中止になった。部員は登校もできず、実家に帰ったまま就職活動に集中する4年生も少なくなかった。
ようやく6月後半から少しずつ、メンバーを20人に限って暑熱順化訓練程度の練習が始まったが、その内容も「合同準備運動」の延長という程度の軽い内容。選手同士のコンタクトもボールを使った練習もできなかったから、とても試合に向けて内実を高めていくような段階までは進めなかった。
しかし、9月になり関西大会の日程が固まってくるに応じて、練習に対する大学側の規制も徐々に緩和され、ようやく19日から例年に近い状態で練習がスタートした。
その意味では、今年の9月19日は記念すべき日であり、ファイターズの新しいシーズンがスタートする日でもあった。
その練習をスタンドからずっと目をこらして眺めていると、それなりに感想はあった。しかし、たかだか週末だけの練習を見て、あれがよかった、ここが悪かったということにはためらいがある。
代わりに動かぬ事実だけを書いておきたい。一つは、今季加入したばかりのフレッシュマンがこの日から攻守合わせて10人近く、JV・Vのメンバーに抜擢され、先輩たちに交じって元気よくプレーしていたこと。俊敏な動きで、とても新人とは思えないようなWRやRBがいたし、彼らを止めに回るDBにも動きのよい選手がいた。身体が大きくて動きのよいラインメンがいるし、肩の強さが先輩QBを凌駕するようなQBもいる。初めての試合形式の練習にも戸惑いを見せず、元気に振る舞う彼らの姿を見て、大いに希望が見えたことは特筆される。
もちろん、上級生も久しぶりのチーム練習で生き生きと身体を動かせていた。幸い、軽いけがをしている選手は少数ながらいるが、大きなけがで休んでいる選手はおらず、今後練習を積んでいくにつれて、試合の感覚を取り戻してくれることは間違いなさそうだ。
驚いたのは、チーム練習が一段落した時にチームのディレクター、小野宏氏が訓示されたこととその内容だ。僕はグラウンドに降りられないので、スタンドから耳を澄ませていたのだが、その内容はほとんど聞き取れない。ただ、ものすごく熱心に、熱を込めて部員に語りかけられているのを見て、一体、何が起きたのかと気になった。
訓示の後、スタンドに上がってこられたのを待ち構えて聞くと、話の内容は新型コロナ禍の中での試合に臨む心得。その趣旨は、以下のようなことだった。
今季は新型コロナウイルスの感染が広がってる中での試合であり、感染者が出ればチームは試合に出場できなくなる可能性がある。今季はリーグ戦ではなくトーナメント戦であり、出場がかなわなくなれば、それでチームは敗退が決まる。絶対に感染者を出さないという気持ちで日々の行動を慎み、学生生活を送ろう。
23日からは大学は秋学期が始まり、一部の科目では対面授業が始まる。キャンパスへの学生の入構制限も解除される。そうすると、級友と食事などに出かける機会も増えるだろう。しかし、飲食をともにすることは、それだけ感染リスクが高まること。今の日本の感染者の比率から考えると、ファイターズから数人の感染者が出てもおかしくない。けれどもチームが試合に出るためには、それをゼロにしなければならない。部員全員が改めて日常生活に細心の注意を払う必要がある。ファイターズの諸君が関学生のモデルとなるような行動を心掛けていこう。
以上のような話だった。この話を聞いて、本当に今季のメンバーは大変だなと改めて思った。けれども、そういう歴史的なシーズンに巡り合わせたのも何かの縁である。とにかく個人ができること、チームとしてできること、双方ともに、細心の注意を払い、最善の努力をして来たるべき開幕に備えようではないか。前途が見えないシーズン。だからこそ中途半端な行動は許されない。公私ともに、日々全力を挙げて取り組もう。
終生、忘れることのできないシーズンが間もなく始まる。今はすべてを賭して旅立つときだ。
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