石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

<<前へ 次へ>>
rss

(5)灯りの見える勝利

投稿日時:2020/10/20(火) 21:25

 前例のないシーズンが前例のない形で始まった。2020年度の関西リーグ。今季は、一部の8チームが二つのブロックに分かれてトーナメントで戦い、勝ち抜いた2校で優勝を争う仕組みになった。
 逆に言えば、初戦で負ければそこでシーズンが終わる。18日朝のどこかの新聞に「京大、2時間あまりでシーズン終了」との見出しが出ていたが、それが衝撃的だった。リーグ戦ならば、たとえ初戦で敗れても、くじけずに戦い続ければ逆転優勝の目が残る。けれどもトーナメントは一発勝負。どんなに素晴らしい試合をしても、負ければそれでシーズン終了。残酷なことよ、と思いながら王子スタジアムに向かった。
 この日の僕の役割は、コロナ禍で試合会場から閉め出されたファンや選手の保護者の方々に、このコラムを通じて試合のポイントをお伝えすること。もちろんRTVの実況中継やサンテレビの録画放送があるが、そうした文明の利器が見落としたようなところにも目を配ってファイターズファンにお届けすることである。
 初戦の相手は同志社大学。相手のキック、ファイターズのレシーブで試合が始まる。リターナーは4年生RB三宅。昨季もライスボウルであの富士通を相手に独走TDを決めたスピードランナーである。相手のキックを自陣10ヤード付近で確保すると、そのまま右のサイドライン付近を駆け上がる。相手ディフェンスも必死に止めようとするが、それを軽快なステップで交わし、そのたびにスピードを上げてそのままタッチダウン。K永田のトライフォーポイントも決まって7-0。わずか10秒ほどで主導権を握る。
 しかし、驚くのはこれからだ。相手の最初の攻撃シリーズを完封して、再び自陣30ヤード付近からファイターズの攻撃。今度はQB奥野からTE遠藤、WR糸川への短いパスが続け様に決まり、続けて三宅のラン、糸川へのパスを決めてあっという間に相手陣29ヤード。そこから今度はRB前田が中央を突破してTD。スピードだけではなく、パワーで相手を圧倒していく豪快な走りだった。
 しかし、驚くのはまだ早い。相手の攻撃をこれまた完封してファイターズ3度目の攻撃シリーズがまたまた鮮やかに展開する。今度は奥野からWR鈴木に27ヤードのパス、RB前田のラン、再び鈴木へのパス、そして仕上げはRB前田が中央2ヤードを飛び込んでTD。相手が警戒しているにもかかわらず、鈴木と前田を交互に使い、それぞれのプレーをすべて成功させてTDに結びつけるというのは尋常ではない。
 思い通りの試合展開で、選手たちの気持ちもほぐれてきたのだろう。続く第4シリーズの主役は3人目のRB斎藤。相手守備が奥野からのパスを警戒している裏をかいて、一気に34ヤードを走り、ゴール前2ヤード。これを三宅のランでTDに結びつけ、なんと第1Qだけで27-0とリードを広げる。
 第2Qに入っても勢いが止まらない。ファイターズ5回目の攻撃シリーズはRB三宅、前田、鶴留を交互に走らせ、合間にWR梅津へのパスを挟んで確実に陣地を進める。仕上げは三宅のラン。永田のキックも決まって34ー0。ここまで5回の攻撃シリーズを攻撃陣はすべてTDに結びつけ、守備陣は相手を完封する見事な展開である。
 その内容が素晴らしい。主将の鶴留を加えたRB4人がそれぞれ持ち味を出して大きなゲインを重ねれば、レシーバーも確実にボールをキャッチして陣地を進める。センターの高木とタックルの牧野以外は試合経験の少ないOLも、しっかりボールキャリアを守り、走路を開く。
 奥野はこの日、第2Q早々に5本目のTDを取ったところで交代したが、その間、9回パスを投げて失敗したのは1回だけ。ランが出るからパスが通るのか。パスが通るから相手守備陣は、ランプレーへの警戒がおろそかになるのか。さすがは2年生の時からエースQBとしてチームを引っ張ってきた選手である。毎年のように厳しい試合を戦う中で積み重ねてきた経験は伊達ではない。
 奥野と言えば、試合の前々日、チーム練習が一段落した時に、僕は珍しい場面に遭遇した。ワイドレシーバーのリーダー、鈴木がレシーバー全員に集合をかけ、そこで奥野が真剣な表情で檄を飛ばしていたのである。僕は、少し離れた場所にいたので、彼の言葉は聞き取れなかったが、今度の試合に臨むにあたって、レシーバー陣に気合いを入れていたことは間違いない。
 昨年まではプレーで引っ張っていた彼が、今年は言葉でも引っ張っている姿に、僕は彼の最後のシーズンに臨む熱い気持ちを見た気がした。
 追伸
 鮮やかな攻撃陣の先制パンチに目を奪われて、守備陣や途中から出場したメンバーの活躍ぶりに触れることができなかった。申し訳ない。次回には必ず守備陣や、攻撃を支えたラインのことも紹介します。しばらくお待ちください。

(4)前例のない戦いへ

投稿日時:2020/10/12(月) 06:34

 2020年度の関西学生アメリカンフットボールDiv.1の試合がこの週末から始まる。コロナ禍の中で、日程的にも試合そのものにも制約がある中での開幕である。全体の試合数を少なくするためにリーグ戦ではなくトーナメントで戦い、それも4チームずつを二つのグループに分け、それぞれ勝ち上がったチーム同士が戦い、勝ったチームが関西代表として甲子園ボウルに出場するという前例のない戦いとなる。
 ファイターズの初戦は18日。本拠地ともいえる神戸の王子スタジアムで同志社を相手に戦う。観客は入れず、スタンドからの応援もない中での試合であり、負ければそれでシーズンが終わる。リーグ始まって以来の事態であり、過去のどの世代も経験したことのない戦いとなる。
 その戦いにどう臨むのか。チームの状態をどのように盛り上げていくのか。その前に、春季は試合はおろかチームとしての練習も禁じられていた中で、チームの状態はどこまで上がっているのか。昨年度の4年生が抜けた穴をどのように埋めるのか。先発メンバーだけでなく交代メンバーの仕上がり具合はどうなっているのか。
 ファンにとっては、気にかかることが山積しているはずだ。もちろん、試合は自分たちのチームの仕上がり具合だけでなく、対戦相手の状態とも直接関係する。
 聞くところでは、関西学院大学の課外活動に対する制約は、他のチーム以上に厳しく、チームとしての練習もそれを反映して大きく出遅れているそうだ。
 しかしそれでも、シーズンが始まれば、そうした環境・条件の違いは言い訳にならない。用意!ドン!と笛が鳴れば、一斉にスタートを切らなければならない。目の前の勝利をつかむために全力で挑んで来る相手に必ず勝ち続けなければならない。その条件はどこまで整ったのか。
 僕の感想を言えば、昨年のシーズンをグラウンドで戦ったメンバー(交代出場のメンバーを含む)と、それ以外のメンバーとの間には、正直言って見た目以上の落差がある。キッキングチームを含め、攻守ともにチームとしての練習がほとんどできていないのだから仕方がないといえばそれまでだが、メンバーがそろっている割には、チームとしての完成度が低い。こういう完成度の低さで目の前に迫った試合を戦い切れるのかという不安がつきまとう。
 攻撃でいえばパスも通るし、ランも出る。何より昨年の戦いを経験し、大活躍したメンバーがQBをはじめRB、WR、そしてOLそれぞれに存在し、チームをリードしている。何度も大きな舞台を経験し、苦しい思いもうれしい思いも人一倍味わっているメンバーが全員、大きなけがもなく練習を続けているのは、本当に心強い。
 守備陣も同様だ。昨年の関西代表決定戦から甲子園ボウル、ライスボウルと華やかな舞台で活躍してきたメンバーには、そこで得た自信がある。彼ら全員が自分の持てる力を発揮できれば、そうそう大きな崩れは見せないだろう。
 けれども、それに続くメンバーがどれだけ成長したのか。キッキングのメンバーを含めて、それぞれのポジションで今春卒業したメンバーの穴を埋めることができるかどうか。もちろん練習では、鮮やかなタックルも決まるし、ボールをはたき落とすこともできる。しかし、時には信じられないミスが出ることもある。
 今春入部した1年生を含めて、本来ならこの半年間に相当実力をアップしているはずの2枚目、3枚目のメンバーがどこまで仕上がっているか。僕が勝手に推測するのは、そうしたメンバーの仕上がり具合が勝敗を分けるということだ。
 アメフットはチームスポーツ。攻守ともにグラウンドに出ている11人(キッキングチームでは、その時フィールドに出ている全員)がそれぞれの役割を完璧に果たしてこそ勝利への道が見えてくるスポーツである。同時に試合中、しばしばけがが発生するスポーツでもある。交代メンバーの層の厚さを抜きにして勝利はおぼつかない。
 もちろん、実戦の感覚がつかめていないのは、相手チームも似たような状況であろう。問題は、試合までに残された時間に、自分たちの状況をどれだけ好転させていけるかどうかにかかっている。
 幸いなことに、チームには昨年、1昨年と先発メンバーとして試合経験を積んできたメンバーが何人もいる。彼らを中心に泥臭く努力し、必死懸命に取り組んでいくことだ。上級生が本気になれば、後輩たちも奮い立つ。そこから下級生たちも実戦の感覚を身に付け、試合で活躍できるようになっていく。
 そういう姿が見られることを切望しながら18日を待ちたい。
«前へ 次へ»

<< 2025年4月 >>

MONTUEWEDTHUFRISATSUN
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      

ブログテーマ