石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(7)強いファイターズ、発展途上のファイターズ

投稿日時:2020/11/09(月) 10:03

 トーナメントの2回戦、神戸大学との戦いは35-14。ファイターズが前半だけで5本のTDを決め、力の差を見せつけた。けれども、課題もいっぱい見つかった。いわば強いファイターズと発展途上のファイターズ。双方が同時に出現し、見所は満載だった。
 関学のレシーブで始まった立ち上がり。QB奥野が立て続けにWR糸川、梅津にポンポンと短いパスを決め、合間にRB三宅が当たり前のように10ヤードを走る。奥野のキープで相手陣に入ると、再び梅津に26ヤードのパス。残り22ヤードをRB前田と鶴留が交互に走り、仕上げは前田の中央突破。わずか8プレーでTDに仕上げ、福井のキックも決まって7-0。パスとランを適度に使い分け、時には自らボールをキープして陣地を稼ぐ奥野の余裕あるプレーが際立つ先取点だった。
 これで落ち着いたのか守備陣も健闘。LB繁治、川崎らが厳しいタックルで相手の出足を止め、ダウンの更新を許さない。
 互いにパントを蹴り合った後の第5シリーズ。相手陣35ヤードから始まったファイターズの攻撃は、まずは奥野のスクランブルで11ヤード、続いて鶴留の力で押すランで7ヤード、仕上げも前田のラン。相手を跳ね飛ばすようにして17ヤードを走りきってTD。ぐいぐいと相手を押し込むOL陣のパワーと、適切な奥野の判断、鶴留のパワー、そして技とスピードがかみ合った前田の個人技。ファイターズの底力を見せつけるような攻撃で14-0とリードを広げる。
 順調そのものと見えた試合が暗転したのはその直後のキックオフ。相手リターナーに幻惑されて83ヤードのビッグリターン。守備陣の準備が整わないうちに簡単にTDパスを決められ、14-7と追い上げられる。
 「くそっ、やり返したる」と思ったかどうか。思わぬ展開となった次のファイターズの攻撃。今度は奥野から梅津への長いパスで一気に相手陣に攻め込む。前田のランを一つ挟んで今度はWR鈴木へのパス。それが絵に描いたように決まってTD。再びリードを広げる。
 けれども、相手もしっかり準備を整えている。今度は関学がキックオフしたボールをキャッチしたリターナーが反対サイドのリターナーに後ろパス。それをキャッチしたリターナーががら空きになったライン際を走り抜き、そのままTD。立て続けのビッグリターンであっという間に21-14と追いすがる。
 二つのビッグリターンは、相手にとっては会心の作品だったに違いない。とりわけTDに結びつけた2本目には、周到な準備がこらされていたように思える。というのは、その少し前のプレーでこのリターナーが足がつったような仕草をしてベンチに下がった場面があったからだ。その選手が見事な走りでファイターズの守備陣を置き去りにする場面に「はめられた!」と思ったのは僕だけではあるまい。ともあれ、この試合にかける相手チームの思いの深さが見えた場面だった。
 けれども、そこで慌てないのがファイターズの攻撃陣。2年生の時から攻撃の柱として場数を踏んできた奥野と三宅のコンビが粛々と仕事をこなし、仕上げは三宅の32ヤード独走TD。あっという間に相手守備陣を抜け出し、ゴールまで独走したスピードがすごかった。上ヶ原での練習時でも当たり前のように披露している走りだが、それを試合でも平然と披露できる冷静さに改めて驚かされた。
 DB竹原のインターセプトでつかんだ次の攻撃シリーズは一転してパスアタック。第2Q終了までの時間が迫っていることもあり、奥野がWR糸川、梅津に立て続けにパスを通す。最後は梅津が好捕してTD。前半を35-14で折り返す。
 後半は、奥野が退き、QBには平尾と山中が登場。レシーバー陣や守備陣にも次々に交代メンバーが投入された。フレッシュな1年生も起用されるし、出場機会が限られていた4年生も登場する。ガラッとメンバーが入れ替わったが、そういうときこそ交代メンバーにとってはアピールのチャンス。可能性を試す舞台である。今季は試合が少なくアピールする機会も少なかっただけに、下級生にとってはたとえ失敗しても、それが薬になり経験となって次につながるはずだ。
 そこで目に付いた1人が、2年生DLの亀井弟。見事なパスカットとQBサックを立て続けに決めて、潜在能力の高さを見せつけた。DBの1年生、海崎弟の動きも鋭かった。途中から出場し、さすが副将と思わせる動きを披露したLBの兄と同時に2列目の左右を固める場面もあって、今後に大いに期待が持てた。
 ほかにもこの日のメンバー表には、背番号の若い順にWR鈴木(箕面自由)、RB前島(高等部)、DB波田(箕面自由)、DB山村(足立学園)が名を連ねていた。それぞれがセンスとスピードを持った選手であり、上ヶ原の練習でも存在感を発揮している。大学での試合経験を積むたびに成長していく人材だと期待している。

(6)新しい息吹

投稿日時:2020/10/29(木) 08:38

 同志社大学戦を振り返るに際して、ファイターズは今春、どんなメンバーを失ったかを確かめたい。
 手元にある1月3日のライスボウルの先発メンバーを参考にすると、オフェンスではOLの村田、森田、松永、WRの阿部、ディフェンスではDL板敷、藤本、寺岡、大竹、DBでは渡部、畑中、松本、そしてK・Pを務めた安藤が卒業している。攻守蹴合わせて12人を失った穴をどのように埋めるのか。それを試合で確認するのが、大きな関心事だった。
 結論からいうと「随所に新しい息吹が見えている。しかし、まだまだ底上げが必要」というのが、スタンドから観戦した僕の感想である。
 OLでは2年生時からスタメンを張っている副将・高木を中心に、3年生の二木、牧野、田中、そして2年生の速水が先発。目立たないけれども、基本に忠実なプレーで攻撃陣を支えた。今季のチーム練習が始まった頃から、OL担当の香山コーチや神田コーチに厳しく指導された成果だろう。TEには遠藤、小林陸など昨年から随時出場していたセンスのよいメンバーがそろっているので、今後の成長が楽しみだ。
 前回も絶賛したように、攻撃の起点になるQB奥野は健在、三宅、前田、斎藤、鶴留で回すRBの完成度も高い。WR陣も昨年から主力メンバーとして出場している鈴木、糸川、河原林らが健在。しばらく試合から遠ざかっていた戸田も安定した捕球をしていた。昨年はけがで出場機会のなかった2年生の梅津も、センスの良さを見せてくれた。
 特記したいのは、1年生WRの鈴木(箕面自由)。今季は練習もままならず、アピールする機会が少なかったにもかかわらず、上ヶ原での練習時から目に付いた選手だが、試合でもその力を発揮。第4Q後半、QB山崎が投じた30ヤードのパスをキャッチ。TDを奪った。スピードだけでなく、コース取りや相手を抜き去るセンスにも非凡なところがあり、今後が楽しみな新人である。
 デイフェンスでは、第一列が期待される。この日は、野村、青木という昨シーズンの後半から存在感を増していたメンバーに加えて、昨年はほとんどVチームでの経験がない2年生の吉田と亀井弟が先発したが、立ち上がりから相手を圧倒。「今年の1列目はいいですよ」という大村監督の言葉を裏付けるような活躍だった。
 2列目は、昨年大活躍した海崎と繁治の両副将が欠場したが、その穴を昨年から交代メンバーで出場している4年生の川崎と3年生の都賀が埋めた。とりわけ高等部時代は野球部だった都賀がフットボールの仕組みに慣れたのか、随所で果敢なプレーを見せ、相手に自由なプレーを許さなかった。
 問題はDB陣。昨年から試合に出ている北川と竹原は、よくボールキャリアに絡んでいたが、経験の薄いメンバーの動きは今ひとつ。スピードはあっても、相手が本気でぶつかってくる試合での経験がほとんどないから、つい相手の動きに惑わされ、肝心のボールキャリアのカバーが遅れる。そのたびに「くそっ、次は仕留めたる」と気合いを入れるから、逆に力が入りすぎて相手にその逆を突かれる。
 今後、試合経験を積んでいけば、その辺の呼吸は身に付いてくるだろうが、時間は限られている。この日、交代メンバーとして出場したメンバーを含め、攻守ともに、さらに実戦を想定した練習を積み重ね、才能を発揮してくれることを願うばかりだ。
 同じように試合経験の少ないのがキッカーとパンターを兼務する永田。今季は試合形式の練習が十分にできず、キッキングのメンバーは大変な苦労をしたようだが、初戦という重圧にも負けず、すべてのキックをしっかりと蹴っていたのが印象的だった。
 このように初戦を振り返っていけば、一発勝負のトーナメント、それも2回勝てば決勝という今季のスケジュールの厳しさが身に染みる。
 現状では、試合経験を積ませて新しい戦力を育てるということは極めて難しい。けれども新しい戦力の台頭なしには戦えない。この難しい条件をどう突破していくか。監督・コーチの指導を待つだけでなく、選手自身がこの状況を理解し、1分、1秒を惜しみ、覚醒した練習に取り組まなければならない。立ち上がりからの華々しい攻撃で圧勝した試合はまた、そのことを痛感させられた試合でもあった。
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