石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(12)勝敗を分けた総合力

投稿日時:2020/12/15(火) 21:01

 コロナ禍で、開催さえ懸念された甲子園ボウル。日本大学と関西学院大学の決戦は、両者が存分に持ち味を発揮し、期待に違わぬ激戦になった。
 第1シリーズ。相手がファターズ陣奥深くに蹴り込んだボールを受けたリターナー木下が走り始めるとすぐ、目の前を交差したRB三宅にリバース。ハンドオフを受けた三宅が快足を飛ばして一気に相手陣21ヤードまで攻め込む。このチャンスをQB奥野からWR梅津へのTDパスに結びつけ、K永田のキックも決まってあっという間に7-0。
 観客は大喜びだったが、日頃、チームの練習を見る機会の多い僕にとっては、事前に準備してきた通りの展開であり、上ヶ原で積み重ねてきた練習が報われたとほっとする。
 ところが悪い予想もよく当たる。前評判通り相手OLの圧力が強く、ランプレーが止まらない。ラン、ラン、ランと押し込まれ、あっという間に同点。次の相手攻撃も、要所にスクリーンパスを混ぜた攻撃に振り回されて逆に14-7と逆転された。
 やっかいな相手だ、どうすれば止まるんだろう、と頭を抱えているのはスタンドのファン。だが、グラウンドの選手の士気は衰えない。RB三宅や前田の強力なランとQB奥野のピンポイントのパスで反撃し、仕上げは三宅のランでTD。永田のキックも決まって、あっという間に同点に追いつく。
 こうなると守備陣も落ち着き、相手の強力な動きに対応し始める。守備が落ち着くと攻撃も安定してくる。三宅と前田のラン、奥野からWR糸川や鈴木へのパスが次々と決まる。それぞれ相手守備陣の手が届かないコースへピンポイントに投じられるパスであり、日頃からともに練習を積んで仲間だからこそ確保できるボールである。
 前半終了間近には、第4ダウン、インチという状況でWR大村が相手ゴールに走り込みTD。21-14とリードして折り返す。
 後半に入っても、ファイターズの意気は軒昂。攻撃がミスをすれば守備がカバーし、守備陣が踏ん張れば攻撃陣がそれに呼応する。そういう好循環の中から、今度は鶴留、三宅、前田とそれぞれ異なる特徴を持ったランナーが各自の特徴を生かした走りで陣地を進める。最後は三宅が3ヤードを走りきって28-14。
 ようやく一息、と思った瞬間、落とし穴が待っていた。日大のエースランナーが一気に78ヤードを独走してTD。球場の雰囲気を一変させる。
 やばい。なんとか雰囲気を変えてくれと祈るような気持ちで迎えたファイターズの攻撃シリーズ。そこで今度はRB三宅が独走のお返しという場面を演出する。しかし、その前に手痛い反則があり、せっかくの独走が取り消し。ヤバイ!の2乗である。
 迎えた第3ダウン。観客は浮き足だったが、選手は慌てない。奥野が普段通りに鈴木へピンポイントの長いパスを通して相手陣37ヤード。しかし、次のシリーズ。相手にQBサックを食らって第3ダウン、ダウン更新まで18ヤードという厳しい状況に追い込まれた。それでも奥野が鈴木へのパスをお約束のように通し、仕上げは奥野から糸川への24ヤードTDパス。どれもこれもピンポイントの難しいパスだったが、練習時から常に呼吸を合わせている鈴木と糸川が確実にキャッチし、7点を追加して相手に傾きかけていた流れを取り戻した。
 終わってみれば、42-24。守備の1、2列はスピードで相手の強力なラインに対抗し、攻撃陣は互いに協力し合って相手の突入を食い止める。下級生でそろえたDB陣も、必死に相手ランナーを追い、パスに食らいつく。相手の動きと傾向を分析したベンチが的確な指示を出し、それに呼応した守備陣が相手のダウン更新を許さない。
 そうなれば、攻撃陣も準備してきたとっておきのプレーを確信を持ってコールできる。それが成功するたびに、相手は疑心暗鬼となり、ファイターズの動きに過剰に反応してしまう。
 そうした積み重ねと、ファイターズ攻撃陣の複雑な動きが相手守備陣を惑わす。その間隙を突いて、奥野がギリギリのパスを投じ、レシーバーが練習通りにキャッチする。この循環が始まれば、ファイターズのペース。後半の得点差は、実力の差というよりは、ベンチと分析班を含めた総合力の差が結果に現れたと考えてもいいのではないか。
 関西大会で攻守ともに強力な陣容を整えた立命館に勝ち、甲子園ではこれまた強力なラインと豊富なタレントをそろえた日本大学に勝利する。それは、こうした準備と総合力において、多少なりともファイターズが上回っていた結果と言ってもよいだろう。
 試合はグラウンドに出ている選手だけで戦うモノにあらず。監督やコーチはもちろん、ビデオによる相手チームの分析から、当日の彼我の選手の動きのチェックまで、すべての担当者の冷静で、地味な努力があって初めてグラウンドの選手たちが花開く。
 試合後、大村監督やオフェンス担当の香山コーチから彼我の力関係を中心にした冷静な分析を聞きながら、なるほど、なるほどとうなずき、アメフットはどこまで行っても準備と総合力の勝負であると実感した。

(11)文と武が助け合う

投稿日時:2020/12/03(木) 09:18

 13日に迫った甲子園ボウルを前に、チームの練習風景を報告したいところですが、うかつなことを書いては内部情報の暴露にもなりかねません。かといって、決戦当日までこのコラムを更新しないというのも、芸のないことです。
 そこで今回は一つ、ファイターズに関するクイズを提出します。多分、出題者(つまり僕のことです)以外には誰も解けないのではないでしょうか。
 問題=今季ファイターズの主将鶴留輝斗、主務末吉光太郎、AS島谷隆也、副将高木慶太、WR高木宏規、AS前川空、RB三宅昂輝、トレーナー萩原楓と8人の名前を並べて見ました。さて、ファイターズの部員であるということ以外に、この8人に共通することは何でしょう。
 ヒント=この8人にプラスしてオフェンスコーディネーターの香山俊裕さんやアシスタントコーチの池田雄紀さんの名前を加えて考えて下さい。余計に分かりにくくなるかもしれませんが、正解が分かれば、なんだ、そんなことだったのかというようなことです。
      ◇    ◇
 と、大げさな前振りをしましたが、正解は全員、大学で僕の授業(文章表現)を履修し、それぞれ立派に単位を取得してくれたメンバーであるということです。
 僕は関西学院で昨年の春まで10年余り、非常勤講師として週に1回、(どの学部の学生にも開放されている)「文章表現講座」を担当していました。講座は2コマ、定員はそれぞれ20人。自分でいうのも何ですが、なかなかの人気講座で、毎回二つの講座にそれぞれ80人~100人の申し込みがありました。
 事務局の担当者が抽選で受講生を決めるのですが、その際(例えばファイターズの学生だからよろしくといった)情実は一切なし。くじ運のよい学生だけが受講できる講座でした。上記の8人はその狭き門を突破して履修してくれたメンバーです(香山氏と池田氏は10年ほど前に社会学部で担当していた講座ですから、少し事情が異なります)。
 なんせ、2コマ合わせてわずか40人の受講生です。彼、彼女らに毎回、800字の小論文を書かせ、それを添削して返却するのが中心の授業でしたが、文章を紡ぐ者とそれを添削する者の関係は、互いに思ったこと、考えたことを(文章を通じて)ぶつけ合いますから、あっという間に距離が近くなります。
 例えば授業で「あいつだけは許せない」といった題を出せば、それぞれの成長過程で出会った「許せない」ことについて、具体的な事例を挙げ、その場面を描写しながら、「だからあいつを許せない」とか「その時はめちゃくちゃ腹が立ったけど、いまは自分にも足りないことがあったと反省している」などという言葉を連ねて800字の文章をまとめ上げてくれます。「思い出に残る本」という題を出せば、高校時代に読んで共感した本や練習の合間に読んだ本のことなどを生き生きと書き込んでくれます。
 そうした文章に僕が青ペンでチェックを入れ、少し言葉を足したり、逆に削ったりしながら、より分かりやすい表現になるよう具体的にアドバイスしていくのです。
 そういうやりとりをしていると、受講生と講師の距離は一気に縮まります。彼らが紡ぎ出した文章を手がかりに、より文章の内容を鮮明にしたり、分かりやすくしたりする作業を通じて、受講生は新たな発見をし、自分との対話を深め、文章を書くコツをつかんでいきます。その繰り返しの中から「自分は今、本気でこの授業に取り組んでいる」という実感を手にし、いい点数がついた時の喜びを自分の胸に刻みます。その繰り返しの中で、文章を書くことや本を読むことに対する抵抗感が解消され、気がつけば受講前よりもはるかに高いステージで物事を考え、表現する力を身につけていくのです。
 たかが3カ月、12回ほどの授業ですが、そういう場を共有した部員たちが、ある者は主将として、ある者は主務として、またある者はエースランナー、AS、トレーナーとして、今年のチームを牽引し、支えてくれたのです。こんなにうれしいことはありません。
 ことは僕が担当した受講生に限りません。それぞれの部員がそれぞれのやり方で授業と課外活動の両立を心掛け、大学生としての本分を尽くしてきたことが自らの力量を高めることにつながり、結果として強力なライバルを倒す要因にもなったということでしょう。
 学業と課外活動を両立させ、その努力を支えにしてプレーヤー、スタッフとしての活動に突き進む。褒めすぎかもしれませんが、たとえ短い時間とはいえ、授業を通じて彼らの成長の一端に関わった者として、こうしたことも一度は報告しておきたいと考え、あえてこの時期に紹介させていただきました。
 いわば、文と武の双方を追求し、双方が互いに助け合う形で自らの力を引き出し、伸ばしてきたのが彼、彼女らです。それは他の講義を受講し、苦労して文武の道を歩んでいるほかの部員にとってもいえることでしょう。
 これからも本を読むこと、考えること、それを文章にすることが自らを高め、成長させると信じて努力を続けて下さい。まずは目の前の甲子園での活躍を祈っています。
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