石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
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(14)充実の時、うれしい時間
投稿日時:2021/01/01(金) 21:54
ファイターズの諸君にとって、今が一番充実している時ではないか。
世間は大晦日だ、正月だ、カウントダウンだと浮ついているが、ファイターズにとってそれらは一切関係なし。3日に控えた社会人王者との決戦に向けて、ひたすら自分たちを高め、チームを最高の状態に持って行くための毎日である。
大晦日も元旦も、ともに午前10時から練習開始。その1時間以上前からは準備運動を兼ねたパートごとの練習がある。通学に時間がかかる部員にとっては練習に参加するだけでも一苦労だ。
けれども、当の本人にとっては、毎日が充実感でいっぱいだろう。今日はこういう風に頑張ろう、昨日の反省をこのように生かしていこうと考えながらの登校は、わくわくする時間であるに違いない。
実際、練習が始まれば、社会人の王者を意識したプレーがどんどん投入される。チームの長所を生かし、短所をカバーするための工夫であり、練習である。練習のための練習ではなく、勝つための工夫を仲間とともに重ねていく日々。それはとてつもなく楽しく、充実した時間であるに違いない。日本にフットボールに取り組む学生は多くても、こういう時間を持てるのは俺たちだけ、という選ばれた人間だけが感じられる日々と言ってもよいだろう。
都合のつく限り練習を見学させてもらっている僕にとっても、それは胸弾む日々である。関西大会では立命館大学、甲子園ボウルでは日本大学。ともに強力な陣容を備えたチームに勝利したからこそ得られたこの時間。ライバルチームがすべて来季を見据えてスタートしているこの時期に、今年度の陣容のままでさらなる高みを目指して練習に取り組む日々。その1分1秒を慈しむように練習に励む選手やスタッフの動きを見るたびに、心から「勝ってよかった。いまこの時、この練習が明日のファイターズにつながって行く」という実感を手にすることができる。
俳人、高浜虚子に「去年今年(こぞことし)貫く棒のようなもの」という句がある。川端康成が戦後間もなく、この句を知って感嘆したことから、俳句関係者以外にも知られるようになった。
鑑賞する人それぞれに受け止め方は違うだろうが、僕はこの句をファイターズに当てはめ「棒のようなもの」を「ファイターズ魂」と受け止めている。それがこの時期の練習からも培われているのだろう。
他のチームにはなくて、ファイターズにだけ与えられたこの時間。それがどれほど貴重なことか。この10年間に甲子園ボウルに出場すること9回、そのうち大学王者になること8回。つまり、この10年間に8回も暮れから元旦にかけて「勝負に直結する」練習に取り組む機会を与えられているのがファイターズである。
毎年のように優れた素質を持つ高校生が次々と加わってくるライバル校を相手に勝利を収めることができるのも、こういう充実した時間をこのチームがほぼ独占的に有しているからではないかと僕はにらんでいる。
それは、ライスボウルという大きな舞台を前にしたメンバーに限らない。彼らの練習相手を務める控えのメンバーにとっても、貴重な時間である。守備のメンバーは、なんとかして先発メンバーが並ぶ攻撃陣を止めたいと知恵を絞り、攻撃の選手はこれまたリーグを代表する守備陣の穴をかいくぐろうと工夫する。そういう実戦的な練習の積み重ねが知らず知らずチームの底上げにつながり、新しい年度を迎えたときの力になっていくのではないか。
時には、1軍のメンバーの練習が終わった後、短い時間ではあるが、JVメンバーだけが攻守に分かれて試合形式の練習をすることもある。普段は本番で先発するメンバーの練習台になるのが役割だが、この時ばかりは攻守ともにJVの1、2年生が先発として出場し、互いに相手を凌駕しようと力を出し合う。
高校時代に華々しい活躍をしてきたメンバーもいるし、推薦入試でファイターズの門を敲いた選手もいる。高校時代は野球やサッカーなどに取り組んでいたが、ファイターズで日本一を目指したいと志願して入部したメンバーもいる。普段の年なら春に数回、JVメンバーが出場する試合が組まれ、そこで活躍した選手が秋には新しい戦力として登用されていくが、今季はコロナ禍ですべての活動が停止され、彼らにとっては、その能力を発揮する場面が極端に少なかった。
それを補う意味もあってか、今季は社会人代表との決戦を控えたこの時期に、あえてJVのメンバー限定で、試合形式の練習を取り入れ、新しいシーズンに備えているのである。
背番号を着けた選手はほとんどおらず、僕は交互に出場したQB二人の動きを追うことしかできなかったが、今はビデオ班が充実している。監督やコーチが後日、手の空いたときにこのビデオを見て、普段の練習では見えない部分まで細かくチェックし、来季のチーム作りの参考にされるのであろう。
目の前の試合に集中するだけでなく、そんなときにも、新しいシーズンを見据えた準備を怠らない。年末年始の慌ただしいこの時に、こういう濃密な時間を持てるのも、シーズンの最後まで目標を持って戦えるチームにだけ与えられたアドバンテージであろう。それをとことん生かそうとするチームのたたずまいに接して、僕はファイターズというチームの奥の深さを改めて感じた。
世間は大晦日だ、正月だ、カウントダウンだと浮ついているが、ファイターズにとってそれらは一切関係なし。3日に控えた社会人王者との決戦に向けて、ひたすら自分たちを高め、チームを最高の状態に持って行くための毎日である。
大晦日も元旦も、ともに午前10時から練習開始。その1時間以上前からは準備運動を兼ねたパートごとの練習がある。通学に時間がかかる部員にとっては練習に参加するだけでも一苦労だ。
けれども、当の本人にとっては、毎日が充実感でいっぱいだろう。今日はこういう風に頑張ろう、昨日の反省をこのように生かしていこうと考えながらの登校は、わくわくする時間であるに違いない。
実際、練習が始まれば、社会人の王者を意識したプレーがどんどん投入される。チームの長所を生かし、短所をカバーするための工夫であり、練習である。練習のための練習ではなく、勝つための工夫を仲間とともに重ねていく日々。それはとてつもなく楽しく、充実した時間であるに違いない。日本にフットボールに取り組む学生は多くても、こういう時間を持てるのは俺たちだけ、という選ばれた人間だけが感じられる日々と言ってもよいだろう。
都合のつく限り練習を見学させてもらっている僕にとっても、それは胸弾む日々である。関西大会では立命館大学、甲子園ボウルでは日本大学。ともに強力な陣容を備えたチームに勝利したからこそ得られたこの時間。ライバルチームがすべて来季を見据えてスタートしているこの時期に、今年度の陣容のままでさらなる高みを目指して練習に取り組む日々。その1分1秒を慈しむように練習に励む選手やスタッフの動きを見るたびに、心から「勝ってよかった。いまこの時、この練習が明日のファイターズにつながって行く」という実感を手にすることができる。
俳人、高浜虚子に「去年今年(こぞことし)貫く棒のようなもの」という句がある。川端康成が戦後間もなく、この句を知って感嘆したことから、俳句関係者以外にも知られるようになった。
鑑賞する人それぞれに受け止め方は違うだろうが、僕はこの句をファイターズに当てはめ「棒のようなもの」を「ファイターズ魂」と受け止めている。それがこの時期の練習からも培われているのだろう。
他のチームにはなくて、ファイターズにだけ与えられたこの時間。それがどれほど貴重なことか。この10年間に甲子園ボウルに出場すること9回、そのうち大学王者になること8回。つまり、この10年間に8回も暮れから元旦にかけて「勝負に直結する」練習に取り組む機会を与えられているのがファイターズである。
毎年のように優れた素質を持つ高校生が次々と加わってくるライバル校を相手に勝利を収めることができるのも、こういう充実した時間をこのチームがほぼ独占的に有しているからではないかと僕はにらんでいる。
それは、ライスボウルという大きな舞台を前にしたメンバーに限らない。彼らの練習相手を務める控えのメンバーにとっても、貴重な時間である。守備のメンバーは、なんとかして先発メンバーが並ぶ攻撃陣を止めたいと知恵を絞り、攻撃の選手はこれまたリーグを代表する守備陣の穴をかいくぐろうと工夫する。そういう実戦的な練習の積み重ねが知らず知らずチームの底上げにつながり、新しい年度を迎えたときの力になっていくのではないか。
時には、1軍のメンバーの練習が終わった後、短い時間ではあるが、JVメンバーだけが攻守に分かれて試合形式の練習をすることもある。普段は本番で先発するメンバーの練習台になるのが役割だが、この時ばかりは攻守ともにJVの1、2年生が先発として出場し、互いに相手を凌駕しようと力を出し合う。
高校時代に華々しい活躍をしてきたメンバーもいるし、推薦入試でファイターズの門を敲いた選手もいる。高校時代は野球やサッカーなどに取り組んでいたが、ファイターズで日本一を目指したいと志願して入部したメンバーもいる。普段の年なら春に数回、JVメンバーが出場する試合が組まれ、そこで活躍した選手が秋には新しい戦力として登用されていくが、今季はコロナ禍ですべての活動が停止され、彼らにとっては、その能力を発揮する場面が極端に少なかった。
それを補う意味もあってか、今季は社会人代表との決戦を控えたこの時期に、あえてJVのメンバー限定で、試合形式の練習を取り入れ、新しいシーズンに備えているのである。
背番号を着けた選手はほとんどおらず、僕は交互に出場したQB二人の動きを追うことしかできなかったが、今はビデオ班が充実している。監督やコーチが後日、手の空いたときにこのビデオを見て、普段の練習では見えない部分まで細かくチェックし、来季のチーム作りの参考にされるのであろう。
目の前の試合に集中するだけでなく、そんなときにも、新しいシーズンを見据えた準備を怠らない。年末年始の慌ただしいこの時に、こういう濃密な時間を持てるのも、シーズンの最後まで目標を持って戦えるチームにだけ与えられたアドバンテージであろう。それをとことん生かそうとするチームのたたずまいに接して、僕はファイターズというチームの奥の深さを改めて感じた。
(13)人が育ち、人を育てる
投稿日時:2020/12/19(土) 21:27
ファイターズのホームページに、甲子園ボウル表彰式の後、多彩なトロフィーを手に、壇上に表彰台に勢揃いした選手たちの写真がアップされている。主将の鶴留君を真ん中にして、向かって左から最優秀選手賞を授与されたRB三宅君、副将の海崎、繁治君、主将の右手には副将高木君、LBの川崎君、そして年間最優秀賞チャック・ミルズ杯を受賞した奥野君が並んでいる。
これが2020年、コロナ禍の中で苦しみながら、学生界の頂点にチームを率いてきた主要な面々だと思って眺めれば、特別の感慨がある。試合で華々しい活躍をしたメンバーもいれば、普段からチーム運営に気を配り、それぞれの役割を果たしてきたメンバーもいる。けがなどで練習に加われない悩みを抱えつつ、それでもチームに貢献したいと僕に相談してきた選手もいる。
その中で、今回注目したいのは背番号57、LBの川崎君である。昨年までは、2年生の頃から華々しい活躍をしてきた同じパートの繁治君や海崎君の陰に隠れたような存在だったが、今季は違う。彼ら2人がけがなどで練習が十分にできないときに、率先してパートを支え、自らを鍛え、後輩たちを鼓舞してきた。その努力が秋のシーズンに開花し、今季はすべて先発で出場。甲子園ボウルでも守備の要として、日大の強力なオフェンス陣に対抗してきた。
甲子園のアルプス席でチームのFM放送を担当されていた小野ディレクターが放送の中で思わず「今のは川崎君ですか。成長しましたね。こういう風に4年生になってからでも急激に成長していく選手がいるというのが、ファイターズというチームですね」と、思わず名前を挙げて感嘆される場面があった。僕も全く同感だった。
振り返れば、ファイターズには毎年、4年生になってから急激に成長した姿を見せてくれる選手がいる。昨年のチームでいえばDLの板敷君。シーズン後半からQBサックを連発。天下分け目の立命戦や甲子園ボウルの早大戦でも華々しい活躍をしてくれた。下級生の頃はけがに悩まされ、練習もおぼつかなかったWR阿部君も、3年生になって力を発揮し、4年生になってからは華々しい活躍を見せてくれると同時に、抜群の指導力を発揮した。今季大活躍した鈴木君や糸川君らもその薫陶を受けて成長したメンバーである。
その前のシーズンではDBの荒川君やリターナーの尾崎君。それぞれの闘志を前面に出してプレー姿が、今も目に浮かんでくる。
こうして、選手の名前を思い出し、振り返っていけば、ファイターズにはそれぞれの学年ごとに、最後のシーズンに思いっきり大きな花を咲かせたメンバーが必ず存在していることが分かる。チームに人を育て、人が育つ土壌があるからだろう。
もちろん、下級生の頃から頭角を現し、卒業するまでチームを支え続けてくれる選手は多い。彼らは卓越したプレーでチームに貢献するだけでなく、自ら獲得した「技術」や「体験」を同期や下級生に惜しみなく伝授してくれる。仲間に教えることで、チーム内に競争相手が生まれては困る、というようなケチな考えを持った選手はいない。
卒業後も、グラウンドに足を運び、アシスタントコーチとして後輩を見守ってくれる選手も少なくない。今季も、会社からの帰途、スーツに革靴という姿で上ヶ原のグラウンドを訪れ、運動靴に履き替えて後輩たちを指導している卒業生の姿を何回も見た。
一方、コーチの多くは、大学の幹部職員。コロナ禍の中で、大学を運営するのに心血を注ぎながら、チームの指導にも一切手抜きはない。「コロナの流行以来、一切アルコールは口にしていない。もし、何かあれば対応しなければならないから、気持ちは24時間体制で働いている」というコーチもいるし、就業時間が終わった後、いったん、業務の手を止めてグラウンドに足を運び、チームの練習が終わった後、再び職場に戻って深夜まで仕事の続きに取り組む幹部職員もいる。
先日、野暮用があって学院の財務課を訪れた時、親しくしている課長から「部長の熱心さには頭が下がります。僕らには、とてもできません」と聞いた。彼は水泳部のコーチをしているが、とても上司の真似はできないと言うのである。そういうコーチたちがプロのコーチである大村監督や香山コーチを助け、部員たちを公私にわたって指導されているのである。
さらに小野ディレクターをはじめディレクター補佐の役割も大きい。ファイターズにはいま、宮本、石割、野原という3人のディレクター補佐がいて、選手たちの活動を支えている。それぞれが現役部員への指導や対外的な折衝、新たな人材のリクルートなどの「兵站部分」を担い、チームの根底を支えている。
加えて、ファイターズOB会の支援も大きい。OB会費の納入率はなんと9割近い。「金は出すけど、口は出さない」という信念でチームを全面的に支援して下さる。今季、世間でマスク不足が騒動になっているときに、つてをたどって「ファイターズマスク」を特注し、それをまとめてチームに寄贈されたことがあった。その場面に居合わせた僕は「ここまで細やかな気配りができる組織は聞いたことも、見たこともない」と驚いたことを思い出す(その時、OB会長からいただいたブルーのマスクは僕の宝物である)。
こうしたチームのたたずまいが、実は人を育て、人が育つ組織を形成しているのではないか。だから毎年、シーズンが終盤になってからも新たなチームの担い手が輩出する。その実績が後輩たちの励みとなり、それが新たな活力の源になっていく。関西大会を制し、甲子園ボウルで栄冠を勝ち得たのも、そういう裏付けがあってのことである。勝つべくして勝つチームといってもいい。
これが2020年、コロナ禍の中で苦しみながら、学生界の頂点にチームを率いてきた主要な面々だと思って眺めれば、特別の感慨がある。試合で華々しい活躍をしたメンバーもいれば、普段からチーム運営に気を配り、それぞれの役割を果たしてきたメンバーもいる。けがなどで練習に加われない悩みを抱えつつ、それでもチームに貢献したいと僕に相談してきた選手もいる。
その中で、今回注目したいのは背番号57、LBの川崎君である。昨年までは、2年生の頃から華々しい活躍をしてきた同じパートの繁治君や海崎君の陰に隠れたような存在だったが、今季は違う。彼ら2人がけがなどで練習が十分にできないときに、率先してパートを支え、自らを鍛え、後輩たちを鼓舞してきた。その努力が秋のシーズンに開花し、今季はすべて先発で出場。甲子園ボウルでも守備の要として、日大の強力なオフェンス陣に対抗してきた。
甲子園のアルプス席でチームのFM放送を担当されていた小野ディレクターが放送の中で思わず「今のは川崎君ですか。成長しましたね。こういう風に4年生になってからでも急激に成長していく選手がいるというのが、ファイターズというチームですね」と、思わず名前を挙げて感嘆される場面があった。僕も全く同感だった。
振り返れば、ファイターズには毎年、4年生になってから急激に成長した姿を見せてくれる選手がいる。昨年のチームでいえばDLの板敷君。シーズン後半からQBサックを連発。天下分け目の立命戦や甲子園ボウルの早大戦でも華々しい活躍をしてくれた。下級生の頃はけがに悩まされ、練習もおぼつかなかったWR阿部君も、3年生になって力を発揮し、4年生になってからは華々しい活躍を見せてくれると同時に、抜群の指導力を発揮した。今季大活躍した鈴木君や糸川君らもその薫陶を受けて成長したメンバーである。
その前のシーズンではDBの荒川君やリターナーの尾崎君。それぞれの闘志を前面に出してプレー姿が、今も目に浮かんでくる。
こうして、選手の名前を思い出し、振り返っていけば、ファイターズにはそれぞれの学年ごとに、最後のシーズンに思いっきり大きな花を咲かせたメンバーが必ず存在していることが分かる。チームに人を育て、人が育つ土壌があるからだろう。
もちろん、下級生の頃から頭角を現し、卒業するまでチームを支え続けてくれる選手は多い。彼らは卓越したプレーでチームに貢献するだけでなく、自ら獲得した「技術」や「体験」を同期や下級生に惜しみなく伝授してくれる。仲間に教えることで、チーム内に競争相手が生まれては困る、というようなケチな考えを持った選手はいない。
卒業後も、グラウンドに足を運び、アシスタントコーチとして後輩を見守ってくれる選手も少なくない。今季も、会社からの帰途、スーツに革靴という姿で上ヶ原のグラウンドを訪れ、運動靴に履き替えて後輩たちを指導している卒業生の姿を何回も見た。
一方、コーチの多くは、大学の幹部職員。コロナ禍の中で、大学を運営するのに心血を注ぎながら、チームの指導にも一切手抜きはない。「コロナの流行以来、一切アルコールは口にしていない。もし、何かあれば対応しなければならないから、気持ちは24時間体制で働いている」というコーチもいるし、就業時間が終わった後、いったん、業務の手を止めてグラウンドに足を運び、チームの練習が終わった後、再び職場に戻って深夜まで仕事の続きに取り組む幹部職員もいる。
先日、野暮用があって学院の財務課を訪れた時、親しくしている課長から「部長の熱心さには頭が下がります。僕らには、とてもできません」と聞いた。彼は水泳部のコーチをしているが、とても上司の真似はできないと言うのである。そういうコーチたちがプロのコーチである大村監督や香山コーチを助け、部員たちを公私にわたって指導されているのである。
さらに小野ディレクターをはじめディレクター補佐の役割も大きい。ファイターズにはいま、宮本、石割、野原という3人のディレクター補佐がいて、選手たちの活動を支えている。それぞれが現役部員への指導や対外的な折衝、新たな人材のリクルートなどの「兵站部分」を担い、チームの根底を支えている。
加えて、ファイターズOB会の支援も大きい。OB会費の納入率はなんと9割近い。「金は出すけど、口は出さない」という信念でチームを全面的に支援して下さる。今季、世間でマスク不足が騒動になっているときに、つてをたどって「ファイターズマスク」を特注し、それをまとめてチームに寄贈されたことがあった。その場面に居合わせた僕は「ここまで細やかな気配りができる組織は聞いたことも、見たこともない」と驚いたことを思い出す(その時、OB会長からいただいたブルーのマスクは僕の宝物である)。
こうしたチームのたたずまいが、実は人を育て、人が育つ組織を形成しているのではないか。だから毎年、シーズンが終盤になってからも新たなチームの担い手が輩出する。その実績が後輩たちの励みとなり、それが新たな活力の源になっていく。関西大会を制し、甲子園ボウルで栄冠を勝ち得たのも、そういう裏付けがあってのことである。勝つべくして勝つチームといってもいい。
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