石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(3)ライバルに育てられ

投稿日時:2021/10/19(火) 01:59

 ファイターズの前に京大が立ちはだかってきたのは、昭和50年前後。51年秋のリーグ戦ではファイターズが21ー0で破れ、互いに6勝1敗となった。甲子園ボウル代表決定戦ではファイターズが勝ったが、そのころから関西でのファイターズ1強の時代は終わりを告げた。
 その後、同志社や近大が台頭、関大も個性的なタレントを輩出したが、常にファイターズの前に立ちはだかったのがギャングスターズ。毎年のように覇を競い、互いにライバル心をむき出しにして戦った。時代が昭和から平成に移ったころからは、これに立命を加えた3チームが常にしのぎを削り合ってきた。
 最近でこそ、立命や関大との試合にも数多くの観衆が詰めかけるが、以前は京大との試合が、関西では一番のカード。今は西宮ガーデンズに姿を変えた西宮球場やその隣にあった西宮球技場での試合には、僕も仕事を放り出し、何度も足を運んだことを思い出す。
 そういう因縁を持つ京大との対戦。どんな展開になるのか、わくわくしながら応援したが、この日はいつもの年とは様子が違った。立ち上がりの2プレー目、エースRB前田が61ヤードを独走してTD。K小川が確実にキックを決めて7-0。続く相手攻撃を守備陣が完封した後、今度は前田と同じ4年生RB斎藤がハーフライン付近から一気に相手ゴールに走り込み、51ヤードの独走TD。わずか3プレーで14-0と突き放し、主導権を握った。
 長い間、ファイターズの試合を見てきたが、相手を問わず、立ち上がりの3プレーで2本のTDを奪う場面を見たのは初めて。エースRB二人がそれぞれの個人技で、相手デイフェンスを抜き去っていく姿に見惚れてしまった。
 二人はともに、2年生の頃から試合に出場。先輩の三宅君のスピードあふれるプレーをお手本に練習を重ねてきた。途中、それぞれけがをして試合に出られなかった時期もあったが、腐らず、落ち込まず、懸命に治療とリハビリに努め、3年生の時からは常時、試合に出場するメンバーとして活躍してきた。ともに三宅君の背中を追いながら、そのプレーを心に刻み、成長してきたといっても間違いなかろう。
 試合後、記者団からの質問を受けて、前田君がこんなことを言っていた。
 「ファーストシリーズでビシッと決めようと仲間で決めていた」「早いうちにどんどん攻めていこう。相手(オフェンス)には破壊力がある。取れるときに取り切らないと相手に勢いをつけてしまう」
 この言葉を聞いて「なるほど、さすがファイターズの副将。自ら率先してその言葉を実践した前田君もすごいし、それに負けじと奮起した斎藤君も素晴らしい。もっといえば、目の前で京大を相手に存分に走り回った先輩二人に刺激され、後半、2本のTDを奪い取った2年生の池田君も、いい勉強になっただろう」「こういう循環があるからこそ、ファイターズは人が育ち、それぞれが自らの長所を伸ばしていくのだ」と一人で納得した。
 納得と言えば、後半、次々と起用されたデイフェンスの交代メンバーの活躍も見逃せない。
 先発したのはLBが都賀(4年)と海崎(2年)、DBが竹原、永嶋(ともに4年)、山本(3年)、高橋(2年)だったが、点差が広がるのに合わせて、2年の波田や1年の日名が登場。相手QBの素早く強いパスに反応し、ブルドーザーのように突進してくるタフなRBに食らいついていった。
 残念なことに、攻守ともラインの交代メンバーについては確かめるゆとりがなかった。だから個々の名前は判明しなかったが、それぞれが相手の当たりの強さ、動きの速さに対する「公式戦ならではの感触」をその身体に刻みつけていることだけは確認できた。
 終わってみれば、45ー0。強烈なパスを投じ、走る力もずば抜けている相手QBに対し、守備陣は的確に反応して陣地を進めさせない。攻めてはQB鎌田のパスと、それを確実にキャッチする糸川、梅津、河原林らのレシーバー陣、それぞれ一発TDの威力をもったRB陣の走力。それをガードするOLやWR。点差が開いて、続々と交代メンバーが登場しても、それぞれここがチャンスと目の色を変えて相手に立ち向かった。
 その循環の中で先発メンバーはチームを背負う自覚と責任を新たにし、交代メンバーは自身の経験値を積む。
 強力な相手だからこそ、その試合から得られる経験値は大きい。それをこれからの練習でより確かなものにし、その成果を次なる試合で発揮してもらいたい。関大戦はすぐそこに控えている。

(2)人が育ち、育てる環境

投稿日時:2021/10/12(火) 19:13

 ファイターズの活動は、今年もコロナ禍で大きな制約を受けている。春から夏、大阪府や兵庫県で感染者が激増したときは、そのあおりで大学の授業も制約を受け、一時は学内施設の利用も停止された。課外活動に起因していなくても、感染者が出て活動の一時停止を余儀なくされた団体もあると聞いている。
 フィターズもその余波は免れず、夏休み中の活動が一時、制約され、夏の合宿も全員参加ではなく、参加者をしぼって広島県内の施設で行われた。
 施設の利用時間も、大学当局から定められており、早朝の涼しい時間帯の個人・パート練習と、夕方涼しくなってからのチーム練習という形もなかなか実施できていない。コロナ禍の前までは、特定の部員を選んで合同練習前の練習をするのは普通だったが、いまはグラウンドを使用する時間自体に制限がかかっている。
 いざ、練習となっても、入場前には検温と手指の消毒をトレーナーが管理し、練習が始まっても、30分ごとに「クリーンタイム」を設け、全員に手指の消毒とうがいを励行させている。
 そうした制約があっても、身体能力を鍛え、チームとしてのプレーの精度を上達させるためには、チーム練習は欠かせない。1、2年生の時から、こうしたファイターズの流儀に馴染んでいる上級生にとっては、それもみな想定の範囲に入っており、独自の練習で補うこともできるが、全国的にコロナウイルスの感染者が拡大してからファイターズに加わった1、2年生にとっては、部活動のすべてが「非日常」。練習への取り組み、事前の準備、短い時間での集中的な練習など、自ら自覚して学ばなければならないことはいくつもある。
 しかしながら、先日の同志社戦では、1、2年生が先発メンバーや交代要員として何人も活躍した。高校時代までは他の競技に取り組み、アメフットは未経験だった3、4年生の活躍もめざましかった。
 前者では、先発メンバーに名を連ねた2年生のQB鎌田、WR鈴木、RT鞍谷、LB海崎、1年生のRG森永、DB永井がいる。交代メンバーとして鮮やかなキックオフリターンTDを決めたRB池田も2年生だ。
 高校時代は別の競技に励んでいたメンバーでは、先発メンバーとしてめざましい働きをしたLB都賀やOL田中は、ともに高等部時代は野球部。DB永嶋はテニス部、DB?橋はサッカー部で活躍した選手だ。交代メンバーとして出場し、軽快な動きを見せたDB西脇は野球部、ゴール前まで46ヤードのパスをキャッチしたWR衣笠はサッカー部のゴールキーパーだった。
 そういう面々が限られた練習時間、なにかと制約の多い部活動の中で、どうして成長し、公式戦でも通用する技術を身につけてきたのか。僕が時々、第3フィールドにある「平郡君の記念碑」近くから見学させてもらっている練習風景からその一端を紹介したい。
 一つは、上級生が下級生に、足の運び方や腕の振り方、身の交わし方などを、自身のプレーを見せながら懇切丁寧に教えていること。例えばRBでは、常時、副将の前田やスピードランナーの斎藤が自ら見本を見せながら1、2年生にプレーの急所を伝授している。レシーバーも同様だ。いいプレーには上級生が惜しみなく拍手を贈って未経験者に自信を付けさせ、コース取りや相手デフェンスを抜き去る呼吸を指導している。
 監督やコーチが注意する前に、上級生が自分で模範を見せる。タイミングの取り方、足の運び方、手や腕の使い方など、プレーヤー同士だからわかり合える細かい部分中心にした教えであり、その教えを身につけた瞬間、下級生が生き生きと動き出す現場を、僕はしばしば目撃した。
 残念ながら、守備陣の個別練習の動きは、遠すぎて細かいところは全く見えない。けれども、チーム練習時には、サイドラインにいるメンバーが逐一、よかった点、改良すべき点をその都度、指導している。
 もちろん、監督やコーチも現場の一番近いところで選手の動きを見ており、急所急所で当の選手を呼んで、自ら動きの見本を見せながら足の運びや腕や身体の使い方を指導されている。
 3人のプロコーチはもちろん、大学職員として働きながらコーチの役割を担っておられる面々も、熟練者ばかり。学生時代からファイターズの流儀を身につけてこられたこの道の専門家ばかりだから、教え方もポイントを突いている。自分で動きの見本を示し、急所となる点を惜しみなく伝授されている。
 教える環境と学ぶ環境。それが相まって、選手が技術を磨き、自らの運動能力を開発していくファイターズという組織。
 僕は新聞記者として、高校野球の指導者らとは長く付き合ってきたし、その中には広く名の知られた方も少なくない。けれども、そういう有名人たちの指導と比べても、ファイターズの指導者のたたずまいは1段も2段も上に見える。現場を知り、選手たちに任せるところは任せて、全体としてチームのレベルアップを図る。長年の蓄積に基づくそういうやり方が自然に行われているのも、ファイターズの文化というのだろう。
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