石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(5)肉弾戦

投稿日時:2021/11/03(水) 05:52

 「肉弾戦」という言葉を「広辞苑」(岩波書店)は「肉体を弾丸に代用する意。即ち敵陣に突進、肉薄すること」と説明している。
 10月31日、神戸市の王子スタジアムで行われた関大との試合は、その形容にふさわしい戦いだった。
 攻守ともにラインとラインが真っ向からぶつかり、互いに一歩も引かない。1列目が押し切られそうになっても、2列目、3列目が素早く、鋭い当たりでフォローし、独走は許さない。攻撃陣はあらゆる手を使って相手の壁をこじ開け、ボールキャリアを前に押し出す。相手が前のめりになるとパスを投じ、陣地を進める……。互いの意地と意地がぶつかり合う、文字通りの肉弾戦だったが、勝利の女神はファイターズに微笑んだ。
 先手を取ったのは先攻のファイターズ。相手が先制の好機となるフィールドゴールを外した隙を的確に捕らえてRB前田と斎藤が好走。一気に相手陣深くに押し込む。相手の注意がRBに向いた瞬間、今度はTE小林へのパスで相手ゴール前8ヤード。そこからパワフルなRB前田が攻め込み、仕上げは前田と斎藤のワイルドキャット。守備陣の注意が二人に分散した隙を突いて前田がゴールに飛び込みTD。永田のキックも決まって7ー0。欲しかった先制点を攻撃陣が一丸となって手にした。
 しかし相手も、攻守ともにラインが強い。ライン戦では常に優位を確保し、彼らがこじ開けた隙間を走力のあるRBが走る。これは苦しい戦いになるぞ、と思った矢先に、1年生DB永井が値千金のインターセプト。
 相手の出鼻をくじいたが、この好機に手にしたFGチャンスを逃がしたことで、流れは再び相手に。先発した1年生QBがランとパスを巧妙に使い分け、第2Q早々にゴール左隅に絵に描いたようなTDパスを決めて同点に追いつく。
 第2Qは、その後も一進一退。互いにFGを決めて10ー10で前半終了。試合前、上ヶ原のグラウンドで、監督やコーチから「関大は強い。簡単に勝てる相手ではない」と聞いていた通りの試合展開だ。互いに攻め込み、互いに守り合う。応援している方も「ここが我慢だ、辛抱だ」と思わず自分に言い聞かせている。
 膠着した試合が動いたのは、第3Q開始早々。相手の攻撃を守備陣が抑え込み、相手が蹴ったパントを守備陣が鋭い突っ込みでブロックした場面である。相手ゴール前27ヤード付近で攻撃権を確保したファイターズがRB前田の鋭い突っ込みでダウンを更新。最後は右オープンを前田が走り切ってTD。永田のキックも決まって、再び7点をリード。
 攻撃陣が押せば、守備陣も踏ん張る。DLの小林や赤倉が厳しいタックルで相手を食い止め、DB高橋が相手のパスをカバーする。互いの意地がぶつかり合う試合は、膠着状態のまま第4Qに。しかし4分11秒。今度は永田が冷静に42ヤードのFGを決める。俗に「入れごろ、外しごろ」といわれる微妙な距離だったが、永田は動じることなくまっすぐボールを蹴り込んだ。
 これで得点は20ー10、残り時間は8分弱。まだまだ安全圏とはいえないが、ともかくファイターズの面々は冷静さを取り戻し、逆に相手には焦りの色が見えてくる。その焦りがフィールドゴールの失敗につながり、逆にファイターズはランプレーで時間を消費していく。終わってみれば20ー10。
 堂々の勝利だったが、スタンドから見ている限り勝負は互角。互いに骨と骨をぶつけ合い、意地とプライドをきしませるような肉弾戦だった。
 コロナ禍で、思い通りに練習もできない状態からスタートしたシーズン。選手もコーチもスタッフも、それぞれが我慢し、辛抱に辛抱を重ねた末に迎えたシーズンである。相手がいくら強くても、自分たちのプレーが思い通りに進まなくても、へこんでいる場合ではない。とにかく目の前の相手を倒す。圧倒することまではできなくても、とにかく自分の責任は果たす。そういう気持ちのこもったプレーが随所に見られた。その結果がもたらせたのが20-10というスコアである。
 選手もスタッフも、それをそのまま自らの自信にしてほしい。この試合で見せつけられた相手のアグレッシブな守備と攻撃。それを骨身に刻み、次なる試合への糧にしてもらいたい。
 次戦の相手は立命館大。現役の部員が生まれる前から、歴代の先輩たちが互いにしのぎを削ってきたチームである。自分たちの力を発揮する相手としては、これ以上のチームはない。関大との肉弾戦を制した気力と勢いをさらに高めて立ち向かってもらいたい。
 僕の好きな言葉の一つに、ある詩人の歌った「私の前に道はない。私の後ろに道ができる」というフレーズがある。これを選手やスタッフに贈りたい。頑張ろう!

(4)もう一つの苦労

投稿日時:2021/10/25(月) 20:11

 今週末、王子スタジアムで開催される関大戦が「有観客」となった。この前の京大戦は、新型コロナウイルスの感染防止対策上、観客を入れないままでの開催だったが、今度はいくつかの制約を設けた上で、スタンドからの応援を許容するという。
 感染患者が日に日に減っていることが理由というが、コロナ禍そのものが終息したわけはない。感染を防ぐための努力は、私たちの生活のあらゆる場面で要請されている。
 リーグ戦を主催する関西学生アメリカンフットボール連盟も例外ではない。今回、有観客で開催するについても、ホームページで数多くの注意を呼び掛けている。例えば
・入場者制限あり。前売り券の販売状況によっては、当日券を販売せず。第1試合と第2試合の観客は入れ替え制に。
・マスクを着用し、手指の消毒はこまめに。熱中症対策でマスクを外す際は、他の人と2メートル以上の距離を確保。飲酒は禁止。入場時には検温と手指の消毒を義務付ける。入場時、37度5分以上の熱がある人は入場お断り。
 ざっといえば、以上のような注意を呼び掛け、協力を求めている。大会の主催者としては、選手はもちろん、応援に詰めかける観客の安全確保のためにも、絶対に譲れない条件だろう。
 そうした制約があっても、観客を入れて開催したいというのは、ほかでもない。グラウンドで全力を尽くして戦う選手たちの姿を自分の目で確かめ、アメリカンフットボールの素晴らしさを共有してもらいたいという願いがあるからだろう。
 もちろん、テレビ観戦の場合、同時進行で試合の模様は見られるし、個々のプレーも細部までビデオで再現できる。最近はテレビ中継そのものをネットで見る仕組みが普及し、ひいき選手の仕草や表情もスタジアムで観戦する以上に鮮明に映し出される。
 けれども、スタンドでグラウンド全体を俯瞰し、両チームの選手やベンチが繰り広げる戦いの細部を眺めるのは、また、別次元の楽しさがある。何よりも、ナイスプレーに拍手を贈り、自分もチームの一員となって戦っている感覚が得られるのは、スタンドで声援を送ってこそだ。
 関大との戦いに関していえば、今年は春の試合をビデオで見た。好守とも相手の圧力が強く、ファイターズが終始、押し込まれている印象を受けたことが記憶に残っている。
 けれども、その後は双方ともに夏に鍛え、秋に調子を上げている。両チームとも、春の試合とは、全く異なる戦いぶりを見せてくれるのは間違いなかろう。
 その試合がスタンドで観戦できる。個々の選手に声援を送り、喜怒哀楽を共にできる。連盟は(数多くの制約があるとはいえ)そういう機会を設けてくださったのだ。
 ここは、スタンドから声援を送りたい。夏の合宿で鍛え、秋のシーズンでその勇姿をファンの前に見せてくれた上級生や下級生の活躍ぶりをチェックしたい。
 王子スタジアムは規模が小さく、収容人数も限られている。けれども、その分、選手との距離は近い。グラウンドでの戦いはもちろん、素晴らしいプレーを見せてベンチに下がる選手の素顔が見られるのも楽しい。
 今度の日曜日。関大との戦いは、総選挙の投票日とかぶってしまったが、投票を済ませた後は、いそいそと王子スタジアムに足を運びたい。このコラムを応援してくれている観戦仲間との再会も待ち遠しい。
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