石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(6)「イチロー実録」

投稿日時:2021/11/06(土) 22:37

 先日、ファイターズOB(1988年度卒)の小西慶三さんから『イチロー実録』(文藝春秋)を贈っていただいた。
 オリックスで、日本の球史に残る数々の記録を達成してメジャーリーグに挑戦。2001年から19年までメジャーリーガーとして活躍されてきたイチロー選手を最も長く取材してきた記者だからこそ書けた「イチロー語録」である。
 詳しくは、この本を読んでいただくしかないが、イチローという日米の球史に残る名選手の発言と行動、野球に取り組む「哲学」を一番身近に取材してきた記者ならではの文章で紹介されている。
 例えば、プロローグにこんな言葉がある。「自分で決めたことを継続する。常識を疑う。成功体験をぶっ壊してまで自らの感性を大切にする。信念を貫く」
 「他人に笑われようが、ケチを付けられようが、そこに可能性がある限り、最善を尽くすのが彼の生き方だった」
 「彼が一番伝えたかったこととは、自分に与えられた条件下で後悔なく生きることではなかったか。だから、やれることはすべてやる」
 こんな言葉も紹介している。「できる限りの準備をして、それでも結果が出ないときがある。だから野球は面白い」
 本文にも、こんな言葉がある。「負けているチームだから、とモチベーションが下がる選手がいる。でも、そういう選手は状況に言い訳を求めて逃げている」
 「5万ドルをもらったら、5万1千ドルの仕事を心掛けないといけない。もらっているもの以上の仕事を心掛ければ、その仕事は長続きする」
 2016年8月7日、ロッキーズ戦で、メジャーリーグ3000本安打を記録した時には「僕にとっては3000という数字よりも、僕が何かをすることによって僕以外の人たちが喜んでくれる。そのことがなによりも大事でした。それを再認識した瞬間でした」と言った、と紹介している。
 そして、エピローグには、彼のこんな言葉が記されている。「できる限りの準備をしたとしても、良い結果が出るかどうかは分からない。だから、野球は面白いんですよ」
 オリックスの担当記者としてイチロー選手の取材を始めて以来、20年以上この選手を追いかけ、食いついて取材を重ね、今もアメリカに住み着いてその姿を追い続けている小西記者の「記者魂」が乗り移ったような「実録」である。興味を持たれた方は、是非とも本屋に走り、我が手に取ってお読みいただきたい。決して損はさせません。
 と、ファイターズのホームページで小西記者の本を紹介させて頂いたのは、ほかでもない。実は、ファイターズの選手の中にも、イチロー選手の自主トレーニングを見学し、一緒に身体を動かしたメンバーが何人か存在するからである。
 あれは、現在の4年生が1年生の冬、成人式の日だった。イチロー選手が神戸で自主トレをされている場面を少数のファイターズのメンバーと一緒に見学させてもらう機会があった。僕は見学だけだが、イチロー選手からの特別の計らいで、選手らは一緒にダイヤモンドを走り、打撃投手を務めるイチロー選手の球を打つ機会を作っていただいた。
 ファイターズからは、今は攻守のリーダーとして活躍している副将の前田君やDB北川君らが参加し、イチローさんと一緒に走ったが、驚いたのは、その瞬発力がまるで別次元だったこと。ファイターズのスピードスターたちが、40歳を超えたイチローさんに全く歯が立たなかった。
 その後、打席に立って「投手・イチロー」の球を打つ機会も作ってもらったが、そこでもバットに当てるのが精一杯。中にはすべて空振り、というメンバーもいた。
 練習に参加させてもらったメンバーにとっては、こうした出会いを与えていただき、今も記憶に残っているはずのイチロー選手が、実はこうした「考え方」「野球哲学」を持って精進されてきたことを知るのは、意味深いことであろう。そう考えて、チームの先輩でもある小西氏の著書を紹介させてもらった。
 目の前に立命との決戦が迫っている。そんな時だからこそ、自分を見つめ直し、覚悟を決めるためにも、こうした本を手に取るのは意義深いことであろう。
 「できる限りの準備をしても、良い結果が出るとは限らない。だから野球は面白いんですよ」というイチロー選手の言葉を、ファイターズの全員に贈りたい。

(5)肉弾戦

投稿日時:2021/11/03(水) 05:52

 「肉弾戦」という言葉を「広辞苑」(岩波書店)は「肉体を弾丸に代用する意。即ち敵陣に突進、肉薄すること」と説明している。
 10月31日、神戸市の王子スタジアムで行われた関大との試合は、その形容にふさわしい戦いだった。
 攻守ともにラインとラインが真っ向からぶつかり、互いに一歩も引かない。1列目が押し切られそうになっても、2列目、3列目が素早く、鋭い当たりでフォローし、独走は許さない。攻撃陣はあらゆる手を使って相手の壁をこじ開け、ボールキャリアを前に押し出す。相手が前のめりになるとパスを投じ、陣地を進める……。互いの意地と意地がぶつかり合う、文字通りの肉弾戦だったが、勝利の女神はファイターズに微笑んだ。
 先手を取ったのは先攻のファイターズ。相手が先制の好機となるフィールドゴールを外した隙を的確に捕らえてRB前田と斎藤が好走。一気に相手陣深くに押し込む。相手の注意がRBに向いた瞬間、今度はTE小林へのパスで相手ゴール前8ヤード。そこからパワフルなRB前田が攻め込み、仕上げは前田と斎藤のワイルドキャット。守備陣の注意が二人に分散した隙を突いて前田がゴールに飛び込みTD。永田のキックも決まって7ー0。欲しかった先制点を攻撃陣が一丸となって手にした。
 しかし相手も、攻守ともにラインが強い。ライン戦では常に優位を確保し、彼らがこじ開けた隙間を走力のあるRBが走る。これは苦しい戦いになるぞ、と思った矢先に、1年生DB永井が値千金のインターセプト。
 相手の出鼻をくじいたが、この好機に手にしたFGチャンスを逃がしたことで、流れは再び相手に。先発した1年生QBがランとパスを巧妙に使い分け、第2Q早々にゴール左隅に絵に描いたようなTDパスを決めて同点に追いつく。
 第2Qは、その後も一進一退。互いにFGを決めて10ー10で前半終了。試合前、上ヶ原のグラウンドで、監督やコーチから「関大は強い。簡単に勝てる相手ではない」と聞いていた通りの試合展開だ。互いに攻め込み、互いに守り合う。応援している方も「ここが我慢だ、辛抱だ」と思わず自分に言い聞かせている。
 膠着した試合が動いたのは、第3Q開始早々。相手の攻撃を守備陣が抑え込み、相手が蹴ったパントを守備陣が鋭い突っ込みでブロックした場面である。相手ゴール前27ヤード付近で攻撃権を確保したファイターズがRB前田の鋭い突っ込みでダウンを更新。最後は右オープンを前田が走り切ってTD。永田のキックも決まって、再び7点をリード。
 攻撃陣が押せば、守備陣も踏ん張る。DLの小林や赤倉が厳しいタックルで相手を食い止め、DB高橋が相手のパスをカバーする。互いの意地がぶつかり合う試合は、膠着状態のまま第4Qに。しかし4分11秒。今度は永田が冷静に42ヤードのFGを決める。俗に「入れごろ、外しごろ」といわれる微妙な距離だったが、永田は動じることなくまっすぐボールを蹴り込んだ。
 これで得点は20ー10、残り時間は8分弱。まだまだ安全圏とはいえないが、ともかくファイターズの面々は冷静さを取り戻し、逆に相手には焦りの色が見えてくる。その焦りがフィールドゴールの失敗につながり、逆にファイターズはランプレーで時間を消費していく。終わってみれば20ー10。
 堂々の勝利だったが、スタンドから見ている限り勝負は互角。互いに骨と骨をぶつけ合い、意地とプライドをきしませるような肉弾戦だった。
 コロナ禍で、思い通りに練習もできない状態からスタートしたシーズン。選手もコーチもスタッフも、それぞれが我慢し、辛抱に辛抱を重ねた末に迎えたシーズンである。相手がいくら強くても、自分たちのプレーが思い通りに進まなくても、へこんでいる場合ではない。とにかく目の前の相手を倒す。圧倒することまではできなくても、とにかく自分の責任は果たす。そういう気持ちのこもったプレーが随所に見られた。その結果がもたらせたのが20-10というスコアである。
 選手もスタッフも、それをそのまま自らの自信にしてほしい。この試合で見せつけられた相手のアグレッシブな守備と攻撃。それを骨身に刻み、次なる試合への糧にしてもらいたい。
 次戦の相手は立命館大。現役の部員が生まれる前から、歴代の先輩たちが互いにしのぎを削ってきたチームである。自分たちの力を発揮する相手としては、これ以上のチームはない。関大との肉弾戦を制した気力と勢いをさらに高めて立ち向かってもらいたい。
 僕の好きな言葉の一つに、ある詩人の歌った「私の前に道はない。私の後ろに道ができる」というフレーズがある。これを選手やスタッフに贈りたい。頑張ろう!
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