石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

<<前へ 次へ>>
rss

(13)見所満載の近大戦

投稿日時:2022/11/03(木) 23:10

 3日は文化の日。この休みに近大戦を振り返ろうと考えていた。だが、肝心の「観戦メモ」がない。勤務先の和歌山県田辺市の住まいに持ち込んだまま、西宮の自宅に持ち帰るのを忘れたようだ。
 さあ、困った。試合の流れは記憶しているが、メモ帳がなければ試合を振り返るのは難しい。かといって、今から田辺まで往復することは無理だ。思い切って、書くのを諦めようかとも考えたが、それも無責任だ。
 それでなくとも、今季は京大戦を「紀伊半島に台風接近」という情報で急きょ、前日に田辺に戻り、欠席したばかりだ。シーズン6試合(今季は同志社大には不戦勝)のうち、2試合も「欠席」とは、いくら何でもひどすぎる。
 幸い、チームのホームページに先日の試合結果がアップされている。それを頼りにいくつかの場面を振り返り、私的な感想を綴ってみたい。
 立ち上がり、ファイターズは遠投力のあるQB鎌田と強力なレシーバー陣を生かして陣地を進め、相手陣に迫る。しかし、中央左よりから右手ゴール前に投じたパスが深めに守っていた相手DBの胸に入り、インターセプト。
 先制の好機が瞬時に暗転。相手陣は一気に勢いづく。守備陣の心の準備が間に合わないのを見越したようにパスを投げ続け、ぐいぐいとファイターズ陣地に迫る。ここはなんとかFGによる3点に食い止めたが、それでも先制点を取れば、相手の気持ちはほぐれる。勢いもつく。
 2Qに入ると、ファイターズが短いパスとラン攻撃で相手陣に迫り、仕上げはRB澤井が7ヤードを走り込んでTD。K福井のキックも決まって7-3。
 ようやくチームは落ち着く。鎌田からのパスが決まり始め、ラン攻撃も進むようになって仕上げはWR河原林への4ヤードTDパス。相手との競り合いに強い河原林の持ち味を遺憾なく発揮したプレーで14-3。
 守備陣が完封して迎えた次の攻撃も、RB伊丹の中央突破でTD。第2Qは攻守ともファイターズペースで進み、前半は21-3で終了。
 後半になると、ファイターズは1年生QB星野を起用。「投げてよし、走ってよし、まるで奥野君のようですね」「鎌田君とはタイプが異なるから、双方を想定して準備をしなければならない相手にとっては厄介でしょうね」と場内限定でファイターズが流しているFM放送で、小野ディレクターが解説。「まだ1年生ですからね」と解説の片山OBも相づちを打たれる。
 その間にも試合は進行。近大攻撃陣がパスを投げ、QBのランも織り込んで果敢に攻撃する。仕上げはQBランでTD。21-10と追い上げる。
 4Qに入るとファイターズは星野がゴール左隅に走り込んだWR鈴木にドンピシャのパスを通してTD。さらに次のシリーズではRB前島や伊丹の走力を生かして相手陣深く迫り、仕上げは伊丹が3ヤードを突破してTD。2週間前の神戸大戦では相手の守備陣に幻惑されいたオフェンスラインも、ようやく落ち着いてきたようだ。
 一方、守備陣の動きは1列目、2列目、3列目の動きが試合を重ねるごとにかみ合ってきた。1列目の両翼を守るトゥロター・ショーン礼と亀井は共に動きが素早いし、2列目の海崎、浦野の対応も早い。それに加えて強烈なタックルが持ち味のDB永井が臨機応変の対応をするから、相手にしてみれば厄介な守備陣だろう。DBにはこの日も1、2年生を多く起用しており、彼らが実戦に慣れてくれば、さらに安定してくるはずだ。これから控える関大、立命という強力な攻撃陣を相手に、より攻撃的な守りを期待したい。
 最後に個人的な感想を一つ。この試合、残り時間1秒という状況で、星野からWR林へ投じられたパスのことである。ゴールライン左端へのパスを林がキャッチしたのだが、僕はその瞬間、思わず立ち上がり、歓声を挙げた。彼らが上ヶ原の第3フィールドで黙々とそのパスを投じ、キャッチする場面を何度も何度も見てきたからである。
 以前にも書いたことだが、ファイターズのレシーバー陣には素晴らしいタレントがそろっている。4年生には糸川、河原林、梅津がおり、3年生には1年時から活躍している鈴木に加え、成長著しい衣笠がいる。TEの小林もここ一番のプレーに強い。
 そういう中で、高校時代は野球部だった彼が全く未経験のアメフットに挑戦。黙々と練習を重ね、最終学年の秋になって、ようやく1軍メンバーに上がってきた。主としてキッキングゲームのリターナーとして出場しているが、レシーバーとしてタッチダウンパスを受けるような場面では、ほとんど起用されていなかった。
 それが秋本番。勝敗の行方は見えた場面とはいえ、与えられた一度のチャンスを見事TDパスキャッチという形で締めくくってくれた。高校時代から脚光を浴びてきたメンバーに負けじと、必死に努力している姿を見てきただけに、ここに特筆しておきたい。彼に絶妙のパスを投じた1年生、星野の勝負強さと共に。

(12)「君の可能性」

投稿日時:2022/10/25(火) 08:01

 新聞記者生活50有余年、数多くの方々にお会いして見聞を広め、その一端を記事にしてきた。
 今も取材の場面や相手の発言を鮮明に記憶していることが少なくない。1971年の春、朝日新聞社での初任地・前橋支局で働いていた時に知り合った斎藤喜博先生との出会いもその一つである。
 私は当時、信濃毎日新聞社を2年8カ月で依願退職し、朝日新聞に入社して3カ月余り。新人記者が受け持つ所轄警察署担当を卒業し、前橋市政担当兼群馬版の文化面担当になったばかりだった。文化面の担当は読者が投稿してくださる俳句や短歌欄の世話係もする。そこで群馬県の小学校で教育史に残る実践を展開されると同時に、アララギ派の歌人としても知られた斎藤先生と知り合い、先生のファンになった。
 初めてご挨拶に伺った日は、ご自宅の庭に植えられている草木の説明などを受けながら、よもやま話を交わしたのだが、その時の応答が先生に気に入られたのだろう。帰り際に「私は毎月1度、自宅を開放して教員を対象に教授法の勉強会をしている。各地から熱心な先生が参加されるから、お出かけください。教育に関心があるなら、何かと参考になることがあるはずです」とお誘いを受け、以来、前橋支局を離れるまで7か月間ほど、欠かさず勉強会に参加した。
 気安く話し合えるようになって数カ月後、先生と2人、近くの川辺へ散歩に出掛けた。岩場がゴツゴツした景勝地で休憩した時、先生から「今日はここで的当て競争をしましょう」と提案された。標的は25メートルほど離れた対岸にある岩塊。大きさは50センチ四方ほどだ。互いに手頃な石を5個ずつ手に取り、交互に的に投げ合った。
 結果は4対4。でも、60歳を過ぎている先生と20代の僕との戦いだから、明らかに僕の負けだ。どうしてそんなにうまく投げられるのですかと聞くと、こんな答えが返ってきた。
 「あなたは遠くの岩を目当てに投げていたでしょう。でも僕は、どう投げれば的に当たるか、その軌道を頭の中に描き、その軌道に石を乗せるようにして投げています」「教育も同じです。到達可能な目標を近くに設定し、それに向けて指導する。具体的な目標を達成することで自信がつき、それが子どもの可能性を引き出すことにつながるのです」と付け加えられた。
 この話だけではない。先生の「一つのこと」という詩からも大きな影響を受け、いつもその詩を心の支えにしてきた。筑摩書房から出ている「君の可能性」という本(単行本と文庫本がある)に掲載されているので、紹介しよう。

 一つのこと

いま終わる一つのこと
いま越える一つの山
風わたる草原
ひびきあう心の歌
桑の海光る雲
人は続き道は続く
遠い道はるかな道
明日のぼる山もみさだめ
いま終わる一つのこと

 以下、先生の説明を引用しよう。
 ……この詩は、いま自分たちは、みんなと力をあわせて一つの仕事(学習)をやり終わった。それは、ちょうど一つの山にのぼったようなものである。山の上に立ってみると、草原にはすずしい風が吹いている。そこに立つと、いっしょに登ってきた人たちと、しみじみ心が通い合うのを感じる。そこから見ると、はるか遠くに桑畑が海のように見え、雲が美しく光っている。そしていま登ってきた道を人がつづいて登ってくるのが見える。自分たちはいま、一つの山を登り終わったが、目の前にはさらに高い山が見えているのだ。今度はあの山に登るのだ、という意味である。
 学校の学習とは、こういうことをみんなと力をあわせてつぎつぎとやっていくのである。一つの山をのぼり終わると、次のより高い、よりきびしい山に向かって出発するのである。そういうことがおもしろくて楽しくてならないように、クラス全体、学校全体で力をあわせて学習していくのである。
 続けて、こんな説明もある。
 ……ひとりがよいものを出すことによって、それが他のみんなに影響し、より高いものになって自分のところへ返ってくるのである。それぞれがよいものを出し合い、影響しあうから、ひとりだけでは出せないような高いものを自分のものとすることができるのである。
 ひとりひとりの人間が、より高い、よりよいものに近づこうとするねがいを持ち、そのためにはどんなほねおりでもしようとするようになり、またどんなほねおりでもできるようになるためには、学校でのこういう経験がどうしても必要になる。(中略)そういう努力を続けていくことによって、ねばり強い心とか、困難にくじけない心とかもつくられていく。また、苦しい思いをしても、目の前にある困難を一つ一つとっぱしていくことこそ、本当に張り合いのあることであり、楽しいことだということも体験として覚えていくようになる。
 そういうことこそ、もっとも大切な能力である(以下略)。
 先生の主張は、ファイターズの活動にも、そっくり当てはまるのではないか。みんなと力をあわせ、次々と課題に挑戦する。一つのことを成し遂げると、さらに高い目標に向かって出発し、チーム全体で力をあわせて学習していく。より高い目標を達成するためにはどんな骨折りでもしようと心に決め、それができるように努力する。そういう経験がより高いものへの憧れをもたせ、その憧れを達成しようとすることで自ら成長する。
 監督やコーチに言われたからやるのではなく、ひとり一人の部員が自覚を持って取り組み、切磋琢磨することで自身を鍛え、その後ろ姿で仲間を鼓舞する。そういう循環を生み出すことができれば、チームは必ず強くなる。逆に、そこを突き詰めなければ、道は開けない。
 僕はこの詩を、このように理解し、長々と紹介させてもらった。ファイターズでいま、自らの可能性を切り開こうと努力を続けている諸君に響けば幸いである。
«前へ 次へ»

<< 2025年7月 >>

MONTUEWEDTHUFRISATSUN
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

ブログテーマ