石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

<<前へ 次へ>>
rss

(8)ベンチの意図が貫かれた試合

投稿日時:2022/09/06(火) 12:44

 2022年度ファイターズの初戦、甲南大学との戦いは、ベンチの意図が最初から最後まで貫かれた試合だった。
 どういうことか。具体的に見ていこう。
 一つは新しく戦力になる可能性のある選手を大胆に起用し、存分に活躍できる場面を与え続けたこと。ゲームを指揮するQBに、大学生としては一度も試合経験のない1年生の星野(足立学園)を初めて起用し、最後までゲームの指揮を執らせ続けたことがそれを象徴している。
 もう一つはDBの先発メンバーに1年生の東田隆太郎と磯田啓太郎(ともに高等部)を起用したほか、交代メンバーとして1年生のWR五十嵐太郎(高等部)、川崎燿太?(鎌倉学園)、Kの大西悠太(高等部)らを次々に起用し、それぞれに活躍の場を与えたこと。もちろん、2年生でこれまで実戦で活躍した経験がほとんどないメンバーも数多く起用し、活躍する場を与えた。先発メンバーとして起用されただけでもOLの近藤剣之介(佼成学園)、金川理人、巽章太郎、森永大為(いずれも高等部)、DLでは川村匠史(清風)などの名前が挙がる。昨年から活躍しているDBの永井(関西大倉)は、守備の最後列から何度も相手QBに襲いかかっていた。
 驚いたのは、そうしたメンバーが全員、それぞれの持ち味を発揮し、スタンドから応援している私たちに将来の可能性を見せつけてくれたことである。
 とりわけすごかったのが冒頭に紹介したQBの星野。173cm、75kgと小柄だが、その分、動きは素早い。パスもしっかり投げられるし、コントロールも上々だ。何よりも状況判断が素晴らしい。試合開始の第1プレーで、いきなりゴールライン間際まで40ヤードのパスをWR鈴木にヒットさせる度胸と技術。これが大学生としての第一プレ一だというのだから、スポーツ漫画の書き手も真っ青だろう。そのプレーを当然のように決める技術と勝負度胸。
 この日のスタッツを見ると、星野はパスで260ヤードを獲得。自身のランプレーでも8回63ヤードを稼いでいる。もちろんチームでトップの記録である。
 試合終了後、大村監督に「今日は、最初から最後まで星野君で行くつもりだったんですか。その意図は」と聞くと、「昨年は2番手のQBを育てていなかったから、鎌田がけがをしたときに苦労した。今年はそんなことがないように、最初から星野に経験を積ませるつもりで試合を任せた。よくやってくれた」との答えが返ってきた。
 なるほど、そういうことかと納得した。他のポジションでも、成長途上にある下級生やけがから復帰した上級生を次々と起用した意図もまた同様だろう。万一のけがに備えて選手の層を厚くする。それがチーム内での競争を激化させ、結果として層の厚いチームが出来上がる。
 そのような意図を持って、シーズンの初戦から大学生として一度も戦いの場に立ったことのない選手を起用し、その選手にゲームを委ねる。その意図をくみ取った試合経験豊富な上級生らが下級生をフォローし、伸び伸びとした環境で試合経験を積ませる。
 その好循環。そう思って試合中に取ったメモを読み返すと、試合開始直後の第一プレーで40ヤードのパスを当然のように確保したWR鈴木君も、第2Qの終盤、ライン際へのミドルパスを確保すると、そのまま相手守備陣を振り切ってゴールラインまで駆け込み、ダメ押しともいえるTDを挙げたWR糸川君も、それぞれのプレーで新人QBをもり立てていたことがよく分かる。
 とりわけ鈴木君は、普段の練習時、星野君がウオーミングアップをする際には、必ずと言ってよいほど相手役を務め、双方の呼吸を会わせるように務めている。
 そういう練習時からの積み重ねが、シーズンの初戦、大学生として初めての試合に先発した1年生QBを落ち着かせ、その力を存分に発揮する場を与えたのだろう。「練習は嘘をつかない」と言う言葉をそれぞれのプレーで実証した試合に、たった4年間しかない学生スポーツの神髄を見たような気分になって帰途についた。

(7)いざ、開幕

投稿日時:2022/08/29(月) 07:37

 コロナ禍の中、仕事の時以外は大抵、家の中に引きこもって本を読んでいる。日課の散歩こそ欠かさないが、それも早朝、人の動きが少なく、太陽が照りつけない時間帯を狙って義務的に歩いているだけだから、何の楽しみもない。最近は、自宅近くの西宮市段上町の農家が早朝から畑で収穫し、販売されているイチジクを買いに行くのだけが楽しみという単調な生活である。
 もう一つの楽しみは、自転車で上ヶ原のグラウンドに出掛け、ファイターズの練習を見ること。これだけは熱中症注意報が出ようが、夕立が来そうであろうが関係なく、喜々として出掛けるのだから、自分でも物好きなことよと感心する。
 こんな毎日を過ごしておりながら、肝心の応援コラムはまるまる1カ月、勝手に休載。読者の皆さまに何の情報も提供せず、誠に申し訳ない。ともかく気持ちも新たに今週から再開させていただきます。
 さて、どこから書き始めようか。読者の方々が一番お知りになりたいことは何か。昨年も活躍した上級生たちは、コロナ禍にも負けず、元気でプレーしているか。新しく入部したメンバーで秋のシーズンに登場するのはどんな面々か。そんなことが一番の関心事だろうが、そのことはあえて書きません。
 シーズン開幕と同時に登場し、活躍しそうな有望株が何人も存在するというだけを紹介し、後は試合会場でその魅力、可能性を自分の目で確かめていただきたい。その楽しみを横取りするようなことはしてはいけないと思っています。
 ただし、僕のようなアメフットを体験したことがない人間から見ても、この子はすごい、と思える選手が何人もいます。そうした選手を自分の目で見つけ、その素晴らしさを堪能してください。僕は、私はこの選手を4年間、応援し続けたいと思える選手が複数いることだけは保証できます。
 もちろん、昨年から活躍している上級生たちも元気いっぱいだ。攻守の主力メンバーは学年が一つ上がってチームをリードする立場になり、それにふさわしい行動、プレーを練習時から見せている。昨季から試合に出ている新3年生、新2年生の多くも一段と力を付けてきたようだ。ともに初戦から、その力を発揮してくれるのは間違いなさそうだ。
 このようなことを書き並べていると、僕の中では改めてファイターズというチームの特徴が見えてくる。それは、どの選手にもチャンスを与え、そのチャンスをつかんだ者を登用するという仕組みである。
 そんなことは当たり前、と思われる方も多いだろうが、僕が新聞記者として、あるいは日本高校野球連盟の理事として、高校野球の有名な指導者らと関わってきた中では、控えの選手まで含めた全部員の実力や将来の可能性を正確に評価するのは難しそうだった。もちろん優れた監督やコーチは日々、選手たちと接しているからチームの状況は把握されているのだが、その対象はあくまでレギュラーが中心。選手登録された控えメンバーまでは目が行き届いても、それ以外の部員にまでは目が届かないことも多かったようだ。
 これに対してアメフットは選手の交代が自由で、それぞれの役割も分担されている。少々動きが鈍くても、当たりが強ければ活躍できることがあるし、逆に、視野が広い、足が速いというだけで十分にポジションを任せることができる選手もいる。
 とりわけファイターズの場合は、プロの監督やコーチ、それに大学職員のコーチやボランティアのコーチまで、数多くの有能な指導者がグラウンドに詰めかけ、それぞれのパートごとに選手の一挙一動を注視されている。さらには有能な学生スタッフが練習時からすべてのプレーをビデオに収録。それをコーチが克明にチェックして個々の選手の指導にも生かされる。
 そういう仕組みの中で、練習時には見えていなかったプレーにもすべて目を通し、これは、という動きをする選手がいれば、今度は現場でその選手の動きをチェックする。他の選手にはない長所や動きが見えれば、その長所を伸ばす具体的な手法を考える。
 こういう連環の中で素材を見つけ、成長を促すための手立てを考える。その仕組みを長い歴史の中で日々リセットしながら、よりよいシステムにしているチームだから、才能のある選手が埋もれてしまう可能性は少ない。
 こうした中で発掘された素材がさて、公式戦でどんな活躍をするか。応援の方々も、王子スタジアムでの選手諸君の動きを刮目(かつもく)して見て頂きたい。期待は裏切られないはずです。
«前へ 次へ»

<< 2024年11月 >>

MONTUEWEDTHUFRISATSUN
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

ブログテーマ