石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(10)胸に響く記事が満載「ファイターズ80周年記念誌」

投稿日時:2022/10/11(火) 14:50

 出来上がったばかりのファイターズの80周年記念誌が届いた。近々、発行されるとは聞いていたが、読んで驚いた。恐ろしいほど内容が充実しているのである。
 これは機能する組織を作るための実践例であり、大学の正課外教育の活動を進めるための教科書でもある。組織の危機管理のあり方を考えるための手引きにもなるし、もちろんチームを強化するための教科書にもなる。
 余計なことながら、これがライバルチームの手に渡ったら、ファイターズに勝つチームをつくるための格好の手引きになるのでは、と心配になるほどの内容がびっしりと詰め込まれている。
 驚いたのが、この企画を立て、出版にまでこぎ着けた人たちも、原稿の筆者も、インタビューする人も、そのすべてがファイターズで卒業生であること。つまり、編集者から筆者まで、さらにいえば出版を企画し、費用も受け持った一般社団法人「KG FIGHTERS CLUB」(旧OB会)を含めた関係者全員が同じ釜の飯を食い、同じ上ヶ原の空気を吸った仲間であるということである。
 僕も仕事柄、会社の社史や地域の案内誌、観光ガイドブックなどの企画や出版の相談に乗ったり、その宣伝を手伝ったりしたことは何度もあるが、こんな風にすべてを自分たちで企画し、原稿を書き、出版の費用までをまかなうなんて話は、自費出版以外、聞いたことがない。それだけではなく、出来上がった本の内容が正課外教育の教科書にそのまま使えるほど充実しているなんて例には出会ったこともない。
 と、驚いてばかりではなく、具体的に記念誌の内容を順を追って紹介してみよう。
 まず、プロローグで「勝利への執念」「自主の尊重」「自由な風土」「チームワーク精神」、その中で培われてきたファイターズスピリット……とうたい、幾多の苦難と真摯に対峙し、挑戦を重ねて来た足跡を回顧し、新たなる飛躍への糧にしたい、と出版の目的を宣言。第1部には「変革の30年」と見出しを付けて、この30年間の軌跡を追い、第2部には「時に刻まれた、栄光の軌跡」として1941年の創部から1990年まで50年の歴史を振り返っている。その50年間については、フィターズ草創期のことを熟知されていた元監督の米田満先生や関西アメリカンフットボール界の生き字引と呼ばれる古川明さんたちを中心に刊行されたファイターズの「50年史」に克明に記されていることもあり、今回はその後の30年を中心に記録している。
 「変革の30年」の冒頭は、鳥内前監督へのインタビュー。朝日新聞社でスポーツ担当記者をしていた大西史恭氏(2008年卒)の質問に、鳥内さんがいつもの口調でズバリズバリと答えている。例えば、「監督のやりがいは」との質問には「社会に出て役に立つ人間を送り出すだけやん」「学生があんな人になりたいな、って思ってくれる、憧れの先輩になって欲しいねん」と答える。
 「勝ったら4年生のおかげ、負けたら監督の責任でええねん」という言葉もある。なんせ6ページに渡るインタビューである。読み応えはたっぷりだ。
 読み応えといえば、有馬隼人氏(2000年卒)による大村監督へのインタビューも中身が濃い。これまた8ページにわたるロングインタビューで、現場の雰囲気が手に取るように伝わってくる。僕がもし、ライバル校の監督やコーチだったら、この8ページ分のコピーをとってメモ帳に挟み、毎日、練習の始まる前に読み上げて「ようし、負けるもんか」と自分を叱咤するに違いない。
 そうした記事だけではない。現場のコーチやトレーナーがこの30年間に取り組んで来られた取り組みを克明に紹介。ファイターズというチームのよって立つところ、現在地を具体例を上げて説明している。詳細は現物を読んでいただくとして、筆者(敬称略)とタイトルだけを紹介しておく。
 1「Reborn-KG」(宮本敬士)、2「ディレクター部門(マネジメント体制)の確立」(石割淳)、3「ファイターズ阪神淡路大震災ドキュメント」(小野宏)、4「ファイターズと国際交流」(野原亮一)、5「平郡雷太君の事故について」(小野宏)、6「安全を追求した30年の取り組み」(西岡宗徳)、7「普及活動・地域貢献活動の展開」(石割淳)、8「OB・OG会の歩みと、これから」(徳永真介)、9「コーチングスタッフの変遷」(宮本敬士)、10「女子スタッフと分析スタッフの誕生」(小野宏・宮本敬士)、11「30年間の戦術の変遷・オフェンス1991~2001」(小野宏)、12「同・デイフェンス1991~1999」(堀口直親)、13「同オフェンス2002~2010」(小野宏)、14「同ディフェンス2000~2010」(堀口直親)、15「同オフェンス2011~2021」(大村和輝)、16「同デイフェンス2011~2021」(大寺将史)、17「キッキング」(小野宏)、18「ショートヤードの魂」(神田有基)、19「トレーニング革命の時代の先に」(油谷浩之)
 それぞれが指導者として苦しみ、努力を重ね、発想を飛躍させて取り組んできた軌跡を具体例を上げて紹介しており、現役の部員はもちろん、今後入部してくるメンバーにも「ファイターズの真実」を知り、ここで学ぶことの励みになるに違いない。
 毎年、僕が続けているファイターズ志望の高校生を対象にした文章表現の勉強会でも教材にしたいような記念誌である。
 一般の方も神戸大戦から試合会場のグッズ販売テントで3000円で購入することができる。

(9)イヤーブックの3人

投稿日時:2022/09/12(月) 07:54

 毎年のことながら、ファイターズのイヤーブックは読み応えがある。今年も占部雄軌主将の「勝つべくして勝つチームを体現する」という決意表明から始まり、ポジションごとにリーダーたちがそれぞれのポジションを代表して覚悟のほどを言葉にしている。
 読み応えのあるのがKG野球部OBで、オリックス・バファローズのコーチである田口壮氏とファイターズの大村和輝監督、そして占部主将によるオンライン対談である。「目指すべきリーダー像」をテーマに、4段組5ページに渡って語り合っている。それぞれが現場を預かる人たちであり「勝つべくして勝つ」チームをつくるために努力されているだけに、話が具体的で興味深い。試合会場でも販売しているので、興味のある方はどうぞ、ご購入を。
 そのイヤーブックで、僕が特に注目したのは「ファイターズをめざす君へ」というテーマで、いま注目される3人の選手が語っている内容である。登場するのは4年生WRの林篤志(阪南大学高校・高校時は野球部)、3年生DB高橋情(大阪仰星高校・同サッカー部)、同じくWR衣笠吉彦(関学高等部・同サッカー部)の3君である。
 それぞれ大学入学を機会に、それまで続けてきた競技を離れてアメフット部に入部。全くの初心者としてこの競技に取り組んでいる。「下級生時には、練習を終えて帰ってから毎日、戦術ノートを書き写し、復唱しながら覚えていました。現在も新しいプレーは必ずノートに繰り返し書いて覚えるようにしている」(林君)、「経験者よりもプラスで練習するなど、今、どの立場で、何をしなければならないのかを理解し、それを実行することで成長を肌で感じる」(高橋君)、「1日に5食食べることを意識している。後世に名を残す選手になることを目標にしている」(衣笠君)など、それぞれの目標を胸に刻み、練習に励んでいる。
 その努力が報われ、今ではそれぞれのポジションにとって欠かせぬ選手の地位を確保しつつある。高橋君は昨季から先発メンバーに名を連ね、衣笠君も50ヤード走4秒4というチーム1の俊足を生かして今季は初戦からスタメンで出場、1年生QBの投げるパスをしっかり確保していた。
 林君も多士済々のレシーバー陣の中で徐々に頭角を現し、今季はキッキングゲームでもリターナーを務めている。多分、公式戦での先発は初めてだったと思うが、初戦では安定したキャッチを見せていた。チームがスタンドで開設しているFMラジオで解説を担当されている小野宏デレクターが試合中、2度に渡って「今のはいいプレーです。安定していますね」と賛辞を贈られているのを隣で聞きながら「努力は報われる」と、わがことのようにうれしかった。
 この3人だけではない。ファイターズには、高校時代までは他の競技に熱中し、大学に入ってからアメフットの転じて活躍している選手が何人もいる。現役の部員だけをみても、主将の占部君は高等部時代はラグビー部の主将だったし、初戦に先発したDL亀井君も報徳学園のバスケットボール部出身だ。試合の後半、DEとして出場し、QBサックを決めた太田君も青森県の弘前学院聖愛高では野球をしていた選手である。
 今春、入学したばかりで、出場経験がないだけでなく、まだルールも覚えていないようなメンバーの中にも、コーチ陣から「あの子は将来、大いに期待できる」と名指しで保証されたメンバーもいる。
 そういうメンバーが高い目標を持って練習に励み、自ら鍛えてチームを背負っていく。その見本のような3人にスポットを当てたイヤーブックの「ファイターズをめざす君へ」。彼らだけではなく、後に続くメンバーが彼らを目標に練習に励み、自らを鍛えてチームをリードしていく。そういう循環が生まれるのも、ファイターズというチームの奥の深さであり、ファイターズという組織が目指している課外活動の魅力であろう。
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