石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2023/10
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(11)大学生の課外活動
投稿日時:2023/10/10(火) 16:20
前回のコラムは、次のような言葉で結んでいる。
「チームとしては苦しい戦いであったとしても、自分のプレーが通用するという自信を付けたメンバーもいるだろうし、自ら改善しなければならない点があることを体感した者もいるだろう」
「その気づきを個人として、またチームとして、どう止揚していくか。それを考え、明日の試合につなげ、実行していくのが、大学生が集団で取り組むスポーツの魅力であり、神髄であると僕は考えている」
どうしてこんなことを書いたのか。
一つはいま、あちこちの大学で、課外活動構成員の不祥事が次々と表面化しているからだ。指導という名を借りた下級生に対する暴力行為、薬物の不法所持や不法接種、女性に対する集団暴行事件……。ここ半年、1年ほどの間に大きく報じられた記事だけでも、その一端がうかがえる。
大学生の部活動だけではない。高校生の部活動でも、監督やコーチによる部員への私的制裁が後を絶たない。その一端は、日本高野連が定期的に公表している情報からでもうかがえる。
そんなニュースに接するたびに思い出すことがある。僕が現役記者時代、懇意にしており、後に日本高野連の理事としても席を同じくした、ある公立高校野球部指導者のことである。
彼はある日、こんな思い出話をして下さった。「僕も昔は熱血指導者。朝から晩まで高校生のことばかり考えていました。本気で怒った時はほっぺたを張り飛ばすし、言葉も荒くなる」「それでも、結果がついてこない。考えあぐねた末に、ふと思いついた。逆の発想で接したらどうか。そう思って、腹の立つときはニコニコ笑うようにしたのです」「ニコニコしながら、次は頑張れよ、期待してるで、と声を掛けるようにしたら、相手は『頑張ります』と答える。そんなことを繰り返しているうちに、チームの雰囲気も変わってくる。監督と選手の間に、目標を共有しているという実感が生まれてくる。そのご褒美が甲子園での優勝。選手が自ら目標を持って行動できるようにするだけで、優勝旗が手にできたのです。指導者としてこんなに嬉しいことはありませんでした」
これは、18歳未満の生徒を主役にした高校野球指導者の話である。大学生ともなれば、相手はもう大人である。自らが考え、互いに協力しあって、目標に向かって突き進んで行くのは当然だろう。
そういえば、ファイターズの前監督、鳥内さんも、こんな言葉をしばしば口にされていた。「ほんまに勝ちたいのは、お前らやろ。勝ちたいんやったら、勝てるようにチームをつくっていかなあかん。主役はお前らやで」
そのような考え方がチームに浸透し、4年生を中心に一丸となってお互いを高めあい、毎年、前年以上のチームをつくってきた歴史があるからこそ、手強い相手が立ちはだかるこの世界で勝ち続けているのだろう。
今年のチームも、そうした歴史の延長上にある。学生が主役となり、監督やコーチがそれを助ける。チームが一丸となって向上心を持ち、練習の成果を明日の試合につなげていく。
それが大学生が集団で取り組むスポーツの魅力であり、それを当たり前のこととして実行しているのがファイターズであろう。いつまでも応援したいチームであり続けるゆえんである。
「チームとしては苦しい戦いであったとしても、自分のプレーが通用するという自信を付けたメンバーもいるだろうし、自ら改善しなければならない点があることを体感した者もいるだろう」
「その気づきを個人として、またチームとして、どう止揚していくか。それを考え、明日の試合につなげ、実行していくのが、大学生が集団で取り組むスポーツの魅力であり、神髄であると僕は考えている」
どうしてこんなことを書いたのか。
一つはいま、あちこちの大学で、課外活動構成員の不祥事が次々と表面化しているからだ。指導という名を借りた下級生に対する暴力行為、薬物の不法所持や不法接種、女性に対する集団暴行事件……。ここ半年、1年ほどの間に大きく報じられた記事だけでも、その一端がうかがえる。
大学生の部活動だけではない。高校生の部活動でも、監督やコーチによる部員への私的制裁が後を絶たない。その一端は、日本高野連が定期的に公表している情報からでもうかがえる。
そんなニュースに接するたびに思い出すことがある。僕が現役記者時代、懇意にしており、後に日本高野連の理事としても席を同じくした、ある公立高校野球部指導者のことである。
彼はある日、こんな思い出話をして下さった。「僕も昔は熱血指導者。朝から晩まで高校生のことばかり考えていました。本気で怒った時はほっぺたを張り飛ばすし、言葉も荒くなる」「それでも、結果がついてこない。考えあぐねた末に、ふと思いついた。逆の発想で接したらどうか。そう思って、腹の立つときはニコニコ笑うようにしたのです」「ニコニコしながら、次は頑張れよ、期待してるで、と声を掛けるようにしたら、相手は『頑張ります』と答える。そんなことを繰り返しているうちに、チームの雰囲気も変わってくる。監督と選手の間に、目標を共有しているという実感が生まれてくる。そのご褒美が甲子園での優勝。選手が自ら目標を持って行動できるようにするだけで、優勝旗が手にできたのです。指導者としてこんなに嬉しいことはありませんでした」
これは、18歳未満の生徒を主役にした高校野球指導者の話である。大学生ともなれば、相手はもう大人である。自らが考え、互いに協力しあって、目標に向かって突き進んで行くのは当然だろう。
そういえば、ファイターズの前監督、鳥内さんも、こんな言葉をしばしば口にされていた。「ほんまに勝ちたいのは、お前らやろ。勝ちたいんやったら、勝てるようにチームをつくっていかなあかん。主役はお前らやで」
そのような考え方がチームに浸透し、4年生を中心に一丸となってお互いを高めあい、毎年、前年以上のチームをつくってきた歴史があるからこそ、手強い相手が立ちはだかるこの世界で勝ち続けているのだろう。
今年のチームも、そうした歴史の延長上にある。学生が主役となり、監督やコーチがそれを助ける。チームが一丸となって向上心を持ち、練習の成果を明日の試合につなげていく。
それが大学生が集団で取り組むスポーツの魅力であり、それを当たり前のこととして実行しているのがファイターズであろう。いつまでも応援したいチームであり続けるゆえんである。
(10)大学スポーツの魅力
投稿日時:2023/10/02(月) 20:57
先週の土曜日、王子スタジアムで行われた神戸大学レイバンズとの試合は31-10でフィターズの勝利。スコアだけをみれば、ファイターズが順当に勝利したように思われるかもしれないが、現場で応援していた感覚ではまったく異なる。まずは試合の経過から追ってみよう。
先攻のレイバンズが入念に準備したオフェンスでファイターズ守備陣を振り回し、わずか6プレーでTD。キックも決めて7-0。 ファイターズが試合開始早々、わずか2分足らずの間に得点されるなんて、全く想定していなかったし、その得点が相手が練りに練ったプレーを完遂した結果だと思えたから、二重に驚いた。
前節、ファイターズが登場する前の京大戦で、変則的な攻撃で相手守備陣を振り回しているのを見ていたので、ファイターズとの試合でも、多彩な手法で攻めてくるだろうとは思っていたが、その想定を上回る大胆な攻めだった。
幸いなことに、先攻されてすぐ、ファイターズもRB前島、伊丹のランとQB鎌田からWR鈴木へのミドルパスで相手ゴール前に迫り、最後はRB澤井が20ヤードを走り込んTD。大西のキックも決まって同点に。次のレイバンズの攻撃を完封し、センターライン付近から始まったファイターズの次の好撃は、鎌田からWR五十嵐への短いパスがたて続けに決まって相手ゴールに迫る。しかし、TDを奪うには至らず、大西のキックで10-7とようやくリードを奪う。
しかし、これで落胆するような相手ではない。少々攻撃が手詰まりになっても、手を変え、品を変えて攻め込んで来る。並外れたスピードを持つWRやRBへの大胆なパス、QBの果敢なスクランブル、意表を突くランプレーなどを組み合わせ、少々のロスは平気で攻め込む姿勢が厄介だ。
ファイターズファンに向けたFMラジオで解説と実況を担当されている小野ディレクターも、守備コーチとして経験の豊かな相手コーチがオフェンスコーチとなり、守る側にとっては厄介なプレーを次々と仕掛けている、その意図を実現する足の速いプレーヤーがいるし、何よりもファイターズに一泡吹かせてやろうというチームとしての意思が伝わってきます、と述べられている。
コーチの気持ちが選手に乗り移ったのか、相手守備陣は懸命にフィターズの攻撃をしのぎ、攻撃は手詰まりになっても、常に一発ロングゲイン、一発TDを狙った攻めを仕掛けてくる。その積極的な攻めが実り、第2Q終了間際には、FGを決めて追いつき、10-10のままハーフタイム。
短い休憩中に、双方共にさまざまなことを考えてきたせいか、第3Qは互いの守備陣が相手攻撃の芽を消し合って0-0。
4Qに入って均衡を破ったのはファイターズ。RB伊丹のドロープレーなどで陣地を進め、仕上げはQB鎌田からWR小段への13ヤードパス。サイドライン際に投じられたパスを確保した小段が相手守備陣を振り切ってゴールに駆け込んだ。小段はこのシリーズの直前、相手パントを確保した際も、相手守備陣を交わしてセンターライン付近まで陣地を回復するなど、1年生とは思えないプレーを続けている。練習時から、常に「一球入魂」の姿勢で取り組んでいる成果が、このような競り合った試合でも実ったのだろう。
1年生の活躍に刺激されたのか、守備陣も奮起。次の相手攻撃を完封。その次の相手攻撃もDB中野のインターセプトで封じ込める。
攻撃陣もそれに応える。続く相手陣38ヤードからの攻撃では、RB前島が中央突破で陣地を進め、残る16ヤードをQB鎌田のラン、RB伊丹のランでTD。キックも決まって24-10。
こうなると、さすがのレイバンズも息が上がり、攻撃が単調になる。それを守備陣が完封する。
残り時間2分39秒からのファイターズ攻撃は、相手ゴール前29ヤードから。まずはQB鎌田がWR鈴木に短いパスを通し、RB前島、伊丹が交互に走り、仕上げは前島の中央ダイブ。キックも決まって31-10。
このように試合の流れを回顧していくと、前半の苦しい戦いが嘘のように思えるが、心配性の僕は、とてもそんな気持ちにはなれなかった。前半、相手が積極的に投じてきたTD狙いのパスが、たとえ1本でも通っていたら、試合展開はがらりと変わっただろう。ファイターズの守備陣、特にLBやDBの対応が少しでも遅れていたら、局面は変わったろうし、フロントを固めるDLの圧力が少しでも弱まっていたら、そこにつけ込まれたに違いない。
もちろん、それは部外者の勝手な思い込みであり、現場で対戦している選手諸君の感覚にはまた異なる点も多くあるだろう。チームとしては苦しい戦いであったとしても、自分のプレーが通用するという自信を付けたメンバーもいるだろうし、自ら改善しなければならない点があることを体感した者もいるだろう。
その気づきを個人として、またチームとして、どう止揚していくか。それを考え、明日の試合につなげ、実行していくのが、大学生が集団で取り組むスポーツの魅力であり、神髄であると僕は考えている。
先攻のレイバンズが入念に準備したオフェンスでファイターズ守備陣を振り回し、わずか6プレーでTD。キックも決めて7-0。 ファイターズが試合開始早々、わずか2分足らずの間に得点されるなんて、全く想定していなかったし、その得点が相手が練りに練ったプレーを完遂した結果だと思えたから、二重に驚いた。
前節、ファイターズが登場する前の京大戦で、変則的な攻撃で相手守備陣を振り回しているのを見ていたので、ファイターズとの試合でも、多彩な手法で攻めてくるだろうとは思っていたが、その想定を上回る大胆な攻めだった。
幸いなことに、先攻されてすぐ、ファイターズもRB前島、伊丹のランとQB鎌田からWR鈴木へのミドルパスで相手ゴール前に迫り、最後はRB澤井が20ヤードを走り込んTD。大西のキックも決まって同点に。次のレイバンズの攻撃を完封し、センターライン付近から始まったファイターズの次の好撃は、鎌田からWR五十嵐への短いパスがたて続けに決まって相手ゴールに迫る。しかし、TDを奪うには至らず、大西のキックで10-7とようやくリードを奪う。
しかし、これで落胆するような相手ではない。少々攻撃が手詰まりになっても、手を変え、品を変えて攻め込んで来る。並外れたスピードを持つWRやRBへの大胆なパス、QBの果敢なスクランブル、意表を突くランプレーなどを組み合わせ、少々のロスは平気で攻め込む姿勢が厄介だ。
ファイターズファンに向けたFMラジオで解説と実況を担当されている小野ディレクターも、守備コーチとして経験の豊かな相手コーチがオフェンスコーチとなり、守る側にとっては厄介なプレーを次々と仕掛けている、その意図を実現する足の速いプレーヤーがいるし、何よりもファイターズに一泡吹かせてやろうというチームとしての意思が伝わってきます、と述べられている。
コーチの気持ちが選手に乗り移ったのか、相手守備陣は懸命にフィターズの攻撃をしのぎ、攻撃は手詰まりになっても、常に一発ロングゲイン、一発TDを狙った攻めを仕掛けてくる。その積極的な攻めが実り、第2Q終了間際には、FGを決めて追いつき、10-10のままハーフタイム。
短い休憩中に、双方共にさまざまなことを考えてきたせいか、第3Qは互いの守備陣が相手攻撃の芽を消し合って0-0。
4Qに入って均衡を破ったのはファイターズ。RB伊丹のドロープレーなどで陣地を進め、仕上げはQB鎌田からWR小段への13ヤードパス。サイドライン際に投じられたパスを確保した小段が相手守備陣を振り切ってゴールに駆け込んだ。小段はこのシリーズの直前、相手パントを確保した際も、相手守備陣を交わしてセンターライン付近まで陣地を回復するなど、1年生とは思えないプレーを続けている。練習時から、常に「一球入魂」の姿勢で取り組んでいる成果が、このような競り合った試合でも実ったのだろう。
1年生の活躍に刺激されたのか、守備陣も奮起。次の相手攻撃を完封。その次の相手攻撃もDB中野のインターセプトで封じ込める。
攻撃陣もそれに応える。続く相手陣38ヤードからの攻撃では、RB前島が中央突破で陣地を進め、残る16ヤードをQB鎌田のラン、RB伊丹のランでTD。キックも決まって24-10。
こうなると、さすがのレイバンズも息が上がり、攻撃が単調になる。それを守備陣が完封する。
残り時間2分39秒からのファイターズ攻撃は、相手ゴール前29ヤードから。まずはQB鎌田がWR鈴木に短いパスを通し、RB前島、伊丹が交互に走り、仕上げは前島の中央ダイブ。キックも決まって31-10。
このように試合の流れを回顧していくと、前半の苦しい戦いが嘘のように思えるが、心配性の僕は、とてもそんな気持ちにはなれなかった。前半、相手が積極的に投じてきたTD狙いのパスが、たとえ1本でも通っていたら、試合展開はがらりと変わっただろう。ファイターズの守備陣、特にLBやDBの対応が少しでも遅れていたら、局面は変わったろうし、フロントを固めるDLの圧力が少しでも弱まっていたら、そこにつけ込まれたに違いない。
もちろん、それは部外者の勝手な思い込みであり、現場で対戦している選手諸君の感覚にはまた異なる点も多くあるだろう。チームとしては苦しい戦いであったとしても、自分のプレーが通用するという自信を付けたメンバーもいるだろうし、自ら改善しなければならない点があることを体感した者もいるだろう。
その気づきを個人として、またチームとして、どう止揚していくか。それを考え、明日の試合につなげ、実行していくのが、大学生が集団で取り組むスポーツの魅力であり、神髄であると僕は考えている。
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