石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2019/10
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(24)努力は報われる
投稿日時:2019/10/16(水) 06:07
13日の日曜日、台風が通り過ぎた後の王子スタジアムで、久々に「パスの関学」のすごさを見せてもらった。
驚いたのがファイターズ最初の攻撃。自陣29ヤードから始まったシリーズの第1プレーがQB奥野からWR鈴木へのロングパス。それが見事に決まって71ヤードのTD。長い間、ファイターズの試合を見てきたが、こんな場面の一部始終を現場で目撃したのは初めてだ。投げる方も思い切りよく投げたが、受ける方も完璧。奥野の速くて正確なパスをいつも練習を共にしている鈴木がトップスピードでキャッチし、そのままの勢いで相手デフェンスを抜き去った。
次の攻撃シリーズ。今度は4年生のWR阿部が見せる。同じく奥野が攻撃側から見て右のゴールラインに走り込む阿部に投じた30ヤードのパスが見事にヒット。今度はキャッチと同時に審判の両手が上がってTD。安藤のキックも決まって14-0と引き離す。
守備の第一列には、この1年間、けがで休んでいた主将の寺岡が戻り、藤本や板敷らも復帰して、ようやく本来の先発メンバーがそろってきた。LBにも前回は休んでいた海崎が戻って、繁治との二枚看板がそろう。DBも副将、畑中を中心にほぼメンバーが固定され、守備陣の全体が引き締まってきた。立ち上がりこそ、近大に16ヤードを走られたが、あとはダウンを更新されることもないままリズムよく守り、攻撃権を取り戻す。
守備陣が安定すると、攻撃陣にもリズムが出てくる。ファイターズ3度目の攻撃シリーズでは、今季初登場のRB渡邊が元気に走り、RB三宅もスピードに乗った走りを見せる。相手守備陣がランプレーを警戒した瞬間、今度は阿部への短いパスでダウンを更新。相手ゴール前27ヤードと迫ったところで、続けて阿部へのパス。その前のTDパスとほとんど同じコースだったが、余裕でキャッチしてTD。第1Qだけで21-0と引き離す。
第2シリーズに入っても守備陣の動きは素早い。相手キッカーが蹴ったパントをブロックし、相手攻撃陣に自陣2ヤードからの攻撃を強いる。相手はこの危険地帯から懸命に抜け出そうとするが、そうはさせないのがこの日のファイターズディフェンス。相手ゴール内でパントをブロックし、セイフティで2点をもぎ取る。
しかし攻撃陣はここからがピリッとしない。大量にリードしながら、相次ぐ反則でリズムを失い、なかなか決め手がつかめない。ずるずると後退する場面が続いたが、これを食い止めたのが、奥野と三宅の3年生コンビ。奥野が投げた短いパスを三宅がハーフラインを過ぎたあたりでキャッチ。即座に加速して一気に相手ディフェンスを抜き去る。スピードとパワーを兼ね揃えた独走TDに結びつけた。
場内で開設しているファイターズのミニFM局を担当している小野ディレクターが「三宅君は今季、一段とスピードが上がりましたね」と解説されていたが、まさにその通り。OLが開いたピンポイントの隙間を抜けた瞬間、トップスピードに乗って走る姿は、昨季のエースランナー、山口君を思わせる迫力がある。この日、ランとパスレシーブで154ヤードを記録したのも、そのスピードがあってこそとうなずける。
得点は第3Q半ばまでに37-0。そこからファイターズがどんどん2枚目、3枚目の選手を投入する。故障などでずっとベンチを離れていた選手もいるし、今後の活躍が期待される1、2年生もいる。その中で、僕が注目していたのは、寺岡主将と同様、けがで1年以上も戦列を離れていたDB吉野と、これも出場機会が激減していた4年生DLの今井。
吉野は守備について間もなく、値千金のインターセプトTDを決めたし、今井君も鋭い出足で相手を吹き飛ばす。ともに4年生、最後のシーズンにかける思いの詰まったプレーで期待に応えてくれる。試合に出られない苦しさに耐え、黙々と練習をしてきた成果でもあろう。まだまだ本調子ではないかも知れないが、これから続くライバルとの戦いに、経験豊富な二人が戻ってくれば、大いに期待が持てる。
二人に限らない。この日、立ち上がりから目の覚めるようなプレーを連発したQB奥野、WR阿部と鈴木。地味な存在ながら、与えられた役割を確実に果たしたQB兼パンター兼ホールダーの中岡。そしてK安藤。彼らはチーム練習の始まる2時間も前からグラウンドに現れ、営々とパスを投げ、キャッチし、ボールを蹴っているメンバーである。全体の練習が始まる頃には、もう一仕事終えた状態と言ってもよいほどだが、もちろんチーム練習も一切手を抜くことなく、誠実に務める。
オフェンス、ディフェンスの上級生メンバーも同様だ。何度も何度も実戦を想定した動きを反復し、より速く、より強く当たることに集中している。そういう背景を持った面々が試合で活躍する。「練習は裏切らない」という言葉を実感した試合だった。
一方で、この試合でも続出した反則もまた、練習時から少なからず起きている。練習時と同じメンバーが実戦でも同じ反則を犯すというのもまた、別の意味で「練習は裏切らない」という言葉の表れである。
リーグ戦は、これからの2試合が勝負である。熱と魂のこもった練習に取り組み、悔いなく戦える準備をしてもらいたい。そして、よい意味での「練習は裏切らない」を実証してもらいたい。
驚いたのがファイターズ最初の攻撃。自陣29ヤードから始まったシリーズの第1プレーがQB奥野からWR鈴木へのロングパス。それが見事に決まって71ヤードのTD。長い間、ファイターズの試合を見てきたが、こんな場面の一部始終を現場で目撃したのは初めてだ。投げる方も思い切りよく投げたが、受ける方も完璧。奥野の速くて正確なパスをいつも練習を共にしている鈴木がトップスピードでキャッチし、そのままの勢いで相手デフェンスを抜き去った。
次の攻撃シリーズ。今度は4年生のWR阿部が見せる。同じく奥野が攻撃側から見て右のゴールラインに走り込む阿部に投じた30ヤードのパスが見事にヒット。今度はキャッチと同時に審判の両手が上がってTD。安藤のキックも決まって14-0と引き離す。
守備の第一列には、この1年間、けがで休んでいた主将の寺岡が戻り、藤本や板敷らも復帰して、ようやく本来の先発メンバーがそろってきた。LBにも前回は休んでいた海崎が戻って、繁治との二枚看板がそろう。DBも副将、畑中を中心にほぼメンバーが固定され、守備陣の全体が引き締まってきた。立ち上がりこそ、近大に16ヤードを走られたが、あとはダウンを更新されることもないままリズムよく守り、攻撃権を取り戻す。
守備陣が安定すると、攻撃陣にもリズムが出てくる。ファイターズ3度目の攻撃シリーズでは、今季初登場のRB渡邊が元気に走り、RB三宅もスピードに乗った走りを見せる。相手守備陣がランプレーを警戒した瞬間、今度は阿部への短いパスでダウンを更新。相手ゴール前27ヤードと迫ったところで、続けて阿部へのパス。その前のTDパスとほとんど同じコースだったが、余裕でキャッチしてTD。第1Qだけで21-0と引き離す。
第2シリーズに入っても守備陣の動きは素早い。相手キッカーが蹴ったパントをブロックし、相手攻撃陣に自陣2ヤードからの攻撃を強いる。相手はこの危険地帯から懸命に抜け出そうとするが、そうはさせないのがこの日のファイターズディフェンス。相手ゴール内でパントをブロックし、セイフティで2点をもぎ取る。
しかし攻撃陣はここからがピリッとしない。大量にリードしながら、相次ぐ反則でリズムを失い、なかなか決め手がつかめない。ずるずると後退する場面が続いたが、これを食い止めたのが、奥野と三宅の3年生コンビ。奥野が投げた短いパスを三宅がハーフラインを過ぎたあたりでキャッチ。即座に加速して一気に相手ディフェンスを抜き去る。スピードとパワーを兼ね揃えた独走TDに結びつけた。
場内で開設しているファイターズのミニFM局を担当している小野ディレクターが「三宅君は今季、一段とスピードが上がりましたね」と解説されていたが、まさにその通り。OLが開いたピンポイントの隙間を抜けた瞬間、トップスピードに乗って走る姿は、昨季のエースランナー、山口君を思わせる迫力がある。この日、ランとパスレシーブで154ヤードを記録したのも、そのスピードがあってこそとうなずける。
得点は第3Q半ばまでに37-0。そこからファイターズがどんどん2枚目、3枚目の選手を投入する。故障などでずっとベンチを離れていた選手もいるし、今後の活躍が期待される1、2年生もいる。その中で、僕が注目していたのは、寺岡主将と同様、けがで1年以上も戦列を離れていたDB吉野と、これも出場機会が激減していた4年生DLの今井。
吉野は守備について間もなく、値千金のインターセプトTDを決めたし、今井君も鋭い出足で相手を吹き飛ばす。ともに4年生、最後のシーズンにかける思いの詰まったプレーで期待に応えてくれる。試合に出られない苦しさに耐え、黙々と練習をしてきた成果でもあろう。まだまだ本調子ではないかも知れないが、これから続くライバルとの戦いに、経験豊富な二人が戻ってくれば、大いに期待が持てる。
二人に限らない。この日、立ち上がりから目の覚めるようなプレーを連発したQB奥野、WR阿部と鈴木。地味な存在ながら、与えられた役割を確実に果たしたQB兼パンター兼ホールダーの中岡。そしてK安藤。彼らはチーム練習の始まる2時間も前からグラウンドに現れ、営々とパスを投げ、キャッチし、ボールを蹴っているメンバーである。全体の練習が始まる頃には、もう一仕事終えた状態と言ってもよいほどだが、もちろんチーム練習も一切手を抜くことなく、誠実に務める。
オフェンス、ディフェンスの上級生メンバーも同様だ。何度も何度も実戦を想定した動きを反復し、より速く、より強く当たることに集中している。そういう背景を持った面々が試合で活躍する。「練習は裏切らない」という言葉を実感した試合だった。
一方で、この試合でも続出した反則もまた、練習時から少なからず起きている。練習時と同じメンバーが実戦でも同じ反則を犯すというのもまた、別の意味で「練習は裏切らない」という言葉の表れである。
リーグ戦は、これからの2試合が勝負である。熱と魂のこもった練習に取り組み、悔いなく戦える準備をしてもらいたい。そして、よい意味での「練習は裏切らない」を実証してもらいたい。
(23)うれしいニュース
投稿日時:2019/10/07(月) 23:37
今週のファイターズホームページのトップに、二人の選手が登場している。3年生のOL高木慶太君とRB三宅昴輝君である。二人が並んで“表紙”を飾っているのを見て、僕は特別の感慨を覚えた。
どういうことか。実は二人とも僕が今春まで、関西学院大学で受け持っていた「文章表現論」を過去に受講した学生であり、共に書く回数を重ねるたびに、文章を書く力が伸びていったことを記憶しているからである。
僕は朝日新聞を定年で退職して以降、ずっと和歌山県田辺市にある紀伊民報で新聞記者をしている。その傍ら、関学でも10年以上前から今春まで、非常勤講師として「文章表現論」という講座を担当。学生たちに文章を書くことについて、現場からのアドバイスをしてきた。
自分で言うのも何だが、結構な人気講座で、毎学期ごとに定員の4~5倍の受講申し込みがあり、抽選で定員一杯の受講生を選んでいた。
この3年間、現役の部員で受講してくれたメンバーには、4年生では寺岡主将をはじめマネジャーの安在君、OL川部君、DL藤本君、RB渡邊君、LBの藤田優貴君と田中君、DBの山本君と久下君といった名前が思い浮かぶ。3年生になると、上記の二人のほか選手ではWR高木宏規君、RB鶴留君、スタッフでは井上君、末吉君、島谷君、前川君。そして2年生の荻原さん。ほかに高等部や中学部、啓明学院でコーチをしているメンバーも数人が受講していた。
一般の受講生を含めて出席率は高く、回を重ねるごとにそれがさらに高くなって行くのが、僕にとってはささやかな自慢だった。ファイターズの部員も、最近受講した面々は出席率もよく、毎週書き上げる800字の小論文の内容も、回を重ねるごとに上達していった。それもまた、僕にとってはうれしいことだった。
一般の受講生の中には、毎回、信じられないほど上手な文章を書く学生がいたし、半面、書くことがまったく苦手という受講生も少なくなかった。60分という制限時間に800字の文章がまとめきれない学生もいたし、内容はいま一歩でも、なんとか頑張って書き上げる学生もいた。
それは、ファイターズの諸君も同様で、いま名前を挙げた部員の中にも、書くことに苦しむ部員は何人もいた。
しかし、素晴らしいのは、上記の諸君のうち、誰一人として「今日は書ききれません」と音を上げたことがなかったことだ。急なミーティングで欠席することはあっても、次の回には必ず欠席した日の課題を仕上げて提出したし、今春卒業したWR小田君のように、60分の制限時間内に2回分の小論文を一気に仕上げる猛者もいた。
そうした受講生の中で、とりわけ僕が目を見張ったのが最初に紹介した三宅君と高木君、そしてWRの高木君だった。寺岡主将も含め、彼らは毎回、特別の輝きはないけれども、愚直な生活態度と考え方に裏付けられた文章を仕上げてくれた。その文章を読ませてもらうたびに「こういうきまじめな文章が書けるのは、部活も含めて、日々の生活が充実しているからに違いない」と確信していた。
そうした見方、考え方は、グラウンドに出掛けて彼らの練習に対する取り組みを見ているときにも、頭から離れなかった。今回、彼ら二人が並んでホームページの“表紙”を飾り、チームの仲間からも彼らの取り組みが評価されているのを見て、特別の感慨を持ったのは、そういう事情が背景にあるからだ。
ファイターズは、全国に聞こえたフットボールの名門である。それは過去の先輩たちが築いてきた名声であり、それを連綿と受け継いできた後輩たちが毎年の厳しい戦いを乗り越えて繋いできたバトンである。
けれども、それが高く評価されるのは、運動競技のプロとしてではなく、本来の意味での大学の課外活動として取り組んできたからであり、だからこそ現役の学生、コーチらは日々「文武両道」を目指して活動しているのである。
その「文」の面での取り組みを指導する側から評価してきた選手が「武」の面でもチームから高い評価を受けている。彼らの「文」の一端を知っている僕にとっては、それがなによりもうれしいのである。
どういうことか。実は二人とも僕が今春まで、関西学院大学で受け持っていた「文章表現論」を過去に受講した学生であり、共に書く回数を重ねるたびに、文章を書く力が伸びていったことを記憶しているからである。
僕は朝日新聞を定年で退職して以降、ずっと和歌山県田辺市にある紀伊民報で新聞記者をしている。その傍ら、関学でも10年以上前から今春まで、非常勤講師として「文章表現論」という講座を担当。学生たちに文章を書くことについて、現場からのアドバイスをしてきた。
自分で言うのも何だが、結構な人気講座で、毎学期ごとに定員の4~5倍の受講申し込みがあり、抽選で定員一杯の受講生を選んでいた。
この3年間、現役の部員で受講してくれたメンバーには、4年生では寺岡主将をはじめマネジャーの安在君、OL川部君、DL藤本君、RB渡邊君、LBの藤田優貴君と田中君、DBの山本君と久下君といった名前が思い浮かぶ。3年生になると、上記の二人のほか選手ではWR高木宏規君、RB鶴留君、スタッフでは井上君、末吉君、島谷君、前川君。そして2年生の荻原さん。ほかに高等部や中学部、啓明学院でコーチをしているメンバーも数人が受講していた。
一般の受講生を含めて出席率は高く、回を重ねるごとにそれがさらに高くなって行くのが、僕にとってはささやかな自慢だった。ファイターズの部員も、最近受講した面々は出席率もよく、毎週書き上げる800字の小論文の内容も、回を重ねるごとに上達していった。それもまた、僕にとってはうれしいことだった。
一般の受講生の中には、毎回、信じられないほど上手な文章を書く学生がいたし、半面、書くことがまったく苦手という受講生も少なくなかった。60分という制限時間に800字の文章がまとめきれない学生もいたし、内容はいま一歩でも、なんとか頑張って書き上げる学生もいた。
それは、ファイターズの諸君も同様で、いま名前を挙げた部員の中にも、書くことに苦しむ部員は何人もいた。
しかし、素晴らしいのは、上記の諸君のうち、誰一人として「今日は書ききれません」と音を上げたことがなかったことだ。急なミーティングで欠席することはあっても、次の回には必ず欠席した日の課題を仕上げて提出したし、今春卒業したWR小田君のように、60分の制限時間内に2回分の小論文を一気に仕上げる猛者もいた。
そうした受講生の中で、とりわけ僕が目を見張ったのが最初に紹介した三宅君と高木君、そしてWRの高木君だった。寺岡主将も含め、彼らは毎回、特別の輝きはないけれども、愚直な生活態度と考え方に裏付けられた文章を仕上げてくれた。その文章を読ませてもらうたびに「こういうきまじめな文章が書けるのは、部活も含めて、日々の生活が充実しているからに違いない」と確信していた。
そうした見方、考え方は、グラウンドに出掛けて彼らの練習に対する取り組みを見ているときにも、頭から離れなかった。今回、彼ら二人が並んでホームページの“表紙”を飾り、チームの仲間からも彼らの取り組みが評価されているのを見て、特別の感慨を持ったのは、そういう事情が背景にあるからだ。
ファイターズは、全国に聞こえたフットボールの名門である。それは過去の先輩たちが築いてきた名声であり、それを連綿と受け継いできた後輩たちが毎年の厳しい戦いを乗り越えて繋いできたバトンである。
けれども、それが高く評価されるのは、運動競技のプロとしてではなく、本来の意味での大学の課外活動として取り組んできたからであり、だからこそ現役の学生、コーチらは日々「文武両道」を目指して活動しているのである。
その「文」の面での取り組みを指導する側から評価してきた選手が「武」の面でもチームから高い評価を受けている。彼らの「文」の一端を知っている僕にとっては、それがなによりもうれしいのである。
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