石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2016/9
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(19)見守る人
投稿日時:2016/09/08(木) 12:34
折に触れて読み返す、藤沢周平の「蝉しぐれ」に、次のような一節がある。剣術の道場主がいまが伸び盛りの主人公に向かっていう台詞である。
「兵法を学んでいると、にわかに鬼神に魅入られたかのように技が切れて、強くなることがある。剣が埋もれていた才に出会うときだ。わしが精進しろ、はげめと口を酸くして言うのは、怠けていては己が真の才にめぐり会うことができぬからだ」
「しかし、精進すれば、みんながみんな上達するかといえば必ずしもそうではない。真に才のある者は限られている。そういう者があるときから急に強くなるのだ」
こういう台詞に出会うと、ついついファイターズで活動する諸君の精進、努力にその言葉が重なる。監督やコーチが「わしが精進しろ、はげめと口を酸っぱくして言うのは、怠けていては己が真の才にめぐり会うことができぬからだ」と、部員を叱咤激励されている場面を連想してしまう。
もちろん、小説に取り上げられた剣術と、いま現実の世界で取り組んでいるフットボールでは、舞台も条件も全く異なる。剣術では個人の力量が直接反映されるが、フットボールはチームスポーツであり、チームとしての力量が試される。一人の選手が鬼神に魅入られたかのように「技が切れ、強くなっても」、ほかのメンバーが昨日のままでは、勝負には勝てない。
だからこそ、チームとしての力量を上げるための精進がすべての選手に求められるのである。監督やコーチが毎日のようにグラウンドで練習をチェックし、繰り返しビデオを見ているのは、そこである。この部員は100%、あるいは120%の力を出して練習に取り組んでいるか。練習が終わった時には、練習前よりたとえ半歩でも上達しているか。選手もまた、自分のことだけではなく、ゆるみの見える仲間に厳しく要求しているか。けがや体調不良を言い訳に、手を抜いた練習をしている部員はいないか。
このように書くと、200人以上のメンバーの動きを一人の人間が見られるはずがないという疑問が出るかもしれない。自身が全力で取り組んでいるときに、仲間の動きにまで目が届くはずがないという疑問を持たれる方もおいでになるかもしれない。
しかし、実際にグラウンドに立ってみると、なぜか選手の動きがよく見える。全くプレーヤーとしての経験がない僕のような人間でも、手を抜いている部員、体のどこかに異常を抱えた選手はすぐに分かる。ほんの些細な仕草であっても、全体の流れとは異なる動きをするからだ。
百戦錬磨、経験豊富な監督やコーチのセンサーは僕よりもはるかに感度がいい。プレーごとにチームの動きをチェックしつつ、常に一人一人の選手の動きを視野に入れている。だから、少しでもおかしな動き、緩慢な仕草があれば、その部分がクローズアップしたように浮かんでくるのだろう。
そういう選手には、現場で注意されることもあるし、別の形で奮起を促されることもある。「精進しろ、はげめ」というわけだ。
その証拠は、上ヶ原のグラウンドの片隅に置かれているホワイトボードに見つけることができる。そこには毎日、オフェンスとディフェンスに分けて、ポジションごとに選手の名前が張り出されている。選手にはV、準V、JV、ファームと4段階(練習から除外されているリハビリメンバーを加えれば5段階)の格付けがあり、コーチが前日までの練習内容を参考に、格付けを上げたり下げたりされるのである。
みんなの前で大声で怒鳴りつけなくても、この格付けの変動を見ただけで、監督やコーチが誰に注目し、どの選手に期待を寄せているかは一目で分かる。時には次の試合の先発メンバーや主な交代メンバーまでが推測できるようになる。
成果が出れば格付けは上がる。期待外れな練習ぶりだと、ランクが落ちる。それをチェックする監督、コーチの目が揺るぎないから、チーム内の競争が激しくなり、必然的に質の高い練習につながる。日々、質の高い練習に100%の力で取り組んでいる中で、ある日「鬼神に魅入られたように技が切れて、強くなることがある」のである。
今秋土曜日、京セラドームで行われる甲南大学との試合で、そうした選手が何人出てくるか。刮目して待っている。
「兵法を学んでいると、にわかに鬼神に魅入られたかのように技が切れて、強くなることがある。剣が埋もれていた才に出会うときだ。わしが精進しろ、はげめと口を酸くして言うのは、怠けていては己が真の才にめぐり会うことができぬからだ」
「しかし、精進すれば、みんながみんな上達するかといえば必ずしもそうではない。真に才のある者は限られている。そういう者があるときから急に強くなるのだ」
こういう台詞に出会うと、ついついファイターズで活動する諸君の精進、努力にその言葉が重なる。監督やコーチが「わしが精進しろ、はげめと口を酸っぱくして言うのは、怠けていては己が真の才にめぐり会うことができぬからだ」と、部員を叱咤激励されている場面を連想してしまう。
もちろん、小説に取り上げられた剣術と、いま現実の世界で取り組んでいるフットボールでは、舞台も条件も全く異なる。剣術では個人の力量が直接反映されるが、フットボールはチームスポーツであり、チームとしての力量が試される。一人の選手が鬼神に魅入られたかのように「技が切れ、強くなっても」、ほかのメンバーが昨日のままでは、勝負には勝てない。
だからこそ、チームとしての力量を上げるための精進がすべての選手に求められるのである。監督やコーチが毎日のようにグラウンドで練習をチェックし、繰り返しビデオを見ているのは、そこである。この部員は100%、あるいは120%の力を出して練習に取り組んでいるか。練習が終わった時には、練習前よりたとえ半歩でも上達しているか。選手もまた、自分のことだけではなく、ゆるみの見える仲間に厳しく要求しているか。けがや体調不良を言い訳に、手を抜いた練習をしている部員はいないか。
このように書くと、200人以上のメンバーの動きを一人の人間が見られるはずがないという疑問が出るかもしれない。自身が全力で取り組んでいるときに、仲間の動きにまで目が届くはずがないという疑問を持たれる方もおいでになるかもしれない。
しかし、実際にグラウンドに立ってみると、なぜか選手の動きがよく見える。全くプレーヤーとしての経験がない僕のような人間でも、手を抜いている部員、体のどこかに異常を抱えた選手はすぐに分かる。ほんの些細な仕草であっても、全体の流れとは異なる動きをするからだ。
百戦錬磨、経験豊富な監督やコーチのセンサーは僕よりもはるかに感度がいい。プレーごとにチームの動きをチェックしつつ、常に一人一人の選手の動きを視野に入れている。だから、少しでもおかしな動き、緩慢な仕草があれば、その部分がクローズアップしたように浮かんでくるのだろう。
そういう選手には、現場で注意されることもあるし、別の形で奮起を促されることもある。「精進しろ、はげめ」というわけだ。
その証拠は、上ヶ原のグラウンドの片隅に置かれているホワイトボードに見つけることができる。そこには毎日、オフェンスとディフェンスに分けて、ポジションごとに選手の名前が張り出されている。選手にはV、準V、JV、ファームと4段階(練習から除外されているリハビリメンバーを加えれば5段階)の格付けがあり、コーチが前日までの練習内容を参考に、格付けを上げたり下げたりされるのである。
みんなの前で大声で怒鳴りつけなくても、この格付けの変動を見ただけで、監督やコーチが誰に注目し、どの選手に期待を寄せているかは一目で分かる。時には次の試合の先発メンバーや主な交代メンバーまでが推測できるようになる。
成果が出れば格付けは上がる。期待外れな練習ぶりだと、ランクが落ちる。それをチェックする監督、コーチの目が揺るぎないから、チーム内の競争が激しくなり、必然的に質の高い練習につながる。日々、質の高い練習に100%の力で取り組んでいる中で、ある日「鬼神に魅入られたように技が切れて、強くなることがある」のである。
今秋土曜日、京セラドームで行われる甲南大学との試合で、そうした選手が何人出てくるか。刮目して待っている。
(18)「こんなもんちゃうか」
投稿日時:2016/09/01(木) 09:27
シーズンの初戦といえば、毎年、特別の感慨がある。新しい戦力は出てきたか。昨年まで活躍した選手が一段と進化したプレーを披露してくれるか。けがでしばらく試合から遠ざかっていたメンバーの回復具合はどうか。交代メンバーの底上げは進んでいるか。スタッフの動きはどうか。チームとしての一体感は生まれているか……。
スタンドから眺めているファンの一人として、チェックしたいことはいくらでもある。練習ではずいぶん成長していると思った選手が、公式戦でその力が発揮できるかどうかは、また別の問題だ。
秋のリーグ戦、初戦の同志社との試合は、そういう意味で、見所がいっぱいだった。
まずは先発メンバー。攻撃ではラインに左から3年生の井若、1年生の川部、2年生の光岡と、箕面自由学園出身の3人が並ぶ。右に4年生の清村と藏野、TEには3年生の三木という布陣だ。昨年まで中央をがっちりと固めていた左ガードの橋本は卒業し、センター松井と右のガード高橋はけがのために欠場している。左右のタックル井若と藏野以外は試合経験が少なく、鳥内監督の試合前の言葉を借りれば「相当いかれまっせ」という状況だ。
守備に目をやると、DL松本、DB小池という二人のエースの名前がなく、代わって高槻高校出身の1年生、小川が先発に名を連ねている。DLのパングや藤木はこれまでからも交代メンバーで活躍していたから、そんなに違和感がないが、初めて公式戦のスタメンを任された小川がどんな働きをするか。OLの川部ととともに、特別なチェックが必要だ。
関学のキック、同志社のレシーブで試合が始まる。なんとなんと、同志社が多彩なプレーを次々に繰り出す。最初のシリーズは自陣40ヤード付近で第4ダウン残り5ヤード。当然のようにパントを蹴ると思ったら、なんとフェイクパスでダウンを更新。ファイターズ守備陣が混乱するのを見澄ましたようにリバースプレーやQBキープで一気にに陣地を進める。
ここはなんとかDB稲付やDL安田のロスタックルでなんとかパントに追いやったが、同志社の思い切った攻めにスタンドからは何度も感嘆の声が上がる。
ようやく手にしたファイターズの最初の攻撃シリーズ。満を持して登場したQB伊豆がWR池永、前田泰、中西に10ヤードから15ヤードのパスを確実に決めて陣地を回復。相手陣に入ると、RB野々垣、山口、高松を使い分けながらゴール前に迫る。仕上げはオフタックルを突いた野々垣の1ヤードランでTD。K西岡のキックも決まって7-0と先制する。
しかし、この日の同志社は元気がいい。攻撃陣はKG守備の反応の早さを逆手にとったようなプレ-を連発。右や左と目先を変えながらじっくり時間を使いながら攻め込む。攻撃がストップすると今度は守備陣が奮起する。攻守の歯車がかみ合い、とても2部から復帰したばかりとは思えないようなプレーが続く。
ファイターズはようやく3度目の攻撃シリーズを高松の切れのよい走りでTDに結び付けて14-0。前半はこのスコアで終了したが、スタンドからは「同志社が思い通りに試合を動かしている。後半、何が起きるか心配だ」という声も出る。
その懸念を払拭したのが後半最初のファイターズの攻撃。伊豆が自陣39ヤードから池永や高松に立て続けにパスを通し、加藤、山口、山本、加藤と豊富RB陣を走らせ、仕上げは再び野々垣のオフタックルランでTD。21-0として、ようやく主導権を手にする。
こうなると、ファイターズは新しい戦力を次々と投入。QBも控えの2年生西野に交代する。西野は得意のキーププレーでリズムをつかみ、相手陣37ヤードからWR松井にロングパス。少しオーバースローに見えたが、松井が最後にスピードを上げ、ぎりぎりでキャッチしてTD。最後に一段ギアの上がる加速力と長身を利用した松井ならではのキャッチは、2007年のシーズン、QB三原と組んで活躍したWR秋山を彷彿させた。これでまだ2年生というのだから、鳥内監督が昨年「ファイターズ史上最高のレシーバーになりますよ」といった言葉に嘘はなさそうだ。
ファイターズはこの辺りから、攻守蹴ともに下級生の交代メンバーを次々と起用。相手にキックオフリターンのTDを許すなど、不細工な場面もあったが、逆に4年生RB北村が一度は倒されそうになりながら、体を立て直してTDを決めるシーンもあって、終わって見れば35-7。
鳥内監督は試合後、報道陣の質問に「こんなもんちゃうか」と答えておられたが、それが正直な感想だろう。
試合経験の少ない下級生は失敗はあっても経験を積んだ。下級生の頃から試合に出ている選手は、肝心なところで踏ん張った。相手オフェンスがファイターズに一泡吹かせてやろうと準備したプレーを次々と繰り出しても、守備陣は何とか得点は許さなかった。けが人を抱えて不安なままにスタートした攻撃陣も、経験豊富な伊豆のリードで、なんとかぼろを出さずに乗り切った。
そのトータルが「こんなもんちゃうか」という言葉だろう。
シーズンは始まったばかりである。11月のリーグ最終戦まで必死の練習を重ね、個々の力を伸ばし、チームとしての力量を高めてもらいたい。それが実現すれば「今年のチームはよくまとまっている」とか「ようがんばった」とかいう言葉が監督の口から聞けるに違いない。「こんなもんちゃうか」に安住している場合ではない。
スタンドから眺めているファンの一人として、チェックしたいことはいくらでもある。練習ではずいぶん成長していると思った選手が、公式戦でその力が発揮できるかどうかは、また別の問題だ。
秋のリーグ戦、初戦の同志社との試合は、そういう意味で、見所がいっぱいだった。
まずは先発メンバー。攻撃ではラインに左から3年生の井若、1年生の川部、2年生の光岡と、箕面自由学園出身の3人が並ぶ。右に4年生の清村と藏野、TEには3年生の三木という布陣だ。昨年まで中央をがっちりと固めていた左ガードの橋本は卒業し、センター松井と右のガード高橋はけがのために欠場している。左右のタックル井若と藏野以外は試合経験が少なく、鳥内監督の試合前の言葉を借りれば「相当いかれまっせ」という状況だ。
守備に目をやると、DL松本、DB小池という二人のエースの名前がなく、代わって高槻高校出身の1年生、小川が先発に名を連ねている。DLのパングや藤木はこれまでからも交代メンバーで活躍していたから、そんなに違和感がないが、初めて公式戦のスタメンを任された小川がどんな働きをするか。OLの川部ととともに、特別なチェックが必要だ。
関学のキック、同志社のレシーブで試合が始まる。なんとなんと、同志社が多彩なプレーを次々に繰り出す。最初のシリーズは自陣40ヤード付近で第4ダウン残り5ヤード。当然のようにパントを蹴ると思ったら、なんとフェイクパスでダウンを更新。ファイターズ守備陣が混乱するのを見澄ましたようにリバースプレーやQBキープで一気にに陣地を進める。
ここはなんとかDB稲付やDL安田のロスタックルでなんとかパントに追いやったが、同志社の思い切った攻めにスタンドからは何度も感嘆の声が上がる。
ようやく手にしたファイターズの最初の攻撃シリーズ。満を持して登場したQB伊豆がWR池永、前田泰、中西に10ヤードから15ヤードのパスを確実に決めて陣地を回復。相手陣に入ると、RB野々垣、山口、高松を使い分けながらゴール前に迫る。仕上げはオフタックルを突いた野々垣の1ヤードランでTD。K西岡のキックも決まって7-0と先制する。
しかし、この日の同志社は元気がいい。攻撃陣はKG守備の反応の早さを逆手にとったようなプレ-を連発。右や左と目先を変えながらじっくり時間を使いながら攻め込む。攻撃がストップすると今度は守備陣が奮起する。攻守の歯車がかみ合い、とても2部から復帰したばかりとは思えないようなプレーが続く。
ファイターズはようやく3度目の攻撃シリーズを高松の切れのよい走りでTDに結び付けて14-0。前半はこのスコアで終了したが、スタンドからは「同志社が思い通りに試合を動かしている。後半、何が起きるか心配だ」という声も出る。
その懸念を払拭したのが後半最初のファイターズの攻撃。伊豆が自陣39ヤードから池永や高松に立て続けにパスを通し、加藤、山口、山本、加藤と豊富RB陣を走らせ、仕上げは再び野々垣のオフタックルランでTD。21-0として、ようやく主導権を手にする。
こうなると、ファイターズは新しい戦力を次々と投入。QBも控えの2年生西野に交代する。西野は得意のキーププレーでリズムをつかみ、相手陣37ヤードからWR松井にロングパス。少しオーバースローに見えたが、松井が最後にスピードを上げ、ぎりぎりでキャッチしてTD。最後に一段ギアの上がる加速力と長身を利用した松井ならではのキャッチは、2007年のシーズン、QB三原と組んで活躍したWR秋山を彷彿させた。これでまだ2年生というのだから、鳥内監督が昨年「ファイターズ史上最高のレシーバーになりますよ」といった言葉に嘘はなさそうだ。
ファイターズはこの辺りから、攻守蹴ともに下級生の交代メンバーを次々と起用。相手にキックオフリターンのTDを許すなど、不細工な場面もあったが、逆に4年生RB北村が一度は倒されそうになりながら、体を立て直してTDを決めるシーンもあって、終わって見れば35-7。
鳥内監督は試合後、報道陣の質問に「こんなもんちゃうか」と答えておられたが、それが正直な感想だろう。
試合経験の少ない下級生は失敗はあっても経験を積んだ。下級生の頃から試合に出ている選手は、肝心なところで踏ん張った。相手オフェンスがファイターズに一泡吹かせてやろうと準備したプレーを次々と繰り出しても、守備陣は何とか得点は許さなかった。けが人を抱えて不安なままにスタートした攻撃陣も、経験豊富な伊豆のリードで、なんとかぼろを出さずに乗り切った。
そのトータルが「こんなもんちゃうか」という言葉だろう。
シーズンは始まったばかりである。11月のリーグ最終戦まで必死の練習を重ね、個々の力を伸ばし、チームとしての力量を高めてもらいたい。それが実現すれば「今年のチームはよくまとまっている」とか「ようがんばった」とかいう言葉が監督の口から聞けるに違いない。「こんなもんちゃうか」に安住している場合ではない。
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