石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2015/11
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(30)信じられない数字
投稿日時:2015/11/09(月) 20:32
強いのか、弱いのか。スタンドから見ているだけでは、まったく分からない試合だった。7日の関大戦。試合が終わった時には、ファイターズが33-7で勝っていたから、数字の上では圧勝である。
実際、試合後のスタッツを見ても、すべてにファイターズが上回っている。第1ダウンの獲得数は24回と13回。総獲得ヤードは442ヤード対232ヤード。ランでもパスでもほぼ相手の2倍の距離を稼いでいる。関大には2回の反則があり、15ヤード陣地を下げられているが、ファイターズはゼロ。
こういう数字を見た人は、ファイターズが終始、主導権を握って試合を進めたと思われるに違いない。けれども、とてもとてもそんな「お気楽な」気分で観戦できる状態ではなかった。
立ち上がり、関大陣18ヤードから始まった相手の攻撃を3&アウトで抑えたところまでは、いい感じだった。続くファイターズの攻撃は自陣46ヤードからの好位置。まずはQB伊豆からWR木下へのパスがヒットして19ヤードの前進。そこからRB野々垣と橋本が交互にボールを持ち、第4ダウンインチの攻撃も成功させてダウンを更新。次は野々垣が10ヤードを獲得してゴール前10ヤード。
しかし、ここからの攻撃が進まず、第4ダウンはフィールドゴールを選択。ところがK西岡の蹴ったボールを相手にブロックされ、関大陣28ヤードまで押し戻される。キックの弾道が低かったのか、キッカーをガードしている誰かが突破されたのか、スタンドからではよく見えなかったが「やばい。関大は徹底的に研究している」と思わせるに十分なプレーだった。
次の関大の攻撃は、一度ダウンを更新されたが、2度目はDL藤木、柴田の素晴らしいタックルで何とか抑えて攻守交代。自陣17ヤードから始まった攻撃は、伊豆から木下へのパス1本でダウンを更新。久々に復帰した副将はやはり頼りになる。次はまた伊豆からWR松井に23ヤードのパスをヒット、相手陣48ヤードに進む。
パスを2本続けた後は野々垣のランとRB山本のドロープレー。途中、WR前田への短いパスを挟んで橋本と高松のラン、野々垣へのショベルパス、さらにはFB山崎、RB橋本の突破力を生かしてゴール前1ヤード。仕上げは橋本の中央ダイブでTD。パスとランをかみ合わせた攻撃が見事に決まって7-0。
しかし、キッキングのカバーが破られ、相手はゴール前3ヤードから46ヤード地点までリターン。反撃ののろしを上げる。ここはDB山本、小池らのロスタックルで防ぎ、攻撃権を奪い返したが、次に伊豆が敵陣深く投じた長いパスが奪われ、再び関大の攻撃。関大の攻撃を断ち切ってベンチに戻った守備陣は、一息つく間もなく、再びグラウンドへ。突然の出動で、心の準備が間に合わなかったのか、相手のランとパスを組み合わせた攻撃を支えきれず、わずか7プレーで84ヤードを運ばれ、TDを奪われてしまう。
7-7。同点という数字もさることながら、目の前で相手の破壊力のあるオフェンスを見せつけられて、これはやばいぞ、という気持ちが芽生えてくる。
逆に関大は守備陣も勢いづいてくる。次のファイターズの攻撃を3&アウトに防ぎ、再び関大の攻撃。しかし今度は、心の準備ができていたのだろう。LB山岸のロスタックルなどで、ファイターズも相手を3&アウトで退ける。
自陣23ヤード、前半残り時間は2分21秒。ここからファイターズの華麗なパス攻撃が始まる。木下、松井、亀山への長短織り交ぜたパスを次々にヒットさせ、あっという間にゴール前9ヤード。前半残り時間はほとんどなかったが、伊豆が8ヤードを走り切ってTD。時計は残り3秒を指していた。
しかし、キッキングチームは不安定なまま。この場面でもTDの後のキックをブロックされ、得点は13-7。とてもリードしているという実感は持てないまま、後半戦に入る。 第3Qは関学のレシーブ。ここはWR池永の好リターンで自陣46ヤードからの攻撃。橋本、高松のランで陣地を進め、敵陣32ヤードからまたも松井に22ヤードのパス。難しいコースだったが、余裕で確保し、ベンチを奮い立たせる。前半終了間際の緊迫した場面で、23ヤードと13ヤードのパスを確実にキャッチしたのとあわせ、スーパー1年生としての存在感を見せつけた。
ゴール前8ヤードからの攻撃はランを3度止められたが、第4ダウンの攻撃で伊豆が5ヤードを走り切ってTD。リードを広げる。しかし、この場面でもPATが蹴れず、またもや得点は6点のまま。
第3Q10分32秒にもファイターズは伊豆から前田への15ヤードのパスを通して加点したが、この場面ではキックを蹴る選択をあきらめ、野々垣のランで2点を追加した。プレーが成功したのはうれしかったが、PATを蹴るのをあきらめるというのは、まさに異常事態。長い間ファイターズの試合を見てきたが、過去にも例のないことだった。
結局、この日はゴール前5ヤードからのフィールドゴールを1回試みて失敗。PATのキックも4回のうち3回失敗している。相手チームが十分に研究してきていることは割り引いても、理解に苦しむ状況である。キッカーの状態が悪かった、ということだけではなく、システムや習熟度に問題があったとしか考えられない。その証拠に、キックオフカバーも、終始不安定だった。この数年間、卓越したキッキングゲームで相手を圧倒してきたファイターズを見てきた人間としては、目の前の惨状が信じられなかった。
得点は33-7。圧勝だが、まったく勝った気がしないというのは、ここに原因がある。この点にどうメスを入れるか。シーズンが終盤になったいまでは、できることは限られているだろうが、何とか手を打ってもらいたい。
次の立命は、攻守とも関大をさらに上回るメンバーを揃えている。打倒関学、に燃える気概も並々ならぬものがあると聞いている。そういう難敵に対するに、不安を抱えたままでは戦えない。何とかしてくれ、と祈るばかりである。
実際、試合後のスタッツを見ても、すべてにファイターズが上回っている。第1ダウンの獲得数は24回と13回。総獲得ヤードは442ヤード対232ヤード。ランでもパスでもほぼ相手の2倍の距離を稼いでいる。関大には2回の反則があり、15ヤード陣地を下げられているが、ファイターズはゼロ。
こういう数字を見た人は、ファイターズが終始、主導権を握って試合を進めたと思われるに違いない。けれども、とてもとてもそんな「お気楽な」気分で観戦できる状態ではなかった。
立ち上がり、関大陣18ヤードから始まった相手の攻撃を3&アウトで抑えたところまでは、いい感じだった。続くファイターズの攻撃は自陣46ヤードからの好位置。まずはQB伊豆からWR木下へのパスがヒットして19ヤードの前進。そこからRB野々垣と橋本が交互にボールを持ち、第4ダウンインチの攻撃も成功させてダウンを更新。次は野々垣が10ヤードを獲得してゴール前10ヤード。
しかし、ここからの攻撃が進まず、第4ダウンはフィールドゴールを選択。ところがK西岡の蹴ったボールを相手にブロックされ、関大陣28ヤードまで押し戻される。キックの弾道が低かったのか、キッカーをガードしている誰かが突破されたのか、スタンドからではよく見えなかったが「やばい。関大は徹底的に研究している」と思わせるに十分なプレーだった。
次の関大の攻撃は、一度ダウンを更新されたが、2度目はDL藤木、柴田の素晴らしいタックルで何とか抑えて攻守交代。自陣17ヤードから始まった攻撃は、伊豆から木下へのパス1本でダウンを更新。久々に復帰した副将はやはり頼りになる。次はまた伊豆からWR松井に23ヤードのパスをヒット、相手陣48ヤードに進む。
パスを2本続けた後は野々垣のランとRB山本のドロープレー。途中、WR前田への短いパスを挟んで橋本と高松のラン、野々垣へのショベルパス、さらにはFB山崎、RB橋本の突破力を生かしてゴール前1ヤード。仕上げは橋本の中央ダイブでTD。パスとランをかみ合わせた攻撃が見事に決まって7-0。
しかし、キッキングのカバーが破られ、相手はゴール前3ヤードから46ヤード地点までリターン。反撃ののろしを上げる。ここはDB山本、小池らのロスタックルで防ぎ、攻撃権を奪い返したが、次に伊豆が敵陣深く投じた長いパスが奪われ、再び関大の攻撃。関大の攻撃を断ち切ってベンチに戻った守備陣は、一息つく間もなく、再びグラウンドへ。突然の出動で、心の準備が間に合わなかったのか、相手のランとパスを組み合わせた攻撃を支えきれず、わずか7プレーで84ヤードを運ばれ、TDを奪われてしまう。
7-7。同点という数字もさることながら、目の前で相手の破壊力のあるオフェンスを見せつけられて、これはやばいぞ、という気持ちが芽生えてくる。
逆に関大は守備陣も勢いづいてくる。次のファイターズの攻撃を3&アウトに防ぎ、再び関大の攻撃。しかし今度は、心の準備ができていたのだろう。LB山岸のロスタックルなどで、ファイターズも相手を3&アウトで退ける。
自陣23ヤード、前半残り時間は2分21秒。ここからファイターズの華麗なパス攻撃が始まる。木下、松井、亀山への長短織り交ぜたパスを次々にヒットさせ、あっという間にゴール前9ヤード。前半残り時間はほとんどなかったが、伊豆が8ヤードを走り切ってTD。時計は残り3秒を指していた。
しかし、キッキングチームは不安定なまま。この場面でもTDの後のキックをブロックされ、得点は13-7。とてもリードしているという実感は持てないまま、後半戦に入る。 第3Qは関学のレシーブ。ここはWR池永の好リターンで自陣46ヤードからの攻撃。橋本、高松のランで陣地を進め、敵陣32ヤードからまたも松井に22ヤードのパス。難しいコースだったが、余裕で確保し、ベンチを奮い立たせる。前半終了間際の緊迫した場面で、23ヤードと13ヤードのパスを確実にキャッチしたのとあわせ、スーパー1年生としての存在感を見せつけた。
ゴール前8ヤードからの攻撃はランを3度止められたが、第4ダウンの攻撃で伊豆が5ヤードを走り切ってTD。リードを広げる。しかし、この場面でもPATが蹴れず、またもや得点は6点のまま。
第3Q10分32秒にもファイターズは伊豆から前田への15ヤードのパスを通して加点したが、この場面ではキックを蹴る選択をあきらめ、野々垣のランで2点を追加した。プレーが成功したのはうれしかったが、PATを蹴るのをあきらめるというのは、まさに異常事態。長い間ファイターズの試合を見てきたが、過去にも例のないことだった。
結局、この日はゴール前5ヤードからのフィールドゴールを1回試みて失敗。PATのキックも4回のうち3回失敗している。相手チームが十分に研究してきていることは割り引いても、理解に苦しむ状況である。キッカーの状態が悪かった、ということだけではなく、システムや習熟度に問題があったとしか考えられない。その証拠に、キックオフカバーも、終始不安定だった。この数年間、卓越したキッキングゲームで相手を圧倒してきたファイターズを見てきた人間としては、目の前の惨状が信じられなかった。
得点は33-7。圧勝だが、まったく勝った気がしないというのは、ここに原因がある。この点にどうメスを入れるか。シーズンが終盤になったいまでは、できることは限られているだろうが、何とか手を打ってもらいたい。
次の立命は、攻守とも関大をさらに上回るメンバーを揃えている。打倒関学、に燃える気概も並々ならぬものがあると聞いている。そういう難敵に対するに、不安を抱えたままでは戦えない。何とかしてくれ、と祈るばかりである。
(29)練習台のプライド
投稿日時:2015/11/02(月) 00:23
今週は、ファイターズでは一番目立たないが、チーム浮沈の鍵を握るポジションのことについて書きたい。そう、フルバック(FB)のことである。
先日の近大戦では、35番の山崎君が97キロの巨体を利して突進に次ぐ突進。5回のボールキャリーで60ヤードを走った。珍しくカットを切って23ヤードを独走し、TDを挙げる場面もあった。彼がボールを持つたびに、スタンドからは大きな歓声が沸き、一躍、人気者になった。その前の神戸大戦では、94番の市原君がゴール前で、QB中根君の投じた逆方向の難しいパスを体を反転させてキャッチした。地味ではあったが、ここで落としてなるものか、という気迫を見せつけたプレーであり、ファイターズFBの存在感を示した。
けれども、彼らのプレーが多くのファンから注目されるのは通常、1試合に1度か2度。あとはひたすらブロッカーとしてボールキャリアの走路を開き、あるいは相手のブリッツからQBを守る仕事に徹している。
しかし、ファイターズが多彩な戦術を遂行し、試合を勝利に導く上で、彼らに与えられた役割は限りなく大きい。
例えば、2007年の甲子園ボウル。ライバル日大を相手に二転三転するゲームを制するキーになったのは、ファイターズが34-38と逆転されて迎えたゲームの終盤、第4ダウンショートという状況でQB三原君がFB多田羅君に投じた短いパスだった。それを多田羅君がしがみつくようにして確保したことで攻撃が続き、第4ダウンゴール前1ヤード、残り時間6秒という場面を作り、RB横山君の逆転TDランに結びついた。
あの学年は、QBに三原君、レシーバーに榊原君や秋山君を擁し、史上最高のパスオフェンスを繰り広げたチームだったが、ここぞというポイントで、誰もがマークしていないFBへのパスをヒットさせ、勝利に結び付けたのだ。あのキャッチひとつで多田羅君は、僕の中では「記録ではなく、記憶に残る選手」にノミネートされたのである。
昨年度の4年生FB梶原君のDLとして鍛えた強力なブロックも記憶に新しい。中でも立命戦の冒頭、相手がキックしたボールを受けたリターナーの田中君の走路を、梶原君がえげつないブロックで切り開き、ビッグリターンに結び付けた場面が印象に残っている。彼もまた地味な役割だったが「記憶に残る」選手の一人である。2011年卒の兵田君が小さいけど力強い「小型ダンプ」のような体型を利用して、常に相手の下からまくり上げるブロックをしていた場面も記憶に残っている。
しかし、試合で活躍している彼らの姿は、実際に彼らがチームで果たしている役割からいえば、氷山の一角。水面下に隠れて見えない部分にこそ、彼らの値打ちがある。
それは、チームの練習台としての役割である。彼らはテールバックと呼ばれるボールキャリーが中心の選手ほどには素早いカットは切れない。けれども当たりは強いし、動きもラインよりは数段速い。上級生ともなると、体ができあがっているから、少々の当たりにも動じることがない。
そういう特徴を持っているから、LBやDBの練習相手には欠かせない。チーム練習の前に、FBの彼らを相手チームの当たりが強くてスピードのある選手に見立てたLBやDBの選手が「もう一丁、もう一丁」とぶつかっている姿は、いつだって見ることができるし、スピード派の味方RBの練習台として、相手LBの役割を果たしてぶつかり合っている場面も日常の光景だ。
FBのメンバーは常に自分たちの練習と同時に、LBやRBの練習台として、仲間を鍛える役割を担っている。つまり、FBの面々が、チームメートのためにしんどい練習台を本気で務めることで、優秀なLBやRBを育てているのである。
外部からは目立たないが、その地味な役割を果たし続けて自らを鍛えてきた面々が、試合の重要なポイントでいぶし銀のような活躍を見せる。走る姿は少々かっこわるくても、スマートなボールキャッチができなくても、そんなことは知ったことではない。
確実に走り、確実に相手を倒し、確実にボールを捕捉する。試合中、1度めぐってくるか、3度のチャンスが与えられるか。それはゲームの展開次第。その数少ない機会を確かに成功させる山崎君や市原君のプレーは、練習台としてのプライドの表現である。そういう背景があるから、僕は彼らのプレーが成功するたびに、心からの拍手を贈るのである。
さあ、今週末は、関西大との決戦だ。彼らがブロッカーとして活躍する場面は間違いなくある。ボールを持って活躍する場面がめぐってくるかどうかは保証の限りではないが、彼らが鍛えたLBやDB、そしてRBの面々が活躍する場面はきっとある。そういう場面に出合うたびに、チームで一番地味で重要な役割を営々と果たし続ける彼らに思いを馳せていただきたい。フットボールを見る楽しみが倍加することを約束します。
先日の近大戦では、35番の山崎君が97キロの巨体を利して突進に次ぐ突進。5回のボールキャリーで60ヤードを走った。珍しくカットを切って23ヤードを独走し、TDを挙げる場面もあった。彼がボールを持つたびに、スタンドからは大きな歓声が沸き、一躍、人気者になった。その前の神戸大戦では、94番の市原君がゴール前で、QB中根君の投じた逆方向の難しいパスを体を反転させてキャッチした。地味ではあったが、ここで落としてなるものか、という気迫を見せつけたプレーであり、ファイターズFBの存在感を示した。
けれども、彼らのプレーが多くのファンから注目されるのは通常、1試合に1度か2度。あとはひたすらブロッカーとしてボールキャリアの走路を開き、あるいは相手のブリッツからQBを守る仕事に徹している。
しかし、ファイターズが多彩な戦術を遂行し、試合を勝利に導く上で、彼らに与えられた役割は限りなく大きい。
例えば、2007年の甲子園ボウル。ライバル日大を相手に二転三転するゲームを制するキーになったのは、ファイターズが34-38と逆転されて迎えたゲームの終盤、第4ダウンショートという状況でQB三原君がFB多田羅君に投じた短いパスだった。それを多田羅君がしがみつくようにして確保したことで攻撃が続き、第4ダウンゴール前1ヤード、残り時間6秒という場面を作り、RB横山君の逆転TDランに結びついた。
あの学年は、QBに三原君、レシーバーに榊原君や秋山君を擁し、史上最高のパスオフェンスを繰り広げたチームだったが、ここぞというポイントで、誰もがマークしていないFBへのパスをヒットさせ、勝利に結び付けたのだ。あのキャッチひとつで多田羅君は、僕の中では「記録ではなく、記憶に残る選手」にノミネートされたのである。
昨年度の4年生FB梶原君のDLとして鍛えた強力なブロックも記憶に新しい。中でも立命戦の冒頭、相手がキックしたボールを受けたリターナーの田中君の走路を、梶原君がえげつないブロックで切り開き、ビッグリターンに結び付けた場面が印象に残っている。彼もまた地味な役割だったが「記憶に残る」選手の一人である。2011年卒の兵田君が小さいけど力強い「小型ダンプ」のような体型を利用して、常に相手の下からまくり上げるブロックをしていた場面も記憶に残っている。
しかし、試合で活躍している彼らの姿は、実際に彼らがチームで果たしている役割からいえば、氷山の一角。水面下に隠れて見えない部分にこそ、彼らの値打ちがある。
それは、チームの練習台としての役割である。彼らはテールバックと呼ばれるボールキャリーが中心の選手ほどには素早いカットは切れない。けれども当たりは強いし、動きもラインよりは数段速い。上級生ともなると、体ができあがっているから、少々の当たりにも動じることがない。
そういう特徴を持っているから、LBやDBの練習相手には欠かせない。チーム練習の前に、FBの彼らを相手チームの当たりが強くてスピードのある選手に見立てたLBやDBの選手が「もう一丁、もう一丁」とぶつかっている姿は、いつだって見ることができるし、スピード派の味方RBの練習台として、相手LBの役割を果たしてぶつかり合っている場面も日常の光景だ。
FBのメンバーは常に自分たちの練習と同時に、LBやRBの練習台として、仲間を鍛える役割を担っている。つまり、FBの面々が、チームメートのためにしんどい練習台を本気で務めることで、優秀なLBやRBを育てているのである。
外部からは目立たないが、その地味な役割を果たし続けて自らを鍛えてきた面々が、試合の重要なポイントでいぶし銀のような活躍を見せる。走る姿は少々かっこわるくても、スマートなボールキャッチができなくても、そんなことは知ったことではない。
確実に走り、確実に相手を倒し、確実にボールを捕捉する。試合中、1度めぐってくるか、3度のチャンスが与えられるか。それはゲームの展開次第。その数少ない機会を確かに成功させる山崎君や市原君のプレーは、練習台としてのプライドの表現である。そういう背景があるから、僕は彼らのプレーが成功するたびに、心からの拍手を贈るのである。
さあ、今週末は、関西大との決戦だ。彼らがブロッカーとして活躍する場面は間違いなくある。ボールを持って活躍する場面がめぐってくるかどうかは保証の限りではないが、彼らが鍛えたLBやDB、そしてRBの面々が活躍する場面はきっとある。そういう場面に出合うたびに、チームで一番地味で重要な役割を営々と果たし続ける彼らに思いを馳せていただきたい。フットボールを見る楽しみが倍加することを約束します。
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