石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2014/6
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(11)課題が見えた
投稿日時:2014/06/09(月) 23:40
学生会館の中にあるファイターズボックスの外壁に掲示板がある。マネジャーからの連絡事項や服装などの注意事項などが適宜張り出され、必要に応じて更新されている。
先週、たまたま通りかかったとき、その掲示の一枚を見た。今季、チームがスローガンに掲げている「挑戦」ということについて、胸に響くことが書いてあった。ざっと目を通しただけだから、詳しい内容は記憶していないし、誰が書いて張り出したのかも聞いていない。それでも、内容がしっかりしていたこと、気持ちがこもった文章だったことは印象に残っている。
おぼろげな記憶を手がかりに、その趣旨を思い出すと?挑戦とは、昨日までの自分とは違う自分を求めて自発的に努力することである?新たなことにチャレンジした結果、たとえそれが失敗に終わったとしても、それはとがめない?失敗を恐れて昨日と同じことに甘んじているやつ、そんなやつはチームには不要である……というようなことが書いてあった。
この掲示は、ファイターズの全員が読み、心にとどめているはずである。
僕は、この掲示板にあった「挑戦」という一点に注目して日曜日のパナソニックとの試合を観戦した。全員が「挑戦」を体現できるかどうか。社会人の強さと速さに直面して、自分を見失うような振る舞いはないか。練習でチャレンジしていることを社会人の強豪相手に100%発揮できるかどうか。春のシーズンの総仕上げとして、現状で考え得る最高のメンバーをそろえて臨んだ試合は、僕にとって見所満載だった。
結果は、よい知らせと悪い知らせの両方だった。
よい知らせから報告しよう。まずは守備陣の健闘が光った。1列目、2列目、3列目が互いに連携して、重くて速い相手のラッシュを何とか食い止めた。決定的な独走を一度も許さなかった点だけを見ても、相手にずるずると進まれてしまったライスボウルとの違いは明らかだった。チームメートから絶対的な信頼感を寄せられている相手QBの動きに対しても臆することなく1列目がラッシュをかけてラインを割り、LB小野や吉原がボールキャリアを仕留める。DB田中や小池が思い切りよく切れ込んでタックルを見舞う。第2Q半ば、ゴール前まで攻め込まれ、第4ダウン残りインチという場面があったが、それを見事に食い止めた場面が、守備陣の結束した取り組みを象徴していた。
悪い知らせは、前半、オフェンスが何度もチャンスを逃がしたこと。せっかくRB鷺野、橋本のランとWR樋之本、横山らへの短いパスで陣地を進めながら、決定的な場面で2度のパス失敗が響いた。学生相手には面白いほど通っていた斎藤のパスが2度ともうわずり、チャンスを得点に結びつけられなかったのだ。
決めるときに決めなければ、相手は勢い付く。逆に味方は消沈する。悪循環が始まる。前半、味方守備陣がせっかく第4ダウンの攻撃を防いだのに、その直後に相手守備陣にパスを奪われ、インターセプトTDを決められたのがその象徴だった。
勢い付いた相手守備陣はその後、再び、斎藤に襲いかかり、強烈なタックルでファンブルを誘い、それを拾ってそのままTD。そういうど派手なプレーを演じたのが、昨年までアシスタントコーチとして、ファイターズを指導してくれていた梶原君。昨シーズン、斎藤の目を見張るような成長ぶりを直近で見てきた人物だけに、彼自身も複雑な心境だったろうと察するに余りある。
斎藤自身は試合後のインタビューに「ディフェンスは踏ん張っていたのにオフェンスが足を引っ張ってしまって悔しい。ライスボウルの時より自分のレベルは落ちている。秋はこんなことがないように自分が中心になってやっていきたい」(以上、関学スポーツより)と答えている。この思いを胸に刻んで取り組んでもらいたい。
しかし、悪い話ばかりではない。特筆すべきは、今春、大活躍の2年生や1年生がこの日も怖めず臆せず、存分に奮闘したことである。相手ラインの壁に果敢に突進し、確実にヤードを稼いだRBの橋本、後半、思い切り腕を振ってパスを連投し、最後にWR木戸にTDパスを成功させたQB伊豆、そしてこの日も1年生とは思えないパスラッシュを見せたDL藤木。それぞれが社会人の強豪を相手に、堂々と戦った。これこそが掲示板にある「挑戦」だと、見ていて胸が熱くなった。マンツーマンで見事なカバーをしながら、パスが飛んできた瞬間に相手レシーバーにするっと交わされ、悔しい思いをしたこの日が初登場のDB小椋を含め、1、2年生がこの試合を糧に、どんどん成長してくれるのは間違いない。そんな妙な確信さえ抱いた。
得点は31-7。完敗だったが、今後の取り組みに大きなヒントがもらえたと思えば、腹も立つまい。振り返れば、あの試合が転機になったというような取り組みを今後続けて欲しい。答えは試合後、鷺野主将が飛ばした檄にある。ファイターズの全員が主将の鬼気迫る言葉を正面から受け止め、本気で挑戦してくれることを願っている。
◇ ◇
お知らせが二つあります。
ひとつは今週木曜日(12日)の午後3時10分から、関学会館2階で開かれる武田建先生の講演会の告知です。タイトルは「関学アメリカンフットボールと私」。第40回関西学院史研究会の催しで、会費は無料、一般参加歓迎、申し込み不要ということです。
もうひとつは、小野宏ディレクターが大阪市北区中之島2丁目の朝日カルチャーセンター中之島教室で講演される「アメリカンフットボールの本当の魅力」です。これは昨年、1昨年に続く催しで、いまやすっかり人気講座になっています。申し込みの出足は好調ということですので、早めにお申し込み下さい。会費など詳細は朝日カルチャーセンター(06-6222-5222)へ。
ともにふるってご参加下さい。
先週、たまたま通りかかったとき、その掲示の一枚を見た。今季、チームがスローガンに掲げている「挑戦」ということについて、胸に響くことが書いてあった。ざっと目を通しただけだから、詳しい内容は記憶していないし、誰が書いて張り出したのかも聞いていない。それでも、内容がしっかりしていたこと、気持ちがこもった文章だったことは印象に残っている。
おぼろげな記憶を手がかりに、その趣旨を思い出すと?挑戦とは、昨日までの自分とは違う自分を求めて自発的に努力することである?新たなことにチャレンジした結果、たとえそれが失敗に終わったとしても、それはとがめない?失敗を恐れて昨日と同じことに甘んじているやつ、そんなやつはチームには不要である……というようなことが書いてあった。
この掲示は、ファイターズの全員が読み、心にとどめているはずである。
僕は、この掲示板にあった「挑戦」という一点に注目して日曜日のパナソニックとの試合を観戦した。全員が「挑戦」を体現できるかどうか。社会人の強さと速さに直面して、自分を見失うような振る舞いはないか。練習でチャレンジしていることを社会人の強豪相手に100%発揮できるかどうか。春のシーズンの総仕上げとして、現状で考え得る最高のメンバーをそろえて臨んだ試合は、僕にとって見所満載だった。
結果は、よい知らせと悪い知らせの両方だった。
よい知らせから報告しよう。まずは守備陣の健闘が光った。1列目、2列目、3列目が互いに連携して、重くて速い相手のラッシュを何とか食い止めた。決定的な独走を一度も許さなかった点だけを見ても、相手にずるずると進まれてしまったライスボウルとの違いは明らかだった。チームメートから絶対的な信頼感を寄せられている相手QBの動きに対しても臆することなく1列目がラッシュをかけてラインを割り、LB小野や吉原がボールキャリアを仕留める。DB田中や小池が思い切りよく切れ込んでタックルを見舞う。第2Q半ば、ゴール前まで攻め込まれ、第4ダウン残りインチという場面があったが、それを見事に食い止めた場面が、守備陣の結束した取り組みを象徴していた。
悪い知らせは、前半、オフェンスが何度もチャンスを逃がしたこと。せっかくRB鷺野、橋本のランとWR樋之本、横山らへの短いパスで陣地を進めながら、決定的な場面で2度のパス失敗が響いた。学生相手には面白いほど通っていた斎藤のパスが2度ともうわずり、チャンスを得点に結びつけられなかったのだ。
決めるときに決めなければ、相手は勢い付く。逆に味方は消沈する。悪循環が始まる。前半、味方守備陣がせっかく第4ダウンの攻撃を防いだのに、その直後に相手守備陣にパスを奪われ、インターセプトTDを決められたのがその象徴だった。
勢い付いた相手守備陣はその後、再び、斎藤に襲いかかり、強烈なタックルでファンブルを誘い、それを拾ってそのままTD。そういうど派手なプレーを演じたのが、昨年までアシスタントコーチとして、ファイターズを指導してくれていた梶原君。昨シーズン、斎藤の目を見張るような成長ぶりを直近で見てきた人物だけに、彼自身も複雑な心境だったろうと察するに余りある。
斎藤自身は試合後のインタビューに「ディフェンスは踏ん張っていたのにオフェンスが足を引っ張ってしまって悔しい。ライスボウルの時より自分のレベルは落ちている。秋はこんなことがないように自分が中心になってやっていきたい」(以上、関学スポーツより)と答えている。この思いを胸に刻んで取り組んでもらいたい。
しかし、悪い話ばかりではない。特筆すべきは、今春、大活躍の2年生や1年生がこの日も怖めず臆せず、存分に奮闘したことである。相手ラインの壁に果敢に突進し、確実にヤードを稼いだRBの橋本、後半、思い切り腕を振ってパスを連投し、最後にWR木戸にTDパスを成功させたQB伊豆、そしてこの日も1年生とは思えないパスラッシュを見せたDL藤木。それぞれが社会人の強豪を相手に、堂々と戦った。これこそが掲示板にある「挑戦」だと、見ていて胸が熱くなった。マンツーマンで見事なカバーをしながら、パスが飛んできた瞬間に相手レシーバーにするっと交わされ、悔しい思いをしたこの日が初登場のDB小椋を含め、1、2年生がこの試合を糧に、どんどん成長してくれるのは間違いない。そんな妙な確信さえ抱いた。
得点は31-7。完敗だったが、今後の取り組みに大きなヒントがもらえたと思えば、腹も立つまい。振り返れば、あの試合が転機になったというような取り組みを今後続けて欲しい。答えは試合後、鷺野主将が飛ばした檄にある。ファイターズの全員が主将の鬼気迫る言葉を正面から受け止め、本気で挑戦してくれることを願っている。
◇ ◇
お知らせが二つあります。
ひとつは今週木曜日(12日)の午後3時10分から、関学会館2階で開かれる武田建先生の講演会の告知です。タイトルは「関学アメリカンフットボールと私」。第40回関西学院史研究会の催しで、会費は無料、一般参加歓迎、申し込み不要ということです。
もうひとつは、小野宏ディレクターが大阪市北区中之島2丁目の朝日カルチャーセンター中之島教室で講演される「アメリカンフットボールの本当の魅力」です。これは昨年、1昨年に続く催しで、いまやすっかり人気講座になっています。申し込みの出足は好調ということですので、早めにお申し込み下さい。会費など詳細は朝日カルチャーセンター(06-6222-5222)へ。
ともにふるってご参加下さい。
(10)人を育てる土壌
投稿日時:2014/06/04(水) 16:25
三浦甲太(WR)、吉岡泰造(DB)、秋山武史(WR)、川島康史(DL)、頼本健太(DB)、三木慎也(DB)、稲村勇磨(RB)、小林諒平(OL)、保宗大介(DB)、梅本裕之(WR)、鳥内将希(DB)、吉原直人(LB)。以上、敬称を省略して紹介した各氏に共通するものは何か。
「みんな男前」と答えた人は正解。と僕は思っているが、人によって男前の基準は異なる。「蓼食う虫も好き好き」という言葉もある。中には「みんながみんな男前と言うのは言い過ぎだろう」と突っ込んでくる人もいるに違いない。
では「みんな勉強がよくできた」というのはどうか。たしかに上記の中には、卒業時の壮行会で「文武両道に優れていた」として表彰されたメンバーが何人もいる。成績に対する要求が厳しい総合政策学部や理工学部で立派な成績を収めた部員もいる。わが母校、三田学園の後輩もいる。「勉強がよくできた」といいたいところだが、全員の成績を知っているわけではないから、これを正解にする自信はない。
正解は、上記の全員がフットボールの未経験者で、大学に入ってからフットボールを始めたこと。努力して自らを向上させ、幾多の試合で活躍して多くの人に名前を知られる存在になったこと。それを証明するように、全員が2004年から2013年までのイヤーブックに「未経験者の言葉」とか「未経験者インタビュー」とかのテーマで紹介されていることである。
もちろん、上記の12人はフットボールは未経験だが、高校時代は野球やサッカーなどをやっており、運動能力は入部当初から目立っていた。けれども、フットボールは経験のスポーツ。ルールを覚えるだけでも大変だし、プレーの理解力も必要だ。なにより常時、日本1を競ってい争っているチームである。求められる水準は高い。高校時代から、あるいは中学校、小学校から経験しているメンバーに、スタート時点では大きな差をつけられているのが普通である。
そういう状態からスタートし、自らを鍛えてチームの主力となり、数々のビッグゲームで活躍する。全日本級のトップアスリートと対決して、一歩も引けを取らない。そんな部員が毎年のように現れ、ファイターズ史に名前を刻んで卒業していく。
昨年の甲子園ボウル3連覇は、梅本君と鳥内君の貢献なしには考えられなかった。2007年、QB三原君が率いるチームが「史上最高のパスゲーム」(小野ディレクター)を展開したのも、俊足、大型のWR秋山君の活躍なしには成り立たなかった。華やかな活躍をした選手だけではない。「最強のスーパーサブ」(鳥内監督)として、OLを支えた小林君のような存在もいる。
こういう部員を育て、一人前の人間にしていくところにこそ、ファイターズの底力があり、魅力がある。僕はそう思っている。
今更のように、こういうことを言うのには、理由がある。最近、ほかの体育会活動に参加している学生から、何度か「ファイターズは雰囲気がいいなあ」とか、「練習を見ていても、全員が即座に集まり、全員が声を出している。うらやましい」とかの声を聴いたからである。
入部した時は、経験者も未経験者も平等。スポーツ推薦で入学した部員だからといって特段の優遇はしない。人数が多いときは適宜班に分けるが、基本的には同じメニューで走りものや体幹トレーニング、パスキャッチなどの練習をさせる。上級生の練習についていくための体力的な基準をクリアした1年生から順に上級生の練習に加えていく。そういうことが「当たり前」になっているファイターズの運営が、ほかのクラブの部員たちからみると「羨望の的」になっているのだ。
フットボールは競技者の人口が少ない。高校のチーム数は少ないし、年間の試合数も限定されている。だから日本で古くから普及している競技とは底辺の広さが違う。当然、未経験者と経験者の力の差も少ない。だから、大学に入ってからフットボールを始めた人もスムーズにチームに溶け込める。実際、関西リーグでは、未経験者の割合が多い国公立のチームがスポーツ推薦で入学した部員を数多く抱える私学チームと対等に戦っている。
そういう事情を割り引いても、ファイターズが毎年、未経験者をチームの柱に育てていることの素晴らしさは減点されることではない。鳥内監督の言葉を借りれば「未経験者の力を借りないと、勝てませんよ」ということだが、チームに推薦組を特別に優遇したり、未経験者を差別したりすることはない土壌があるからこそ、人が育つのだろう。
今年のチームにも、いまは堂々のリーダーになったLBの吉原君をはじめ、3年生や2年生には、一日も早く経験者に追いつき追い越せと頑張っている部員が何人もいる。ストイックに自分を追い込み、1年前とは体つきも行動も見違えるようになった未経験者もいる。1年生は顔と名前がまだ一致しないが、ここにも将来が期待される未経験者が何人もいるそうだ。
そういう選手の成長に注目して試合を見ると、フットボール観戦はまた一段と楽しくなる。こういうチームにこそ寄付をして応援したい、という気持ちになる。
「みんな男前」と答えた人は正解。と僕は思っているが、人によって男前の基準は異なる。「蓼食う虫も好き好き」という言葉もある。中には「みんながみんな男前と言うのは言い過ぎだろう」と突っ込んでくる人もいるに違いない。
では「みんな勉強がよくできた」というのはどうか。たしかに上記の中には、卒業時の壮行会で「文武両道に優れていた」として表彰されたメンバーが何人もいる。成績に対する要求が厳しい総合政策学部や理工学部で立派な成績を収めた部員もいる。わが母校、三田学園の後輩もいる。「勉強がよくできた」といいたいところだが、全員の成績を知っているわけではないから、これを正解にする自信はない。
正解は、上記の全員がフットボールの未経験者で、大学に入ってからフットボールを始めたこと。努力して自らを向上させ、幾多の試合で活躍して多くの人に名前を知られる存在になったこと。それを証明するように、全員が2004年から2013年までのイヤーブックに「未経験者の言葉」とか「未経験者インタビュー」とかのテーマで紹介されていることである。
もちろん、上記の12人はフットボールは未経験だが、高校時代は野球やサッカーなどをやっており、運動能力は入部当初から目立っていた。けれども、フットボールは経験のスポーツ。ルールを覚えるだけでも大変だし、プレーの理解力も必要だ。なにより常時、日本1を競ってい争っているチームである。求められる水準は高い。高校時代から、あるいは中学校、小学校から経験しているメンバーに、スタート時点では大きな差をつけられているのが普通である。
そういう状態からスタートし、自らを鍛えてチームの主力となり、数々のビッグゲームで活躍する。全日本級のトップアスリートと対決して、一歩も引けを取らない。そんな部員が毎年のように現れ、ファイターズ史に名前を刻んで卒業していく。
昨年の甲子園ボウル3連覇は、梅本君と鳥内君の貢献なしには考えられなかった。2007年、QB三原君が率いるチームが「史上最高のパスゲーム」(小野ディレクター)を展開したのも、俊足、大型のWR秋山君の活躍なしには成り立たなかった。華やかな活躍をした選手だけではない。「最強のスーパーサブ」(鳥内監督)として、OLを支えた小林君のような存在もいる。
こういう部員を育て、一人前の人間にしていくところにこそ、ファイターズの底力があり、魅力がある。僕はそう思っている。
今更のように、こういうことを言うのには、理由がある。最近、ほかの体育会活動に参加している学生から、何度か「ファイターズは雰囲気がいいなあ」とか、「練習を見ていても、全員が即座に集まり、全員が声を出している。うらやましい」とかの声を聴いたからである。
入部した時は、経験者も未経験者も平等。スポーツ推薦で入学した部員だからといって特段の優遇はしない。人数が多いときは適宜班に分けるが、基本的には同じメニューで走りものや体幹トレーニング、パスキャッチなどの練習をさせる。上級生の練習についていくための体力的な基準をクリアした1年生から順に上級生の練習に加えていく。そういうことが「当たり前」になっているファイターズの運営が、ほかのクラブの部員たちからみると「羨望の的」になっているのだ。
フットボールは競技者の人口が少ない。高校のチーム数は少ないし、年間の試合数も限定されている。だから日本で古くから普及している競技とは底辺の広さが違う。当然、未経験者と経験者の力の差も少ない。だから、大学に入ってからフットボールを始めた人もスムーズにチームに溶け込める。実際、関西リーグでは、未経験者の割合が多い国公立のチームがスポーツ推薦で入学した部員を数多く抱える私学チームと対等に戦っている。
そういう事情を割り引いても、ファイターズが毎年、未経験者をチームの柱に育てていることの素晴らしさは減点されることではない。鳥内監督の言葉を借りれば「未経験者の力を借りないと、勝てませんよ」ということだが、チームに推薦組を特別に優遇したり、未経験者を差別したりすることはない土壌があるからこそ、人が育つのだろう。
今年のチームにも、いまは堂々のリーダーになったLBの吉原君をはじめ、3年生や2年生には、一日も早く経験者に追いつき追い越せと頑張っている部員が何人もいる。ストイックに自分を追い込み、1年前とは体つきも行動も見違えるようになった未経験者もいる。1年生は顔と名前がまだ一致しないが、ここにも将来が期待される未経験者が何人もいるそうだ。
そういう選手の成長に注目して試合を見ると、フットボール観戦はまた一段と楽しくなる。こういうチームにこそ寄付をして応援したい、という気持ちになる。
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