石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2014/5
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(7)括目して見よ
投稿日時:2014/05/16(金) 08:15
友人の木工作家にお願いしていた仕事用の机と椅子のセットが届いた。これまでの机は高さが調節できず、根を詰めて原稿を書いていると、どうしても姿勢が悪くなり、肩が凝って仕方なかったので、僕の体型に合わせて特別に作ってもらっていたのだ。
さすがは熟練の仕事である。椅子の座り心地はいいし、机の高さもぴったりだ。仕事もはかどる。原稿を書いたり本を読んだりする以外の時間にも、ずっと座っていたい気分になる。
この作家からは、数年前にも別の種類の椅子を購入して使っているが、当時の椅子より今回の椅子の方がはるかに座り心地がいい。職人としての技術が何段階か向上しているのだろう。
「相当、腕が上がったんと違いますか」。ぶしつけとは思いながら、そこは友人の気安さ。遠慮のない問い掛けをすると「そう言っていただくとうれしい。いつも昨日より今日、今日より明日、という気持ちで取り組んでいますから。ちょっとでも評価されると励みになります」。謙遜の中にも多少の自負を交えた答えが返ってきた。
その通りである。人間、何歳になっても、何かを手にしたと思っても、それでも「昨日より今日、今日より明日」という向上心を持って取り組むことが肝要である。その向上心と努力が、気がつけば3年前、5年前とは全く違った高みに自分を引き上げている。それは70歳を目前にした新聞記者でも、机や椅子を製作する熟練の職人でも変わることではない。
もちろん、20歳前後の大学生においては、成長の実感はもっともっと具体的である。3日前に捕れなかったパスが今日は捕れた、3週間前には追いつけなかった相手に今日はタックル出来た、3カ月前には全くかなわなかった相手と今日は対等にぶつかり合えた、そんなことは、まじめに練習に取り組み、試合に集中している人間なら、必ずどこかで実感することである。
今春のファイターズの2年生たちを見ていると、そのことがよく分かる。QB伊豆(箕面)は試合のたびに成長しているし、4月中旬の紅白戦で、全くといっていいほど活躍できなかったWR陣も先日の明治大学との試合では立て続けにTDを連発した。
今春、彗星のように登場したRB橋本(清教学園)は、第1Q半ば、グラウンドの中央付近からドロープレーで抜け出したと思ったら、そのまま51ヤードを走り切ってTD。次は相手陣29ヤードでQB伊豆からショベルパスを受けると、そのまま中央を走り切って2本目のTD。
2年生レシーバーたちも負けてはいない。まずはWR芝山が伊豆からの長いパスをキャッチすると、一気にサイドライン際を駆け上がって80ヤードのTD。続いて水野(池田)が6ヤードのTDパスキャッチ。TDにはならなかったが、WR荻原や藤原、TE杉山らがそれぞれ非凡なところを見せつけ、2年生同士の激しい競争の一端を見せつけた。
同じことは守備陣にもいえる。とりわけ小野、作道、山岸といったレギュラー陣を温存し、2年生を中心にしたフレッシュなメンバーを次々に起用したLB陣の競争が激しい。松尾(高等部)を中心に幸田(箕面)、元原(関西大倉)の2年生がはつらつとしたプレーを見せれば、3年生の山野や高も負けてはいない。誰もがチーム内競争に勝ち抜こうと懸命にプレーする姿は、感動的でさえあった。
DB陣の競争も激化している。昨年の先発メンバーとして唯一残った田中は試合には出ないで控え選手のアドバイスに徹しているが、残る面々が上級生、下級生の別なく、入れ替わり立ち変わり登場して、激しいポジション争いを展開している。
DL陣も同様だ。先発こそ4年生の岡部や国安、3年生の浜が並んだが、ここでも2年生同士の競争が激しい。昨年の試合にも登場した怪力の松本(高等部)は休んでいるが、この日先発した安田(啓明)のほかに、油野(啓明)、パング(横浜栄)、大野(関西大倉)、福田(追手門学院)らが次々と登場、それぞれに目につくプレーを見せてくれた。
このように、5月に入ってからの龍谷大学や明治大学との試合に登場した2年生の名前を挙げていくと、今年は彼らがチーム浮沈のカギを握っているように思えてならない。それは監督やコーチも同様だろう。だからこそ、昨年まで先発メンバーに名前を連ねていた主力選手をあえてベンチに置き、新しいメンバーにチャンスを与えているのだ。試合で経験を積ませることが、何よりも成長のステップになると信じて、少々の失敗には目をつぶって使い続けているのである。
ここ数年、ファイターズは「勝負は秋。春はチーム力の底上げ」と思い定めたような取り組みを続けてきた。今年はその傾向が例年以上に顕著である。あえて2年生を中心にメンバーを組み、その能力を引き出そうと工夫しているのがスタンドからでもありありとうかがえる。
「社会人に勝つというなら、勝てる選手になれ」という鳥内監督の方針が貫徹されているのである。
選手がそれに応えられるかどうか。
男子は3日会わなかったら括目(かつもく=目をこすって見ること)して見よ、という言葉がある。真の男は、たった3日会わないうちに目を見張るほど成長しているという意味である。
関西大学、パナソニック。まだまだ試金石となる試合が続く。そこで「括目して見る」活躍ができるように「昨日より今日、今日より明日」という強い決意で練習に励んでもらいたい。道は開ける。
さすがは熟練の仕事である。椅子の座り心地はいいし、机の高さもぴったりだ。仕事もはかどる。原稿を書いたり本を読んだりする以外の時間にも、ずっと座っていたい気分になる。
この作家からは、数年前にも別の種類の椅子を購入して使っているが、当時の椅子より今回の椅子の方がはるかに座り心地がいい。職人としての技術が何段階か向上しているのだろう。
「相当、腕が上がったんと違いますか」。ぶしつけとは思いながら、そこは友人の気安さ。遠慮のない問い掛けをすると「そう言っていただくとうれしい。いつも昨日より今日、今日より明日、という気持ちで取り組んでいますから。ちょっとでも評価されると励みになります」。謙遜の中にも多少の自負を交えた答えが返ってきた。
その通りである。人間、何歳になっても、何かを手にしたと思っても、それでも「昨日より今日、今日より明日」という向上心を持って取り組むことが肝要である。その向上心と努力が、気がつけば3年前、5年前とは全く違った高みに自分を引き上げている。それは70歳を目前にした新聞記者でも、机や椅子を製作する熟練の職人でも変わることではない。
もちろん、20歳前後の大学生においては、成長の実感はもっともっと具体的である。3日前に捕れなかったパスが今日は捕れた、3週間前には追いつけなかった相手に今日はタックル出来た、3カ月前には全くかなわなかった相手と今日は対等にぶつかり合えた、そんなことは、まじめに練習に取り組み、試合に集中している人間なら、必ずどこかで実感することである。
今春のファイターズの2年生たちを見ていると、そのことがよく分かる。QB伊豆(箕面)は試合のたびに成長しているし、4月中旬の紅白戦で、全くといっていいほど活躍できなかったWR陣も先日の明治大学との試合では立て続けにTDを連発した。
今春、彗星のように登場したRB橋本(清教学園)は、第1Q半ば、グラウンドの中央付近からドロープレーで抜け出したと思ったら、そのまま51ヤードを走り切ってTD。次は相手陣29ヤードでQB伊豆からショベルパスを受けると、そのまま中央を走り切って2本目のTD。
2年生レシーバーたちも負けてはいない。まずはWR芝山が伊豆からの長いパスをキャッチすると、一気にサイドライン際を駆け上がって80ヤードのTD。続いて水野(池田)が6ヤードのTDパスキャッチ。TDにはならなかったが、WR荻原や藤原、TE杉山らがそれぞれ非凡なところを見せつけ、2年生同士の激しい競争の一端を見せつけた。
同じことは守備陣にもいえる。とりわけ小野、作道、山岸といったレギュラー陣を温存し、2年生を中心にしたフレッシュなメンバーを次々に起用したLB陣の競争が激しい。松尾(高等部)を中心に幸田(箕面)、元原(関西大倉)の2年生がはつらつとしたプレーを見せれば、3年生の山野や高も負けてはいない。誰もがチーム内競争に勝ち抜こうと懸命にプレーする姿は、感動的でさえあった。
DB陣の競争も激化している。昨年の先発メンバーとして唯一残った田中は試合には出ないで控え選手のアドバイスに徹しているが、残る面々が上級生、下級生の別なく、入れ替わり立ち変わり登場して、激しいポジション争いを展開している。
DL陣も同様だ。先発こそ4年生の岡部や国安、3年生の浜が並んだが、ここでも2年生同士の競争が激しい。昨年の試合にも登場した怪力の松本(高等部)は休んでいるが、この日先発した安田(啓明)のほかに、油野(啓明)、パング(横浜栄)、大野(関西大倉)、福田(追手門学院)らが次々と登場、それぞれに目につくプレーを見せてくれた。
このように、5月に入ってからの龍谷大学や明治大学との試合に登場した2年生の名前を挙げていくと、今年は彼らがチーム浮沈のカギを握っているように思えてならない。それは監督やコーチも同様だろう。だからこそ、昨年まで先発メンバーに名前を連ねていた主力選手をあえてベンチに置き、新しいメンバーにチャンスを与えているのだ。試合で経験を積ませることが、何よりも成長のステップになると信じて、少々の失敗には目をつぶって使い続けているのである。
ここ数年、ファイターズは「勝負は秋。春はチーム力の底上げ」と思い定めたような取り組みを続けてきた。今年はその傾向が例年以上に顕著である。あえて2年生を中心にメンバーを組み、その能力を引き出そうと工夫しているのがスタンドからでもありありとうかがえる。
「社会人に勝つというなら、勝てる選手になれ」という鳥内監督の方針が貫徹されているのである。
選手がそれに応えられるかどうか。
男子は3日会わなかったら括目(かつもく=目をこすって見ること)して見よ、という言葉がある。真の男は、たった3日会わないうちに目を見張るほど成長しているという意味である。
関西大学、パナソニック。まだまだ試金石となる試合が続く。そこで「括目して見る」活躍ができるように「昨日より今日、今日より明日」という強い決意で練習に励んでもらいたい。道は開ける。
(6)萌芽
投稿日時:2014/05/10(土) 08:09
4日は上ヶ原のグラウンドで、龍谷大との一戦。穏やかな日曜日、母校での無料試合とあって、続々とファンがつめかけた。大学の試合前には、高等部の試合もあったため、会場は文字通り立錐の余地がないほど。僕が知る限りでは、2006年に第3フィールドが完成して以来、最高の人出となった。
ファイターズは、この日も主力メンバーの多くがベントスタート。先発メンバーに名を連ねた4年生は、オフェンスの月山、油谷、松島、樋之本、ディフェンスの岡部、国安、吉原、国吉のそれぞれ4人ずつだった。
逆に2年生はオフェンスに5人、ディフェンスに3人が名を連ねた。C松井、WR高田、水野、QB伊豆、RB橋本、DL安田、LB松尾、DB小池という期待のメンバーである。間をつなぐ3年生もOL鈴木、大谷、K千葉、DL濵、LB山野、DB伊藤と、昨年まではほとんど試合に出ていない選手が顔をそろえた。
こうした顔ぶれの中から、一人でも二人でもスタメンで活躍する選手が出てきてほしい。彼らの成長なしにはシーズンは戦い切れない、という監督やコーチの悲鳴と願いがこもった先発メンバーだったといってもよい。
当然、ファンの目も彼らに注がれる。今季の慶応と日大戦、その前の紅白戦からの戦いぶりを追っている中で、すでに伊豆や橋本のように脚光を浴びる選手が出てきている。その力は関西の1部リーグのチームにも通用するのか。次はだれがヒーローになるのか。この日スタンドに足を運んだ人たちの期待は、監督やコーチの胸中と同様だったに違いない。
期待は裏切られなかった。OL陣は相手守備陣をなぎ倒すような勢いで走路を開き、QBを守った。ランで226ヤード、パスで270ヤード、計496ヤードを獲得した数字がその力強い攻撃を裏付けている。得点こそ31点にとどまったが、内容的には圧倒していた。
とくに目についたのが伊豆の成長。正確なパスを樋之本、水野、荻原らのWR陣に次々にヒットさせ、要所要所では自らのラッシュで陣地を進める。「気持ちは熱く、頭は冷静に」という言葉を絵にかいたようなプレーぶりでゲームを支配した。
パスを受ける水野、荻原、高田、藤原の2年生4人組もよく奮闘した。ほんの3週間前の紅白戦では、パスを落としてばかりだったが、この日は違った。とりわけ水野と荻原は難しいTDパスを見事にキャッチし、今後の成長に期待を持たせてくれた。
RBでは橋本が紅白戦以来、試合経験を積むごとに成長しているし、LBから転向してきた4年生の西山が力強い走りを見せてくれた。同じくLBから移ってきたばかりの3年生山崎とともに、強い当たりで自ら走路を切り開くランナーとして、今後の成長が大いに期待できる。これに鷺野や飯田といったスピードとカットに非凡な才能を持つメンバーを組み合わせたらと考えると、期待に胸がわくわくする。
守備陣もよく踏ん張った。弱いと言い続けられたDL陣は相手ラインに圧力をかけ続け、2列目、3列目の選手も決定的なチャンスを作らせなかった。まだ、春の試合とあって、監督やコーチも次々にメンバーを入れ替えてその可能性を試している段階だと思うが、それでもこれまでほとんど目につかなかった山野や松尾、安田といったメンバーが元気なプレーを見せている。DB陣は、この日は出場しなかった3年生の田中以外は全員、顔ぶれが変わったが、小池や山本などフレッシュなメンバーがはつらつとした動きを見せている。
要するに、秋のシーズンに向けて、攻守とも新戦力の萌芽が見えてきたというのが、この日の試合から得られた収穫である。
ただし、それはまだ萌芽であって、チームを支える木に成長するまでには、時間がかかる。いまはまだ、仲間の足を引っ張らないようにするのが精一杯というところで、いざというときに「俺に任せろ」といえるプレーヤーになるまでには、まだまだ長い時間が必要だろう。それはこのゲームでも相次いだつまらない反則が象徴している。相手もだチーム作りの途上で、込み入ったプレーを見せなかった試合だったということも考慮に入れる必要がある。
成長の兆しは見えてきた。けれどもまだまだ試合のなかで学ぶべきことはたくさんあるのだ。その意味で、今週末の明治大学、それに続く関西大学との試合で、今回名前を挙げた選手らがどんな活躍をするか、括目して待ちたい。
ファイターズは、この日も主力メンバーの多くがベントスタート。先発メンバーに名を連ねた4年生は、オフェンスの月山、油谷、松島、樋之本、ディフェンスの岡部、国安、吉原、国吉のそれぞれ4人ずつだった。
逆に2年生はオフェンスに5人、ディフェンスに3人が名を連ねた。C松井、WR高田、水野、QB伊豆、RB橋本、DL安田、LB松尾、DB小池という期待のメンバーである。間をつなぐ3年生もOL鈴木、大谷、K千葉、DL濵、LB山野、DB伊藤と、昨年まではほとんど試合に出ていない選手が顔をそろえた。
こうした顔ぶれの中から、一人でも二人でもスタメンで活躍する選手が出てきてほしい。彼らの成長なしにはシーズンは戦い切れない、という監督やコーチの悲鳴と願いがこもった先発メンバーだったといってもよい。
当然、ファンの目も彼らに注がれる。今季の慶応と日大戦、その前の紅白戦からの戦いぶりを追っている中で、すでに伊豆や橋本のように脚光を浴びる選手が出てきている。その力は関西の1部リーグのチームにも通用するのか。次はだれがヒーローになるのか。この日スタンドに足を運んだ人たちの期待は、監督やコーチの胸中と同様だったに違いない。
期待は裏切られなかった。OL陣は相手守備陣をなぎ倒すような勢いで走路を開き、QBを守った。ランで226ヤード、パスで270ヤード、計496ヤードを獲得した数字がその力強い攻撃を裏付けている。得点こそ31点にとどまったが、内容的には圧倒していた。
とくに目についたのが伊豆の成長。正確なパスを樋之本、水野、荻原らのWR陣に次々にヒットさせ、要所要所では自らのラッシュで陣地を進める。「気持ちは熱く、頭は冷静に」という言葉を絵にかいたようなプレーぶりでゲームを支配した。
パスを受ける水野、荻原、高田、藤原の2年生4人組もよく奮闘した。ほんの3週間前の紅白戦では、パスを落としてばかりだったが、この日は違った。とりわけ水野と荻原は難しいTDパスを見事にキャッチし、今後の成長に期待を持たせてくれた。
RBでは橋本が紅白戦以来、試合経験を積むごとに成長しているし、LBから転向してきた4年生の西山が力強い走りを見せてくれた。同じくLBから移ってきたばかりの3年生山崎とともに、強い当たりで自ら走路を切り開くランナーとして、今後の成長が大いに期待できる。これに鷺野や飯田といったスピードとカットに非凡な才能を持つメンバーを組み合わせたらと考えると、期待に胸がわくわくする。
守備陣もよく踏ん張った。弱いと言い続けられたDL陣は相手ラインに圧力をかけ続け、2列目、3列目の選手も決定的なチャンスを作らせなかった。まだ、春の試合とあって、監督やコーチも次々にメンバーを入れ替えてその可能性を試している段階だと思うが、それでもこれまでほとんど目につかなかった山野や松尾、安田といったメンバーが元気なプレーを見せている。DB陣は、この日は出場しなかった3年生の田中以外は全員、顔ぶれが変わったが、小池や山本などフレッシュなメンバーがはつらつとした動きを見せている。
要するに、秋のシーズンに向けて、攻守とも新戦力の萌芽が見えてきたというのが、この日の試合から得られた収穫である。
ただし、それはまだ萌芽であって、チームを支える木に成長するまでには、時間がかかる。いまはまだ、仲間の足を引っ張らないようにするのが精一杯というところで、いざというときに「俺に任せろ」といえるプレーヤーになるまでには、まだまだ長い時間が必要だろう。それはこのゲームでも相次いだつまらない反則が象徴している。相手もだチーム作りの途上で、込み入ったプレーを見せなかった試合だったということも考慮に入れる必要がある。
成長の兆しは見えてきた。けれどもまだまだ試合のなかで学ぶべきことはたくさんあるのだ。その意味で、今週末の明治大学、それに続く関西大学との試合で、今回名前を挙げた選手らがどんな活躍をするか、括目して待ちたい。
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