石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2013/6
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(11)試金石となる試合
投稿日時:2013/06/12(水) 14:58
「試金石」という言葉がある。本来は貴金属をすりつけてその金属の品位を判断するための黒くて硬い石のことだが、転じて「ある物事の価値、人物の力量を見極める試験になるような物事」と辞書にある。
この前の日曜日、春のシーズンの総決算として行われたパナソニック・インパルスとの決戦がまさにそんな試合だった。攻守とも社会人トップクラスのチームを相手に、昨年とはメンバーを一新したファイターズがどのように戦うか。春の試合で経験を積み、力を付けてきたはずの新戦力が、どこまで通用するか。春先からずっと不安定だったキッキングチームの完成度は上がっているか。そういうことを試合を通じてテストする格好の相手である。僕は勝敗以上に、ひたすらそういった点に注目して観戦した。
結果は24-8。各クオーターに万遍なく得点された結果が示しているように、試合は終始先手をとられたままで終わった。実際、オフェンス陣が反撃に転じたのは、後半に入ってから。得点を挙げたのも第4Qに入って24-0とリードされた局面からで、勝敗だけに注目していたら、全く面白くない試合だったろう。
でも、この試合をチームの力量、現状をテストする「試金石」としてみれば、見所が一杯。極めて有意義な内容だった。思いついたことを順不同で箇条書きにしてみよう。
?昨年、1昨年の甲子園ボウル、ライスボウルの経験者と、それ以外の選手との試合に臨む姿勢にまだまだ大きな差があった。大舞台を経験した選手たちは社会人のトップチームが相手でも物怖じせず、真っ向から渡り合っていたが、経験の浅い選手は、相手の強さ、速さを意識するあまり、動きが相対的にぎこちなかった。この落差を埋めるのは、シーズン当初からの課題だったが、いまだに解消されていない。秋のシーズンを戦い、立ちはだかるライバルたちとの試合を勝ち抜くためには、なんとしても選手層の底上げを図らなければならないことが判明した。
?逆に、1年生でこの試合に登場したメンバー(LBの西田、山岸、松尾、DBの小池、DLの松本ら)は「怖い者知らず」というか、まったくひるむことなく相手に向かっていた。期待通りの働きで、秋の活躍を予感させてくれたが、それでもタックルやブリッツのコース取りなどには、まだまだ改善の余地がある。これから夏合宿をはさんで、どれだけ基礎体力を上げるか、一つ一つのプレーに力強さを加えるか、課題が明確になった。
?QBの斎藤が「チームを引っ張るのはオレだ」という意識をむき出しにして、果敢にパスを投げ、思い切りのいいスクランブルで陣地を回復していった。今回ほど無防備な状態に置かれ、QBサックを浴びせられた経験はなかったはずだが、少しもひるまず、終始チームを奮い立たせた。パスを投じるタイミングに課題はあったが、それでも成功率は約6割。とりわけ、第4Q自陣19ヤードから始まった攻撃シリーズでは、短いパスとランを使い分けて5回連続でダウンを更新。仕上げはTE樋之本へのTDパスを通し、一矢を報いた。このTDは、苦しい試合を最後まで崩れずに戦い抜いたことに対するアメフットの神様からのご褒美だろう。今回の経験を生かして精進すれば、まだまだ成長できる可能性が見えてきた。
?春先からずっと不安定だったパントチームの連携がこの日も効果的に作動せず、立ち上がりにいきなりパントブロックをくらい、相手に主導権を渡してしまった。その後も、パントは不安定なまま。昨年まではキッキングチームで相手に差を付けてきたチームの思わぬ弱点が明らかになり、秋のシーズンに向けて大きな課題を残した。
?学生チーム相手には、十分に機能していたオフェンスラインが相手守備陣に何度も破られ、QBを孤立させる場面が再三あった。社会人の代表に勝つ、というのなら、ラインの5人がもう1段階上の力量を身に付けないと、戦いきれないのでは、という課題を残した。同様に、学生相手なら格の違いを見せつけていた鷺野を中心としたRB陣も、この日は自由に走らせてもらえず、ラン攻撃が手詰まりになったときの打開策に課題が残された。
?前列に3人を配した守備は健闘したが、それでも再三、ランプレーを通された。DB陣もピンポイントでパスを投げ込んでくる相手に対処しきれなかった。11人の守備陣が連携し、それぞれの役割を完遂して守るという意識を徹底しないと、強力なライバルには対処できない、という課題が判明した。
春とはいえ、社会人のトップチームと本気で戦ったことで、こうした課題が次々と明らかになった。課題が分かれば、これまでの練習で欠けていたことも明らかになる。対処の仕方も工夫出来る。そういうたくさんの宿題をもらえた試合である。得点経過だけを見れば一方的な敗戦だったが、有意義な試合だったと、僕は喜んでいる。
この前の日曜日、春のシーズンの総決算として行われたパナソニック・インパルスとの決戦がまさにそんな試合だった。攻守とも社会人トップクラスのチームを相手に、昨年とはメンバーを一新したファイターズがどのように戦うか。春の試合で経験を積み、力を付けてきたはずの新戦力が、どこまで通用するか。春先からずっと不安定だったキッキングチームの完成度は上がっているか。そういうことを試合を通じてテストする格好の相手である。僕は勝敗以上に、ひたすらそういった点に注目して観戦した。
結果は24-8。各クオーターに万遍なく得点された結果が示しているように、試合は終始先手をとられたままで終わった。実際、オフェンス陣が反撃に転じたのは、後半に入ってから。得点を挙げたのも第4Qに入って24-0とリードされた局面からで、勝敗だけに注目していたら、全く面白くない試合だったろう。
でも、この試合をチームの力量、現状をテストする「試金石」としてみれば、見所が一杯。極めて有意義な内容だった。思いついたことを順不同で箇条書きにしてみよう。
?昨年、1昨年の甲子園ボウル、ライスボウルの経験者と、それ以外の選手との試合に臨む姿勢にまだまだ大きな差があった。大舞台を経験した選手たちは社会人のトップチームが相手でも物怖じせず、真っ向から渡り合っていたが、経験の浅い選手は、相手の強さ、速さを意識するあまり、動きが相対的にぎこちなかった。この落差を埋めるのは、シーズン当初からの課題だったが、いまだに解消されていない。秋のシーズンを戦い、立ちはだかるライバルたちとの試合を勝ち抜くためには、なんとしても選手層の底上げを図らなければならないことが判明した。
?逆に、1年生でこの試合に登場したメンバー(LBの西田、山岸、松尾、DBの小池、DLの松本ら)は「怖い者知らず」というか、まったくひるむことなく相手に向かっていた。期待通りの働きで、秋の活躍を予感させてくれたが、それでもタックルやブリッツのコース取りなどには、まだまだ改善の余地がある。これから夏合宿をはさんで、どれだけ基礎体力を上げるか、一つ一つのプレーに力強さを加えるか、課題が明確になった。
?QBの斎藤が「チームを引っ張るのはオレだ」という意識をむき出しにして、果敢にパスを投げ、思い切りのいいスクランブルで陣地を回復していった。今回ほど無防備な状態に置かれ、QBサックを浴びせられた経験はなかったはずだが、少しもひるまず、終始チームを奮い立たせた。パスを投じるタイミングに課題はあったが、それでも成功率は約6割。とりわけ、第4Q自陣19ヤードから始まった攻撃シリーズでは、短いパスとランを使い分けて5回連続でダウンを更新。仕上げはTE樋之本へのTDパスを通し、一矢を報いた。このTDは、苦しい試合を最後まで崩れずに戦い抜いたことに対するアメフットの神様からのご褒美だろう。今回の経験を生かして精進すれば、まだまだ成長できる可能性が見えてきた。
?春先からずっと不安定だったパントチームの連携がこの日も効果的に作動せず、立ち上がりにいきなりパントブロックをくらい、相手に主導権を渡してしまった。その後も、パントは不安定なまま。昨年まではキッキングチームで相手に差を付けてきたチームの思わぬ弱点が明らかになり、秋のシーズンに向けて大きな課題を残した。
?学生チーム相手には、十分に機能していたオフェンスラインが相手守備陣に何度も破られ、QBを孤立させる場面が再三あった。社会人の代表に勝つ、というのなら、ラインの5人がもう1段階上の力量を身に付けないと、戦いきれないのでは、という課題を残した。同様に、学生相手なら格の違いを見せつけていた鷺野を中心としたRB陣も、この日は自由に走らせてもらえず、ラン攻撃が手詰まりになったときの打開策に課題が残された。
?前列に3人を配した守備は健闘したが、それでも再三、ランプレーを通された。DB陣もピンポイントでパスを投げ込んでくる相手に対処しきれなかった。11人の守備陣が連携し、それぞれの役割を完遂して守るという意識を徹底しないと、強力なライバルには対処できない、という課題が判明した。
春とはいえ、社会人のトップチームと本気で戦ったことで、こうした課題が次々と明らかになった。課題が分かれば、これまでの練習で欠けていたことも明らかになる。対処の仕方も工夫出来る。そういうたくさんの宿題をもらえた試合である。得点経過だけを見れば一方的な敗戦だったが、有意義な試合だったと、僕は喜んでいる。
(10)時には講座の案内を
投稿日時:2013/06/05(水) 08:48
先週末は、明治大学との定期戦。チームは東上したが、僕は西宮に居残り、授業とカルガモの観察に専念していた。だから、ゲームに関係したレポートは出来ない。
代わりに大学構内にある新月池、つまり大学の学長室や企画部、広報室などのある本部棟の裏手にある農業用ため池に住み着き、そこで可愛い赤ん坊を産んだカルガモの話をしてみたい(フットボール以外のことには関心がない、という方はここからの数十行は飛ばして下さい。母校の消息なら何でもオーケーという方は、しばらくおつきあい下さい)。
毎年、この時期になると、カルガモの2世誕生を心待ちにしている広報室員の話では、今年、最初に子どもが産まれたのは5月27日。4羽のベビーが誕生したが、そのうち3羽は翌日、水路伝いに流されてしまい、残ったのは1羽だけ。でも、30日には、別の親から6羽の子が生まれたそうで、先週末には、この2組7羽のカルガモが泳いでいた。
この池の近くにある教室で毎週金曜日に授業を持ち、学生諸君に文章表現の講義をしている僕は、さっそく「今日の講義はなし。代わりにカルガモの親子を見に行こう。その感想を小論文にまとめてくれ」と提案。全員を池の畔に連れ出した。
ほかの教室では、みんなが授業を受けている時間に、何を好きこのんで、といわれるかも知れない。でも、学生たちにとっては、教室から外に出て、見たこと、感じたことを書く方が、僕の支離滅裂な講義より、はるかに楽しいだろう。外の空気を吸えるだけでも、気分が爽快になる。
たかがカルガモの親子である。天下国家の話ではない。でも、彼らが子どもを産み、育てる様子を観察することで、センスのある学生は景観保全から、親子の関係、教育の在り方まで、いくつもの切り口を見つける。切り口が見つかれば、まとめる作業は簡単。あれよあれよという間に800字の小論文が書き上がる。
これは、昨年のいまごろ、同じ新月池でカルガモが産まれたのを機会に取り入れた手法だが、今年も大成功。みんな普段以上に、精彩のある文章を綴ってくれた。
こんな授業をしていると、カルガモには特段の愛着が生まれてくる。新たに産まれた子どもは流されていないか、カラスにつつかれていないか、などと考え始めると、居ても立ってもいられない。土曜日もわざわざ登校して、カルガモの保護活動にいそしんだ。
なんせ、その可愛い姿を撮影しようと、大きなカメラを持った人が次々と来るし、子どもは遠慮なしに騒ぐ。目に余る時は「子育て中のカルガモは神経が過敏になっています。驚かせないようにお願いします」などと、丁寧に声を掛けるしかない。時には、注意した人からふくれっ面をされることもある。そんなときには、思わず「世話焼き親父」になっている自分を反省し、一体僕は何をやっているのだろう、と考え込んでしまう。
ファイターズの練習を見ているときの方が気楽だし、はるかに楽しい。
以上、主力選手が東京に出掛けて留守だった週末の報告である。
本題に入る。大阪・中之島の中之島フェスティバルタワー18階の朝日カルチャーセンターで開かれる二つの講座のお知らせである。
一つは元監督にして「アメフットの伝道師」武田建先生による『「怒鳴る」から「ほめる」へ』。もう一つは、昨年まではコーチを務め、いまはチームのディレクターをされている小野宏氏の『アメリカンフットボールの本当の魅力』である。ともに、朝日カルチャーセンター中之島教室の開講35周年記念講座として開かれる。
武田先生の講座は7月20日(土)午後6時半から。学校やスポーツの指導現場で相次ぐ体罰問題を受け、体罰による指導とは対極にある「褒めて育てる指導」について、心理学者の立場から、あるいはフットボール指導者としての体験から、話をされる。
小野氏の講座は8月31日(土)午後6時半から。昨年度の「甲子園ボウル」や「ライスボウル」の映像を解説しながら、戦術を駆使し、知恵と知恵をぶつけ合って戦うフットボールの魅力に迫る。戦後一貫して、日本のアメリカンフットボール界のてっぺんで活動してきた関西学院大学ファイターズの成長の核心に触れる話が期待できる。
料金はともに税込み2,940円(会員は2,520円)。朝日カルチャーセンター中之島教室(06-6222-5222)で受け付けている。
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◆朝日カルチャーセンター中之島教室
・7月20日『「怒鳴る」から「ほめる」へ』講師:武田 建
詳細こちら⇒http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=206489&userflg=0
・8月31日『アメリカンフットボールの本当の魅力』講師:小野 宏
詳細こちら⇒http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=207734&userflg=0
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↑↑上ケ原キャンパス・新月池のカルガモ親子↑↑
(関西学院広報室撮影)
代わりに大学構内にある新月池、つまり大学の学長室や企画部、広報室などのある本部棟の裏手にある農業用ため池に住み着き、そこで可愛い赤ん坊を産んだカルガモの話をしてみたい(フットボール以外のことには関心がない、という方はここからの数十行は飛ばして下さい。母校の消息なら何でもオーケーという方は、しばらくおつきあい下さい)。
毎年、この時期になると、カルガモの2世誕生を心待ちにしている広報室員の話では、今年、最初に子どもが産まれたのは5月27日。4羽のベビーが誕生したが、そのうち3羽は翌日、水路伝いに流されてしまい、残ったのは1羽だけ。でも、30日には、別の親から6羽の子が生まれたそうで、先週末には、この2組7羽のカルガモが泳いでいた。
この池の近くにある教室で毎週金曜日に授業を持ち、学生諸君に文章表現の講義をしている僕は、さっそく「今日の講義はなし。代わりにカルガモの親子を見に行こう。その感想を小論文にまとめてくれ」と提案。全員を池の畔に連れ出した。
ほかの教室では、みんなが授業を受けている時間に、何を好きこのんで、といわれるかも知れない。でも、学生たちにとっては、教室から外に出て、見たこと、感じたことを書く方が、僕の支離滅裂な講義より、はるかに楽しいだろう。外の空気を吸えるだけでも、気分が爽快になる。
たかがカルガモの親子である。天下国家の話ではない。でも、彼らが子どもを産み、育てる様子を観察することで、センスのある学生は景観保全から、親子の関係、教育の在り方まで、いくつもの切り口を見つける。切り口が見つかれば、まとめる作業は簡単。あれよあれよという間に800字の小論文が書き上がる。
これは、昨年のいまごろ、同じ新月池でカルガモが産まれたのを機会に取り入れた手法だが、今年も大成功。みんな普段以上に、精彩のある文章を綴ってくれた。
こんな授業をしていると、カルガモには特段の愛着が生まれてくる。新たに産まれた子どもは流されていないか、カラスにつつかれていないか、などと考え始めると、居ても立ってもいられない。土曜日もわざわざ登校して、カルガモの保護活動にいそしんだ。
なんせ、その可愛い姿を撮影しようと、大きなカメラを持った人が次々と来るし、子どもは遠慮なしに騒ぐ。目に余る時は「子育て中のカルガモは神経が過敏になっています。驚かせないようにお願いします」などと、丁寧に声を掛けるしかない。時には、注意した人からふくれっ面をされることもある。そんなときには、思わず「世話焼き親父」になっている自分を反省し、一体僕は何をやっているのだろう、と考え込んでしまう。
ファイターズの練習を見ているときの方が気楽だし、はるかに楽しい。
以上、主力選手が東京に出掛けて留守だった週末の報告である。
本題に入る。大阪・中之島の中之島フェスティバルタワー18階の朝日カルチャーセンターで開かれる二つの講座のお知らせである。
一つは元監督にして「アメフットの伝道師」武田建先生による『「怒鳴る」から「ほめる」へ』。もう一つは、昨年まではコーチを務め、いまはチームのディレクターをされている小野宏氏の『アメリカンフットボールの本当の魅力』である。ともに、朝日カルチャーセンター中之島教室の開講35周年記念講座として開かれる。
武田先生の講座は7月20日(土)午後6時半から。学校やスポーツの指導現場で相次ぐ体罰問題を受け、体罰による指導とは対極にある「褒めて育てる指導」について、心理学者の立場から、あるいはフットボール指導者としての体験から、話をされる。
小野氏の講座は8月31日(土)午後6時半から。昨年度の「甲子園ボウル」や「ライスボウル」の映像を解説しながら、戦術を駆使し、知恵と知恵をぶつけ合って戦うフットボールの魅力に迫る。戦後一貫して、日本のアメリカンフットボール界のてっぺんで活動してきた関西学院大学ファイターズの成長の核心に触れる話が期待できる。
料金はともに税込み2,940円(会員は2,520円)。朝日カルチャーセンター中之島教室(06-6222-5222)で受け付けている。
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◆朝日カルチャーセンター中之島教室
・7月20日『「怒鳴る」から「ほめる」へ』講師:武田 建
詳細こちら⇒http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=206489&userflg=0
・8月31日『アメリカンフットボールの本当の魅力』講師:小野 宏
詳細こちら⇒http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=207734&userflg=0
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↑↑上ケ原キャンパス・新月池のカルガモ親子↑↑
(関西学院広報室撮影)
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