石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2013/5
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(7)楽しみな新戦力
投稿日時:2013/05/15(水) 20:36
11日の神戸大学戦の会場は、上ケ原の第3フィールド。普段、フットボールとは疎遠な関西学院の学生たちにも気軽に足を運んでもらい、フットボールの魅力に触れてもらおうと、いつもの王子スタジアムではなく、自分たちのホームグラウンドで行われた。
せっかくの試みだったが、当日は雨。前日からの雨が上がらず、グラウンドはびしょびしょ。選手もやりにくそうだったが、見ている方も、体は濡れるし、寒いし、というさんざんな観戦日和だった。
この日は、これまであまり試合に出ていなかったメンバーに経験を積ませる、できれば今春入部した1年生の能力も確認したい、という目的があったせいか、先発メンバーの大半がいわゆる「2枚目」「3枚目」の選手。QBなど要所要所には、試合経験のあるメンバーも出場していたが、彼らだって、昨年までは2枚目、3枚目の扱いだった。そんなメンバーが秋のリーグ戦で対戦する神戸大学を相手にどこまで戦えるか。この日オフェンスの指揮を執った野原コーチ、ディフェンスの指揮を執った佐藤コーチの試合運びとともに「新戦力」の力を計るには格好の試合だった。
ところが、試合は終始、落ち着かない。雨でゴムボールを使っていたせいか、試合開始直後から両チームともなかなかボールが手につかない。最後までファンブルとインターセプトの競演となった。記録を見ると、ファイターズの被インターセプトが3本、神戸大が1本。ファンブルで攻守が交代したのがファイターズ3回、神戸大2回。ファイターズはTD後のキック時にスナップされたボールをファンブルしたホールダ-の橘君がそれを拾って2点を獲得した場面があったが、逆に相手にパントブロックからのリターンTDを許す場面もあった。
雨の中、経験の少ないメンバーならではの戦いぶりというのか。それとも、練習不足という方が当たっているのか。そういえば、前日も雨の中で、この日の出場メンバーが中心になって練習していたが、その時もQBからのパスがほとんど通らなかった。ストライクボールをレシーバーが次々に落とし、見ていてもつらくなるような惨状。ついには練習中のハドルで、リーダー格の4年生WRが「何をやっとんねん。こんな練習で試合に出るつもりか。もっと本気でやらな、絶対に勝てんぞ」と怒気もあらわに、後輩たちを叱り飛ばしていたシーンが印象に残っている。
そんなドタバタゲームだったが、見どころはいくつもあった。一番は、今春入部したばかりの1年生諸君が素晴らしい才能を披露してくれたこと。ディフェンスではラインの松本君(高等部)がQBサックを見舞ったかと思えば堀川君(大阪学芸)が鋭い出足からロスタックルを奪った。LBとして後半から登場した山岸君(中央大付属)は180センチ、90キロの体格を生かした奔放な動きで相手キャリアに何度も襲いかかったし、西田君(啓明学院)は1年生とは思えない頭脳的な位置取りで相手の動きに対応していた。
もっとすごかったのはDBの小池君。後半開始早々、オプションピッチを受けた相手RBが独走しているのを、逆サイドから追いかけ、そのままタックルして一発TDを防いだ。その後もタックルよし、パスカバーよし、という動きで、強力にアピールしていた。身長、体重から見ても、1昨年のチームで日本1のSFとして活躍した香山君に匹敵し、今後、しっかり体を鍛え、練習を積んでいけば末恐ろしいプレーヤーになりそうな予感がした。
オフェンスにも人材がいる。ディフェンスと違って、チームのシステムを覚えなければならないので、いきなり試合に出て活躍するのは難しいが、それでもこの日、出番のあった選手はみな、物怖じせず堂々とプレーしていた。RB池永君(同志社国際)は、委細構わず相手ディフェンスに突っ込んでいたし、最後にちょこっと顔を見せたQBの伊豆君も、初めての試合とは思えないほどの落ち着きぶりだった。ラインにも何人かの選手が出たようだったが、それは遠すぎてよく見えなかった。次回からはオフェンスラインの動きにも注目したい。
試合を振り返って、鳥内監督は「全体的に課題だらけ。どのポジションもレベルが下がっていることを自覚しないといけない」と厳しい口調だったが、こと1年生に関しては別。「今日出ていた1年生は、秋には十分、バックアップとして使える」と、今後の成長に大きな期待感を表明していた。
その通りである。なんせ1年生だけで70人近くが入部してくれたのである。あえて名前は挙げないが、この日、試合に出なかったメンバーの中にも、秋には必ず活躍してくれそうな選手が何人もいる。選手層の薄いチームなら、即スタメンというメンバーもいる。
こういう面々のプレーが見られたのである。見た目はドタバタの試合だったが、それでも、収穫は多かったと僕は思っている。さらに言えば、今週18日の日体大との試合も上ケ原の第3フィールドである。天気予報はまたしても雨のようだが、是非、若い友達を連れて足を運んで欲しい。期待の新戦力の活躍ぶりが、心を豊かにしてくれることを保証する。
せっかくの試みだったが、当日は雨。前日からの雨が上がらず、グラウンドはびしょびしょ。選手もやりにくそうだったが、見ている方も、体は濡れるし、寒いし、というさんざんな観戦日和だった。
この日は、これまであまり試合に出ていなかったメンバーに経験を積ませる、できれば今春入部した1年生の能力も確認したい、という目的があったせいか、先発メンバーの大半がいわゆる「2枚目」「3枚目」の選手。QBなど要所要所には、試合経験のあるメンバーも出場していたが、彼らだって、昨年までは2枚目、3枚目の扱いだった。そんなメンバーが秋のリーグ戦で対戦する神戸大学を相手にどこまで戦えるか。この日オフェンスの指揮を執った野原コーチ、ディフェンスの指揮を執った佐藤コーチの試合運びとともに「新戦力」の力を計るには格好の試合だった。
ところが、試合は終始、落ち着かない。雨でゴムボールを使っていたせいか、試合開始直後から両チームともなかなかボールが手につかない。最後までファンブルとインターセプトの競演となった。記録を見ると、ファイターズの被インターセプトが3本、神戸大が1本。ファンブルで攻守が交代したのがファイターズ3回、神戸大2回。ファイターズはTD後のキック時にスナップされたボールをファンブルしたホールダ-の橘君がそれを拾って2点を獲得した場面があったが、逆に相手にパントブロックからのリターンTDを許す場面もあった。
雨の中、経験の少ないメンバーならではの戦いぶりというのか。それとも、練習不足という方が当たっているのか。そういえば、前日も雨の中で、この日の出場メンバーが中心になって練習していたが、その時もQBからのパスがほとんど通らなかった。ストライクボールをレシーバーが次々に落とし、見ていてもつらくなるような惨状。ついには練習中のハドルで、リーダー格の4年生WRが「何をやっとんねん。こんな練習で試合に出るつもりか。もっと本気でやらな、絶対に勝てんぞ」と怒気もあらわに、後輩たちを叱り飛ばしていたシーンが印象に残っている。
そんなドタバタゲームだったが、見どころはいくつもあった。一番は、今春入部したばかりの1年生諸君が素晴らしい才能を披露してくれたこと。ディフェンスではラインの松本君(高等部)がQBサックを見舞ったかと思えば堀川君(大阪学芸)が鋭い出足からロスタックルを奪った。LBとして後半から登場した山岸君(中央大付属)は180センチ、90キロの体格を生かした奔放な動きで相手キャリアに何度も襲いかかったし、西田君(啓明学院)は1年生とは思えない頭脳的な位置取りで相手の動きに対応していた。
もっとすごかったのはDBの小池君。後半開始早々、オプションピッチを受けた相手RBが独走しているのを、逆サイドから追いかけ、そのままタックルして一発TDを防いだ。その後もタックルよし、パスカバーよし、という動きで、強力にアピールしていた。身長、体重から見ても、1昨年のチームで日本1のSFとして活躍した香山君に匹敵し、今後、しっかり体を鍛え、練習を積んでいけば末恐ろしいプレーヤーになりそうな予感がした。
オフェンスにも人材がいる。ディフェンスと違って、チームのシステムを覚えなければならないので、いきなり試合に出て活躍するのは難しいが、それでもこの日、出番のあった選手はみな、物怖じせず堂々とプレーしていた。RB池永君(同志社国際)は、委細構わず相手ディフェンスに突っ込んでいたし、最後にちょこっと顔を見せたQBの伊豆君も、初めての試合とは思えないほどの落ち着きぶりだった。ラインにも何人かの選手が出たようだったが、それは遠すぎてよく見えなかった。次回からはオフェンスラインの動きにも注目したい。
試合を振り返って、鳥内監督は「全体的に課題だらけ。どのポジションもレベルが下がっていることを自覚しないといけない」と厳しい口調だったが、こと1年生に関しては別。「今日出ていた1年生は、秋には十分、バックアップとして使える」と、今後の成長に大きな期待感を表明していた。
その通りである。なんせ1年生だけで70人近くが入部してくれたのである。あえて名前は挙げないが、この日、試合に出なかったメンバーの中にも、秋には必ず活躍してくれそうな選手が何人もいる。選手層の薄いチームなら、即スタメンというメンバーもいる。
こういう面々のプレーが見られたのである。見た目はドタバタの試合だったが、それでも、収穫は多かったと僕は思っている。さらに言えば、今週18日の日体大との試合も上ケ原の第3フィールドである。天気予報はまたしても雨のようだが、是非、若い友達を連れて足を運んで欲しい。期待の新戦力の活躍ぶりが、心を豊かにしてくれることを保証する。
(6)フットボールの魅力
投稿日時:2013/05/09(木) 21:58
4日の日大フェニックスとの試合は、小野ディレクターに解説してもらいながら観戦した。
彼はファイターズファンなら誰もが知っている「ファイターズの頭脳」であり、対戦相手からグラウンドで戦う選手以上に警戒されてきた人である。つい5カ月前までは、ファイターズのコーチとして、試合のたびにスポッター席でゲームの展開をチェックし、作戦を立て、チームを勝利に導いてきた人でもある。
本業の大学職員としての業務が年々多忙になり、ついに今季から現場を離れ、ディレクターというチームのマネジメントなど後方支援としての役割を担われている。それで、今季からは座りなれたスポッター席ではなく、一般観客席で観戦されている。それをめざとく見つけ、隣に座ってもらって「専属の解説者」を務めてもらった次第である。
その解説がとてつもなく面白かった。現場のコーチならではの、選手の頭の中まで見透かしたようなコメントが次々と飛び出すのである。余りに生々しい内容なので、ここでその詳細を紹介すると差し障りがあるかも知れない。ほんのさわりだけを書いてみよう。
例えば、立ち上がり、ファイターズの攻撃が思うように進まず、自陣35ヤード付近からK三輪君がパントを蹴ろうとした場面。
「三輪がちゃんと蹴れるかなあ」と小野さんがつぶやいた途端に、そのパントが日大守備陣にブロックされ、自陣8ヤードで相手に攻撃権を渡してしまった。部外者にはそのつぶやきが漏れた理由は理解不能だが、さすがは昨年までのキッキングコーチである。三輪君のちょっとした仕草に、不安要素を見つけ出し、それがつぶやきとなり、不幸にも的中してしまったということだろう。
同じ三輪君について、今度はよい方に予測が外れた場面がある。第2Qが始まって間もなく、RB鷺野君の52ヤード独走を足がかりに相手ゴール前に攻め込み、RB飯田君の中央突破で2本目のTDを獲得して13-3とファイターズがリードした直後のことだった。
三輪君のキックしたボールを確保した日大のリターナーが巧みなステップでファイターズのカバーを突破、残るのは三輪君一人という状況で、見事に彼がリターナーをタックルし、相手の独走を食い止めたのである。
「三輪がタックルした!」「去年の今ごろは、あんな場面でタッチしかできなかった三輪が、今年はなんと一発のタックルで相手を仕留めた!」。喜びを爆発させ、踊り上がって喜ぶ元キッキングコーチ。同じ場面を見ている僕は、隣で「キッカーが残ってくれていたので助かった」と胸をなで下ろしていただけだった。
同じ場面を見ても、喜びの質が違う、喜びの深さが違う。ここに現場を預かるコーチと、一所懸命、試合に没入しているように思っていても、所詮はスタンドの観客に過ぎない物書きとの決定的な違いがある。両者の間に横たわる深い谷間を知って、僕はフットボールの奥の深さをあらためて思い知ったのである。
フットボールの奥深さ、といえば、もう一つの場面での小野さんの解説も紹介しておきたい。それは第2Q後半、ファイターズが自陣深くからの攻撃でRB鷺野君が左オープンに出ようとフェイクした後、反転して内側に切れ込み、ダウンを更新した場面である。
鷺野君はその前に2度、左オープンをついてライン際を切れ上がり、最初は44ヤードのTD、2度目は52ヤード独走の離れ業を演じている。それを警戒した相手守備陣が必ず外側への動きに敏感に反応するはず、と見越してフェイクを入れ(あるいは本当に外に出ようと仕掛けて)、その逆をついて内側に切れ込んだ動きに、小野さんは思わず「うまい!鷺野だけにできる動きです。すごく成長していますね」と感心しきりだった。
僕は同じそのプレーを見ながら「鷺野君は敏捷に動ける。当たりも強くなった。少しぐらいのタックルははねのけて走れるようになった。すごい」という程度。その俊敏な動作が相手の動き、警戒網を逆手にとった頭脳的な動きであることがまったく見えていなかったのだ。いつも注目している鷺野君の動きでありながら、現場のコーチとスタンドの物書きとの間にはとうてい渡れないような深い谷間が横たわっていたのである。
こういうことを教えてもらいながら、フットボールを観戦すると、文字通り「目から鱗が落ちる」。その奥の深さを感じる。
そしていま、このコラムを書きながら、これからは見たことは書いてもよい、でも中途半端に知ったかぶりは書くまい、と決心しているのである。
鍛え抜かれた体力と技、練習に裏付けられた深い知恵と洞察、そして感情の爆発。フットボールは、本当に奥が深い。ますますのめり込みそうだ。
彼はファイターズファンなら誰もが知っている「ファイターズの頭脳」であり、対戦相手からグラウンドで戦う選手以上に警戒されてきた人である。つい5カ月前までは、ファイターズのコーチとして、試合のたびにスポッター席でゲームの展開をチェックし、作戦を立て、チームを勝利に導いてきた人でもある。
本業の大学職員としての業務が年々多忙になり、ついに今季から現場を離れ、ディレクターというチームのマネジメントなど後方支援としての役割を担われている。それで、今季からは座りなれたスポッター席ではなく、一般観客席で観戦されている。それをめざとく見つけ、隣に座ってもらって「専属の解説者」を務めてもらった次第である。
その解説がとてつもなく面白かった。現場のコーチならではの、選手の頭の中まで見透かしたようなコメントが次々と飛び出すのである。余りに生々しい内容なので、ここでその詳細を紹介すると差し障りがあるかも知れない。ほんのさわりだけを書いてみよう。
例えば、立ち上がり、ファイターズの攻撃が思うように進まず、自陣35ヤード付近からK三輪君がパントを蹴ろうとした場面。
「三輪がちゃんと蹴れるかなあ」と小野さんがつぶやいた途端に、そのパントが日大守備陣にブロックされ、自陣8ヤードで相手に攻撃権を渡してしまった。部外者にはそのつぶやきが漏れた理由は理解不能だが、さすがは昨年までのキッキングコーチである。三輪君のちょっとした仕草に、不安要素を見つけ出し、それがつぶやきとなり、不幸にも的中してしまったということだろう。
同じ三輪君について、今度はよい方に予測が外れた場面がある。第2Qが始まって間もなく、RB鷺野君の52ヤード独走を足がかりに相手ゴール前に攻め込み、RB飯田君の中央突破で2本目のTDを獲得して13-3とファイターズがリードした直後のことだった。
三輪君のキックしたボールを確保した日大のリターナーが巧みなステップでファイターズのカバーを突破、残るのは三輪君一人という状況で、見事に彼がリターナーをタックルし、相手の独走を食い止めたのである。
「三輪がタックルした!」「去年の今ごろは、あんな場面でタッチしかできなかった三輪が、今年はなんと一発のタックルで相手を仕留めた!」。喜びを爆発させ、踊り上がって喜ぶ元キッキングコーチ。同じ場面を見ている僕は、隣で「キッカーが残ってくれていたので助かった」と胸をなで下ろしていただけだった。
同じ場面を見ても、喜びの質が違う、喜びの深さが違う。ここに現場を預かるコーチと、一所懸命、試合に没入しているように思っていても、所詮はスタンドの観客に過ぎない物書きとの決定的な違いがある。両者の間に横たわる深い谷間を知って、僕はフットボールの奥の深さをあらためて思い知ったのである。
フットボールの奥深さ、といえば、もう一つの場面での小野さんの解説も紹介しておきたい。それは第2Q後半、ファイターズが自陣深くからの攻撃でRB鷺野君が左オープンに出ようとフェイクした後、反転して内側に切れ込み、ダウンを更新した場面である。
鷺野君はその前に2度、左オープンをついてライン際を切れ上がり、最初は44ヤードのTD、2度目は52ヤード独走の離れ業を演じている。それを警戒した相手守備陣が必ず外側への動きに敏感に反応するはず、と見越してフェイクを入れ(あるいは本当に外に出ようと仕掛けて)、その逆をついて内側に切れ込んだ動きに、小野さんは思わず「うまい!鷺野だけにできる動きです。すごく成長していますね」と感心しきりだった。
僕は同じそのプレーを見ながら「鷺野君は敏捷に動ける。当たりも強くなった。少しぐらいのタックルははねのけて走れるようになった。すごい」という程度。その俊敏な動作が相手の動き、警戒網を逆手にとった頭脳的な動きであることがまったく見えていなかったのだ。いつも注目している鷺野君の動きでありながら、現場のコーチとスタンドの物書きとの間にはとうてい渡れないような深い谷間が横たわっていたのである。
こういうことを教えてもらいながら、フットボールを観戦すると、文字通り「目から鱗が落ちる」。その奥の深さを感じる。
そしていま、このコラムを書きながら、これからは見たことは書いてもよい、でも中途半端に知ったかぶりは書くまい、と決心しているのである。
鍛え抜かれた体力と技、練習に裏付けられた深い知恵と洞察、そして感情の爆発。フットボールは、本当に奥が深い。ますますのめり込みそうだ。
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