石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2013/11
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(30)神は細部に宿る
投稿日時:2013/11/11(月) 13:33
関大との試合は、長居第二陸上競技場。ファイターズの応援席は観客席の極端に少ないバックスタンド。メーンスタンドに比べ、収容力が極端に少ない。グラウンドとスタンドの間にトラックのレーンが広くとられているうえ、メーンスタンドとは違って、観客席の目の位置が低いから、プレーの展開がよく見えない。
加えて、午後3時の試合開始とあって、晩秋の西日がもろに目に入る。サイドラインにあるヤード表示の数字さえ、逆光でよく見えなかったといえば、スタンドに足を運べなかった人にも観戦環境の悪さが分かってもらえるだろう。せっかくファイターズの応援に来たのに、メーンスタンドに回るファンも少なくなかった。
そういう厳しい環境だったが、試合はスコア以上に白熱。ミスが流れを変えてしまう怖さと、なすべきことをきっちり仕上げることの大切さを身にしみて教えてくれた。
ファイターズのレシーブで試合開始。関大のキックがゴールライン近くでサイドラインを割る反則で、ファイターズは自陣35ヤードからの攻撃。QB斎藤が随所にランプレーを織り込みながらWR木戸、大園、木下にピンポイントで短いパスを連発。仕上げはWR梅本へ19ヤードのパスを決めてTD。K三輪のキックも決まって7点を先制。その間、わずか10プレートいうテンポのよさだった。
関大も負けてはいない。関大陣30ヤード付近から始まった最初のシリーズ。QB岸村がランとパスを織り交ぜてぐいぐいと陣地を進める。あっという間にファイターズ陣24ヤードまで迫ったが、ここでDB鳥内が値千金のパスインターセプト。相手が勢いに乗っているときだけに、その勢いを断ち切った副将のプレーがチームを救った。
ところが、次のファイターズの攻撃で、手痛いミスが出る。一度ダウンを更新した後、自陣35付近からのパントとなったが、こともあろうにロングスナップがあらぬ方向に流れて、パンター伊豆がキャッチ出来ない。そのままゴールラインに転がるのをかろうじて伊豆が抑えたが、セーフティーで相手に2点を献上してしまった。
今度は関大が勢いに乗る。自陣41ヤード付近からの攻撃はランを2度続けた後、第3ダウン5ヤードから短いパス。これを今度はLB池田雄がインターセプトし、そのまま20ヤードのリターン。ここでも相手に傾きかけた試合の流れを副将が食い止める。
こうなると攻撃陣も奮起する。相手陣35ヤード付近から斎藤がTE樋之本に約20ヤードのパスを決めてダウンを更新。ランプレーを2度続けた後、再び梅本へのTDパスをヒットさせて14-2。続く自陣6ヤードからの攻撃シリーズも、梅本やRB池永弟へのパス、RB西山の40ヤード独走などで一気に相手陣31ヤード。ここでもサイドラインを駆け上がる梅本に29ヤードのパスをヒットさせ、残る2ヤードをRB三好が駆け上がってTD。前半を21-2で折り返す。ここまでは、守備陣の活躍もあって、明らかに流れはファイターズに来ていた。
ところが後半に入ると、その流れが一変する。関大は最初の攻撃シリーズ、ランとパスを織り交ぜて、じわじわと陣地を進め、約6分半を費やしてTD。追い上げムードを盛り上げる。それに火を注いだのがファイターズのミス。大園の好リターンで始まった2プレー目に、RBが痛恨のファンブル。相手に自陣49ヤード付近で攻撃権を渡してしまったのだ。
勢い込む関大はすぐさま25ヤードのパスを通してあっという間にゴール前24ヤード。ここはLB小野の激しいタックルでなんとか第4ダウンロングという状況に持ち込んだが、相手は流れをつかんでいる。勢いに乗ってFGフェイクのプレーでダウンを更新、ゴール前12ヤードまで攻め込んでくる。ここはLB吉原のパスカットや相手反則でかろうじてTDを食い止めたが、流れは相手に傾いたままだ。得点は21-9とファイターズがリードしているが、勢いは明らかに関大にある。
実際、第4Qに入った最初の攻撃シリーズは関大ゴール前9ヤードから始まったが、次々とダウンを更新し、あれよあれよという間にファイターズ陣36ヤード。
「今度こそ、TDを覚悟するしかない。その後の相手のオンサイドキックをどう処理するか。勝負はそこで決まる」と勝手に想像していたところで、またもや副将・池田雄がビッグプレー。相手がハンドオフの際にファンブルしたボールを機敏に拾い上げ、そのまま70ヤードを走り切ってTD。嫌な流れをぶった切るビッグプレーでファイターズに勢いを取り戻した。
生き返ったファイターズは、三輪が勢いのあるゴロキックを狙い通りに相手選手に当て、跳ね返ったボールをカバーチームに入っていた1年生DB小池がカバーして相手陣30ヤード付近で攻撃権を獲得。ここからRB鷺野が約25ヤードを走り切ってTD。35-9として試合を決めた。
こうして振り返ると、たった2時間ほどの間に試合の流れが2転、3転していたことがよく分かる。ミスで流れを失い、起死回生のビッグプレーで流れを取り戻す。最終的には流れが来たときに確実に得点を重ねたファイターズに勝利の女神がほほえんだ。
以上が、試合会場を去るときの僕の総括である。だが、フットボールは奥が深い。日曜の早朝、録画していたYTVの録画中継を見ていると、また別のことに気がついた。それぞれは細かいことだけれども、随所にファインプレーが隠されていたのである。
順に列挙していく。
?最初のキックオフのボールをリターナーの大園が絶妙の判断でサイドラインを割ると判断して見送ったこと。その結果、ファイターズは35ヤードから攻撃することが可能になり、その攻撃が先制点に結びついたこと。
?DB鳥内が相手のエースランナー、前田との最初のコンタクトで、正面から強烈なタックルを見舞っていたこと。あの一発で、相手に警戒心を植え付けたのは間違いない。
?梅本と木戸がパスキャッチの後、必ずといっていいほど相手DBを引きずって走り、確実に数ヤードから10数ヤードを進んでいたこと。キャッチしただけで満足せず、一歩でも相手ゴールに近づこうという姿勢がチームを奮い立たせていたことがよく分かった。
?斎藤が相手ディフェンスの動きを冷静に見て、ピンポイントのパスを投げ続けていたこと。それに応えて樋之本や梅本、木下が相手DBの包囲網を一切気にせず、確実にキャッチしていたこと。その安定感が斎藤に安心感を植え付けていたことがよく理解出来た。
?キッキングのカバーチームに入った小池が三輪のキックしたボールを相手がはじくことを予測した上で、そのボールを確保する態勢に入っていたこと。1年生とは思えないほど冷静的確な動きだった。……。
以上、いずれもグラウンドでは遠すぎて見えなかったプレーである。ビデオで細部を確認して初めて「それぞれの選手がやるべきことを細部まで詰めて」チームに貢献していることがよく分かった。こういうプレーがあったから、選手個人の能力の高い関大に何とか勝利することが出来たのである。まさに「神は細部に宿る」である。
さあ、関西リーグはあと1試合。細かいところまでしっかりこだわり、悔いの残らない練習でチームを仕上げて、立命館との戦いに臨んで欲しい。
加えて、午後3時の試合開始とあって、晩秋の西日がもろに目に入る。サイドラインにあるヤード表示の数字さえ、逆光でよく見えなかったといえば、スタンドに足を運べなかった人にも観戦環境の悪さが分かってもらえるだろう。せっかくファイターズの応援に来たのに、メーンスタンドに回るファンも少なくなかった。
そういう厳しい環境だったが、試合はスコア以上に白熱。ミスが流れを変えてしまう怖さと、なすべきことをきっちり仕上げることの大切さを身にしみて教えてくれた。
ファイターズのレシーブで試合開始。関大のキックがゴールライン近くでサイドラインを割る反則で、ファイターズは自陣35ヤードからの攻撃。QB斎藤が随所にランプレーを織り込みながらWR木戸、大園、木下にピンポイントで短いパスを連発。仕上げはWR梅本へ19ヤードのパスを決めてTD。K三輪のキックも決まって7点を先制。その間、わずか10プレートいうテンポのよさだった。
関大も負けてはいない。関大陣30ヤード付近から始まった最初のシリーズ。QB岸村がランとパスを織り交ぜてぐいぐいと陣地を進める。あっという間にファイターズ陣24ヤードまで迫ったが、ここでDB鳥内が値千金のパスインターセプト。相手が勢いに乗っているときだけに、その勢いを断ち切った副将のプレーがチームを救った。
ところが、次のファイターズの攻撃で、手痛いミスが出る。一度ダウンを更新した後、自陣35付近からのパントとなったが、こともあろうにロングスナップがあらぬ方向に流れて、パンター伊豆がキャッチ出来ない。そのままゴールラインに転がるのをかろうじて伊豆が抑えたが、セーフティーで相手に2点を献上してしまった。
今度は関大が勢いに乗る。自陣41ヤード付近からの攻撃はランを2度続けた後、第3ダウン5ヤードから短いパス。これを今度はLB池田雄がインターセプトし、そのまま20ヤードのリターン。ここでも相手に傾きかけた試合の流れを副将が食い止める。
こうなると攻撃陣も奮起する。相手陣35ヤード付近から斎藤がTE樋之本に約20ヤードのパスを決めてダウンを更新。ランプレーを2度続けた後、再び梅本へのTDパスをヒットさせて14-2。続く自陣6ヤードからの攻撃シリーズも、梅本やRB池永弟へのパス、RB西山の40ヤード独走などで一気に相手陣31ヤード。ここでもサイドラインを駆け上がる梅本に29ヤードのパスをヒットさせ、残る2ヤードをRB三好が駆け上がってTD。前半を21-2で折り返す。ここまでは、守備陣の活躍もあって、明らかに流れはファイターズに来ていた。
ところが後半に入ると、その流れが一変する。関大は最初の攻撃シリーズ、ランとパスを織り交ぜて、じわじわと陣地を進め、約6分半を費やしてTD。追い上げムードを盛り上げる。それに火を注いだのがファイターズのミス。大園の好リターンで始まった2プレー目に、RBが痛恨のファンブル。相手に自陣49ヤード付近で攻撃権を渡してしまったのだ。
勢い込む関大はすぐさま25ヤードのパスを通してあっという間にゴール前24ヤード。ここはLB小野の激しいタックルでなんとか第4ダウンロングという状況に持ち込んだが、相手は流れをつかんでいる。勢いに乗ってFGフェイクのプレーでダウンを更新、ゴール前12ヤードまで攻め込んでくる。ここはLB吉原のパスカットや相手反則でかろうじてTDを食い止めたが、流れは相手に傾いたままだ。得点は21-9とファイターズがリードしているが、勢いは明らかに関大にある。
実際、第4Qに入った最初の攻撃シリーズは関大ゴール前9ヤードから始まったが、次々とダウンを更新し、あれよあれよという間にファイターズ陣36ヤード。
「今度こそ、TDを覚悟するしかない。その後の相手のオンサイドキックをどう処理するか。勝負はそこで決まる」と勝手に想像していたところで、またもや副将・池田雄がビッグプレー。相手がハンドオフの際にファンブルしたボールを機敏に拾い上げ、そのまま70ヤードを走り切ってTD。嫌な流れをぶった切るビッグプレーでファイターズに勢いを取り戻した。
生き返ったファイターズは、三輪が勢いのあるゴロキックを狙い通りに相手選手に当て、跳ね返ったボールをカバーチームに入っていた1年生DB小池がカバーして相手陣30ヤード付近で攻撃権を獲得。ここからRB鷺野が約25ヤードを走り切ってTD。35-9として試合を決めた。
こうして振り返ると、たった2時間ほどの間に試合の流れが2転、3転していたことがよく分かる。ミスで流れを失い、起死回生のビッグプレーで流れを取り戻す。最終的には流れが来たときに確実に得点を重ねたファイターズに勝利の女神がほほえんだ。
以上が、試合会場を去るときの僕の総括である。だが、フットボールは奥が深い。日曜の早朝、録画していたYTVの録画中継を見ていると、また別のことに気がついた。それぞれは細かいことだけれども、随所にファインプレーが隠されていたのである。
順に列挙していく。
?最初のキックオフのボールをリターナーの大園が絶妙の判断でサイドラインを割ると判断して見送ったこと。その結果、ファイターズは35ヤードから攻撃することが可能になり、その攻撃が先制点に結びついたこと。
?DB鳥内が相手のエースランナー、前田との最初のコンタクトで、正面から強烈なタックルを見舞っていたこと。あの一発で、相手に警戒心を植え付けたのは間違いない。
?梅本と木戸がパスキャッチの後、必ずといっていいほど相手DBを引きずって走り、確実に数ヤードから10数ヤードを進んでいたこと。キャッチしただけで満足せず、一歩でも相手ゴールに近づこうという姿勢がチームを奮い立たせていたことがよく分かった。
?斎藤が相手ディフェンスの動きを冷静に見て、ピンポイントのパスを投げ続けていたこと。それに応えて樋之本や梅本、木下が相手DBの包囲網を一切気にせず、確実にキャッチしていたこと。その安定感が斎藤に安心感を植え付けていたことがよく理解出来た。
?キッキングのカバーチームに入った小池が三輪のキックしたボールを相手がはじくことを予測した上で、そのボールを確保する態勢に入っていたこと。1年生とは思えないほど冷静的確な動きだった。……。
以上、いずれもグラウンドでは遠すぎて見えなかったプレーである。ビデオで細部を確認して初めて「それぞれの選手がやるべきことを細部まで詰めて」チームに貢献していることがよく分かった。こういうプレーがあったから、選手個人の能力の高い関大に何とか勝利することが出来たのである。まさに「神は細部に宿る」である。
さあ、関西リーグはあと1試合。細かいところまでしっかりこだわり、悔いの残らない練習でチームを仕上げて、立命館との戦いに臨んで欲しい。
(29)団結と連帯、奉仕のための練達
投稿日時:2013/11/05(火) 08:35
前回のコラムでは「守備が試合を作る」と書いた。京大戦での守備陣の活躍ぶりを目の当たりにして、その素晴らしさに感銘を受けたからだ。しかし、当然のことながら、フットボールは守備だけではない。守備の活躍に呼応して攻撃陣、とくにラインの面々が踏ん張ったから28-0という勝利を収めることが出来たのである。そのことをしっかり書いておかなければ、不公平というものだろう。
ということで、今回はオフェンス、とくにラインの活躍を中心に書いてみたい。
注意深く観戦されていた方はお気づきになったと思うが、あの試合でQB斎藤君が相手守備陣にタックルされる場面は一度もなかった。パスターゲットを探しているうちに追いつかれそうになってパスを投げ出した場面はあったが、あの強力な守備陣を相手に、指1本触れられなかったのである。
プレーによっては、自ら走るだけでなくQBを守る役割も与えられたTEやRBの諸君を含めて、ラインの面々が最初から最後まで素晴らしい動きをしたことの、これは証明である。
友國、田渕、上沢、橋本、木村。春のシーズンでスタメンを張っていた5人全員が、秋のリーグ戦で初めてそろったことが一番の原因だろう。彼らは全員、昨年から大村コーチの指導で「朝練」と称する特別練習に励んできた選手である。毎日、授業の始まる前に、2班に分かれて互いに本気でぶつかり合い、体幹を鍛えてきた成果が、いまになって現れてきたといってもよい。
彼らはまた、大なり小なり、けがに泣き、一度はリハビリの苦しさを経験した選手ばかりである。時には監督から「どんくさい」といわれてきた選手たちが互いに団結し、連帯して、あの強力な京大守備陣から終始、QB斎藤を守りきったのである。そこはしっかり記録しておかなければならない。
タックルやインターセプトを決めれば、ただちに脚光を浴びる守備陣に比べて、攻撃のラインは地味である。失敗したときはすぐに目につくが、正常に機能しているときには、彼らの働きはよほど注意していなければ観戦者の目にとまらない。観客は、ついついボールの行方、ボールキャリアを追うことにかまけてしまうからだ。
うまくやって当たり前。相手守備陣に割り込まれ、QBを守りきれなかったときには、すぐにもっとしっかり守れ、と罵声が飛んでくる。毎回毎回、体を張ってプレーしているのに、めちゃくちゃ損な役回りである。オフェンスラインになったその瞬間から、チームのために、どこまでも自分を犠牲にし続ける任務を与えられている、文字通りの「縁の下の力持ち」である。
彼らの「自己犠牲」について、僕の授業に出席している2年生DLの濱拓麻君がこの前の授業で次のような小論文を書いてくれた。その日の課題は、関西学院の4代目院長、ベーツ先生が書かれた「マスタリー・フォオー・サービス」についての文章を読んで「あなたにとってマスタリー・フォー・サービスとは」と考えることだった。
彼はその課題文にある「自己犠牲」という言葉に注目し、こんなことを書いてくれた。本人の了解を得たので、さわりの部分を紹介する。
……アメリカンフットボールほど「自己犠牲」という言葉が当てはまるスポーツはない。普通に試合を見ていれば、ボールにばかり目のいく人がほとんどであろう。しかし、詳しく細かく見ていけば「自己犠牲」のシーンが毎プレーあることが分かる。オフェンスラインは、すべてのプレーがその言葉通りである。プレーのたびに激しい当たりを繰り返し、花形ポジションであるクオーターバックやランニングバックを守り、時にはランニングバックと一緒に走り続ける。まさに縁の下の力持ちのようなポジションである。(中略)
自己犠牲といえば、1軍の練習相手は務めるが試合には出ないメンバーにも、その言葉が当てはまる。それは1軍と2軍のようなものだが、2軍は1軍のために相手チームの動きをして、1軍メンバーに相手のプレーをイメージさせ、試合につなげるようにする。それはスカウトチームと呼ばれ、シーズンになると、2軍はこの練習の方が多い。
しかし、すべてが自己犠牲ではない。(中略)1軍との練習で頑張れば1軍に上がる可能性もある。チームのために貢献していれば、コーチの方は見てくれているし、1軍で活躍する可能性もある……。
フットボールにおける「縁の下の力持ち」の大切さを余すことなく書いている。そしてこの文章は、ベーツ院長の提唱された「マスタリー・フォー・サービス」の精神、つまり「自分の欲望を満足させるためではなく、社会に奉仕できる人間になりなさい」「そのために自らを強い人間に鍛えなさい」という主張のポイントをフットボールを例にして、しっかり書いているのである。
とりわけ僕は「フットボールにおける自己犠牲」を強調しながら、同時に彼が「チームに貢献していれば、コーチの方は見てくれている」と書いた点に感銘を受けた。そこに、選手と指導者の深い信頼関係、強い絆が表現されているからである。ファイターズというチームの奥の深さが表現されていたからである。
これは神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんが『街場の憂国論』(晶文社)にも書かれているが、人間がぎりぎりまで努力するのは「自分のため」ではなく、「他の人のため」に働くときである。「俺がここで死んでも、困るのは俺だけだ」と思う人間と、「彼らのために、俺はこんなところで死ぬわけにはいかない」と思う人間では、ぎりぎりの場面での踏ん張り方がまるで違うのである。
そういう「仲間のため」「チームのため」にがんばれる人間が団結し、連帯すれば、怖いものは何もない。選手と指導者の強い絆、信頼関係があれば、無から有を生み出すことも可能になる。ベーツ院長の唱えた「奉仕のための練達」という言葉は、いまも私たちのチームの根っこを支えているのである。
団結と連帯を力に、信頼と絆を武器にして、関大、立命と続く困難な試合を存分に戦ってもらいたい。
ということで、今回はオフェンス、とくにラインの活躍を中心に書いてみたい。
注意深く観戦されていた方はお気づきになったと思うが、あの試合でQB斎藤君が相手守備陣にタックルされる場面は一度もなかった。パスターゲットを探しているうちに追いつかれそうになってパスを投げ出した場面はあったが、あの強力な守備陣を相手に、指1本触れられなかったのである。
プレーによっては、自ら走るだけでなくQBを守る役割も与えられたTEやRBの諸君を含めて、ラインの面々が最初から最後まで素晴らしい動きをしたことの、これは証明である。
友國、田渕、上沢、橋本、木村。春のシーズンでスタメンを張っていた5人全員が、秋のリーグ戦で初めてそろったことが一番の原因だろう。彼らは全員、昨年から大村コーチの指導で「朝練」と称する特別練習に励んできた選手である。毎日、授業の始まる前に、2班に分かれて互いに本気でぶつかり合い、体幹を鍛えてきた成果が、いまになって現れてきたといってもよい。
彼らはまた、大なり小なり、けがに泣き、一度はリハビリの苦しさを経験した選手ばかりである。時には監督から「どんくさい」といわれてきた選手たちが互いに団結し、連帯して、あの強力な京大守備陣から終始、QB斎藤を守りきったのである。そこはしっかり記録しておかなければならない。
タックルやインターセプトを決めれば、ただちに脚光を浴びる守備陣に比べて、攻撃のラインは地味である。失敗したときはすぐに目につくが、正常に機能しているときには、彼らの働きはよほど注意していなければ観戦者の目にとまらない。観客は、ついついボールの行方、ボールキャリアを追うことにかまけてしまうからだ。
うまくやって当たり前。相手守備陣に割り込まれ、QBを守りきれなかったときには、すぐにもっとしっかり守れ、と罵声が飛んでくる。毎回毎回、体を張ってプレーしているのに、めちゃくちゃ損な役回りである。オフェンスラインになったその瞬間から、チームのために、どこまでも自分を犠牲にし続ける任務を与えられている、文字通りの「縁の下の力持ち」である。
彼らの「自己犠牲」について、僕の授業に出席している2年生DLの濱拓麻君がこの前の授業で次のような小論文を書いてくれた。その日の課題は、関西学院の4代目院長、ベーツ先生が書かれた「マスタリー・フォオー・サービス」についての文章を読んで「あなたにとってマスタリー・フォー・サービスとは」と考えることだった。
彼はその課題文にある「自己犠牲」という言葉に注目し、こんなことを書いてくれた。本人の了解を得たので、さわりの部分を紹介する。
……アメリカンフットボールほど「自己犠牲」という言葉が当てはまるスポーツはない。普通に試合を見ていれば、ボールにばかり目のいく人がほとんどであろう。しかし、詳しく細かく見ていけば「自己犠牲」のシーンが毎プレーあることが分かる。オフェンスラインは、すべてのプレーがその言葉通りである。プレーのたびに激しい当たりを繰り返し、花形ポジションであるクオーターバックやランニングバックを守り、時にはランニングバックと一緒に走り続ける。まさに縁の下の力持ちのようなポジションである。(中略)
自己犠牲といえば、1軍の練習相手は務めるが試合には出ないメンバーにも、その言葉が当てはまる。それは1軍と2軍のようなものだが、2軍は1軍のために相手チームの動きをして、1軍メンバーに相手のプレーをイメージさせ、試合につなげるようにする。それはスカウトチームと呼ばれ、シーズンになると、2軍はこの練習の方が多い。
しかし、すべてが自己犠牲ではない。(中略)1軍との練習で頑張れば1軍に上がる可能性もある。チームのために貢献していれば、コーチの方は見てくれているし、1軍で活躍する可能性もある……。
フットボールにおける「縁の下の力持ち」の大切さを余すことなく書いている。そしてこの文章は、ベーツ院長の提唱された「マスタリー・フォー・サービス」の精神、つまり「自分の欲望を満足させるためではなく、社会に奉仕できる人間になりなさい」「そのために自らを強い人間に鍛えなさい」という主張のポイントをフットボールを例にして、しっかり書いているのである。
とりわけ僕は「フットボールにおける自己犠牲」を強調しながら、同時に彼が「チームに貢献していれば、コーチの方は見てくれている」と書いた点に感銘を受けた。そこに、選手と指導者の深い信頼関係、強い絆が表現されているからである。ファイターズというチームの奥の深さが表現されていたからである。
これは神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんが『街場の憂国論』(晶文社)にも書かれているが、人間がぎりぎりまで努力するのは「自分のため」ではなく、「他の人のため」に働くときである。「俺がここで死んでも、困るのは俺だけだ」と思う人間と、「彼らのために、俺はこんなところで死ぬわけにはいかない」と思う人間では、ぎりぎりの場面での踏ん張り方がまるで違うのである。
そういう「仲間のため」「チームのため」にがんばれる人間が団結し、連帯すれば、怖いものは何もない。選手と指導者の強い絆、信頼関係があれば、無から有を生み出すことも可能になる。ベーツ院長の唱えた「奉仕のための練達」という言葉は、いまも私たちのチームの根っこを支えているのである。
団結と連帯を力に、信頼と絆を武器にして、関大、立命と続く困難な試合を存分に戦ってもらいたい。
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