石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2012/9

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(22)ピンチはチャンス

投稿日時:2012/09/19(水) 09:22

 それにしてもけが人が多い。
 秋のリーグ戦は始まったばかりだというのに、今季の活躍に注目していた選手たちが相次いで戦列を離れた。負傷した部位を氷で冷やし、テーピング用のテープでがちがちに固定してグラウンドを去る選手の姿を見ていると、自分の子や孫がけがをしたかのように胸が痛む。選手や家族にとっては、言葉に尽くせないほどの悔しさだろう。もちろん、チームにとっても、手痛い打撃である。
 今年のチームづくりは、昨季、1月3日のライスボウルまでのハードな戦いで傷ついた選手たちの回復と、先発メンバーに次ぐ2番手、3番手メンバーの底上げが大きなテーマだった。ディフェンスでは主将の梶原、ラインの前川、岸、池永らの主力が春には全く試合に出ず、けがからの回復と体力作りに専念した。オフェンスも同様、司令塔の畑やラインを引っ張る和田らが出場を見合わせ、その分、3年生や2年生を積極的に起用してきた。
 それが功を奏し、これまでは控えに甘んじていた3年生のOLやDB、2年生のDLやQB、RB、DBが力を付け、先発メンバーの一角に入ったり、交代要員として1枚目のメンバーに劣らない活躍をしたりして、スタンドをわくわくさせてくれた。
 チームの底上げができた、これで戦力が厚くなった、と喜んだ矢先の「成長が目に見える」メンバーたちの離脱である。
 幸い、初戦でけがはしたけど、すぐに2戦目から戦列に復帰し、元気でプレーしているメンバーもいる。2戦目は出られなかったが、次の試合を目標に懸命に回復訓練に励んでいる選手もいる。
 けれども、人間の身体は微妙だ。負傷は癒えても「けがの記憶」は体が覚えている。けがをする前と、復帰後では、同じプレーでも精度が落ちることは少なくない。知らず知らずに負傷した部位をかばって、思い通りに体を動かせないことだってある。
 そういう時こそ2枚目、3枚目のメンバーが活躍するチャンスである。どのポジションであっても、先発メンバーと遜色のない控え選手がいれば、主力選手の負傷は、逆に新たな人材を登用するチャンスになる。新たな人材が成長すれば、新たな作戦の展開も可能になるだろう。
 「チームのピンチは、個人のチャンス」と呼ばれる、これが由縁である。近年の関西リーグのように、上位校の戦力が拮抗してくると「選手層の厚さが勝敗を分ける」といわれるのも、ここに理由がある。
 ならば、ファイターズはそういうチームの底上げができているか。少しぐらい負傷者が出ても「オレがポジションを獲る」と言い切れる選手がどれだけいるか。15日の同志社戦は、そういう視点で観戦した。
 結論からいうと、光明は3分、悪いことが7分ぐらいだった。
 光明のひとつは、春はJV戦ぐらいしか出ていなかったRB榎本(3年)がエースRB望月を思わせるようなパワフルな走りを見せてくれたこと。試合会場に向かう電車で、たまたま一緒になったRB担当の島野コーチが「今日は榎本の走りに注目して下さい。最近はいい練習をしていますから」と言われていた通りのプレーぶり。10回のラッシュで73ヤードというチームトップの走りを見せ、タッチダウンも決めた。
 2つ目は、DLの先発に名を連ねた2年生の梶原弟。4年生、前川の欠場が気にならないほどのスピードと当たりで相手ラインを押し込み、1枚目と遜色のないプレーぶりだった。春の試合で鍛えられ、「もう一丁、もう一丁」と積極的に練習してきた成果だろう。同じ2年生の練習仲間であるDLの岡部とともに、さらなる成長が楽しみだ。
 3つ目は、僕が密かに注目しているLBの元気印・吉原がQBサックを決めてくれたこと。LB陣には副将・川端をはじめ1年生の時から活躍している池田雄や小野がおり、練習では全く目立たない選手だが、試合になると、そのハッスルプレーが目につく。時々、方向違いのプレーもあるが、そのひたむきさが目をひく選手である。けがでしばらく戦列を離れていたDBの足立とともに、これからのチームの底上げに欠かせない存在だろう。
 さて、これらがいい方の3分とすれば、悪い方の7分は初戦の近大戦と同様、後半、メンバーが交代するごとに、目に見えて戦力がダウンしたこと。1枚目や1枚目半の選手とは、明らかにプレーの内容に落差があった。
 梶原主将が「1枚目と2枚目の差をもっと詰めないと、リーグ終盤戦や甲子園ボウル、ライスボウルでは勝てない」、川端副将が「今後のビッグゲームでは2枚目以降の選手の力が必要になってくる。成長に期待したい」という通りである。
 けが人が相次ぎ、チームとしては面白くない状況だが、そのピンチを「オレにはチャンス」と思う選手がどれだけいるか。そのチャンスを手に入れる選手が何人出てくるか。3戦目以降は、そこに注目していきたい。

(21)ジョブズ氏からの檄

投稿日時:2012/09/10(月) 23:43

 先日の休みに、たまたま自宅のテレビを見ていたら、アップル社の創業者、スティーブ・ジョブズ氏が学生たちに檄を飛ばしている場面を放映していた。ほんの一瞬、番組に挿入された場面だが、その言葉があの有名な「Stay Hungry, Stay Foolish」だった。
 彼がスタンフォード大学の卒業式にゲストとして呼ばれ、学生たちを前にスピーチしたときの締めくくりの言葉である。彼が若い頃に読んだ本の裏表紙に記されていた言葉であり、彼が「自分も常々そうありたいと思っている」言葉という。最近は英語の教材としても使用されるほど有名になっているそうだ。
 ファイターズの選手や卒業生、ファンや関係者にとっては、2009年度のチーム・スローガンとして、よく知られている。
 あの小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクト・マネジャーだった川口淳一郎氏は、その著「閃く脳の作り方」(飛鳥新社)で、この言葉について「自分の心の声に忠実に生きると、世間からは変人扱いされるかもしれない。それでも、それを貫いて生きていけということでしょう」と解釈。「ステイ・フーリッシュ」を「最初は異端であった、今後とも異端であれ」という意味に受け止めている。そして、それは「ナンバーワンを目指せ、ではなくオンリーワンを目指す道です」と書いている。
 ついでに言うと、彼が理解する「ナンバーワン」とは「同じことをしている人がたくさんいて、その競争に勝つこと。やっていることは同じで、その同じことに1番、2番という順位がつく」。それに対して「オンリーワン」とは「異端でもかまわないから自分の信じた道を行くこと。そこでは常にオリジナリティーが発揮でき、自動的に1番になれる」ことだ。
 話を分かりやすくしようとして、逆にがごちゃごちゃしてきた。結論をジョブズ氏の言葉でいうと「他人の雑音で心の声をかき消されないように。最も大切なのは自分の直感に従う勇気を持つこと」「世の中を変えるような生き方をしよう」ということである。
 前置きが長くなった。本題に入る。
 ジョブズ氏の言葉に僕が反応したのは、彼のいう「ステイ・ハングリー」「ステイ・フーリッシュ」、つまり「異端でもかまわない。世の中を変えるような生き方をしよう」というところにある。
 ファイターズに即していえば「チームを変革する存在になろう」「多少の軋轢(あつれき)があってもかまわない。チームを一段上の次元に引き上げるためには、なれ合うのではなく、互いに求め合い、挑発しあおう。それをハングリー、どん欲に追求しよう」ということである。
 秋の関西リーグ、チームは鮮やかなスタートを切った。しかしライバルたちは、もっともっとすごい境地に到達している。それは先日、ライバルチームの開幕戦のビデオを見た鳥内監督から聞いた「やばいですわ。うちが30-0で負けてもおかしくないくらい相手はできあがっています。本気で取り組まないと、戦術や作戦では手に負えませんよ」という話からもうかがえる。
 そういう現実からのスタートである。初戦の快勝で浮かれている(僕のことです。選手はコーチはまったく浮かれていません。念のため)場合ではないのである。
 では、どうするか。そこでジョブズ氏の言葉である。練習のための練習、昨日と同じことの繰り返し、あるいはその延長上の練習では、術という名に値するほどの飛躍は生まれない。そうではなくて、それぞれの選手がオンリーワンのプレー、誰にも負けないプレーを極めることで新しい境地が開ける。
 走ること、当たること、ボールを投げること、キャッチすること、そしてボールを思った場所に思ったスピードと回転で蹴ること。走ること、当たることだけでも、100通りや200通りの状況があるだろう。それを選手全員が徹底的に極めるのである。ライバルの動きを想定し、それをさらに上回る動きを身につけ、当たり負けしないように、体を鍛え、体の使い方を工夫するのである。
 しんどい作業である。よほどの覚悟で臨まないと、間に合わないかもしれない。けれども、その厳しい練習に耐え、内容を工夫し、自分を飛躍的に向上させることでしか道は開けない。チームの力を1段階も2段階も飛躍させないと、勝ち目はないのである。「ステイ・ハングリー」「ステイ・フーリッシュ」を実現するのは、いましかない。
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