石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2012/10
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(26)僥倖か地力か
投稿日時:2012/10/16(火) 08:15
14日の龍谷大戦は、何とも評価の難しい試合だった。
得点は63-0。4つのクオーターにバランスよく点を重ねたし、先発メンバーが引っ込んだときにも控えのメンバーが持ちこたえて相手を完封した。2枚目、3枚目のメンバーが顔見せのように登場した第4Qにも着実にTDを重ね、スコアボードを見る限りは、ファイターズの圧勝だった。
だが、現場で試合を見ている限り、そういう気楽な気分ではなかった。エースQB畑に代わって、この日は斎藤が先発したが、立ち上がり2回の攻撃シリーズは、ともにパスが思うように通らず、2度ともパントを蹴る羽目になった。ディフェンスもまた、反則などがあって簡単には相手を抑えきれない。
このままずるずる押されるのか、という流れになりかかったところで、QB斎藤のパンチが炸裂した。オプションキーププレーで中央を抜け出し、3人のブロッカーに守られて53ヤードを独走、先制のTDにつなげたのだ。
その直後、今度は守備陣が見せた。相手が自陣10ヤード付近から投じた短いパスをLB小野がインターセプト、そのまま15ヤードを走り切ってTD。第1Q終了間際の1分足らずの間に、一気に14点を獲得して、ようやくベンチを落ち着かせた。
第2Qに入っても、ファイターズの一発攻勢は続く。まずは南本の52ヤードパントリターンTD。相手デフェンスのタックルを十分な見切りで一人、二人とかわし、左のサイドライン際を一気に駆け上がった。次のシリーズはパントに追いやられたが、自陣25ヤードからのその次の攻撃では、RB望月が立て続けに中央をついて計16ヤード前進。続いて斎藤から1年生WR木下への26ヤードのパスがヒットして相手陣35ヤード。
ここでファイターズはWR木戸からWR梅本へ34ヤードのパス。相手の意表を突いたとっておきのプレーであり、木戸の遠投力と梅本の走力がかみ合った見事なパスだった。残った1ヤードは望月がお約束のように左オフタックルを抜けてTD。K堀本がすべてのキックを決めて前半を28-0で折り返した。
このように得点経過を振り返れば、いかにも順調である。だが、よく注意してみると、1本目は斎藤のキーププレーからの53ヤード独走。2本目は小野のインターセプトTD、3本目は南本の52ヤードリターンTD。4本目も、途中ランプレーやパスで陣地を進めてきたが、決め手は木戸のスペシャルプレーだった。
つまり、こつこつとジャブを放って陣地を進めるのではなく、一発パンチで相手をKOするような戦いだったのである。こういうパンチが27日からの京大、関大、立命との戦いで、炸裂するかどうか。逆にそのパンチの裏をとったカウンターパンチを決められるようなことになるのではないか。そう思うと、すっかり憂鬱になってしまうのである。
何しろ相手は、鳥内監督いわく「とてつもなく強力な守備力を持っている」。オフェンスには「一発で試合を決める決定力のあるタレント」がいる。キッキングチームも、ファイターズ以上に洗練されているそうだ。
そういう強敵を相手に、前半4試合のような余裕を持った戦いができるかどうか。龍谷戦のような一発で決めるプレーが決まるかどうか。試合後も、厳しい表情を崩さなかった副将、川端君がこんなことを言っていた。
「まだまだです。相手がこれまでのチームで一番強かったこともありますが、なかなか思い通りにさせてくれなかった。2枚目以下の選手はがんばってくれたけど、スタメンがもう一段階上のプレーを追求しないと、これからの試合は苦しいでしょう」
実際に戦った選手ならではの言葉である。得点板に記された数字はひとまず忘れ、次からの試合に備えなければならないということだろう。
この試合を63-0で勝ったのは事実である。しかし、その得点が僥倖(ぎょうこう)によってもたらされたのか、それとも本物だったのか。それは、これからの3戦で判明する。そのハードな戦いに臨むために、チームが一丸となって、残された時間を惜しみ、いっそうの奮励努力を重ねてほしい。
得点は63-0。4つのクオーターにバランスよく点を重ねたし、先発メンバーが引っ込んだときにも控えのメンバーが持ちこたえて相手を完封した。2枚目、3枚目のメンバーが顔見せのように登場した第4Qにも着実にTDを重ね、スコアボードを見る限りは、ファイターズの圧勝だった。
だが、現場で試合を見ている限り、そういう気楽な気分ではなかった。エースQB畑に代わって、この日は斎藤が先発したが、立ち上がり2回の攻撃シリーズは、ともにパスが思うように通らず、2度ともパントを蹴る羽目になった。ディフェンスもまた、反則などがあって簡単には相手を抑えきれない。
このままずるずる押されるのか、という流れになりかかったところで、QB斎藤のパンチが炸裂した。オプションキーププレーで中央を抜け出し、3人のブロッカーに守られて53ヤードを独走、先制のTDにつなげたのだ。
その直後、今度は守備陣が見せた。相手が自陣10ヤード付近から投じた短いパスをLB小野がインターセプト、そのまま15ヤードを走り切ってTD。第1Q終了間際の1分足らずの間に、一気に14点を獲得して、ようやくベンチを落ち着かせた。
第2Qに入っても、ファイターズの一発攻勢は続く。まずは南本の52ヤードパントリターンTD。相手デフェンスのタックルを十分な見切りで一人、二人とかわし、左のサイドライン際を一気に駆け上がった。次のシリーズはパントに追いやられたが、自陣25ヤードからのその次の攻撃では、RB望月が立て続けに中央をついて計16ヤード前進。続いて斎藤から1年生WR木下への26ヤードのパスがヒットして相手陣35ヤード。
ここでファイターズはWR木戸からWR梅本へ34ヤードのパス。相手の意表を突いたとっておきのプレーであり、木戸の遠投力と梅本の走力がかみ合った見事なパスだった。残った1ヤードは望月がお約束のように左オフタックルを抜けてTD。K堀本がすべてのキックを決めて前半を28-0で折り返した。
このように得点経過を振り返れば、いかにも順調である。だが、よく注意してみると、1本目は斎藤のキーププレーからの53ヤード独走。2本目は小野のインターセプトTD、3本目は南本の52ヤードリターンTD。4本目も、途中ランプレーやパスで陣地を進めてきたが、決め手は木戸のスペシャルプレーだった。
つまり、こつこつとジャブを放って陣地を進めるのではなく、一発パンチで相手をKOするような戦いだったのである。こういうパンチが27日からの京大、関大、立命との戦いで、炸裂するかどうか。逆にそのパンチの裏をとったカウンターパンチを決められるようなことになるのではないか。そう思うと、すっかり憂鬱になってしまうのである。
何しろ相手は、鳥内監督いわく「とてつもなく強力な守備力を持っている」。オフェンスには「一発で試合を決める決定力のあるタレント」がいる。キッキングチームも、ファイターズ以上に洗練されているそうだ。
そういう強敵を相手に、前半4試合のような余裕を持った戦いができるかどうか。龍谷戦のような一発で決めるプレーが決まるかどうか。試合後も、厳しい表情を崩さなかった副将、川端君がこんなことを言っていた。
「まだまだです。相手がこれまでのチームで一番強かったこともありますが、なかなか思い通りにさせてくれなかった。2枚目以下の選手はがんばってくれたけど、スタメンがもう一段階上のプレーを追求しないと、これからの試合は苦しいでしょう」
実際に戦った選手ならではの言葉である。得点板に記された数字はひとまず忘れ、次からの試合に備えなければならないということだろう。
この試合を63-0で勝ったのは事実である。しかし、その得点が僥倖(ぎょうこう)によってもたらされたのか、それとも本物だったのか。それは、これからの3戦で判明する。そのハードな戦いに臨むために、チームが一丸となって、残された時間を惜しみ、いっそうの奮励努力を重ねてほしい。
(25)「去りゆく人」
投稿日時:2012/10/04(木) 13:35
こういうコラムを書いていると、機会があるたびに多くの方々の激励やアドバイスに支えられていることを実感する。毎回、この文章を最初に読んでチェックしてくれる小野コーチ、ホームページにアップする作業を担当し、折りに触れてアドバイスをくれるアシスタントディレクター石割氏、スタジアムで声を掛け、時には「いいね」のチェックを入れて下さる読者の方々、そしてファイターズの卒業生や現役の諸君。
とりわけ元監督の武田建先生から送られてくるメールが励みになる。指導者としての長年の経験、現役の心理学者、カウンセラーとしてのものの見方、考え方、それらに裏打ちされたご意見やご指摘は、いつも刺激たっぷりで、考えるヒントが一杯詰まっている。
先日、アップした「4年生の役割」に寄せていただいた感想がその典型。私信ではあるが、差し支えのない部分を紹介したい。こんな文面が含まれていた。
「記事を拝見していて、これからのシーズン、ああした試合の紹介やご意見という形で、4年生への送別というか、お別れの文章が載るのだな……と感じています。石井さんにとっては、入学前から文章の指導をなさり、ご自分の息子のようなお気持ちだと思います。そして彼らが最上級生になり、立派な活躍をしてくれてうれしいけれども、1試合、1試合、彼らの卒業が近くなるのです」
「私が大学や高等部の監督時代もそうでした。まだ、高等部の時代は大学でのプレーを見ることも出来ました。でも、大学時代にはこれで彼らは出て行ってしまうのだ!というさみしさと彼らなしで(来年は)試合をしなくてはならないという恐怖と戦っていました」
そういうことだ。秋の関西リーグが始まったばかりだというのに、僕はもう、あと残り4試合、それを勝ち抜いて甲子園ボウルやライスボウルに進出しても残り7試合、日数にすると、リーグ戦最終の立命戦まで残り50日ほどしかないという焦燥感と、その限られた日数が持つ意味の重大性、そしてある種の寂しさを感じている。
シーズンが始まってまだ1カ月。まだ3試合しか戦っていないのに、一体、何を寝ぼけたことを、と思われる人が多いかもしれない。けれども50日といえばあっという間だ。その前に、龍谷、京大、関大という、どれ一つ負けられない試合が連続していることを考えると、実際に練習に充てられる日数は限られる。休養もとらなければならないし、栄養も補給しなければならない。もちろん、授業もあるし、筋力トレーニングやミーティングに費やす時間も必要だ。練習に充てられる日数、時間は本当に短い。
その限られた時間をどう使うか。効果的な練習とは何か。それをチームの全員がわがこととして考えなければならない。考えたことを実行しなければならない。相手チームを圧倒するための戦術を練り、その戦術をチームとして完璧にこなせるように鍛錬しなければならない。
もちろん、ファイターズには長い歴史の中で積み重ねてきたノウハウがある。監督やコーチが培ってきた蓄積もある。それは、どんなチームと比べても、見劣りするものではない。けれども、それを実際の試合で完璧にこなし、チームに勝利をもたらせるためには、チーム全員の力と協力が欠かせない。
毎日、毎時間、毎分、毎秒の完全な取り組みがチーム全員に求められる由縁である。失敗をして落ち込んだり、成功して有頂天になったりしている時間は寸秒もない。
もっと大事なことがある。4年生にとっては、残された1試合、1試合がこのチームを去っていく日までの「1里塚」であるということだ。みんなと一緒に練習に取り組み、試合に臨めるのは残り50日。幸運に恵まれて関西リーグを制覇し、甲子園ボウルに勝ったとしても、1月3日まではもう3カ月を切っている。泣いても笑っても、もうそれだけの時間しか残されていないのである。
「去りゆく人」つまり、4年生にとっては、それこそ毎日が飛ぶように過ぎていく思いだろう。3年生、2年生、1年生にとっても、4年生と一緒にプレーできる時間は、もう10本の指で数えられるほどしかなくなっている。
その貴重な時間をどう過ごすか。生涯で最も充実した50日とするのか、それとも後悔だらけの期間にしてしまうのか。すべては選手、スタッフを含めたファイターズ全員の取り組みにかかっている。昨年度の主将、松岡君が口癖のように言っていた「甲子園ボウルの前の1日も、今日の1日も同じ1日だ。悔いのない練習をしよう」という言葉を、全員がかみしめてほしい。
下級生は「去りゆく人」を気持ちよく送り出すために、4年生は心豊かにチームを去っていくために、限りある時間、寸刻寸秒を慈しみ、大切にしたい。全身全霊を込めて、練習に取り組んでいただきたい。
とりわけ元監督の武田建先生から送られてくるメールが励みになる。指導者としての長年の経験、現役の心理学者、カウンセラーとしてのものの見方、考え方、それらに裏打ちされたご意見やご指摘は、いつも刺激たっぷりで、考えるヒントが一杯詰まっている。
先日、アップした「4年生の役割」に寄せていただいた感想がその典型。私信ではあるが、差し支えのない部分を紹介したい。こんな文面が含まれていた。
「記事を拝見していて、これからのシーズン、ああした試合の紹介やご意見という形で、4年生への送別というか、お別れの文章が載るのだな……と感じています。石井さんにとっては、入学前から文章の指導をなさり、ご自分の息子のようなお気持ちだと思います。そして彼らが最上級生になり、立派な活躍をしてくれてうれしいけれども、1試合、1試合、彼らの卒業が近くなるのです」
「私が大学や高等部の監督時代もそうでした。まだ、高等部の時代は大学でのプレーを見ることも出来ました。でも、大学時代にはこれで彼らは出て行ってしまうのだ!というさみしさと彼らなしで(来年は)試合をしなくてはならないという恐怖と戦っていました」
そういうことだ。秋の関西リーグが始まったばかりだというのに、僕はもう、あと残り4試合、それを勝ち抜いて甲子園ボウルやライスボウルに進出しても残り7試合、日数にすると、リーグ戦最終の立命戦まで残り50日ほどしかないという焦燥感と、その限られた日数が持つ意味の重大性、そしてある種の寂しさを感じている。
シーズンが始まってまだ1カ月。まだ3試合しか戦っていないのに、一体、何を寝ぼけたことを、と思われる人が多いかもしれない。けれども50日といえばあっという間だ。その前に、龍谷、京大、関大という、どれ一つ負けられない試合が連続していることを考えると、実際に練習に充てられる日数は限られる。休養もとらなければならないし、栄養も補給しなければならない。もちろん、授業もあるし、筋力トレーニングやミーティングに費やす時間も必要だ。練習に充てられる日数、時間は本当に短い。
その限られた時間をどう使うか。効果的な練習とは何か。それをチームの全員がわがこととして考えなければならない。考えたことを実行しなければならない。相手チームを圧倒するための戦術を練り、その戦術をチームとして完璧にこなせるように鍛錬しなければならない。
もちろん、ファイターズには長い歴史の中で積み重ねてきたノウハウがある。監督やコーチが培ってきた蓄積もある。それは、どんなチームと比べても、見劣りするものではない。けれども、それを実際の試合で完璧にこなし、チームに勝利をもたらせるためには、チーム全員の力と協力が欠かせない。
毎日、毎時間、毎分、毎秒の完全な取り組みがチーム全員に求められる由縁である。失敗をして落ち込んだり、成功して有頂天になったりしている時間は寸秒もない。
もっと大事なことがある。4年生にとっては、残された1試合、1試合がこのチームを去っていく日までの「1里塚」であるということだ。みんなと一緒に練習に取り組み、試合に臨めるのは残り50日。幸運に恵まれて関西リーグを制覇し、甲子園ボウルに勝ったとしても、1月3日まではもう3カ月を切っている。泣いても笑っても、もうそれだけの時間しか残されていないのである。
「去りゆく人」つまり、4年生にとっては、それこそ毎日が飛ぶように過ぎていく思いだろう。3年生、2年生、1年生にとっても、4年生と一緒にプレーできる時間は、もう10本の指で数えられるほどしかなくなっている。
その貴重な時間をどう過ごすか。生涯で最も充実した50日とするのか、それとも後悔だらけの期間にしてしまうのか。すべては選手、スタッフを含めたファイターズ全員の取り組みにかかっている。昨年度の主将、松岡君が口癖のように言っていた「甲子園ボウルの前の1日も、今日の1日も同じ1日だ。悔いのない練習をしよう」という言葉を、全員がかみしめてほしい。
下級生は「去りゆく人」を気持ちよく送り出すために、4年生は心豊かにチームを去っていくために、限りある時間、寸刻寸秒を慈しみ、大切にしたい。全身全霊を込めて、練習に取り組んでいただきたい。
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