石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2011/9

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(21)嵐の中の開幕

投稿日時:2011/09/07(水) 08:44

 台風である。豪雨、それも72時間の総雨量が1000ミリを超す、想像もつかないほどの歴史的な豪雨である。
 先週の土曜から日曜にかけて、紀伊半島中央部には、地球の天井が破れたような大雨が降った。僕が働いている新聞社のある和歌山県田辺市でも山が崩れ、土石流が氾濫して多くの家屋が倒壊した。人命も失われた。生活道路はもちろん、幹線道路も至る所で寸断され、数え切れないほどの集落が孤立状態に置かれた。停電は続き、水道は断水したまま。携帯電話も固定電話も通じない。状況がつかめないから、被害の全容も把握できない。道路が不通だから、復旧工事の車両や大型重機も搬入できない。
 そういう厳しい状況だから、取材する記者も命がけである。車1台が通るのがぎりぎりという間道を縫って現場に走る。2次災害の危険を承知しながら、行方不明者の救出作業を取材する。氾濫する暴れ川の写真を撮影する。わが部下ながら、その奮闘ぶりには本当に頭が下がる。まったく場違いな場所ではあるが、この場を借りて(多分、社内の人間はだれもこのコラムを読んでいないだろうが)彼、彼女らの献身的な努力に、心からの称賛を贈りたい。ありがとう。
 若い記者たちがこのように奮闘しているのに、その上司である僕は、西宮の自宅で立ち往生である。職場に駆けつけようとしても、電車も高速道路も不通。身動きがならない。何より、4日はファイターズの開幕戦である。それを見捨てて、田辺に駆けつけるという選択肢ははじめからなかった。
 代わりに、3日は台風の間隙を縫って、上ヶ原の第3フィールドに出かけ、平郡雷太氏の記念碑に手を合わせ、彼を悼んで植えられた山桃の葉っぱを一枚、お守りとして頂戴してきた。帰りには上ヶ原の八幡さまに立ち寄り、100円玉をチャリンと賽銭箱に投げ込んだ。ファイターズの勝利を祈り、選手諸君の活躍をお願いしてきた。100円分の功徳はあるだろう。
 ついでに、関西学院のシンボルである時計台に手を合わせ、ランバス礼拝堂も、外からそっと拝んできた。西洋の神様、日本の神様、そして天の雷様にまで、あれやこれやとお祈りしてきたから、きっと御利益があるに違いない。
 そうして迎えた同志社戦。ファイターズは、立ち上がりこそぎこちなかったが、次第に力を発揮し、終わってみれば48-0。堂々の勝利だった。
 試合の流れは、得点経過にそのまま表れている。第1QはK大西のフィールドゴールによる3点だけ。無用な反則があったり、ゴール前で攻めあぐんだりして、攻撃がリズムに乗れなかった結果である。守備陣も、相手QBの手の込んだ「めくらまし」に振り回される場面が続いた。
 第2Qになると、攻守ともにようやく落ち着いてきた。6分45秒、RB望月の中央突破で待望のTD。大西のキックも決まって10-0。11分、相手が無理に投げ込んだミドルパスをDB池田が余裕でインターセプト、そのままゴールまで65ヤードを走り込んでTD。大西のキックも決まり17-0。
 後半に入ると、ファイターズの攻守の歯車がかみ合ってくる。松岡、野々垣、鷺野の快足RBトリオと、パワフルな望月のランを使い分け、次々にダウンを更新。野々垣の左サイドラインをかけ上げる59ヤードの独走TDなど、ランプレーだけで4本のTDを決め、大西のフィールドゴールとあわせ、後半だけで31点。
 守備陣も2度のパントブロックなど、激しいチェックで相手を寄せ付けない。前半、幻惑されていた相手QBの動きにも、梶原を中心としたDL陣がパワーで対抗。ぴたりと動きを封じ込んでしまった。
 振り返れば、ファイターズの仕上がりの良さが目についた。だが、それ以上にこの試合で僕が注目したのは、選手たちの必死懸命の取り組みだった。
 例えばそれは、松岡主将の率先垂範ぶりに表れていた。昨年、負傷した左肘のけがが回復途上というのに、終始、試合に出続け、チームを勇気づけた。なにしろ、本職のRBだけでなく、リターナーとしても出ずっぱりだったのだ。それは今季に賭ける主将の意気込みを絵に描いたような場面だった。
 後半出場したQB糟谷は、中途半端に投げたパスが相手DBにインターセプトされた。しかし、その途端、とうてい追いつけないような逆サイドから懸命にボールキャリアを追いかけ、ゴール前10ヤード付近でタックルに成功。一発TDを食い止めた。
 このプレーに奮い立った1年生DL岡部は、次のプレーで相手QBをサック。10ヤード以上のロスを奪った。続く2プレーも守備陣がロスを奪い、結局、フィールドゴールの狙えない位置まで相手を追い込んで完封に成功した。失敗を自らのプレーで挽回した4年生QB、それを意気に感じて奮い立った1年生。攻守の歯車がかみ合うとは、こういう場面をいうのだろう。
 松岡主将を中心に、気持ちを前面に出して戦う今季のファイターズに注目したい。

(20)お願いが一つ

投稿日時:2011/09/01(木) 17:23

 自分でいうのもなんだが、今年の夏はよく働いた。
 新聞社では、夏休みもとらずに働き、週末はスポーツ推薦でファイターズを志望してくれる高校生を相手に勉強会。その合間を縫って、ファイターズの歴史を勉強し、古いOBの方々にもお会いして貴重な話を聞かせていただいた。東鉢伏の合宿にも、泊まりがけでお邪魔したし、練習を見るためにグラウンドにも足を運んだ。
 仕上げがこの秋、関西学院がアエラと組んで発行する「アエラムック」の原稿執筆。これが難物だった。なんせ、分量が多い。関西学院の宣伝媒体として作成するという目的から考えても、不細工なことは書けない。もちろん、ファイターズのことは目一杯宣伝しなければならない。結構、プレッシャーを感じる仕事だったが、小野コーチをはじめ、ディレクターの伊角さん、ディレクター補佐の宮本さん、石割さんらの全面的な支援によって何とか仕上げることができた。
 いまは、子どもの頃、夏休みの最後、ぎりぎりになって宿題を仕上げた時のような開放感に浸っている、といいたいところだが、気がつけばシーズン直前。コラムの更新を急がなければならない。夏の間に読もうと、山本周五郎の本をため込んでいたが、のんびり読書を楽しんでいる場合ではないのである。
 チームの仕上がり具合については、外野の僕がとやかくいうことはない。百聞は一見に如かず。4日の同志社戦を観戦していただければ、たいていのことは分かる。あえて結論だけをいえば「今年は期待できる」。もっとも、振り返ってみれば毎年、この時期にはこんな台詞を吐いている。ファンとしての願望のこもった結論である。
 下級生の成長で、オフェンスもディフェンスも層が厚くなり、1本目のメンバーが充実しているだけでなく、2本目との力の差が従来に比べ相当縮まっている。松岡主将を中心とした4年生が指導力を発揮し、チームの士気も高い。だから「今年は期待できる」と断言するのである。
 答えが出るのはシーズンが押し詰まり、もっともっと寒くなってからのことであるが、シーズンの開幕にあたり、このコラムをお読みいただいている皆さんに、お願いがある。それは、もっとスタジアムに足を運んでいただきたいということである。友人や知人を誘って、一緒に観戦していただければ、もっとありがたい。若い人、それも女性を誘って、一緒に観戦していただければ、もっともっとありがたい。
 近年、関西学生リーグは力が拮抗し、内容的に非常に充実した試合が続いている。僕が観戦するのはファイターズが中心だが、試合を見るたびに満足し、本当に面白いスポーツだと感動する。もちろん10年前、20年前にも素晴らしい試合があったが、それは極端にいえば関学と京大の試合や立命館との試合に限られていた。
 ところがいまは、下位に位置するチームとの対戦でも、見所はいっぱいある。それぞれのチームが戦力を充実させ、作戦を練って試合に臨んでいるからだろう。
 にもかかわらず、スタジアムに足を運ぶファンは、年々減少している。もちろん、古くからのファンや選手の保護者らは、開門前から列を作るほど熱心だが、20数年前、関学と京大が覇権を争っていたころに比べると、明らかに客足は落ちている。
 もったいない。試合内容は年々充実し、観戦した人は毎回、満足してスタジアムを後にしているのに、その試合を見る人が減っていくというのは、あまりにもったいない。
 何とかして、より多くの方に競技場に足を運んでいただきたい。とにかく若いファンを増やしたい。そのためには、選手の友人、知人に来てもらうこと、そして僕たちもとにかく誰かを一緒に連れてくること、これしかないと考える。
 登山、山歩きの世界ではいま「山ガール」がのし歩いている。従来の登山家、という常識では考えられないようなおしゃれなファッション、若々しく颯爽とした身ごなし。そんな若い女性が北アルプスや八ヶ岳、近くでは六甲山界隈に急激に増殖、登山イコール苦行、という印象を一変させてしまった。おしゃれな若い女性が集まれば、当然、男の子がついてくる。かくしていま、各地の山は若者であふれている。ほんの数年前まで、登山といえば、じいちゃん、ばあちゃんの健康づくり、という感覚だったのとは様変わりである。
 このブームをアメフット界にも巻き起こしたい。僕は宣伝の専門家ではないから、気の利いたことはいえないけど、とりあえずは一人ずつでもいいから、若い女性をスタジアムに誘うことから始めたい。ファンの皆さんにも、ぜひご協力をお願いしたい。
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