石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2011/11

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(30)予想という名の願望

投稿日時:2011/11/15(火) 21:25

 京大戦の朝は、5時に起きた。家人は誰も熟睡中。朝刊を読み終え、静かにシャワーを浴びて、すっきりしたところで机に向かう。その日の天候を見て、試合展開を予測し、自分が監督やコーチになったつもりで、勝手な作戦を練る。活躍してくれそうな選手の顔と名前が次々に浮かんでくる。試合当日、誰にも邪魔されたくない至福の時間が始まる。
 勝手に考えた作戦は当たることもあるし、当たらないこともある。活躍してくれそうな選手が思いの外調子が悪かったり、思わぬ選手が活躍してくれることもある。誰に相談することもなく、事前に誰かに打ち明けることもないから、予測が当たろうが外れようが、そんなことはどうでもよい。自分の「今日の試合はこのように展開してほしい」という願望を「作戦」と称しているだけだから、誰に迷惑をかけることもない。
 この「作戦」というより「願望」が、京大戦では8割方的中した。自分でも驚きながら、このコラムを書いている。
 まず、ロースコアのゲームになることを前提に、互いに辛抱、我慢の展開になると予想し、キッキングの出来不出来が勝敗を分けるとにらんだ。試合で目立った活躍をしてくれそうな予感がしたのは、オフェンスでは主将松岡、WR和田、小山、そしてK大西である。それぞれ、キッキングゲームにおいても、必ずヒーローになる場面が来るはずと、勝手な願望を付け加えた。さらに、ほんの短い時間、グラウンドに登場するであろう4年生、例えばQB糟谷やRB兵田らが目立つ場面が必ずあるとも予想した。
 デフェンスの予測が難しかった。誰もがヒーローになる可能性があるし、ひょっとしてポカをしでかす選手が出てくるのではないかという懸念も、頭の片隅にはあった。しかし、僕の頭では、どう守れば一番効果があるのか、という答えは出てこなかった。結局、つまらないことを考えるより、DL、LB、DB諸君の高い運動能力と俊敏な動きに期待しよう、相手がどんな秘策を練ってきても、誰かが必ずカバーしてくれる、大崩れはないと信じるしかない、と結論づけて、それ以上は考えるのをやめた。外野は無責任である。
 さて、試合である。立ち上がり、ファイターズは松岡の35ヤードリターンで50ヤードからの攻撃。先発の糟谷がいきなり中央を突破して7ヤードを獲得。味方を奮い立たせる元気なプレーである。3回のランプレーでダウンを更新すると、QB畑から小山への36ヤードのパスが炸裂、いきなり相手ゴール前4ヤードに攻め込む。
 ところが、ここで京大の守備陣が踏ん張る。強烈なタックルでRB望月のダイブプレーを跳ね返し、残り4ヤードを守りきる。結局は大西のFGで3点。
 ランプレーに徹した京大の攻撃シリーズを全員で食い止め、再びファイターズの攻撃。今度は畑からTE金本、WR和田へのパス、松岡のドロープレー、さらにはトリッキーなパスプレーなどを交えて、あっという間に敵陣21ヤード。だが、ここからが攻めきれない。大西のFGも失敗して無得点。
 第2Qに入って最初の攻撃シリーズもちぐはぐだった。QBのファンブルで大きく陣地を失った後に、小山へのパスが成功。ようやく落ち着いたかと思った瞬間に、パスインターセプト。相手に攻撃権を奪われ、あげくにFGにまで持ち込まれて3-3の同点。
 だが、主将松岡があわやTDかと思わせる77ヤードのキックオフリターンでファイターズの士気を奮い立たせる。相手ゴール前20ヤードからの攻撃で畑が和田へのパスを成功させ、残り7ヤード。だが、反則による罰退などで、ここでもTDは取れず、大西のFGによる3点のみ。
 次のシリーズでは、キッキングチームが絶妙のカバーを見せ、京大を自陣16ヤードからの攻撃に追いやる。前半、残り時間は1分54秒。ここでファイターズベンチは3回連続でタイムアウトを要求。京大の攻撃機会を封じ、逆に自分たちの攻撃時間を確保しようと試みる。この積極的な作戦に守備陣が応え、京大の攻撃を完封して攻撃権を取り戻す。
 残り時間は1分54秒。ゴール前35ヤード付近からの攻撃は和田と小山へのパスで、あっという間にゴール前数ヤード。しかし、そこからが攻めきれない。通ったと思ったTDパスをはじいたりして、またまた大西のFG。結局、前半は互いにTDが奪えずフィールドゴールだけの9-3。
 後半になっても、京大守備陣のスタミナは衰えない。攻撃陣も果敢にパスを通して攻め込んでくる。しかし、守備陣が奮起し、肝心なところは食い止める。
 ファイターズの攻撃陣も、京大ディフェンスの素早くて強力な守りに手を焼き、後半は3度もパントに追い込まれた。しかしその都度、大西が滞空時間の長いパントを相手陣深くまで蹴り込み、主導権は渡さない。
 そんな中、後半、唯一のチャンスとなった場面で、大西が47ヤードのFGを決めて3点を追加。キッキングチームを率いるリーダーの意地とプライドを見せつけた。
 厳しい状況下で、何度もスーパーキャッチを見せた和田、リターナーとしても再三、ロングゲインを奪い、士気を鼓舞した松岡らの活躍もあって、4年生が引っ張っていくチームの姿がようやく見えてきた。我慢と辛抱、勝つための高いモラルも見えてきた気がする。
 立命戦まで、あと10日余り。京大戦で見せた粘りと勇気を、チーム全体でさらに進化させ、決戦に挑んでほしい。

(29)ファイターズの標準

投稿日時:2011/11/08(火) 09:24

 シーズンが佳境に入ってくると、なぜか、今季のチームにまつわるいろいろな場面が脳裏に浮かんでくる。
 例えば春先、甲山までの走り込みの練習でこんな場面に出くわした。先頭から遠く引き離された最後尾の4年生が第3フィールドに戻ってきた時のことだ。その選手は強靱な体を持ち、当たる力も瞬発力もあるが、長距離走は苦手らしい。息も絶え絶えの様子で、両脇をマネジャーとトレーナーに抱えられるようにして、八幡神社の角を曲がり、フィールド入口のロータリーに姿を見せた。
 それを出迎えたのが一足早くゴールしていたK大西君ら数人。「もう一息!」「がんばれ!」と声を掛け、励ましながら、一緒に走り出した。その声に元気づけられて選手は、一瞬、うれしそうな表情をみせ、最後の力を振り絞って、ゴールまでを走り切った。
 選手に伴走して、最後まで走り切らせたマネジャーとトレーナー。自身も疲れているはずなのに、わざわざ出迎えにきて、フィニッシュを決めさせた仲間たち。このシーンを巧まずして演出した関係者全員が4年生だったというところに、今季のチームの結束力を見た。
 春のシーズンが始まった頃には、雨の日の練習でこんな場面にも遭遇した。主将の松岡君に副将の長島君が激しくくってかかり、殴りつけそうになったのだ。それも1度だけではなく、2度、3度。そのたびに周囲が止めに入って事なきを得たが、少し離れたところにいた僕は、一体何事が起きたのか、とオロオロした。
 あとで聞くと、雨でボールが手につかず、RBの選手が何度もファンブルしたことに、守備のリーダーである副将が腹を立て「もっときちんとやれ、こんなことしてたら練習にならないじゃないか」と、攻撃の責任者である主将に詰め寄ったのだという。練習への取り組みについて不満があれば、その場で即座にぶつかっていく。たとえ相手が主将であっても、いうべきことはいう。
 その場は激しくやり合っても、それが感情のもつれにつながることはない。今年の幹部は、そういう信頼感、強い絆で結ばれているからこそ、遠慮なく感情をむき出しにすることができるのだ、と妙に感心し、納得した場面だった。
 夏の暑い日、照りつける太陽の下で、営々と股関節や肩胛骨の可動域を広げる練習に励んでいた選手たちの姿も忘れられない。大きな声で互いに声を掛け合い、汗をぬぐうまもなく、体幹の強化にいそしむ。地味な練習であり、すぐには効果が表れない鍛錬である。けれども、体幹を強化し、股関節や肩胛骨の稼働域を広げることは、昔から相撲取りや武芸者が取り組んできた稽古法である。
 ある日僕は、現代の日本を代表する武術者として知られる甲野善紀さん(師匠のことはNHKが今週木曜日午後10時55分からの番組で特集するそうだ。そこでは、僕が撮影した、師匠と巨人のエースだった桑田真澄さんが稽古中の写真も登場するというから、お暇な方は注目して下さい)の肩胛骨の動きを見せていただいたことがある。体をゆるめると肩胛骨自体が折りたたまれてなくなったように見えるし、力を入れると、背中全体が張り詰め、まな板か鉄板のようになってしまう。その稼働域の広さを目のあたりにして、これが師の「驚嘆の武術、体全体を参加させた動き」の源にあるのだと実感した。
 肩胛骨や股関節の稼働域を広げることは、けがのない体を作ることでもあり、人間の体で一番強力な大腿の筋肉を全身に効率よく伝えて、ブロックやタックルの威力を倍増させる源でもある。
 今季、ファイターズの選手たちの多くが大きなけがをすることもなく戦えているのは、冬から夏にかけて、こういう地味な取り組みを営々と続けてきたからではないか。夏休み、学生たちの姿の消えた大学に登校し、ひたすらファイターズの選手やトレーナー、マネジャーらが地味な練習に取り組んでいた姿を思い出すと、ある種の感慨を覚える。
 こういう場面はしかし、いつの時代のチームにも「普通」にあったことだろう。仲間を励まし、時には激しく感情をぶつけ合い、そして人の見ていないところで地味な練習を積み重ねる。それをことさら言い立てず「スタンダード」「当たり前」としてきたのがファイターズの強さの根源だったのではないか。
 今季ファイターズの「スタンダード」「標準」がなぜか新鮮に見えるのは、先に挙げたような場面が日常の風景になっていることが関係しているのだろう。「当たり前」が「当たり前」として機能しているのである。
 この「当たり前」を、これからの困難な戦いでも発揮してほしい。目の前には京大、その向こうには立命が控えている。冬から春へ、春から夏へとひたすら鍛えてきた成果を発揮するのはこれからだ。
 ファイターズは、いまが伸び盛り。4年生を中心にした強固な結束力で、さらなる高みを目指してほしい。日々、発展を続けてきたチームが試合を重ねるたびに、もっともっと強くなっていく姿が見たい。
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