石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2009/11
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(28)死闘
投稿日時:2009/11/10(火) 10:08
どうして京大との試合は、毎年、あんなにもつれるのだろう。
2004年がその典型だった。宿敵立命を倒し、甲子園ボウルを目前にして臨んだ西京極競技場の京大戦。相手パントを自陣最深部で落としたり、後ろパスを失敗したり、ファイターズには信じられないミスが続いた。そのたびに京大に攻撃権を奪われ、それをことごとく得点に結びつけられて、思いもよらぬ敗退。立命との甲子園ボウル出場権をかけた再試合も、3度の延長戦の末に敗れた。
7日、神戸のユニバースタジアムで行われた今年の京大戦も、逆転また逆転のきわどい戦い。試合終了の笛が鳴ったとき、ファイターズが1点をリードしていたから、勝利が手に入ったが、勝利の女神が京大にほほえんでいても、少しもおかしくない内容だった。
立ち上がり、レシーブを選択したファイターズは自陣30ヤードからの第1プレー。RB松岡が右オフタックルを抜け、一気に70ヤードを独走してタッチダウン(TD)。ファイターズ1のスピードランナーの目の覚めるようなプレーで観客席の度肝を抜いた。
続く京大の攻撃をDL長島の2度のタックルで簡単に抑え、自陣42ヤードから再びファイターズの攻撃。RB久司のラン、WR松原への38ヤードパスなどわずか4プレーで相手ゴール前1ヤードに迫る。加藤が落ち着いたキーププレーでTDを決め、大西のキックも決まって14-0。ここまでは、完全にファイターズが主導権を握っていた。
ところが、次の京大の攻撃が止まらない。QB桐原のタイミングをずらせた2種類のランプレーと、WR中村への的確なパスをキーに、ぐいぐいと攻め込んでくる。あれよあれよという間にゴール前に迫られ、仕上げは中村へのパスが決まって7点差。
2Q5分51秒に大西が22ヤードのフィールドゴール(FG)を決め、ファイターズが17-7とリードして前半を終えたが、手に汗を握るドラマは後半に待っていた。
後半は京大のレシーブで攻撃開始。自陣25ヤードからQB桐原のランとWR中村へのパスをキープレーに、京大の進撃が始まる。ファイターズ守備陣は、それを必死に食い止めようとするのだが、巧妙にパスとランを裏表に使い分けられ、ターゲットが絞れない。5分39秒を費やしてぐいぐい押し込まれ、ついにTDを許してしま
う。
浮足だったファイターズは次の攻撃シリーズでいきなりパスを奪われ、あげくにレートヒットの反則まで加わって、ゴール前14ヤードから京大に攻め立てられる。ここは、守備陣が踏ん張ってFGで抑えたが、それでも3点を奪われ、ついに17-17の同点。
4Qに入り、再び京大の攻撃。自陣20ヤードから、再び桐原のランと中村へのパスをキーに、怒涛のような攻撃を展開する。またも5分近い攻撃を続け、仕上げは中村への4ヤードパスでTD。キックも決まって、ついに京大が7点のリード。
攻めては京大のブリッツに悩まされ、守ってはパスとランに振り回され、流れは完全に京大に傾いている。観客席から見ていると、実際の点差以上にゲーム内容が開いてしまったような感じさえする。
しかし、選手たちはくじけていなかった。加藤は時に孤立させられながらもパスを投げ続け、萬代を中心にしたWR陣がそれを好捕する。ついに4Q7分59秒、加藤からの18ヤードのパスを萬代が確保してTD。キックを決めれば同点という場面だが、ベンチは逆転を狙ってプレーを選択する。右に松原、柴田、萬代というファイターズが誇る3人のレシーバーを並べて相手守備陣を幻惑、マークが乱れたところへ走り込んだ萬代に、加藤が落ち着いてパスを決めた。
ファイターズが1点をリードしたが、京大も負けてはいない。残り3分53秒から始まった次のシリーズ。3分以上を費やす攻撃で42ヤードのFGにつなげ、再び逆転する。
残り18秒。自陣42ヤードからファイターズの攻撃が始まる。しかし、タイムアウトは3回を使い切っているので、時間とも戦わなければならない。ここで加藤がこの日、一番信頼している萬代に42ヤードのパスをヒット、ゴール前16ヤードに迫る。残り時間は4秒。加藤がすぐにボールをスパイクして時計を止めたが、残りは2秒。相手ベンチや選手からのヤジで騒然とする中、大西が冷静に33ヤードのFGを決めて試合終了。得点は28-27。薄氷を踏む勝利だった。
けれども、大きな勝利だった。試合後、鳥内監督は「勝てただけが収穫。あとはなにもなし」と記者団の質問に答えていたが、それが実感だったろう。
けれども、完全に京大のペースになっていた試合を、最後まであきらめず、選手が一丸となって勝利に結びつけた。そこに意義がある。リーグ戦で1勝しかしていない京大にここまで苦戦を強いられた背景、実情を考えると、とても喜べるような気分にはなれないだろうが、それでも勝ち切ったことが素晴らしい。投げるべきパスを投げ、捕るべきボールをキャッチし、蹴るべくボールを正確にけり込んだ。もちろんラインもダミーになる選手も、それぞれの役割をきちんと果たした。
その結果としての勝利である。たとえ内容は、薄氷を踏むような勝利とはいえ、大いに誇りにできる勝利である。最後の最後に結集したチームの意地を、次の立命戦にも見せてほしい。結果はついてくるはずだ。
2004年がその典型だった。宿敵立命を倒し、甲子園ボウルを目前にして臨んだ西京極競技場の京大戦。相手パントを自陣最深部で落としたり、後ろパスを失敗したり、ファイターズには信じられないミスが続いた。そのたびに京大に攻撃権を奪われ、それをことごとく得点に結びつけられて、思いもよらぬ敗退。立命との甲子園ボウル出場権をかけた再試合も、3度の延長戦の末に敗れた。
7日、神戸のユニバースタジアムで行われた今年の京大戦も、逆転また逆転のきわどい戦い。試合終了の笛が鳴ったとき、ファイターズが1点をリードしていたから、勝利が手に入ったが、勝利の女神が京大にほほえんでいても、少しもおかしくない内容だった。
立ち上がり、レシーブを選択したファイターズは自陣30ヤードからの第1プレー。RB松岡が右オフタックルを抜け、一気に70ヤードを独走してタッチダウン(TD)。ファイターズ1のスピードランナーの目の覚めるようなプレーで観客席の度肝を抜いた。
続く京大の攻撃をDL長島の2度のタックルで簡単に抑え、自陣42ヤードから再びファイターズの攻撃。RB久司のラン、WR松原への38ヤードパスなどわずか4プレーで相手ゴール前1ヤードに迫る。加藤が落ち着いたキーププレーでTDを決め、大西のキックも決まって14-0。ここまでは、完全にファイターズが主導権を握っていた。
ところが、次の京大の攻撃が止まらない。QB桐原のタイミングをずらせた2種類のランプレーと、WR中村への的確なパスをキーに、ぐいぐいと攻め込んでくる。あれよあれよという間にゴール前に迫られ、仕上げは中村へのパスが決まって7点差。
2Q5分51秒に大西が22ヤードのフィールドゴール(FG)を決め、ファイターズが17-7とリードして前半を終えたが、手に汗を握るドラマは後半に待っていた。
後半は京大のレシーブで攻撃開始。自陣25ヤードからQB桐原のランとWR中村へのパスをキープレーに、京大の進撃が始まる。ファイターズ守備陣は、それを必死に食い止めようとするのだが、巧妙にパスとランを裏表に使い分けられ、ターゲットが絞れない。5分39秒を費やしてぐいぐい押し込まれ、ついにTDを許してしま
う。
浮足だったファイターズは次の攻撃シリーズでいきなりパスを奪われ、あげくにレートヒットの反則まで加わって、ゴール前14ヤードから京大に攻め立てられる。ここは、守備陣が踏ん張ってFGで抑えたが、それでも3点を奪われ、ついに17-17の同点。
4Qに入り、再び京大の攻撃。自陣20ヤードから、再び桐原のランと中村へのパスをキーに、怒涛のような攻撃を展開する。またも5分近い攻撃を続け、仕上げは中村への4ヤードパスでTD。キックも決まって、ついに京大が7点のリード。
攻めては京大のブリッツに悩まされ、守ってはパスとランに振り回され、流れは完全に京大に傾いている。観客席から見ていると、実際の点差以上にゲーム内容が開いてしまったような感じさえする。
しかし、選手たちはくじけていなかった。加藤は時に孤立させられながらもパスを投げ続け、萬代を中心にしたWR陣がそれを好捕する。ついに4Q7分59秒、加藤からの18ヤードのパスを萬代が確保してTD。キックを決めれば同点という場面だが、ベンチは逆転を狙ってプレーを選択する。右に松原、柴田、萬代というファイターズが誇る3人のレシーバーを並べて相手守備陣を幻惑、マークが乱れたところへ走り込んだ萬代に、加藤が落ち着いてパスを決めた。
ファイターズが1点をリードしたが、京大も負けてはいない。残り3分53秒から始まった次のシリーズ。3分以上を費やす攻撃で42ヤードのFGにつなげ、再び逆転する。
残り18秒。自陣42ヤードからファイターズの攻撃が始まる。しかし、タイムアウトは3回を使い切っているので、時間とも戦わなければならない。ここで加藤がこの日、一番信頼している萬代に42ヤードのパスをヒット、ゴール前16ヤードに迫る。残り時間は4秒。加藤がすぐにボールをスパイクして時計を止めたが、残りは2秒。相手ベンチや選手からのヤジで騒然とする中、大西が冷静に33ヤードのFGを決めて試合終了。得点は28-27。薄氷を踏む勝利だった。
けれども、大きな勝利だった。試合後、鳥内監督は「勝てただけが収穫。あとはなにもなし」と記者団の質問に答えていたが、それが実感だったろう。
けれども、完全に京大のペースになっていた試合を、最後まであきらめず、選手が一丸となって勝利に結びつけた。そこに意義がある。リーグ戦で1勝しかしていない京大にここまで苦戦を強いられた背景、実情を考えると、とても喜べるような気分にはなれないだろうが、それでも勝ち切ったことが素晴らしい。投げるべきパスを投げ、捕るべきボールをキャッチし、蹴るべくボールを正確にけり込んだ。もちろんラインもダミーになる選手も、それぞれの役割をきちんと果たした。
その結果としての勝利である。たとえ内容は、薄氷を踏むような勝利とはいえ、大いに誇りにできる勝利である。最後の最後に結集したチームの意地を、次の立命戦にも見せてほしい。結果はついてくるはずだ。
(27)大学祭から遠く離れて
投稿日時:2009/11/02(月) 08:26
上ケ原のキャンパスで、10月30日の午後から大学祭が始まった。中央芝生の特設ステージではにぎやかなバンドの演奏が続き、学内のちょっとした空き地には、びっしり売店や屋台が並ぶ。
とにかく大変なにぎわいである。どこにこんなに学生がいたのかと思うほど多くの学生がつめかけ、銀座通りなどは人で一杯。新型インフルエンザの患者がいれば、一気に感染が広がってしまいそう、と余計な心配もしたくなるほどだ。
聞けば、11月3日の後夜祭を終えて4日の後かたづけまで「日本で一番期間が長い」大学祭だという。この祭りの準備から当日のイベントまで、各種サークルや団体が注ぎ込んできたエネルギーのことを考えると、参加したメンバーが高揚した気持ちになるのも分かる気がする。
けれども、大学祭は秋の数日間。いくら準備に時間をかけ、盛り上がっても、祭りが終われば、おしまいである。後かたづけが終われば、メンバーはまた授業に戻り、大学生としての日常生活が始まる。
ところが、ファイターズはそうではない。たとえ試合で苦杯をなめようが、リーグ戦が終わろうが、この組織に所属している限り、ずっと勝つための戦い、日本1になるための鍛錬が続く。入部したその日から、卒業する日まで、毎日が「祭りの準備」であり、勝利までの「長い道のり」である。常住坐臥、どんな場面にあっても、高いモラルを求められる生活が続くのである。
大学祭でにぎわうキャンパスと第3フィールドは、距離にして500メートル弱。歩いて5分もかからない。だが、その活動内容、置かれた境遇には、気の遠くなるような隔たりがある。
「だからこそ、ファイターズなんだ」「だからこそ、社会が高く評価してくれるんだ」「はるかに遠く離れている、という点にこそ意味があるんだ」
そんなことを考えながら、祭りの人込みを縫い、上ケ原の八幡さんの前を通って第3フィールドに足を運ぶと、いつものようにファイターズが練習をしている。30日から1日までは、恒例の京大戦前の合宿。ミーティングに練習に、朝から晩まで、アメフット漬けの生活である。
コーチも全員が顔をそろえ、練習の雰囲気も締まってきた。週末ということで、普段、なかなか顔を出す機会のない若手OBの姿も見える。
圧巻は、佐岡(04年度)早川(08年度)という二人の主将が練習台に入ったディフェンスライン。これに現役の先発メンバー平澤、梶原などが加わり、鳥内監督をして「立命のラインより強力ですよ」という豪華な布陣が整った。
こういう「早くて強い」相手だと、オフェンスの練習も効果が上がる。1プレーごとに真剣味が増し、グラウンドの空気が張りつめてくる。本気度が見ている方にも伝わってくる。実際に体をぶつけ合っている選手にすれば、1プレーごとに練習の成果が実感されるのではないか。
こういう練習に、少しでも多く時間を割いてほしい。
もちろん、チームの内部で日ごろからオフェンスとディフェンスが本気になって練習し、互いに高めあうことが基本である。けれども、時にはチームのメンバーが経験したことのないほど高度な技術、スピード、強い当たりなどを、自らの体で体験することがあってもいいだろう。そういう刺激があれば、日ごろの練習に対する取り組みも、より深くなってくるはずだ。
そのためには、技術と経験をもった若手OBに、なるだけ多くグラウンドに顔を出してもらいたい。社会人になったばかりで、毎日、自分の仕事をこなすことに追われていることはよく分かる。それでも、グラウンドに顔を出し、練習台となって後輩を本気にさせてもらいたい。そういうファミリーとしての結束の強さが、ファイターズの伝統であり、財産でもあるはずだ。
とにかく大変なにぎわいである。どこにこんなに学生がいたのかと思うほど多くの学生がつめかけ、銀座通りなどは人で一杯。新型インフルエンザの患者がいれば、一気に感染が広がってしまいそう、と余計な心配もしたくなるほどだ。
聞けば、11月3日の後夜祭を終えて4日の後かたづけまで「日本で一番期間が長い」大学祭だという。この祭りの準備から当日のイベントまで、各種サークルや団体が注ぎ込んできたエネルギーのことを考えると、参加したメンバーが高揚した気持ちになるのも分かる気がする。
けれども、大学祭は秋の数日間。いくら準備に時間をかけ、盛り上がっても、祭りが終われば、おしまいである。後かたづけが終われば、メンバーはまた授業に戻り、大学生としての日常生活が始まる。
ところが、ファイターズはそうではない。たとえ試合で苦杯をなめようが、リーグ戦が終わろうが、この組織に所属している限り、ずっと勝つための戦い、日本1になるための鍛錬が続く。入部したその日から、卒業する日まで、毎日が「祭りの準備」であり、勝利までの「長い道のり」である。常住坐臥、どんな場面にあっても、高いモラルを求められる生活が続くのである。
大学祭でにぎわうキャンパスと第3フィールドは、距離にして500メートル弱。歩いて5分もかからない。だが、その活動内容、置かれた境遇には、気の遠くなるような隔たりがある。
「だからこそ、ファイターズなんだ」「だからこそ、社会が高く評価してくれるんだ」「はるかに遠く離れている、という点にこそ意味があるんだ」
そんなことを考えながら、祭りの人込みを縫い、上ケ原の八幡さんの前を通って第3フィールドに足を運ぶと、いつものようにファイターズが練習をしている。30日から1日までは、恒例の京大戦前の合宿。ミーティングに練習に、朝から晩まで、アメフット漬けの生活である。
コーチも全員が顔をそろえ、練習の雰囲気も締まってきた。週末ということで、普段、なかなか顔を出す機会のない若手OBの姿も見える。
圧巻は、佐岡(04年度)早川(08年度)という二人の主将が練習台に入ったディフェンスライン。これに現役の先発メンバー平澤、梶原などが加わり、鳥内監督をして「立命のラインより強力ですよ」という豪華な布陣が整った。
こういう「早くて強い」相手だと、オフェンスの練習も効果が上がる。1プレーごとに真剣味が増し、グラウンドの空気が張りつめてくる。本気度が見ている方にも伝わってくる。実際に体をぶつけ合っている選手にすれば、1プレーごとに練習の成果が実感されるのではないか。
こういう練習に、少しでも多く時間を割いてほしい。
もちろん、チームの内部で日ごろからオフェンスとディフェンスが本気になって練習し、互いに高めあうことが基本である。けれども、時にはチームのメンバーが経験したことのないほど高度な技術、スピード、強い当たりなどを、自らの体で体験することがあってもいいだろう。そういう刺激があれば、日ごろの練習に対する取り組みも、より深くなってくるはずだ。
そのためには、技術と経験をもった若手OBに、なるだけ多くグラウンドに顔を出してもらいたい。社会人になったばかりで、毎日、自分の仕事をこなすことに追われていることはよく分かる。それでも、グラウンドに顔を出し、練習台となって後輩を本気にさせてもらいたい。そういうファミリーとしての結束の強さが、ファイターズの伝統であり、財産でもあるはずだ。
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