石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(15)決戦!ヤンマースタジアム

投稿日時:2023/11/13(月) 08:34

 11日は立命館との決戦。関西リーグの試合を克明に追っている観戦仲間によれば、今季の学生フットボール界では、実力No.1ではないかという強敵である。
 彼の言葉を借りれば「2年生のQBが素晴らしい。パスも一流だし、自分でも走れる。RBにはスピードでぶっちぎれるメンバーがいるので、一発TDの怖さが常にある」という。
 そんな相手にファイターズはどう対応するか。攻撃では自分たちの長所を最大限に発揮し、守備では相手の長所を無効化できればベストだが、そうは問屋が卸さない。ベンチが知恵を絞って作戦を練り、それを全ての選手が完璧に実行する。そこから道が開ける。さて、その作戦は?と、メンバー表をチェックしながらキックオフを待った。
 ファイターズのレシーブで試合開始。しかし、最初の攻撃シリーズはダウンを更新できず、簡単に攻撃権が相手に移る。これはしんどい試合になるぞ、と思った瞬間、相手RBが最初のプレーでファンブル。相手ゴール前12ヤードという絶好の位置でファイターズに攻撃権が移る。
 よっしゃ、行け!と、周囲の応援席から声が上がる。その声が届く前に、グラウンドではQB星野が相手ゴールに駆け込んだTE安藤にふわっとしたパス。それが見事に通ってTD。相手のミスを逃さずに先制点につなげた。
 立命の次の攻撃は、相手陣30ヤード付近から。スピードのある相手リターナーの独走を防ぐため、あえて奥深くまでは蹴らなかったのでしょう、とスタンドの放送席でファイターズファンに向けた放送をされていたディレクターの小野宏さんが解説されている。
 なるほど、と頷きながら見つめた立命の攻撃。その第1プレーで相手QBが投じたパスをDB中野がインターセプト、一気に相手ゴール前まで走り込む。
 わずか1プレーで好守交代。それも相手ゴール前10数ヤードの好位置。この好機に体重90?、突破力抜群のRB大槻がボールを託された。期待に違わず、2度のランで相手ゴールに突入。チームとして2本目のTDに仕上げ、K大西のキックも決まって14-0とリードを広げる。
 しかし立命の攻撃陣には突破力がある。スピードのあるRB、どこへでも自在にパスを投じるQB。双方の威力を見せつけながら攻め込むから、守備陣は大変だ。なんとかその攻撃をファイターズ守備陣が食い止め、フィールドゴールの3点を与えただけでしのぐ。
 立命は第2Qの次のシリーズも強力なランであっという間に関学のゴール前に迫る。一気にエンドゾーンを落とされるかと覚悟したが、ここからファイターズ守備陣が粘って、最後は4thダウンのギャンブルプレーをロスタックルで阻止した。
 守備陣の頑張りに応えたのがQBの星野。直後の自陣6ヤードからの攻撃で、ロングパスをヒットさせて敵陣に侵入し、その後はランプレーで陣地を進め、残る12ヤードを自身が走りきってTD。21-3と突き放す。今季はけがや病気のため、練習もままならない状態が続いていたが、ようやく回復。自在にフィールドを駆け巡った。その姿を見ながら、決戦を前に、よくぞ戻ってきてくれたと胸をなで下ろす。
 胸をなで下ろすといえば、ディフェンスのキーマン、ショーンも今季初めてフィールドに立ってくれた。ほんの短い時間の出場にとどまったが、その長身を生かしたセンスあふれるプレーは健在。大事な場面で相手のパスをカットするなど期待に違わぬプレーを見せてくれた。難敵・立命が相手だけに、完全回復近しというプレーに、ファンの一人としてほっとした。
 そうこうしているうちに前半は終了。あっという間に後半に入ったが、双方の我慢比べは続く。立命はQBを中心にランとパスを組み合わせた堂々たる攻めを繰り返すが、ファイターズ守備陣が的確に反応し、なかなか陣地を進めさせない。ファイターズもまたランとパスを組み合わせたプレーで陣地を進めるが、TDを奪うところまでは攻めきれない。
 第3Qも半ば近くなったところでファイターズがFGを決め24-3。ようやく優位に立ったと思った瞬間、今度は立命が反撃。ランとパスをたくみに組み合わせて陣地を進め、残り2分を切ったところでTD、14点差に迫る。
 並の相手なら14点の差があれば、そんなに心配することはない。けれども、目の前で切れの良いプレーを展開する相手のオフェンスを見ていると、とても安全圏とは思えない。
 そんな流れを断ち切ったのがDB中野。相手QBがサイドライン際に投じたショートパスを奪い取り、そのまゴールまで64ヤードを駆け込んでTD。31-10と引き離す。彼自身、この日2本目のインターセプトが、そのまま相手の息の根を止めた。
 けれども、スタンドから見ている限り、双方の実力に、この得点差ほどの差はなかったように思える。攻守ともに決定力を持ったライバルを相手に攻守蹴がかみ合ったからこその勝利であろう。
 2年生QBを守り切ったオフェンスライン、たぐいまれな能力を有する相手オフェンスの勢いを1列目、2列目、3列目が互いにカバーし、助け合ってそいだ守備陣。数少ない得点チャンスを確実に得点に結びつけたQB星野とRB、WR陣。さらに言えば、普段の練習時から彼らの長所、短所を掌握し、それぞれの長所が生きるような選手起用、プレー選択を続けた監督、コーチ陣。まさに総力を挙げてつかんだ勝利である。
 リーグ戦も残り1試合。しかし、相手の関大には昨シーズン、悔しい思いをさせられている。この日、活躍の場がなかったメンバーを含め、チームが一丸となってその雪辱を期し、完全優勝を目指してさらなる努力を重ねてもらいたい。

(14)初めてのフットボール記事

投稿日時:2023/11/10(金) 08:56

 職業として新聞記事を書き始めたのは、1968年3月。長野県にある信濃毎日新聞社に入社した翌日のことだ。そこで2年9カ月勤めて朝日新聞社に転職。60歳の定年まで勤めた後、和歌山県にある紀伊民報に再就職し、今年3月末まで一途に記事を書き続けてきた。
 けれども、新聞にフットボールに関係する記事を書いたことは、数えるほどしかない。信濃毎日新聞では地方支局の勤務経験しかなく、朝日新聞では社会部関係の取材、紀伊民報では編集の責任者として論説やコラムを書いてきたからだ。
 野球が好きだったから、それでも野球に関係する記事やコラムを書く機会は少なくなかった。いま話題の阪神タイガースに関係する記事も、その昔、阪神支局や大阪の社会部で働いているときに何本も書いている。
 阪神支局で働いていた1975年11月には、人気絶頂の江夏投手が秋季練習中の甲子園球場に病いに苦しむ小学生を招き、「学校に通えるようになったら、試合で使うボールをプレゼントします」と約束していた「約束のボール」を手渡して励ました話題を特ダネとして社会面のトップに書いた。これは社内の特別の賞を受けたし、1985年に優勝して日本一になった時には、これまた社会面のトップに「生きててよかった」という大見出しの躍る記事を書いた。
 2003年には「週刊朝日」から依頼されて、シーズンの優勝が決まるはるか前の7月15発行の「阪神優勝」と銘打った増刊号に「伊勢神宮で20年に一度、行われる遷宮という聖なる神事と同じように、タイガースもまた、20年単位で応援しなければやっていけないチームである。(中略)試合のたびに一喜一憂せず、優勝という言葉も胸の奥深くにしまって、いまは心静かに20年に一度の聖なる秋に備えようではないか」という長文の署名記事を書いたこともある。
 けれども、アメフット関係の取材にはなぜか縁がなく、初めて社会面に記事を書いたのは1975年の秋。当時、監督だった武田建先生に「アメフットの魅力を伝えたいので、それにふさわしい部員を」と声を掛けて紹介してもらったスナッパー、吉川宏さんの話だった。
 先生によると「RBの谷口君、QBの玉野君など、僕が期待している選手はたくさんいますが、せっかくの機会ですから、一番地味な役割でありながら、得点に直結する仕事をしている部員を」ということで紹介された選手である。
 当時の僕は、アメフットには好守共にいくつものポジションがあり、足の速い人、腕力のある人、身体のでかい人など、それぞれの長所を組み合わせ、総合力て戦うスポーツだということは知っていたが、ゴールキックの時だけに登場し、スナップを投じるだけでチームに貢献している人がいることは知らなかった。その驚きを写真付きの記事にして送稿すると、担当デスクも驚き、社会面に掲載してくれた。
 以上、昔のことをあれこれを紹介させていただいたのは、ほかでもない。この話もまたアメフットの魅力を伝えていると考えるからだ。足の速い人、多少、動きが悪くてもそれを補って余りある腕力や体力のある人、誰よりもボールを正確に投げられる人、相手の動きに誰よりも素早く反応出来る人、戦術や戦略を考えることが得意な人、ビデオの撮影やそれを練習教材として編集することに長けている人、ミスをして落ち込んだ仲間を慰め、励ますことの出来る人……。そうした多様な才能を持った人の持ち味を生かし、それをチームの総合力として戦える点がアメフットの最大の特徴である。選手の交代自由、ポジシの位置取りも基本的に自由。プレーごとに間合いがとられ、ベンチから作戦を指示し、グラウンドに出ている選手とベンチが共に戦えることも、他のスポーツにはない特徴といえるだろう。
 そのトータルが勝敗を決める。そういう魅力を持ったスポーツがアメフットである、と武田先生は教えてくださったのだろう。
 半世紀近く前、初めてのフットボール取材でそのことを教わって以来、フットボールはチームの総合力をどう高め、どのように結集し、どう発揮出来るかが勝敗を分けると、僕は思い定めている。週末の立命館との戦いでは、その総合力を存分に発揮してもらいたい。
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