石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
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(14)愛されるチーム
投稿日時:2018/08/18(土) 17:21
8月16日、平郡雷太君に会いに、ファイターズが夏合宿をしている東鉢伏の「かねいちや」を訪れた。
朝6時に到着する。涼しい。途中、高速道路脇の表示板には24度とあったから、高原の中腹にあるグラウンド付近は20度を少し上回る程度だろう。長袖のシャツを着ていても肌寒い。
まだ朝食前というのに、グラウンドではJVのメンバーが出て早朝練習の準備運動をしている。4年生も次々に宿舎から出て、練習用具を整えている。いつもながらの夏合宿の光景である。
グラウンドへ降りる手前の机の上には、例年通り平郡君への「誓いの言葉」を刻んだプレートが置かれている。この言葉を読むたびに、在りし日の彼の姿が浮かんでくる。2003年8月16日、ここで合宿中、不慮の事故で帰らぬ人となった彼を偲んで手を合わせ、しばらく黙祷することが僕にとっての大切な時間である。それは、後輩の諸君が日々、切磋琢磨している第3フィールドに出掛けるたびに、平郡君のヤマモモに手を合わせるのと同様、僕とファイターズとを結び付けている「誓いの絆」といってもよい。
練習はてきぱきと進み、無駄な時間は少しもない。JVのメンバーから順次早朝練習を切り上げて朝食。それが終わると小休止の後、今度はVのメンバーから朝の練習が始まる。10日からスタートした合宿も仕上げの段階とあって、恐ろしく密度が濃い。内容も午前中の練習とは思えないほど複雑だ。
聞けば、夕方からは雷が発生する予報が出ているとのことで、夕方の練習と朝の練習のメニューを入れ替えたそうだ。
いまはリーグ戦の開幕を目の前に控えた時期だが、照準は開幕戦ではない。秋のリーグを勝ち抜き、甲子園ボウルでも勝ってライスボウル制覇までを見据えた戦いである。今季はどんな戦いをするのか、どんな風にして強力なライバルたちに勝ち抜いていくか。それを見据えた練習である。シーズンが始まれば手が回らないような課題にじっくりと取り組む数少ない機会でもある。
当然、攻守とも求められる水準は高い。チームメート同士の練習であっても、第一プレーから白熱している。オフェンスが必死ならディフェンスも必死だ。本気で向き合い、本気でぶつかり合う。当然、けが人も出る。それでも、手加減はできない。上ヶ原での練習も密度は濃いが、鉢伏の合宿での練習の密度はさらに濃い。
毎年のことだが、この合宿には多数の卒業生が参加してくれる。今春、卒業したばかりのメンバーから監督やコーチと同じ世代の卒業生まで、メンバーは日々異なるが多くの卒業生が駆けつけ、差し入れを贈ったり、練習台を務めたりしてくれる。
お盆休みにも多くの若手が訪ねてくれたそうだが、僕がお邪魔した16日にも、懐かしい顔が何人も見えた。挨拶を交わしただけでも、14年卒の吉原直人、15年卒の木下豪大、田中雄大、橋本亮、17年卒の井若大知、高松生、山下司、片山薫平、松本和樹氏らの顔が見えた。
今春、卒業したばかりのメンバーは、普段の上ヶ原の練習にも顔を出し、コーチと同様の役割を果たしてくれているが、新鮮だったのは、いまも社会人のトップチームでプレーしている田中氏や吉原氏ら。いそいそと防具を着け、練習台を務めてくれた。田中氏に至っては、本来のディフェンスバックだけでなく、レシーバーのメンバーにも入って、全日本級の動きを惜しみなく披露してくれた。
さすがは「会費納入率8割」というOB会の構成員である。若手の社会人として日々、職務に精進しながら、つかの間の休日を返上して鉢伏の合宿に参加して後輩を激励し、鍛えてくれる。これは毎年のように見掛ける光景だが、彼らがこのチームを「魂のふるさと」と思い、手伝えることは何でもしようという気持ちになってくれているからだろう。
お金のある者はお金を、知恵のある者は知恵を、汗をかく者は汗を、それぞれ惜しみなく次の世代に注ぎ込む卒業生。そんな卒業生たちに「このチームだからこそお手伝いがしたい」と思わせる現役の部員たちとそれを支える監督やコーチ、指導者らのたたずまい。双方が渾然一体となって存在するのがファイターズである。それは歴代のOB、OG、そして指導者らが営々と築いてきた文化であり、日本の学生スポーツ界でも例を見ない組織の在り方だろう。
いま、いろんな面で学生スポーツの在り方の根本が問われている。こうした時期だからこそ、ファイターズの活動と組織にもっと光を当てる必要があるのではないか。この夏の合宿を見て、その思いはさらに強くなった。
朝6時に到着する。涼しい。途中、高速道路脇の表示板には24度とあったから、高原の中腹にあるグラウンド付近は20度を少し上回る程度だろう。長袖のシャツを着ていても肌寒い。
まだ朝食前というのに、グラウンドではJVのメンバーが出て早朝練習の準備運動をしている。4年生も次々に宿舎から出て、練習用具を整えている。いつもながらの夏合宿の光景である。
グラウンドへ降りる手前の机の上には、例年通り平郡君への「誓いの言葉」を刻んだプレートが置かれている。この言葉を読むたびに、在りし日の彼の姿が浮かんでくる。2003年8月16日、ここで合宿中、不慮の事故で帰らぬ人となった彼を偲んで手を合わせ、しばらく黙祷することが僕にとっての大切な時間である。それは、後輩の諸君が日々、切磋琢磨している第3フィールドに出掛けるたびに、平郡君のヤマモモに手を合わせるのと同様、僕とファイターズとを結び付けている「誓いの絆」といってもよい。
練習はてきぱきと進み、無駄な時間は少しもない。JVのメンバーから順次早朝練習を切り上げて朝食。それが終わると小休止の後、今度はVのメンバーから朝の練習が始まる。10日からスタートした合宿も仕上げの段階とあって、恐ろしく密度が濃い。内容も午前中の練習とは思えないほど複雑だ。
聞けば、夕方からは雷が発生する予報が出ているとのことで、夕方の練習と朝の練習のメニューを入れ替えたそうだ。
いまはリーグ戦の開幕を目の前に控えた時期だが、照準は開幕戦ではない。秋のリーグを勝ち抜き、甲子園ボウルでも勝ってライスボウル制覇までを見据えた戦いである。今季はどんな戦いをするのか、どんな風にして強力なライバルたちに勝ち抜いていくか。それを見据えた練習である。シーズンが始まれば手が回らないような課題にじっくりと取り組む数少ない機会でもある。
当然、攻守とも求められる水準は高い。チームメート同士の練習であっても、第一プレーから白熱している。オフェンスが必死ならディフェンスも必死だ。本気で向き合い、本気でぶつかり合う。当然、けが人も出る。それでも、手加減はできない。上ヶ原での練習も密度は濃いが、鉢伏の合宿での練習の密度はさらに濃い。
毎年のことだが、この合宿には多数の卒業生が参加してくれる。今春、卒業したばかりのメンバーから監督やコーチと同じ世代の卒業生まで、メンバーは日々異なるが多くの卒業生が駆けつけ、差し入れを贈ったり、練習台を務めたりしてくれる。
お盆休みにも多くの若手が訪ねてくれたそうだが、僕がお邪魔した16日にも、懐かしい顔が何人も見えた。挨拶を交わしただけでも、14年卒の吉原直人、15年卒の木下豪大、田中雄大、橋本亮、17年卒の井若大知、高松生、山下司、片山薫平、松本和樹氏らの顔が見えた。
今春、卒業したばかりのメンバーは、普段の上ヶ原の練習にも顔を出し、コーチと同様の役割を果たしてくれているが、新鮮だったのは、いまも社会人のトップチームでプレーしている田中氏や吉原氏ら。いそいそと防具を着け、練習台を務めてくれた。田中氏に至っては、本来のディフェンスバックだけでなく、レシーバーのメンバーにも入って、全日本級の動きを惜しみなく披露してくれた。
さすがは「会費納入率8割」というOB会の構成員である。若手の社会人として日々、職務に精進しながら、つかの間の休日を返上して鉢伏の合宿に参加して後輩を激励し、鍛えてくれる。これは毎年のように見掛ける光景だが、彼らがこのチームを「魂のふるさと」と思い、手伝えることは何でもしようという気持ちになってくれているからだろう。
お金のある者はお金を、知恵のある者は知恵を、汗をかく者は汗を、それぞれ惜しみなく次の世代に注ぎ込む卒業生。そんな卒業生たちに「このチームだからこそお手伝いがしたい」と思わせる現役の部員たちとそれを支える監督やコーチ、指導者らのたたずまい。双方が渾然一体となって存在するのがファイターズである。それは歴代のOB、OG、そして指導者らが営々と築いてきた文化であり、日本の学生スポーツ界でも例を見ない組織の在り方だろう。
いま、いろんな面で学生スポーツの在り方の根本が問われている。こうした時期だからこそ、ファイターズの活動と組織にもっと光を当てる必要があるのではないか。この夏の合宿を見て、その思いはさらに強くなった。
(13)夏に鍛える
投稿日時:2018/08/08(水) 16:13
立秋。暦の上では秋が始まる。
今年の夏はことのほか暑い日が続き、どこから見ても秋という雰囲気ではない。わずかに蝉の鳴き声や空の色、そして早朝の爽やかな空気から、何となく季節が移っていることが感じられる程度である。
しかし、ファイターズにとっては、これからが夏本番。7月下旬には前期試験が終わり、暑さに慣れるための軽い練習期間も終えて7月31日から本格的な夏の練習がスタートしている。
8月10日からの夏合宿を前に、今年は学内のスポーツセンターを利用した短期合宿を2度繰り返した。日中の暑さを避け、早朝と夕方の涼しい時間を十分に使うための工夫である。基本的には朝の6時過ぎからあんパンとジュースの補食をすませて順次グラウンドに出る。7時から8時までが朝の全体練習。終われば学生会館で朝食を摂り、その後の90分は昼寝の時間。起床すると、今度は昼食。その後、冷房が完備した学内のトレーニングルームで1時間の筋力トレーニング。終わるとミーティングに入り、4時半ごろからは夕方の練習の準備。その後、グラウンドの気温が多少とも下がるのを待って夕方の全体練習。夕食後に再びミーティングというスケジュールである。
こうした予定を円滑に進めるためには、朝夕の通学時間を削るしかない。そこで下宿生以外は学内の施設に泊まり込んで練習時間を捻出するのである。早朝からの練習で近隣の住宅に迷惑がかかっては大変ということで、練習中は笛も掛け声も禁止。合宿前には4年生の幹部が学校とも協力して周辺自治会の役員宅を訪問し、早朝からの練習に理解と協力を申し入れてもいる。外部の方にはうかがい知れないファイターズの気配りであり、合理的な練習である。
こういう姿に接すると、今年もシーズンが近づいてきたと実感する。同時に4年生がこうして頑張る時間は、残すところ最大でも5カ月を切ったとも思い知らされる。「4年生の諸君。いまが勝負の時だ。頑張れ」と、思わず声を掛けたくなる。
一方で、この季節は来春の入学を目指し、ファイターズの仲間に加わりたいと志望する高校生にとっても勝負の時だ。例年通り高校の学期末試験が終わるのを待って、スポーツ選抜入試で関西学院を目指す高校生の小論文勉強会を開いているが、彼らもまた夏の練習で忙しい中、週に1度の勉強会に心弾ませて参加している。
今年、僕が担当しているのは12人。関西勢が中心だが、関東方面からの志願者が例年以上に多い。いつもの年なら、関東勢にはリクルート担当マネジャーの協力で彼らが書いた小論文をスマホでやりとりするのだが、今年はわざわざ夜行バスを利用したり、関西にいる親戚の家に泊めてもらったりして参加してくれる選手もいる。ファイターズの一員になり、ファイターズでフットボールを学びたいという強い動機があるからこその行動だろう。
こういう高校生に接していると、僕もまたどうしてもこの子らの力になりたい、という強い気持ちが湧いてくる。大学の方針によって、来年の入学者からはとりわけ文武両道が求められる。それだけに、いま僕が協力しているささやかな勉強会が彼らの学習意欲を刺激し、それが入学後の高いモチベーションにつながってくれることを祈る気持ちがより強くなる。
幸い、彼らが書いた文章を添削したり、簡単な会話を交わしたりする限り、みんな向上心のある高校生ばかりである。それぞれが所属するチームで鍛えられているのであろう。考え方もしっかりしている。プレーヤーとしての力だけでなく、将来は必ず部のリーダーとしての役割を果たしてくれると期待できる高校生も多い。
暑さがどんなに厳しくても、仕事がどんなに忙しくても、時間が許す限りはグラウンドに出掛け、いそいそとこの勉強会に通う。そこで意欲に満ちた大学、高校生から新たなエネルギーを頂戴する。ファイターズに関わることができて良かったと思える瞬間である。
今年の夏はことのほか暑い日が続き、どこから見ても秋という雰囲気ではない。わずかに蝉の鳴き声や空の色、そして早朝の爽やかな空気から、何となく季節が移っていることが感じられる程度である。
しかし、ファイターズにとっては、これからが夏本番。7月下旬には前期試験が終わり、暑さに慣れるための軽い練習期間も終えて7月31日から本格的な夏の練習がスタートしている。
8月10日からの夏合宿を前に、今年は学内のスポーツセンターを利用した短期合宿を2度繰り返した。日中の暑さを避け、早朝と夕方の涼しい時間を十分に使うための工夫である。基本的には朝の6時過ぎからあんパンとジュースの補食をすませて順次グラウンドに出る。7時から8時までが朝の全体練習。終われば学生会館で朝食を摂り、その後の90分は昼寝の時間。起床すると、今度は昼食。その後、冷房が完備した学内のトレーニングルームで1時間の筋力トレーニング。終わるとミーティングに入り、4時半ごろからは夕方の練習の準備。その後、グラウンドの気温が多少とも下がるのを待って夕方の全体練習。夕食後に再びミーティングというスケジュールである。
こうした予定を円滑に進めるためには、朝夕の通学時間を削るしかない。そこで下宿生以外は学内の施設に泊まり込んで練習時間を捻出するのである。早朝からの練習で近隣の住宅に迷惑がかかっては大変ということで、練習中は笛も掛け声も禁止。合宿前には4年生の幹部が学校とも協力して周辺自治会の役員宅を訪問し、早朝からの練習に理解と協力を申し入れてもいる。外部の方にはうかがい知れないファイターズの気配りであり、合理的な練習である。
こういう姿に接すると、今年もシーズンが近づいてきたと実感する。同時に4年生がこうして頑張る時間は、残すところ最大でも5カ月を切ったとも思い知らされる。「4年生の諸君。いまが勝負の時だ。頑張れ」と、思わず声を掛けたくなる。
一方で、この季節は来春の入学を目指し、ファイターズの仲間に加わりたいと志望する高校生にとっても勝負の時だ。例年通り高校の学期末試験が終わるのを待って、スポーツ選抜入試で関西学院を目指す高校生の小論文勉強会を開いているが、彼らもまた夏の練習で忙しい中、週に1度の勉強会に心弾ませて参加している。
今年、僕が担当しているのは12人。関西勢が中心だが、関東方面からの志願者が例年以上に多い。いつもの年なら、関東勢にはリクルート担当マネジャーの協力で彼らが書いた小論文をスマホでやりとりするのだが、今年はわざわざ夜行バスを利用したり、関西にいる親戚の家に泊めてもらったりして参加してくれる選手もいる。ファイターズの一員になり、ファイターズでフットボールを学びたいという強い動機があるからこその行動だろう。
こういう高校生に接していると、僕もまたどうしてもこの子らの力になりたい、という強い気持ちが湧いてくる。大学の方針によって、来年の入学者からはとりわけ文武両道が求められる。それだけに、いま僕が協力しているささやかな勉強会が彼らの学習意欲を刺激し、それが入学後の高いモチベーションにつながってくれることを祈る気持ちがより強くなる。
幸い、彼らが書いた文章を添削したり、簡単な会話を交わしたりする限り、みんな向上心のある高校生ばかりである。それぞれが所属するチームで鍛えられているのであろう。考え方もしっかりしている。プレーヤーとしての力だけでなく、将来は必ず部のリーダーとしての役割を果たしてくれると期待できる高校生も多い。
暑さがどんなに厳しくても、仕事がどんなに忙しくても、時間が許す限りはグラウンドに出掛け、いそいそとこの勉強会に通う。そこで意欲に満ちた大学、高校生から新たなエネルギーを頂戴する。ファイターズに関わることができて良かったと思える瞬間である。
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