石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(18)桑田真澄氏の講演

投稿日時:2018/09/18(火) 08:27

 先日、和歌山県田辺市で桑田真澄氏の講演会があった。氏は全盛期のPL学園で1年生からエースとして活躍。その後、プロ野球の巨人に進んで輝かしい実績を残した投手である。40歳近くなってから大リーグに挑戦し、けがを乗り越えてメジャーのマウンドを踏んだ実績も持っている。
 僕は、氏が見事に復活し、カムバック賞を受賞した2002年秋、氏が師匠と仰ぐ武術家、甲野善紀さんとの縁で氏を取材し、朝日新聞の「一流を育てる」という連載で3回にわたって紹介したことがある。
 一方、甲野さんのことは、このコラムでも何度か紹介している。親しくファイターズの練習にも顔を出し、武術的な身体操法を披露しながら、それをアメフットに応用する可能性を選手やコーチとともに考え、ヒントをくださっている武術家である。いわば、桑田さんとファイターズの諸君は、同じ師匠に連なる兄弟弟子といってもよい関係にある。
 そういう人の講演会である。何をおいても聴講しなくてはと、主催した田辺ロータリークラブの方に頼んで話を聴かせてもらった。
 講演は、期待以上に素晴らしかった。
 「野球からは、素晴らしいことをたくさん経験させてもらいました」。そう語り始めた氏は、続けて「僕の人生は、挫折という言葉がふさわしい」。そういって、一つは小学校低学年のころから学校の勉強についていけずに苦しんだこと。もう一つは、中学校3年生の時には出場した全ての大会でエースの座を守り、その全てで優勝という実績を上げてPL学園に入ったが、環境の違いから思うように投げられず、3カ月後には、学校を辞めようというところまで追い込まれたこと。この二つの挫折体験を話し始めた。
 6月のある日、「おかん、僕はもうやっていけんわ。学校を辞めようと考えてんねん」と母親に相談したが、「もうちょっと頑張ってみたら……。あんたらしくやったらエエねん」と慰め、激励されて何とか踏みとどまったという。
 そうした話の展開からは、これは僕の思い過ごしかもしれないが、思わず聴く方も昨今、何かと話題になっているスポーツ界のいじめや暴力的な指導法の片鱗がうかがえたような気もした。
 閑話休題。
 さて、そのピンチを桑田氏はどう乗り越えたのか。ここからがファイターズの諸君にとっても参考になる話だと思い、概略を紹介させていただく。
 授業について行けない、という問題点を克服するためには授業を集中して聞くこと、宿題は授業の間の休み時間に終わらせること。この二つを徹底し、短時間集中型の勉強法を身につけることで突破したという。集中的に勉強することで分からない点、理解が行き届かない点が明確になり、それを周囲の仲間に聞くことで一つ一つ理解する。それによって一気に成績が上がってきたという。成績が上がると自信が付き、さらに集中して勉強することが出来るようになる。そうした循環で中学校入学当初は学年で200番以下だった成績がぐんぐん伸び、ついには一桁台になったという物語を紹介してくれた。
 もう一つの取り組みが練習のやり方。「自分らしくやること。自分の信じたことを実行すること」。この覚悟を持って練習に臨むことで、ぐんぐん調子が上がり、1年生の夏の大会前にはエースの座をつかむことが出来たそうだ。具体的には、時には肩を休めるために監督に申し出て「ノースロー」の日を設け、代わりにその日は徹底的に走り込んで足腰を鍛えたという。それによって投球内容が安定したから監督からも信頼され、練習法にはある程度の自由を与えられるようになったそうだ。
 とりわけ興味深かったのが、二つの挫折体験から努力すること、行動することで授業が分かるようになり、野球にも自信が付いたという話だった。「努力ってすごいな、楽しいな、という成功体験が生きる力になった」という桑田氏の言葉に共感し、思わず拍手を送った。
 「君らが日本一になりたいいうから、僕らは手伝っているだけ」(鳥内監督)というファイターズとは別次元の話だが、多くの部活では、指導者は教わる側よりも、教える側の立場を優先しがちである。けれども、その前に指導を受ける側の自発性にもっと期待してもよいのではないか。「努力ってすごいな、楽しいな」と、教わる側が心から思えるような指導法に目を向けることである。
 それはグラウンドでの練習に限らない。練習後のダッシュ10本でもよい。読書でもよい。毎日、5行の練習日記を書かせてもよい。教わる側がそれを続けることで自信を持ち、成長へのエネルギーにしていけるような「何か」なら、何でもよい。
 指導者がそういう指導法にも目を配れるようになったとき、教わる側にも何かの化学反応が起き、一気にプレーヤーとしての能力も開花するのではないか。過去のファイターズで、平均的なレベルと見られていながら、ある日突然、飛躍的な成長を遂げ、大活躍した選手は、みんなそんな体験を持っているのではないかと僕はにらんでいる。

(17)ゲームを見る目

投稿日時:2018/09/10(月) 08:57

 関西リーグ第2戦は8日の夕方5時にキックオフ。夜間照明の下で始まったが、王子スタジアムの照明は暗い。その上、グラウンドは雨で濡れているし、試合中も雨が降ったり止んだり。なかなかの悪条件で始まった。
 それでも試合は熱かった。まずはファイターズのレシーブで始まった第1シリーズ。自陣25ヤードからの攻撃だったが、第1、第2プレーともに通らず、第3ダウン10ヤードという苦しい立ち上がりだったが、ここでこの日も先発したQB奥野がWR阿部にピンポイントのミドルパスを通してダウン更新。次の攻撃も同じく阿部にパスを通して14ヤード。一つ奥野のキーププレーを挟んで再度、阿部にミドルパスをヒットさせ、あっというまにゴール前18ヤード。ここからはRB三宅のラン、同じく中村のランで陣地を進め、残り1ヤードを中村が走り抜けてTD。K安藤のキックも決まって7-0。
 次の神戸大の攻撃を守備陣が完封して再びファイターズの攻撃。今度も奥野から阿部へのパスで活路を開き、さらには久々に登場したWR小田へのパスを立て続けにヒットさせて再びゴール前。今度は中村が中央に見事なダイブを決めて14-0。2度の攻撃シリーズを2度ともTDで締めくくる完璧な立ち上がりだった。
 しかしながら、ここからがもたつく。QBとレシーバーの呼吸が合わず、せっかくレシーバーが相手を抜き去っているのに、肝心のパスが短く、相手に奪われてしまったり、捕ればそのまま走り切ってTDという場面をつくりながら胸に入ったボールを確保出来なかったり。投げる方にも受ける方にもミスが出て、決定的なチャンスを2度も失う。
 ファイターズが自滅しそうな場面だったが、今度は守備陣が奮起。DB畑中が見事な個人技で相手パスを奪い取って再び相手陣31ヤードからの攻撃。ここで、ファイターズRB陣で一番のスピードを誇る渡邊がドロープレーからのランで一気にゴールまで走り込んでTD。自滅に近い形で相手に渡した試合の流れを一気に取り戻した。
 第3Qに入ると、ファイターズQBは西野に交代。初戦ではレシーバーとして出場してほとんど活躍の場面がなかったが、この日は本職のQBとしての登場である。自陣40ヤード付近からの攻撃だったが、立て続けにキーププレーで連続のダウン更新。相手がQBのランを警戒したと思えば次はWR小田へのロングパス。それを半身になりながら小田が好捕。わずか3プレーでゴール前5ヤードに攻め込んだ。浮き足立つ相手を尻目に、ここはRB三宅が走り込んでTD。28-0とリードを広げる。
 こうなると、試合はファイターズのペース。次々と交代選手を投入して試合の雰囲気に馴染ませる。期待の1年生諸君も次々と登場し、結構な動きを披露してくれたのが頼もしかった。とりわけ目立ったのは、ランプレーのたびにボールキャリアになり、相手のディフェンスをパワーで突破して2度のTDを決めたRB前田(高等部)。彼は高校の頃から注目されていた選手だが、大学に入って一段と力を付け、同じポジションの先輩、山口の交代要員の候補の一人になっている。
 OLではセンターの朝枝(清教学園)。彼は学年で1番の元気印で、JV戦でもOLの中心になって士気を鼓舞していた。この日も4年生のように頭をつるつるにそり上げて登場。気合いの入ったところを見せつけた。2番手のリターナーとして起用された鏡味(同志社国際)も、小柄だが気持ちの勝ったプレーで存在感を発揮した。
 ディフェンスで目に付いたのはDLの青木(追手門)、LBの赤倉、北川(ともに佼成学園)、DBの竹原(追手門)。それぞれがしばしばプレーに絡み、1年生とは思えないほどのセンスの良さを見せてくれた。北川にいたっては2試合連続のインターセプト。ともに試合の行方が決まってからのプレーだったが、フットボールセンスの良さを見せてくれた。
 試合は42-0。ファイターズの完勝と見えたが、この結果に対する監督やヘッドコーチの評価は素っ気なかった。
 「相手の守備陣を考えたら、これぐらいできて当たり前。問題は、立命の守備陣を相手に勝負できるかどうか。まだまだ鍛えなあきません」と鳥内監督。大村ヘッドコーチからも「相手が疲れてからのプレーは参考になりませんよ。こんなんでいい気になっていたら痛い目にあいます」という言葉が返ってきた。
 スタンドから試合を眺め、その展開に一喜一憂している僕と、リーグ戦のこれからを見据えて、現状を冷静に分析する監督やコーチ。立場の違いといえばそれまでだが、常に足りない所に目を向け、それを克服するためにはどうするか。あるいは、いまは目に見えていない選手の潜在的な可能性を見つけ、その長所をどうすれば生かせるか。そういった点に焦点を当て、一瞬の油断もなく試合展開を見つめ、知恵をしぼっている人々。そうした存在がこのチームを支えているのである。
 スタンドから眺めている僕にとっても、ゲームを見る目が1段階上がったように思える試合後の談話だった。
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