石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(22)ファイターズと校訓

投稿日時:2018/10/16(火) 08:36

 先週末、チームの練習を見せてもらって、素人目にも、何かが変わったという印象を受けた。どういうことか。思いつくままに書いてみよう。
 一つは、ゲーム前の練習の密度が濃くなったように見えたことである。それは僕が見学した日だけかも知れないが、例えばQBとレシーバーの練習前の自主練では、QB3人が実戦を想定したパスを次々と投げ込み、それをレシーバーが全力でキャッチする。そのテンポとパスの精度が甲南戦の前よりもはるかによくなっていた。
 二つめは、練習開始となってからの動きの強度が一段と上がったように見えたこと。例えばレシーバーがダミーを持った選手を跳ね上げる場面。味方同士の練習であり、通常なら当たった瞬間に力を抜き、受け手のダメージを少なくするのだが、この日の4年生は全く力を抜かない。基本に忠実に、実戦通りのスピードで受け手にぶつかり、全力で押し上げる。
 受けた方はあまりにも強い当たりを受けきれず、仰向けに倒れ、信じられないという表情をしている。これぞ、実戦を想定した練習である。その場面を目のあたりにした選手全員がその一瞬、凍りつき、グラウンドの空気がピーンと張り詰めた。サイドラインから見ていても分かるほどだから、当の選手たちは全員、練習のギアが一段と上がったことを身にしみて感じたに違いない。
 三つめは、試合に出るメンバーとJVのメンバーが敵味方に分かれて進めるチーム練習である。それぞれの担当コーチやアシスタントコーチが一つ一つのプレーに口を出し、アドバイスを送る場面が一気に増えた。リーグ戦がスタートして4戦目までは、そこまでの緊迫感は見られなかっただけに、いよいよ決戦の時だとぞくぞくした。
 もう一つある。これはチームの練習内容とは直結しないが、グラウンドに通じる階段が練習前に美しく掃き清められていることだ。知る人ぞ知る話だが、この階段は練習が終わった時にはいつも、恐ろしく汚くなる。グラウンドに敷き詰められている人工芝のピッチが選手のスパイクに付着し、それが階段に落ちるからだ。
 それを練習前、丁寧に掃き清めているのが主務の安西君。先日、たまたま、練習開始の1時間半ほど前に出掛けたら、一人、黙々と掃除している姿を見掛けた。聞けば、みんなが気持ちよく練習に参加できるようにと思って、毎日、練習前の掃除を心掛けているそうだ。「幸い、単位も取れているので、授業に出る必要がない。主務の仕事をやりくりすれば、掃除の時間は捻出できますから」という話だった。
 そういえば、先日、僕はこのコラムに「試合前の練習後には決まって部員全員がグラウンドのごみを拾う。グラウンドを美しくした上で試合に臨む」と書いた。その中に、溝の掃除を除いて、と書いているのを見つけた光藤主将が安西君を誘って、二人で溝掃除をしたそうだ。これもまた、日々、当たり前のようにグラウンドを使用できることに感謝している部員たちの気持ちの表れだろう。そういうことを下級生ではなく、チームのリーダーである4年生が率先して実行するところにファイターズの真実がある。
 話は飛ぶが、関西学院のスクールモットーは「Mastery for Service」である。その言葉は通常「奉仕のための練達」と訳されるが、1915年、ベーツ先生(後に4代目院長に就任)は学生たちに向かって演説する中でその意味について「人は富や財産のためではなく、広く社会に奉仕するために生きている。そのためには自らを鍛え、強くあらねばならない。弱虫はいらない」といった説明をされている。
 いま、ファイターズの諸君が日々、ストイックに取り組んでいることは、その校訓の実践に他ならない。そう僕は考えている。
 主将が率先してグラウンドを周る溝を掃除し、主務が毎日のように箒を手にグラウンドへの階段を清掃する。試合に出る4年生のメンバーは、たとえ仲間内であっても本気の練習を普段から心掛ける。レシーバーもクォターバックも、練習開始のずっと前からグラウンドに出て営々と実戦練習に励む。
 これらはすべて弱虫はいらない、強くあらねばならない、有能であらねばならない、という強い覚悟があるからこそではないか。その意味ではファイターズの諸君は日々、ベーツ先生の校訓を実践している面々であると言い切ってもよいだろう。
 こういうストイックな取り組みを、当然のように実践できるところがファイターズの魅力であり、だからこそグラウンドでも躍動できるのだと僕は信じている。今週、金曜日の京大との戦い、それに続く関大、立命との戦いで、その成果を見せてもらいたい。健闘を期待する。

(21)強いチームと並のチーム

投稿日時:2018/10/10(水) 09:03

 関西リーグ第4戦。甲南大との試合は、ファイターズの二つの側面を浮き彫りにした。攻守ともに勢いのあるメンバーを並べた前半のチームと、交代メンバーが次々と登場した後半のチームでは、その試合振りがまるで別のチームのように見えた。名付けてみれば、強いチームと並のチームである。
 試合経過を見れば、このことは即座に理解できる。
 ファイターズのレシーブで試合開始。自陣25ヤードから始まった第1プレーでは、RB中村が中央をついて4ヤード前進。続いてQB奥野からWR阿部へのパスでダウンを更新。続く第3プレーでRB渡邊が中央を突破。そのまま61ヤードを独走してタッチダウン。K安藤のキックも決まって7-0とリード。キックオフからわずか3プレー、消費時間でいえば1分ほどで試合の主導権を握った。
 守備陣もこのリズムを崩さない。わずか3プレーで相手をパントに追いやり、相手陣33ヤードから再び攻撃権を手にする。
 これに呼応して攻撃陣も勢いよく攻め込む。奥野から阿部やWR鈴木へのミドルパスが続けさまにヒット。ゴール前3ヤードに迫ると、今度はRB三宅が左サイドを駆け上がってタッチダウン。
 続く相手の攻撃では、相手がファンブルしたボールをファイターズ守備陣が素早くカバーし、相手陣48ヤード付近で攻守交代。即座に奥野からWR小田へ45ヤードのパスがヒットしてゴール前5ヤード。今度はRB中村が中央を抜けてTD。思わぬターンオーバーで相手守備陣が混乱している隙をついたリズミカルな攻撃でリードを広げる。
 ファイターズ4度目の攻撃も、奥野から阿部へのパスから始まり、RB陣のパワープレー、奥野のキープなどで簡単に陣地を進める。ラインがしっかり相手を押し込んでいるからこそであろう。仕上げはWR鈴木へのパスで4本目のTD。第2クオーターが始まったばかりというのに28-0とリードを広げた。
 この間、守備陣は相手の攻撃をことごとく押さえ、即座に攻撃権を奪回。オフェンスもまた4回の攻撃シリーズをすべてTDで締めくくった。理想の展開であり、強いファイターズという形容がぴったりだった。
 ところが第2Qの途中から、徐々に交代メンバーが出場し、QBも西野に交代したあたりから様子が一変する。パスは通らず、ランも進まない。守備陣も、二人のQBを交互に入れて攻め込んでくる相手に振り回されるようになる。強いチームが並のチームになってしまったのである。
 結局、後半のTDは第4Qに渡邊とRB富永のランで挙げた2本だけ。立ち上がりの勢いのある攻撃はどこへ行ったのか。パスの成功率が一気に下落してしまったのはどうしてか。僕の頭の中には、消化不良のままの疑問がいまも残っている。同時に、こうした並のチームで、無敗で前半戦を切り抜けてきた立命や関大のタレント軍団に対抗出来るのか。そんな疑問が次々と噴出してきた。
 そこで試合後、新聞記者のインタビューの隙を見て鳥内監督に質問。試合の感想と、今後の練習への取り組みなどについて聞いた。
 次のような断片的な言葉が返ってきた。
 「攻守とも、4年生にどれだけの危機意識があるかとうことですね。もっと危機感を持って練習せなあきません」「練習はしているようだけど、それが勝つための練習になっているのかどうか。4年生はいつもそう問い掛け、工夫をしていかなあきません」
 毎年、新たな人材を発掘し、その人材が大事な試合を任せられるかどうかを常に気にかけている監督ならではの言葉だった。
 光藤主将が率いる今季のファイターズは強いチームなのか、それとも本当に強い相手から見たら並のチームなのか。
 僕にはまだ、答えは出せない。分かっているのは、アメフットは先発メンバーだけでは戦いきれないということ。まずは交代メンバーの底上げを図らなければならないこと。そのためには、グラウンドに立つ全員が高い意識と目的を持った練習を徹底すること。日々の練習から本番を想定し、それに向かって全力を出し切ること。そうした点に注目するしかない。
 そう考えた上で、今週末は上ヶ原のグラウンドでの部員の動きをしっかり目に焼き付けてみたい。けがから回復途上にあるメンバーを励ますことも忘れないようにしよう。
 次節から始まる3試合は、チームに属するすべての人間の本気度をあぶり出す戦いである。言い訳は通用しない。やるか、やられるか。そういう戦いである。それに向かって、部員全員がどこまで集中できるか。
 先発メンバーはもちろん、交代メンバーたちの動向から目が離せない。
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